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52食目 戦い終って

 ◆◆◆ ルフベル ◆◆◆



 PM15:00、機獣基地に突入。

 同日PM16:17、作戦終了。敵勢力の全滅を確認。


 自軍の被害は戦機が20大破、17中破、67小破。

 装甲車両10損失、歩兵18名戦死、76名負傷。


 これは多いか少ないかと言えば、私は確信をもって【少ない】と胸を張る。


 機獣の基地、それも大部隊が駐屯していたのだ。

 戦力比で劣る我々がそれよりも少ない数で攻め入り、完全に作戦を達成させたという結果は、間違いなく歴史に残る偉業である、と自慢するものである。


 だが、その偉業には秘めなくてはならない功績もあった。


「どっからでも、掛かって来いやぁ!」


 そう、応接室のテーブルの上で大の字になり、「ふきゅん、ふきゅん」と鳴いている少女が引き起こした【核兵器レベル】の大爆発。

 これは、いち戦機が内蔵してはいけない武装であり、帝国、王国が認めようものなら直ちに彼女、戦機、共々に狙われることになるだろう。


 そもそもが、あのような兵器をどうやって戦機に搭載したのか。


 核兵器に使用するウランは戦機の核たるエレメコアと相性が最悪であり、半径十メートル内に入ると双方共に機能障害、及び機能不全が発生する。

 したがって、戦機が核兵器を搭載することは現時点では適わない。


 しかも、これも機密情報であるが、機獣どもは核兵器に対する対策が完璧であり、一切の核兵器を起動させない、という技術を持ち合わせているのだ。

 加えて、自在にそれを起爆することができる。


 これが、現在この世界で核兵器が存在しない理由。

 保持したくともできないのだ。


 それにより、自らの首を絞めることになるが故に。


「ふきゅ~ん! ふきゅ~ん! ふきゅ~ん!」


 そして、件の少女が悲鳴を上げ始めた。


 私の娘、クロヒメと、ナイトクラス27位グリオネが、エルティナの保有を巡って、彼女の短い手足を引っ張り合っているのだ。


「おいバカやめろ、このままじゃ、おててとあんよが千切れて死ぬ」

「こういってますよ、グリオネさん?」

「アホいうなや、自分に渡したら、エルちゃんがどうなるか分かったもんじゃないわ、ボケ」


 この状況に私は軽い眩暈を感じる。


 戦いの結末、被害の数字は文句のないものだが、内容となると少々異なる。

 その拙い内容というのが、ゴッズクラスの戦機が大破した、というものだ。


 それが、機獣との戦闘でのものであるなら問題は無い。

 パイロットの技量不足から招いたものだ、と突っぱねればいいのだから。


 しかし、グラントシェイカーの大破の原因は、エルティナイトの超破壊兵器の余波からくるものである。

 そして、ゴッズクラスの戦機は個人保有ではなく戦機協会本部の所属となっているため、損傷の際には、どういった経緯での損傷か、を報告する義務があるのだ。


 まず、エルティナイト、という名は協会本部に知れ渡るだろう。

 そして、そのパイロットの少女の名も。


「そこまでだ」


 私はクロヒメ、グリオネの両名を仲裁、エルティナは私が預かり膝の上に載せる。


 エルティナは自称十二歳を名乗るが、膝に乗せた感じでは三歳児程度と判断できる。

 クロヒメもこんな時があった、と昔を懐かしんでしまうが、今は仕事を終わらせてしまうのが先決だ。


「あぁ、お父さん、狡いっ」

「ちょこっと、ちょこっとだけでいいんや! 膝に乗せてぇな!」

「ダメだ、まずは戦後処理を終わらせる」


 私の強い意志に二人は叱られた子供のように落ち込む。

 これでは、身体が大人なだけの子供となんら変わらない。


 私は溜息を吐きつつ、戦後処理を開始した。


「まずは皆、よくやってくれた。結果は、これ以上ないほどのものとなった、と認識する」


 招集に応え、戦いを生き残った戦機乗りの面々が頷く。


 正直な話、この大半がもう会えないだろう、と予感していたが結果としては誰一人として欠けることなく、ここに戻ってきている。


 他の戦機乗りにしてもそうだ。

 戦機こそダメになってしまったが、パイロット自体は五体満足で生還している。


「アレだけの激選の中、一人も欠けることなく戻ってきてくれたことに感謝を述べる、ありがとう」


 私は戦機乗りたちに頭を下げた。

 それに連動するように、膝の上のエルティナが頭を下げる。


 きみは感謝をされる側であるのだから、頭を下げる必要は無いのだが。


「そりゃあ、あれだけエルティナイトが敵の注視を引き受けてくれたんだ、これで生き残れなかったら、三流以下ってもんさ」

「そうそう、ありゃあ、凄い光景だったぜ」


 壁際に立つ眼帯が特徴的なボイルドと、顔に斜めに走る傷が印象的なグラントがソファーでリラックスした態度で、戦場の状況を報告した。


 なんでも、エルティナのエルティナイトが、機獣たちの注視を一手に引き受け、攻撃の対象となることで味方機を護っていたそうなのだ。


「やり易かった、ってレベルじゃないね。こっちは、じっくり確実に仕留めればいいだけなんだ」

「ふん、ポンコツにしてはよくやった、と褒めておいてやる」


 オッドアイの少女ルビランタと、お坊ちゃまのロキリズがエルティナイトの功績を褒め称えた。

 正直な話、ルビアンタはともかくとしてロキリズが生き残ったのは驚きを隠せなかった。


 彼自身がエルティナイト戦の後、鍛錬を積んだ賜物なのか。

 それとも、エルティナイトの保護があったお陰なのかは判断しにくい。


 だが、それでも、こうして生き残っている、ということは【彼も一皮剥けた】と考えるべきなのだろう。


「ふむ……私も一度、直でエルティナイトの頑強さは確認しているが、機獣の攻撃も受け付けないのか?」

「精霊戦機エルティナイトは黄金の鉄の塊。機獣ごときのへなちょこ攻撃は通じない通じにくいっ! だから俺はこう言うだろうな」

「……もう勝負ついてるから」

「おぉんっ!? ヒーちゃん、決め台詞取っちゃらめぇ!」


 応接室に笑い声が響き渡った。


 こういう状況を作り出せる者は稀有なる存在だ。


 エルティナと共に、それを作り出した少女ヒュリティア。

 彼女もまた、偉大なる功績を残した者の一人だ。


 戦闘母艦の奪取、しかも突入部隊の誰一人として失うことなく作戦を成功させた。

 彼女の指揮の下、戦った兵士たちは口を揃えて言う。


 ヒュリティアは【銀の女神】である、と。


 それはどういうことか、と尋ねても首を横に振るのみ。

 詳細は分からずじまいであった。


 エルティナと変わらない年齢であるという彼女は、その身体能力、判断力、指揮能力、どれをとっても五歳児とは思えない。


 この二人はいったい何者なのか……興味は尽きない。


 そうなると本人たちが口にしている【白エルフ】、【黒エルフ】という種族というのも、あながち嘘ではないのかもしれない。

 普通の人間の子供に、このような芸当を行えるはずがないのだから。


「ヒュリティア君、戦闘母艦の奪取、よくやってくれた」

「……兵士の皆がよくやってくれた。私は楽ちんだったから満足」


 銀閃ことヒュリティアは、現在クロヒメに抱き寄せられて頭を撫でられている。

 彼女は無表情ではあるが満更ではない、といった感じだ。


 その様子をグリオネが嫉妬の炎を燃やしながら眺めている。


「おのれ……うらやまけしからんっ……!」


 とその時のことだった。

 私の膝元からピンク色の光球が、ふよふよ、と嫉妬に狂うグリオネへと向かってゆくのを確認する。

 それは、彼女に接触すると、すっ、と中へと入り込んでしまった。


 一瞬のことだったので、目の錯覚だと判断したが、あれはいったい、なんだったのであろうか。

 その後、グリオネは嘘のように興奮状態が解かれ、ソファーに大人しく座っている。


「やれやれ、なんだぜ」


 エルティナが、ぷひっ、とため息を漏らす。

 彼女が何かやったのであろうか。だが、確かめる術は無い。

 問うてもエルティナは口を濁すであろう。


 彼女には本当に秘密が多い。


「飛行母艦は一旦、キアンカ預かりとなるが、今後の予定としては、アマネック社、テトラレックス社、ランバール社に調査研究を委託する予定となっている」

「マジでアレを量産するつもりなんだな」


 金髪のモヒカンが特徴的な戦機乗りラルクが、ひゅう、と口笛を鳴らす。

 そのつもりで奪取したのだから当然と言えよう。


 だが、彼が危惧しているのは我々、戦機協会が飛行母艦を生産できるか否かではない。


「だが、いいのか? 帝国と王国が敵対するかもしれんぞ」


 スキンヘッドが眩しいレダムが決定について指摘してきた。

 彼らはキアンカがホームベースだ、町が不要の危険に晒されることは本意ではないだろう。


「それは問題ない。戦機協会は中立の立場であり、帝国や王国以外にもパイプが繋がっている。もし、手を出そうものなら、それ相応の報復が待っていることくらい知っているはずだ」

「あぁ、共和国と神聖国ね。共和国はともかく、神聖国は大丈夫なの?」


 赤髪の女性戦機乗りミーシャは戦機協会の後ろ盾、その片方に疑問を抱く。

 彼女が危惧するところは尤もであり、誰しもが心配するであろう案件だ。


「大丈夫だ、神聖国は共和国が動けば動く」


 私の言葉に彼女は一応の納得を示した、がここまで大人しくしていたエルティナが、この両国に興味を持ったのか、大きな耳をピクピクと動かし問うてきた。


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