495食目 滅ぶための戦い
暗黒の中に浮き上がる無限大ともいえる赤い眼はその全てをエルティナイト、いや、その中の俺に向けているかのようだった。
ただ、その中の幾つかが揺らぐ。
その視線の先には奇妙な獣の姿。真・ラストニャンガーだ。
『やっぱりにゃ……あの時のおっさんは、おっさんじゃなかったにゃ』
ミオの確信めいた言葉は【全ての命の悪意】、そのひと際大きい真紅の眼球から人間の上半身を生み出させる。
「よく来たな……終わりをもたらす者たちよ」
眼球から生え出てきた者はかつて人間だった者。しかし、その顔は疲れ果てた老人そのもの。
こんな覇気のない者が全ての命の悪意を一手に引き受けているというのか。
でも、その目からは尋常ならぬ覚悟と、これから仕上げに掛かるであろう職人のような気迫のようなものが感じる。
ただ事ならぬ力の渦に思わず身構えてしまった。
「まず、言っておこう。私は一切の手加減をしない。この世を滅ぼすことに一切の抵抗を覚えない。それは【真理】であるからだ」
「形ある物は必ず滅する、そう言いたいのか?」
ぐにゃぐにゃと蠢く闇は今、こうしている間にも増殖し宇宙を埋め尽くす勢いだ。
「ある意味でそれは正しい。だが、間違いであるとも言える」
「なんだと?」
「そもそもが、だ……宇宙には寿命が有る無い、などといった議論自体が無意味。それは生命体たちの都合なのだ」
「言っている事は理解する。でも、納得はしない」
「それでいい。私もおまえたちを納得させるつもりはない。ただ―――事実を言っている」
ぶわり、と【全ての命の悪意】の殺気が膨れ上がる。それに反応し戦士たちに緊張が走った。
「この世は……次元は生まれ出でた瞬間、【滅び】を欲する。それを成すのが【生物】。そして、最も可能性が高いのが人間。それが何故だかわかるか?」
「ジャークのおっちゃん、ミオはあんまり頭が良くないにゃ。だから勘で言うにゃ」
「いいだろう。言ってみよ」
「人間は欲しがりにゃ。にゃんでも自分の物にしようとするにゃ」
ミオの答えを聞いて、【全ての命の悪意】となった男はニタリとほくそ笑んだ。
求めていた答えを得る事ができたからだろう。
「その通りだ。だから、この世界―――次元は罠を仕掛けた。全ての命の悪意が一定量になった瞬間に【種】が芽吹くように。全てを滅ぼす、どうしようもない現象を生み出すために」
それはつまり―――俺たちを滅ぼそうとしているのは……!
「俺たちの真の敵は、【自分自身】と【この次元】だっているのか?」
「くっくっくっ、少なくとも【ここは】な。滑稽だとは思わんか? 人類のため、世界のため、と戦った果てに、これらは【ただの茶番劇】であったと気付かされるのは」
どうしようもないほどの悲しみと憎悪、そして絶望に染まった目を向けて来る。
憎怨を超えるほどのどうしようもなさは、なるほど、核の変更に至るわけだ。
しかし、それでも、俺は彼に違和感を覚える。微か過ぎて確信は得られないが。
「もう、誰にも止められぬ。【暗黒の渦】が芽吹き、ここまで成長してしまったことが何よりの証拠。そして―――命の象徴は今ここに潰える。この世の終わりをしかと見届けよ」
俺たちを照らしていた輝きが消え失せてゆく。暗黒が宇宙を支配してゆく。
『た、太陽が食われてゆく―――!』
誰かが言った。太陽が食われてゆく、と。
この世に置いて太陽が無ければ、星は死の世界へと変わる。
太陽の輝きあっての環境、そして調和なのだ。瞬く間に極寒の世界になってしまうだろう。
太陽の輝きが無ければ植物たちも光合成ができない。酸素が作れない。
即ち、どう足掻いても滅亡。
唯一、機械人たちが生き残れるかもしれない。でも、彼らだけ生き残ってどうなるのか。
世界が滅びても、この暗黒の渦は延々と破壊を繰り返すだろう。
どう足掻いても滅亡。たったいま、その引き金が引かれてしまったのだ。
「……なんてことっ! 太陽が……これじゃあ―――」
ヒュリティアも絶句する中、しかし、俺の闘志はいまだかつてないほどに燃え上がっていた。
自分でも理由が分からないほどにだ。
「【全ての命の悪意】を退治しても、バッドエンド確定だってか? そんなわけはない」
「……でも」
「俺には分かる。何故、俺がここに送られたのかを。いま、想いで理解したっ!」
怯えている―――今、全ての命たちが【死にたくない】と。
「だからこそ、俺は……俺たちは応えなくてはならないっ!【全ての命の明日】のために!」
それは決して折れぬ黄金の鉄の塊の精神。
「あいあ~ん!」
それに応えるは我が相棒、鉄の精霊アイン君。
『そうだよっ! ここまで来たんだもん! 負けられないっ!』
現精霊王エリンちゃんもこれに応える。
するとどうだ、暗黒に包まれたはずの世界が温かな黄金の輝きに照らされ始めたではないか。
「……こ、これは……光素の輝きっ」
「尋常ではない光素が宇宙を満たして行くでござるっ!」
分かる、分かるぞ。
そして感じる……みんなの生きたいという渇望が。
大切な人、叶えたい未来のために、生きるという覚悟がっ。
「皆っ! 行くぞっ!」
『ナイトはいつだって覚悟上等!』
「ならばっ!」
さぁ、唱えよう。古より伝わりし想いの詠唱を
火は土を食い―――。
土は風を食い―――。
風は雷を食い―――。
雷は水を食い―――。
水は火を食う―――。
光と闇は互いを食い合い―――。
全ては竜が統べん!
汝、全てを喰らう者!
「神魂融合っ! カオス・エルティナイトっ!」
今、全ての想いを受けて最後の混沌へと至る。
これまでの積み重ねの全て、想いの全てを一人のナイトに託す。
俺たちに集まる全ての希望を力に変えて、今こそ起てよ! 俺たちの騎士!
『【全ての命の騎士】エルティナイト! ここに見参っ! この希望を砕けるものなら砕いてみろっ!』
一切の遠慮なしのカオス・エルティナイトが誕生した。
その瞬間、影が、暗黒が貪り食われてゆく。
「それが、全てを喰らう者……もう一つの―――」
「行くぞ!【全ての命の悪意】!」
「是非も無し」
カオス・エルティナイトを突撃させる。パワーアップしてもやることは一切変わらない。
とにかく、こいつで突っ込んで皆の勇気を盛り上げるのだ。
でも、カオス・エルティナイトになると、できる事は増えるから多少はやんちゃしちゃう。
というわけで、遅れていたG・アースを特殊召喚。
「来れ! 土の枝の守護者っ!」
『にゅあぁぁぁぁぁっ!? な、なんやねんっ!? 急にひゅんとしたわっ!』
うんうん、ぽっちゃり姉貴はラストバトルでも変わらないなぁ。
「ぽっちゃり姉貴! 遠慮はいらないからガンガンやっちゃって!」
『なんやよう分らんが、暴れていいなら暴れるで! そりゃっ!』
G・アースの暴れ振りは異常。運搬に難儀する分、戦闘能力は圧倒的です。
でも、それは向こうも同じことで。
【全ての命の悪意】の真紅の閃光がG・アースの右腕部をいとも簡単に切断する。
これはつまり、小さな惑星なら簡単に破壊できる事を意味していた。
『なんやとぉ!?』
でも、その程度でG・アースをどうにかできると思ったら大間違い。
グレオノーム伯父さんも現地に赴いてぽっちゃり姉貴と協力タッグを組んでいるのです。
その再生力たるや、一瞬で斬り飛ばされた腕を植物の根で受け止めてくっつけてしまうほど。
一撃で滅ぼさない限り、G・アースは倒せんよ。
がははっ! 勝ったな! 風呂入ってくる。
そんな風に慢心した時の事だった。
ぽんっ、と軽い音を聞いた気がした。
その瞬間、G・アースが目の前で消滅してしまったのだ。
「―――え?」
呆気に取られるモモガーディアンズ。
それは、絶望に抗うという事がどういうことなのか、を分からされた瞬間であった。




