50食目 超巨大機獣を阻止せよ
◆◆◆ エルティナ ◆◆◆
えらいこっちゃ、えらいこっちゃ。
機獣基地攻略戦も終盤、飛行母艦も手に入れて、俺たちの勝利も待ったなしのこの状況を、ちゃぶ台をひっくり返すかの勢いで、巻き返しを図るふぁっきゅん機獣ども。
その切り札ともいえる、巨大怪獣を投入してきたのだから、さぁ大変だ。
あんな、くそデカい鋼鉄の怪獣なんぞ、どうすれというのだ。
ゴ〇ジラを連れてきて戦わせて差し上げろ。
あ? 伏字が息してないって?
こっちの息が止まるわ、このバカちんがぁっ!
しかし、アレをなんとかしないと、この作戦どころか、この地に住まう人々の暮らしをも危険に晒してしまう。
それをなんとかするのがナイトの醍醐味なのだが、そのなんとかが見つからない、見つかりにくいっ!
しかも桃力が一定値を下回っちまって、ダークナイト状態が解除されちまっている。
これじゃあ、俺は諦めが鬼になって、桃使いを引退してしまうだろうな。
「……けてー、たすけてー」
俺はエルティナイトのコクピットで手を合わせ、儀式めいた救いの言葉を呟く。
それは祈りに近いものがあった。
というか、もう祈らんと、どうにもならないんですわ。
あんな規格外の化け物に剣振り回して突撃しても、ぷちっ、と踏まれてGameOverになっちまうのは、火を見るよりも明らかなことが確信状態。
流石の俺も、場の流れ的なものを弁えている。
人の命が掛かってるんだ、下手な手を打って未来を潰えさせるわけにはいかない。
祈りは力、そう誰かが言っていた気がする。
そして、俺の祈りはなんちゃって聖女の祈り。
それは、異世界カーンテヒルで割と証明されてしまっている。
問題は、更に異世界であるここで、それが発現するかどうかだ。
それこそ祈るしかないという現実に、俺は速やかに白目痙攣状態に陥る。
おぉん! 超・悪・循・環! 機獣許すまじ、慈悲は無いっ!
その時の事だ、俺の祈りが通じたのか、合わせた手の内に桃色の輝きが発生し始めた。
それは、どんどんと輝きを増してゆく。
やがて、その輝きは実体を伴い、そして桃色の果実となって手の内に顕現した。
「こ、これは……!? 桃先生?」
祈りの果てに生み出された力、それは我らの桃先生であった。
しかし、俺の知る桃先生とは少し違う。
その果実は、桃色の中に黄金色が混じった不思議な果実であったのだ。
「でも、そんなの関係ねぇ! ひゃっはぁ! 新鮮な神桃の実だぁ!」
がぶりんちょ、と神桃に齧り付く。
シャクリ、という強烈な歯応えと溢れ出る甘みが口いっぱいに広がり、戦闘による疲労がひと噛みごとに癒されていった。
その実を飲み込み、身体の一部にすれば、たちまちの内に闘志が湧き出てくる。
「んん~! これは……!? う・ま・い・ぞあぁぁぁぁぁぁぁっ!」
今まで食べてきた桃先生とは明らかに違う。
桃先生が優しさの塊であったとするなら、この桃は勇気の塊。
戦士たちに再び立ち上がる力を与える、闘志の果実と言えよう。
「うおぉ……!? こ、これはっ! 桃力が溢れて止まらないっ!」
「あいあ~ん!」
恐ろしい果実だ。桃力が身体から溢れ出して止まらない。
コクピット内は桃色の輝きに染まり、挙句の果てにアイン君までもがピンク色だ。
『おい』『ももちからが』『おーばー』『どらいぶ』『なう』
これに反応し治癒の精霊チユーズも活性化。
わっしょい、わっしょい、とコクピット内でお祭り騒ぎをやらかす。
これは、早急に桃力を発散させないと大変に危険だ。
現に、エルティナイトも桃力の暴走を感じ取ってビクンビクンしている。
『……エル、目標地点に到達。行けるかしら?』
無線からヒュリティアの声が流れてきた。
若干、ハスキーボイスになっているが、戦闘で叫び過ぎたのであろうか?
「今の俺は大変に危険。もう腕がビキビキいって会心の一撃が出まくる」
『……うん、だいたい察したわ。周りに迷惑かけない程度に暴れてきて』
「とんでもない無茶ぶりを聞いたんだぜ」
というわけで、巨大怪獣を通り過ぎて投下ポイントにまでやってきました。
ここで、あのメタリックなティラノサウルスを迎撃するのだが、まともな戦力がほぼ皆無という。
ナイトクラスのグラントシェイカーも腕部が破損していて、まともな活躍も期待できない。
それでも、飛行母艦の中に待機していては沽券に係わる、ということで出撃自体はするもよう。
他の戦機も応急修理が終了し次第、出撃するとは言っているが、その殆どが中破状態なので、迎撃中に出撃するのは難しいだろう。
したがって、現状では俺と奴との【一騎打ち】という形になる。
んなこと関係あるかっ! こっちにはキアンカの町があるんだ!
こんなくそデカ化け物を行かせるわけにはいかない!
「精霊戦機エルティナイト……出撃するっ!」
『……武運を』
ヒュリティアの言葉に背を押されて飛行母艦から地上へと落下する。
流石にこのまま地上に落下すると機体に大ダメージを負ってしまうので、魔法障壁のパラシュートを生成、落下速度を軽減した。
俺の魔法障壁には無限の可能性があるって、それ一番言われてっから。
着地と同時に魔法障壁製のパラシュートを破棄する。
地鳴りと共にゆっくりと近づいてくる化け物相手にエリン剣を構えた。
ダークナイト状態は既に解除されているので、黒い鉄の塊と化した状態のエリン剣だ。
続いてグラントシェイカーも地上に到達。
こちらは普通にスラスターを吹かして落下速度を軽減している。
エルティナイトに、スラスターなんてないから仕方がないね。
『えらい、ごっついやっちゃなぁ。とんだ貧乏くじ引いたわ』
「それでも、やるしかない。この後ろにはキアンカの人たちがいるんだ」
『せやな、やったるか!』
「おう!」
グラントシェイカーが残った腕で大槌を構える。
だが、この体格差では有効的な打撃を与えるのは難しいだろう。
対する俺も有効打を模索することすらできていない。
せめて、あの時の弓があれば、なんとかできたかもしれないのだが。
しかし、それは無い物ねだりであろう。
今持つ、俺の能力でなんとかするしかない。
「考えろ……考えろ……」
俺にある物といえば、桃力、魔法、クソザコナメクジの肉体……これくらいなものであろう。
この内、エルティナイトに使えるもの、或いは使ったものは桃力のみ。
そう、魔法はまだ一度も試したことが無いのである。
「やってみるか……俺自身は【攻撃魔法を飛ばせない】という制約があるが、エルティナイト、そしてアイン君を通した場合、どうなるかを確認していない」
俺はアイン君を見やる、と桃色のお饅頭な彼は、きりっ、と凛々しい表情を見せた。
ならば、やるしかないでしょう常識的に考えて。
「行くぞ、アイン君っ!」
「あいあ~ん!」
異世界カーンテヒルで習得した魔法には、呪文の詠唱による発動と、無詠唱による発動の二種類がある。
前者は発動までに時間が掛かるが、その分、威力は高くなる。
後者は一瞬で発動可能だが、その分、威力は低くなる。
戦闘に置いては発動時間の隙は致命的であるので、基本的には無詠唱での発動が主流であった。
しかし、このエルティナイトはくそ頑丈なので詠唱時間が割と設けられるのではないかと思われる。
じゃけん、詠唱付きの攻撃魔法をぶっ放してみましょうね~。
「……あ、やべ。呪文忘れた」
「いや~ん」
なんと言う事でしょう、攻撃魔法がほぼ役に立たない上に、無詠唱でもまったく問題無い威力を出せた俺は、呪文を忘れてしまっていたのだ。
こんなんじゃ勝負になんない。ヤヴェぇよ、ヤヴェよ。
だが、俺はピンときた。
忘れてしまったのは仕方がない。
ならば、新しく創作すればいいジャマイカ、と。
幸い、魔法を構成する術式の作り方は覚えている。
というわけで、今から簡単な攻撃魔法を組み立てて差し上げろっ!
俺は急いで魔法の図面を展開する。
宙にバカでかい半透明のプレートが出現した。
これに、魔力を流しながら魔法の図面を描いてゆくのだ。
果たして、俺の思惑は成就するのであろうか。




