481食目 地獄の西エリア生存戦略戦 そのに
「もきゅ~! もきゅ~!」
「ばっぶー」
もう嫌だ、お家帰りたい。そんな言葉で脳内が埋め尽くされる。
背中には頼もしい温もりを感じるけど、彼女はあくまで赤ちゃんだ。別に強いというわけでもなかろう。
寧ろ吾輩が守ってあげなくてはならない立場なのである。
でも、護ってほしいです、はい。
取り敢えずはエリシュオン軍陣地へと到着。一安心である。
しかし、どこを見渡してもDチームの姿は見えず。いやな予感が脳裏をよぎる。
「も、もきゅ~?」
探す、探す、探す。さりとて、あの独特のシルエットを捉える事叶わず。
まさかとは思うが最前線に突入中であろうか。だとしたら、まったく以ってやってられないのである。
やはりDチームの姿は見えず。仕方がないので彼らの気を探す、と西エリアに取り付いている巨大なタコなような存在の近くに彼らの気を感じとる事ができた。
よりにもよって一番近付きたくない場所にいるとか馬鹿なのであるか? いや、そういえば救いようがないほどのバカ集団であったな。
あ~困った。こんなことならファーラを置いてくるんじゃなかったのである。
余裕だろうと、調子ぶっこいた自分をグーで殴りたい。
そして、脅威は別に神話生物たちだけではない。鬼だって歴とした脅威なのだ。
戦場はパニック状態ではあるが恐れを知らないのは鬼も同じこと。
死んでも即座に蘇る彼らはある意味で鉄砲玉なのだ。
エリシュオン軍も数で圧すタイプなので相性は最悪と言えよう。
その劣勢をたった二機で押し返している。それが輝く獅子と、珍妙なる武器の集合体だ。
エリシュオン軍が開発した旧式の機獣レ・ダガー亜種、とされるシシオウが宇宙を駆ける。
鬼を食い千切り、尾のビーム砲で顔の無い悪魔を焼き払い、鋭利な金属片から生まれ出る粘液に包まれた四足歩行の獣を輝ける爪で引き裂いた。
ハッキリ言って常識はずれの強さなのである。
普段の彼らだったなら、護衛をお願いしても二つ返事で返してくれただろうが、流石に今は厳しい状況。
では、相方である彼女ならどうか。
現在、彼女は全身が爛れた巨人と交戦中。その巨人のマントの内側には顔の無い悪魔がびっしりと張り付いているのが見えた。絶対に相手にしちゃいけない存在だ、という事が理解できる。
それに躊躇なく戦いを挑むとか、いや~鬼の奥様ってすっごいわ~。
乱れ飛ぶミサイルと極太のビーム光線。相手が大きいから面白いように命中する。しかし、巨人はその体格に見合うタフネスさを持ち合わせている。
更にはマントの内側に張り付いている顔の無い悪魔が常時、動く武器庫に襲い掛かっているという。
並の戦士であったなら即座に撃墜されて終わっているであろう。
というか……プルルさんって機体から降りてからが本番な気もしないでもない。
あの人、華奢でムチムチボインであるが鬼の四天王である。わざわざ戦機に乗るのは生粋のロボット好きであるから、とかなんとか。
正直言って協力を仰げる状況ではない。
やむを得まい。勇気をもって駆け出せ吾輩。
「もっきゅっ!」
「だう~」
吾輩はDチームを目指し頼りない足を動かし始めた。
駆け出した矢先に神話生物に絡まれた鳴きたい。もきゅ。
吾輩に絡んできた神話生物はくそデカい蜘蛛だ。宇宙に蜘蛛の巣を張って掛かった獲物を貪り食っている。生肉だろうが金属だろうがお構いなしの超雑食である。
吾輩は美味しくないので巣に帰ってください。
その気が狂いそうなほどにおぞましい蜘蛛が、宇宙を走りながら追い掛けてくるというね。宇宙を走るとか非常識であろうに。
蜘蛛さんは蜘蛛の巣でまったりとしているのである。
「もきゅ~!?」
「きゃっ、きゃっ」
なんで、そんなに嬉しそうなんですか、赤様? 吾輩、おしっこ漏れそうです。
でも、良い大人がそんな情けない事はできないので、キュッと尿道を締め付けるのである。
すると、目の前に突然、全身が粘液に包まれた犬っぽい獣が。ジョバっと黄色い液体が出ちゃいましたとも。
人間形態でなくてよかったのである。もきゅ。
こいつは先ほど、ライオット殿がボコボコにしていたティンダロスの猟犬っ。
確かに一匹ではないのは分かっていたが、それにしては節操が無さ過ぎである。吾輩は時間旅行者ではないぞっ。
「あっぷ~」
「もきゅっ!?」
あ―――居たわ、ここに。ある意味で時間旅行者。
なんという事であろうか、この猟犬はクロヒメ殿を付け狙っているのである。
ティンダロスの猟犬は角があればどこからでも湧いて出てくる。こいつらから身を守るには曲線で構成された空間に引き籠るしかない。
この戦場には機獣の破片が幾らでもあるので、どこから連中が来るか分からない。
常時気を張っていては、体力よりも先に精神が参ってしまうのである。
「かぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「もきゅっ!?」
抜かった―――! 背後に破片があったのかっ!?
ティンダロスの猟犬の不揃いの鋭い牙がクロヒメ殿に食い込もうとしたその時。
粘液に包まれた獣が何か大きな力によって消滅した。それが何か理解できなかった。
しかし、吾輩視線の先に、それなる事を成し遂げた男の存在を認める。
その男はどうしようもないほどに不細工であった。人間というよりかはオーク、オークというよりかはオーガ。いや、トロールなのかもしれない。
天パにぐるぐる眼鏡に吹き出物とマイナス要素をこれでもかと詰め込んだ顔面は直視に耐えない。
胸の黒いTシャツには白字で勇者の文字。果たして彼は何者か。
「大丈夫、私が来ました」
大丈夫か、とはこっちのセリフである。一応人間だと思うのだが、彼は生命維持装置を付けずに生身で宇宙にあった。人間ではないのだろうか。
「モフモフさん、事情は把握しております。Dチームの下へとエスコートしましょう」
「もきゅっ?」
「【珍獣K】と言えばよろしいでしょうか?」
そうか、彼はやつの関係者か。いいだろう、珍獣Kは信用してないが、彼なら信用に値する気を放っている。彼の助力を受け入れるべきだ。
「もっきゅ!」
「よろしい。では、少し離れていてくださいね?」
大男は四股を披露した一体何をするつもりであろうか。まさかここで相撲をするつもりなのか。
メリメリ、と男の体が膨れ上がる。そして、彼は張り手を放った。
「八卦、よい!」
ゴッ、という衝撃。そのあまりの突風に堪えるので精いっぱいだった。
目を開けていられない。なんという強力無比な力なのだっ。
だが、それは一瞬の事。瞼を開ければ、そこには何も存在しなかった。
まさか、あの張り手で全てを消滅させてしまったというのかっ。
「相撲は邪気を払う儀式でもあるのです」
大男は吾輩にビックリするほどの綺麗な微笑を投げかけた。それは幾つもの生と死に向き合った、それを見届けた漢の顔であった。
遅れながらに吾輩は理解する。この男は、この漢は吾輩が思っている以上に尊き戦士であると。
「私の名は勇者タカアキ。さぁ、参りましょうか」
「も、もきゅっ!」
「ばっぶー!」
だからなんで、そう交戦的なんですか、赤様。
今のあなたでは逆立ちしても勝てませんぞっ。
「おぉ、ラブリーべびー。おぅ、いえぇい」
あっ、なんだか勝てそうな気がしてきた。
「ふぅ~、やはり赤様は良いものですね。さっさと世の中を落ち着かせて幼女を増やしましょう」
あ、なんだかこの人の評価を下げないといけないような気がしてきた。
「さぁ、幼女の、幼女による、幼女のための世界をっ!」
ダメだぁぁぁぁぁぁぁぁっ! こいつはダメだぁぁぁぁぁぁっ!
くっそ強いけど、長い間、世界に留まらせたら色々とおかしくなるヤツだぁぁぁぁっ!
しかし、現状としては彼に頼るしかないという情けなさ。
とはいえ、吾輩にも一応は切り札があるのだ。
しかし、それは一回こっきり。使用のタイミングを吟味する必要がある。
「もきゅ~」
やむを得まい。少々心配ではあるが今は、このおっさんと行動を共にしよう。
吾輩は自称勇者タカアキの後ろに付き、Dチームとの接触を試みるのであった。




