480食目 地獄の西エリア 生存戦略編
「もきゅ~、もきゅきゅ~」
さり気なく無害アピールをしながら神話生物と鬼たちの隙間を通り抜けてゆく。
もう、ヤバいくらいに、この一帯だけ悪夢が具現化している。
不定形の神話生物が機獣の隙間から入り込んで中から蹂躙しているかと思いきや、その神話生物ごと鬼が喰らいに掛かるという混沌ぶり。
機獣もただやられているのかと思いきや躊躇なく神話生物を焼き払ったり引き千切ったりしている。
中には不格好に融合し、死んでも死ねないような惨たらしい塊になっている者もいた。
不定形の顔には金属や肉が出鱈目に配置されていて、二つの顔とおびただしい眼球がまるで吹き出物のように浮かんでいる。
その目が一斉にこちらを向く。怒りと憎しみと濃厚な死が香る視線を見た吾輩はSANチェック、1D6を振る。
「ばぶー!」
「ひゅいっ!?」
でもそれは赤様の威嚇で逃げるようにどこかに行ってしまった。
赤様、強過ぎワロタ。
「もきゅ~」
めっちゃ、帰りたい。吾輩、こういうのは苦手である。
でも、アレを回収しない事には真のハッピーエンドは迎えられないので吾輩が頑張るより他にない。
いくら強くても、アレの取り入り方は半端ではないのである。
暫くは赤様の覇王の気で神話生物を追い払いながら進む。
しかし、ここでアクシデント。
「すぴ~」
「も、もっきゅうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!?」
なんと赤様、この死の香りが過ぎる戦場で安らかにお眠っ! 信じられないっ!
赤ちゃんだからって、フリーダムを超え過ぎているっ!
そんなものだから神話生物は、ここぞ、とばかりに襲い掛かってくる次第で。
襲い掛かってきた神話生物は超巨大。それが無数。
飛び出た眼球は濁っていてどこを見ているかは判別不能。垂れ下がった下唇は吐き気を催す。ヤツの水かきは宇宙に置いても有効なのか。そのあまりにも人間に酷似した姿は嫌悪感を無理矢理にでも引き出させる。
それが一匹や二匹ではない、軽く千体以上はいる。その巨大なる者が一斉にこっちに来て明確な敵意を向けているとか発狂ものですぞ。
いや~っ!? 来ないでぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?
馬形態では戦闘は不可能に近い、こうなれば仕方がない。
奥の手を使うより他に無いかっ。
そんな事を想った矢先、更に巨大なる者の存在が人間と魚を組み合わせたかのような神話生物に襲い掛かった。
それは何故か、裸だった。そして、女性なのに不自然なほどに筋肉隆々であった。
この宇宙に置いて、巨人は珍しくは無いのだろうか。しかしながらその姿は完全に人間の女。
だが、この場に置いては余りに不自然過ぎて返って恐怖を煽り立てる。
大人と子供、それほどまでの差が両者にあった。
巨大なる女は魚巨人を纏めてその手に握りこむ、とそのまま握り潰してしまった。
僅かな抵抗を見せるもミシミシと骨が軋む音が聞こえたかと思うと骨が皮膚を突き破り、続けて肉が臓器がぬるりと飛び出してくる。
神話生物は暫しの間、ひくひくと体を震わせるが、やがて動かなくなった。
巨大なる女は興味を失い、それを虚空へと投げ捨てる。それに群がる小中の生物たち。
それらは、くちくち、と音を立てながら死したる魚巨人を貪った。
その光景が人間の死体の上で蠢く大量の蛆虫に見えたのだ。
そんな吾輩はSANチェック。1D20のダイスを振る。
―――あっ。
「うん? なんだい、モフモフじゃないかい。こんなところでどうした?」
「も、もきゅ~」
よくよく見るとその巨大女は星熊の姐さんでした。
神話生物をものともしない恐るべき存在は愉快そうにその鉄拳を振るう。
もう、何に恐怖すればいいのか良く分からなくなってきた。これならファンブルだって怖くはないよねっ。
「危ないから、あっちに行ってな」
ちょいちょい、と彼女が指差す方角にはエリシュオン軍の艦隊が。
多分そこにはDチームもいる事だろう。
とにかく緑色の輝きを回収して、こんな所はさっさとオサラバするに限る。
「も、もきゅ~!」
この場を星熊の姐さんに任せて馬形態のままで駆け抜ける。
赤さんは起きない。つらたん。
暫く駆け抜ける。後ろで星熊の姐さんと同じくらいにデカすぎる神話生物を超える何かとの格闘戦が始まった。
矢鱈と冒涜的な風を感じる辺り、相手は外なる神であろうか。考えたくもない。
「もきゅう……」
余りにもオールスター過ぎて笑えない。いや、いっそ狂って笑い飛ばした方が良いのか。
エリシュオン軍も既に狂っているのだろう、仲間の屍を乗り越えてとにかく突撃するだけ。
神話生物に喰われ取り込まれた個体もお構いなしにハチの巣に。
人の持つ狂気は時に神話生物の狂気を超えるというが、今まさにそれが起こっているのだろう。
そして、その狂気を取り込み更に強化される鬼を、当たり前のように駆逐するモモガーディアンズのスペグラ。
でも、よくよく見ると機体は冒涜的な形状に変化しつつある。機体のパイロットがどうなっているかなど考えたくもない。
無数の触手を生やし、不定形の神話生物をぐずぐずと融解させるスペグラは見たくなかったのである。
というか、溶けたそれを吸収して触手を増やした。もうロボットといっていいものか。
少し進む、と急に霧が濃くなってきた。この宇宙に霧とは面妖な、と思いつつ突入。
視界が悪い。こつんと何かに衝突した、が、それはあっという間にホロホロと形を失い霧の一部になってしまった。
違和感。それは違和感である。今のはいったいなんだ。そもそもが、これは本当に霧なのか。
纏わり付くそれに水分は感じない。寧ろ粉っぽく、サラサラと纏わり付いて不快。霧というよりかは粉塵。
もしかすると―――これは灰か?
灰色の粉塵に不可解なものを感じながらエリシュオン軍を目指す。その霧の中に佇む何かを発見。それは人間の子供程度の大きさだ。
何をするでもなく、ぼうと突っ立っているだけ。手足は某のように細い。というか子ども自身がミイラではなかろうかというほどに痩せ細っている。
いったい、なんなのだろうか。赤様のように変異してしまった友軍の誰かか。
吾輩は道すがらであったため、声を掛けてみる。
「もっきゅ?」
「……」
話しかけたそれには顔が無かった。顔にはしわのみが刻まれており、辛うじて人の顔であると認識できた。そして、同時に救いが無いほどの恐怖と後悔と死の臭いを感じ取る。
子供のミイラがゆっくりと棒のような両手を持ち上げる。動けない。これは恐怖か。
ごん、という音。子供のミイラのような者が吹っ飛んだ。同時に霧のような物もふっ飛ばされ景色が一変する。
そこには男がいた。金髪で褐色肌の男だ。筋肉隆々で戦うために生まれたかのような生気に満ちている。爛々と輝く金色の瞳は命を屠る事しか考えていないかのようで、事実として彼の全身は血や神話生物の体液で塗れている。
「あ? なんでこんなところに毛玉がいるんだ? つーか、馬だな」
「もっきゅ~!」
吾輩たちのピンチを救ってくれたのは鬼の四天王の一人虎熊童子であった。
鬼の中では比較的にマシな方である。
虎熊童子さん、素敵っ! 抱いてっ!
しかしその時、吾輩の背筋にどうしようもないほどの悪寒。決して赤様が粗相したわけではない。寧ろ彼女も「ばぶっ!?」と悪寒を感じて起きてしまっていた。
悪寒を感じさせた主はここにはいないようだ。気の流れを感じ取れる吾輩が全力で探りを入れても発見できない。
ここまでで最も命の危険を感じ取ったのは先ほどの悪寒。果たして、この戦場にそれなる者がいるというのか。
吾輩はこの場を虎熊童子殿に任せ、エリシュオン軍で戦っているであろうDチームの下へと急いだ。




