483食目 地獄の西エリア生存戦略戦 そのよん
緑色の輝きに敵として認識されているクロヒメ殿が直撃っ。
吾輩ならともかく、赤子の彼女では耐えられるはずがなく。
なんという事だ。これは吾輩の失策っ。詫びても詫びきれないっ。
……そう思っていた時期がございました。
「ばっぶー!」
『―――っ!?』
声にならない驚き、とでも言えばいいのだろうか。
モモタロウが固まっている。吾輩も固まった。
なんと赤様は全く無傷であるもよう。確認のために持ち上げて目の前に持ってきたが、ツルツルぷにぷにもっちりボディは健在。傷ひとつ有りはしなかった。
「なんとっ」
「あっぷー」
ここで思い至る勇者の言葉。【調整】は終った、とはこの事であろうか。
緑色の輝きに対する対抗策。アンチカウンター。速攻を決めるための特急券。
それが、この赤様っ。
出鱈目に緑色の光線を撒き散らし始めるモモタロウ。
桃色の輝きは既に見えない。だが、存在自体は感じる。
恐らくは機会を伺っている? 間違いない。その時を待っている。
そして、それを引き起こすのは吾輩たち以外にいないだろう。
クロヒメ殿の傍に「てけり・り」と鳴く珍生物が接近。神話生物っ。
敵かっ、いやっ、敵意は無いっ。無視か、退けるかっ?
考える前にクロヒメ殿がそれなる軟体生物を「ずぞぞっ」と飲み込んだ。
吾輩はもう何も考えたくない。吾輩のSAN値はもうボドボドよっ。
考えちゃダメだっ、考えちゃダメだっ、考えちゃダメだっ!
とか考えながら無心で緑色の輝きに挑む。
うん、考えないがゲシュタルト崩壊。吾輩の精神は一時的な狂気に蝕まれる。
取り敢えず、寄ってくる鬼が鬱陶しいのでブレスで一掃します。
「もきゅ~!」
怒りの珍獣ブレス。効果、相手は消滅する。
鬼も神話生物も纏めて消滅である。この形態だと吾輩もチートレベル。
なのだが―――他もチートなので埋もれてしまうのである。
何この世界、普通にヤヴァイでしょ? 馬鹿なの? 死ぬの?
まぁ、実際、吾輩死にそう。緑色のビーム、マジキチ。
というか、モモタロウを潰そうと外なる神が徒党を組んで迫ってきている。
これはぶっちゃけ【逃げた方が良いのでは?】とか思ってしまう。
でも、赤様は「めーっ!」とおこでございます。
口には出していないのに何でバレたし。
くそう、こんな時に肝心のエルドティーネちゃんはいないのである。
彼女が来てくれたら、謎の珍現象で全て解決するというのに。
珍現象ぅぅぅぅぅぅぅっ! 早く来てくれぇぇぇぇぇぇぇぇっ!
すると、虚空に幼女が出現。吾輩の祈りは届いたのである。
でも、それはエルドティーネちゃんではなく、真っ白な少女。
長い髪も白、肌も白、でも瞳だけは爛々と真紅に輝いていた。
ニコニコと笑っている、だが目だけが笑っていない。
クスクス、という微笑はやがてケタケタと、そしてゲラゲラと狂気が混じったものへと変化してゆく。
「あはは! おままえ! げげげたーだなな!? あはははははははははは!」
喋り方がおかしい。狂人だとしても言語機能に重篤な支障が生じている?
でも、問題はそこじゃなかった。彼女から放たれているのは白い気、即ち【神気】である。
そして、その神気から生じるは外なる神。
―――あれれ~? これって、もしかしなくてもヤッバイやつ?
「てめぇ……【Aのガキ】かっ!」
「あははは! じーはっ! ききいえろろろろろろろっ! あははははははは!」
わぁ、綺麗。ものすんごい数の小さな太陽が出てきたよ。
……じゃない! うおぉぉぉぉぉいっ! 何体クトゥグアを呼び出してんだっ!? 宇宙が蒸発すんだろうがっ!?
白い少女はこの世の事などお構いなしのようだった。
ただ、緑色の輝きが目障りだと思っているようで、無差別に外なる神を、正確には劣化コピーを量産し緑色の輝きにぶつけ始めたのだ。
これ、SAN値が1000あってもたんねーわ。もきゅー。
それでも精神崩壊に至らないのは、エルドティーネちゃんの傍で戦ってきたからだろうか。吾輩、意外と成長していた。褒めて。
『かっかっかっ、面白い事をしておるのう』
「その声はっ……キン博士っ!?」
『んん~? その波長は毛玉か? 面白い姿をしておるのう』
それはこっちのセリフだ。
今の彼は超巨大な枯れ木のような姿。その根には鬼や神話生物の干からびた姿があった。
恐らくは彼らを養分にして活動していると思われる。えげつないっ。
『ほぅ、アルアか。こりゃあ愉快、愉快』
「暢気に構え過ぎなのであるっ」
『阿呆、こんな滅多に拝めない状況を楽しまんでどうする? 自慢できるぞい? この世の終わりを見た、ってのう』
「自慢したくないのである」
『ま、それは置いといて、じゃ。介入するぞい。手を貸せ』
「正気かっ!?」
どうして鬼というのはこうも、理性のストッパーがぶっ壊れてやがるのでしょうか。
「ばっぶー!」
『おぉ、クロヒメか。ようやくその段階になったようじゃな。僥倖、僥倖』
「キン博士、あんた……どこまで知ってんだよ?」
『割と全部じゃな。わし自体、手を貸すのは一回こっきり。それが転生の条件。要は取引じゃよ。ひっひっひっ』
白ではないとは思っていたけど、やっぱり真っ黒爺さんだった。
それでも敵対してくれていないだけ有情というものなのだろう。
『では、その一回こっきりをやるとするかのう。わしも住む世界がぶっ壊れてはかなわん』
「具体的にはどうするのであるか?」
『ほれ、そこに良い素材があるじゃろ?』
「え?」
キン博士が示すのは吾輩。つまりは―――。
「最初からこれが狙いだったという事であるかぁぁぁぁぁぁっ!?」
『かっかっかっ、そういう事じゃ。諦めい』
キン博士の枯れ木が吾輩に纏わり付く。そしてクロヒメ殿ごと融合してゆくではないか。
すると、枯れ木だったそれは吾輩と融合することによって潤いを取り戻し、青々とした葉を生み出した。
そして咲き乱れる、赤と、黒と、桃色と、緑と、黄金と、青白い花。もうなんでもありだ。
今の吾輩は爬虫類と植物と人間と獣が混じった訳の分からない存在。
人はそれを、こう言うのだろう――――【珍獣】と。
「もぎゅ~!」
「かっかっかっ、地球で観賞した特撮怪獣映画を思い出すのう。確か【オビランテ】じゃったか?」
微妙に惜しい。でも、そんな感じの形態だ。
「あはははは! ななんんだおまままえ? あははははははは!」
「このくそ忙しいってのにっ! 鬼野郎がっ!」
「ひっひっひっ! 介入させてもらうぞい! AにGよ!」
もう無茶苦茶な状況ですが吾輩は瀕死です。主に精神。
神話生物を創造する白い少女と、人間に進化を促す輝きと、大怪獣との壮絶な戦いが始まった。
正直、これ以上の戦いがこの後に控えているとか考えられない。
吾輩にとっては、これがラストバトルでいい、とか思ってます、はい。
無限湧きする小さな太陽たち。それを蒸発させる進化の輝き。植物なのに躊躇なく触手を伸ばす大怪獣。しかもそれが燃えないという。
なにこれ? 吾輩、ひょっとして、つおい?
『勘違いするでない。クロヒメがエネルギーを喰っておるんじゃ』
「エネルギーを食べている?」
『そうじゃ。そのように作り替えたんじゃからな。それでもせんと、身体は動いてくれん』
そういえば、少し動いただけでも滅茶苦茶疲れる。でも、触手をクトゥグアや輝く球に伸ばすと楽になるのだ。
ということは積極的に仕掛けないと自滅する?
やだもー! あんなキモイ連中に突っ込めっていうんですかー!?
「くそっだらぁぁぁぁぁっ!」
「かっかっかっ、行け、行けぇい」
「ばっぶー!」
吾輩による一流のヤケクソアタックを見せてやるのである。
白の少女と緑色の輝きの間に割って入って触手の乱舞を炸裂させる。
両者を捕縛した。ここからが勝負だっ。
「よぉし、勝負どころじゃっ! クロヒメや、任せるぞいっ」
「あ~い!」
どうやら、この戦いの鍵となるのはクロヒメ殿のもよう。
彼女が両者からエネルギーを吸い出した。とんでもない速さでエネルギーを吸い出している。
例えるなら【人間ブラックホール】、とでもいうのであろうか。
通常なら既にパンクしていてもおかしくはないエネルギーを吸収しても尚、余力を残している。
『ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?』
「あははは! おいちっち? あはははは!」
若干、全く堪えてない存在がいるんですが?
「アルアは放っておいて、ええわい。ついでじゃ」
「ついでなのかぁ」
緑色の輝きは抵抗を見せる。
だが、急激に力が高まってゆくのを感じ取った。
このエネルギーの高まりは自爆かっ!? そうはさせんっ!
「キン博士っ! Gが自爆しようとしてるっ!」
「猪口才な奴め。じゃが……機械弄りならわしの方に分があるわい」
そう言うとキン博士は触手を操りモモタロウの脇腹を突き刺した。
するとモモタロウは急激にパワーダウンしたではないか。
『き、貴様っ!』
「素が出とるぞい? Gよ。かっかっかっ」
Dチームを操る力も失いかけているのだろう。
それを証明するかのように桃色の輝きが息を吹き返す。
同時にモモタロウが再起動を果たした。
そして、完全に緑色の気配が消える。その全てをクロヒメ殿が吸い込んでしまったのであろう。
「おっと、クロヒメや、もうええぞい。Gはこの次元から完全に消滅したからの」
「ぶー!」
「あとで別のやつを吸わせてやるわい。良い子じゃから、の?」
「あ~い!」
なんだか、祖父と孫みたいだ。
取り敢えずはもういい、とのことで、アルアとかいう怪奇少女とモモタロウを開放する。
すると、怪奇少女が大怪獣の中へと不法侵入してきたではありませんか。来ちゃらめぇ!
「あはは! きききんどじ! あははは!」
「おう、久しいのう。小娘がよろしくと言っておったぞい」
「あはは! えるっる! あいいいくう! いあいあ! はぁすたー! あははは!」
キン博士にそう告げる、とどこを見ているのか分からない白い少女は外へと出ていった。
そしていつの間にか目の前に、黄色のローブをすっぽりと被った不定形な何かが。
それの頭の上にちょこんと腰を下ろす白い少女。
その彼女に猛然と突っ込んでくる一機の戦機の姿。
『こらぁぁぁぁぁっ! アルアぁぁぁぁぁぁっ!』
「あはは! にげげっる! いあいあ!」
「はちゅたー」
外見に似合わない可愛らしい鳴き声を上げて、宇宙に溶け込む怪物たち。
『だぁぁぁぁぁっ! また【次元越え】をっ! こっちはホイホイ使えないんだぞ! 始末書を書く私の身にもなれっ!』
あれはスペグラか。それが右手を虚空に突き出した。歪む空間、自ら生み出したそれに突入し、スペグラは完全に姿を消してしまった。
「な、なんだったのであるか?」
「騒がしい連中、の認識でいいわい。もう会う事もあるまいて。かっかっかっ」
「ば~ぶ~」
このタイミングで西エリアの要塞が粉微塵になった。
そちらを向けば勇者タカアキの姿が。
「あっちも終わったようじゃの。さぁ、宴も最終段階じゃぞ。ひっひっひっ」
「あまり嬉しくないのである」
「ばっぶー」
白い少女が姿を消したことにより神話生物たちも順次、その姿を消していった。
モモタロウもかなり損傷しているので一度帰艦することに。
吾輩たちは奪ったエネルギーを小出ししながら最終決戦の場となる北エリア。
即ち、鬼ヶ島本島を目指すのであった。




