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47食目 飛行母艦突入

 ◆◆◆ ヒュリティア ◆◆◆



 戦いが始まった。

 私は支援部隊に配属されているけれども、本当の役割は別なところにあった。


 それは、飛行母艦の奪取である。

 言い出しっぺの責任を取る、というわけではないが、この作戦はなんとしてでも成功させる必要がある、と感じたのだ。


 私は飛行母艦の重要性を知っている。

 エルティナは覚えているかどうか分からないが、実のところ以前の世界では当たり前のように飛行母艦が存在していた。


 貴重な航空手段であると同時に、一度に大量の兵士を運べる、という事は脅威以外の何ものでもない。

 戦いは飛行母艦があるかないか、で優位性が激変するのだ。


『いいのか? 銀閃。これから対人戦になる可能性もあるんだぞ?』

「……問題無いわ。寧ろ、そっちの方が得意よ?」

『いや、おまえさんは……いや、野暮だったな』


 同行する兵士たちは対機獣用のライフル銃と大型ナイフ、ハンドグレネードを携帯しているが、それでも小型の機獣が船内に配置されていた場合、苦戦は免れないだろう。

 したがって、ここは私が出向くことにより、作戦成功率を引き上げる必要があった。


 ルナティックを降着形態にして、背部大型スラスターと補助スラスターを併用しながら高速移動を行う。

 そこに兵士を十名ほど乗せて移動。

 振り落とされないのは、彼らがよく訓練されている証だろう。


 残りの十人はロイドさんが彼の愛機フォーレッグで運んでいる。

 速度こそルナティックに劣るが、安定性はフォーレッグの方が上のようだ。

 フォーレッグもまた、ホバークラフトの機能を備えていた。


 もっとも、ルナティックの場合は想定外の使用の仕方らしいが。


『銀閃! 撃ってきたぞ!』

「……分かってる」


 極小の動きで飛来する弾丸を回避、私には音速の弾が止まって見える。

 伊達に、あの【最終決戦】を生き抜いたわけではない。


「……過去を意識し過ぎね」

「ぶろ~ん?」

「……なんでもないわ、ブロン君」


 青銅の精霊が心配そうに声を掛けてきた。

 少し気弱だが、いざという時にはきちんと勇気を振り絞れる子だ。


「……邪魔よ」


 スナイパーライフルで狙撃。

 進行の邪魔になる機体のみを駆除し最短ルートを確保する。


『ビューリフォー!』

「……せんきゅー」


 兵士との他愛のないやり取り。

 しかし、この後は彼らとも会えなくなるかもしれない戦場が待っている。


 そろそろ、飛行母艦が置かれているドックが見えてきた。


「……準備を。このまま突入するわ」

『了解した! アルファは戦闘準備!』

『ブラボー了解、こちらも準備は万端だ』


 ここで行く手を阻む虎型の機獣が十機以上。

 単体を相手に戦う事を想定しているルナティックでは分が悪い構成だ。


『邪魔すんな!』


 ロイドさんのフォーレッグのレールキャノンが火を噴いた。

 それは虎型の機獣レ・ダガーを三機程仕留めるに至る。


 しかし、それでも連中の壁を切り崩すことは叶わなかった。

 そこに、天より落ちてくる巨大な影。


『俺、参上っ!』

「……エルっ!」


 その巨大な影とは、漆黒の鎧を身に纏うエルティナイトであった。

 彼のダークナイトは手にする輝ける刃を振るい、鋼鉄の獣たちを意図も容易く両断する。


『ここは俺に任せて、ヒーちゃんたちは急ぐんだぜ!』

『あいあ~ん!』

「……ありがとう、後のことは任せて頂戴」


 彼女の厚意に甘え、私は敵陣を強引に突破する。

 兵士たちの悲鳴が聞こえるが、それを無視してドックへと突入。


 急ぎ飛行母艦の背後に回り、機体の搬入口の装甲を戦機用のハンドグレネードを投擲させて爆破する。


『突入口を確認! 銀閃、作戦開始だっ!』

「……了解、ルナティックをよろしく」

『引き受けた! 壊れたからって、文句は言うなよっ!』


 私は兵士の一人と操縦を交代し、突入部隊へと加わる。

 だが、幼児の姿のままでは戦い難い。


 私は魔力を解き放ち、【元の姿】へと戻る。

 閃光と共に大人の姿へと戻った私に、兵士たちは目を丸くした。


「ぎ、銀閃か?」

「……えぇ、この姿は内密に」


 更に手の内に黄金の弓を出現させる。

 この子を使うのも久しぶりとなる。

 腕が錆び付いていないといいのだが……まぁ、撃っている内に勘を取り戻すだろう。


 尚、身に着けている衣服も変化を起こしている。

 大人の身体になって服がびりびり破れるのはエルティナくらいなものなので、期待した者は川に身を投げて溺死するように。


 思えばこの衣服も最終決戦で身に付けていた物だ。

 簡単な弾丸であれば避ける必要もない。


「……なんだ、思っていたよりも、私はチートだったわ」

「え?」

「……行きましょう。手早く制圧するわ」


 私は先陣を切った。

 やはり、船内には小型の機獣が配備されていたもよう。


 それは中型犬を思わせる容姿をした灰色の機体であった。

 背中には機銃のようなものを背負っている。


 彼らはそれを発砲してきた。

 思った通り、背中のそれは機銃であり連射性能に優れている。


 しかし、私が身に着けている衣服は、月の神の加護で作られた神衣だ。

 放たれた鋼鉄の弾丸は神衣の放つエネルギーフィールドによって弾かれ、私に到達することはなかった。


「ど、どうなってるんだ!? おい、銀閃っ!」

「……説明は不要よ」


 黄金の弓の弦を引くと同時に輝ける矢が生じる。

 どうやらこちらも問題なく機能するもよう。


「……そこ」


 灰色の犬たちに輝ける矢を放つ。

 輝ける矢は空中で分裂、無数の小さな矢に変化し獲物に襲い掛かる。


 その小さな矢が灰色の犬の内部に潜り込んだ。

 そして爆発が起き、鋼鉄の獣は四散して果てる。


「……排除確認。前進よ」

「あ、あぁ……!」


 正直な話、飛行母艦に配置された鋼鉄の獣たちは相手にならなかった。

 その全てが輝ける矢の一撃で仕留めることができたからだ。


 この弓は元々多対一での運用を目的に製造された物。

 相手が多ければ多いほどに攻撃力が上昇する神器なのである。


「……SFにファンタジーを持ち込むべきじゃないわね」


 今頃になってエルティナの愚痴が理解できた気がする。

 これは本当に反則というべき能力だ。


 まぁ、エルティナに倣って、私もこう言う。


「……でも、使うんだけどね」


 道具は使ってこそなのだ。私は悪くない。




 順調に艦橋へのルートを辿っていた。

 襲い来る鋼鉄の犬たちも兵士たちのライフルが通用するようで、確実に数を減らしていた。

 負傷者も出たが、作戦行動に支障が出ない程度。


 やがて、私たちは艦橋へとたどり着く。ドアの正面に立つのは私だけ。

 他は左右の壁に張り付いて身を隠す。


「……突入するわ」

「了解、おまえら、いいな?」


 兵士たちが頷く。

 私は黄金の弓を構え、輝ける矢を鋼鉄の扉に向けて放った。

 爆発、それと同時に弾丸の雨に晒される。


 だが、私には通用しない。

 内部に突入する。


 その時のことだった。


「しゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「っ!?」


 跳躍からの抜刀、それを直感で回避する。

 幾本かの髪を切断された。


 という事は、この攻撃には【鬼力】と同様の力が込められている、ということに他ならない。


「よくかわしたな」

「……機械の人間?」


 私に向けて抜刀した存在、それは灰色の女性であった。


 長い髪も瞳も何もかもが灰色。

 それを構築するもの全てが金属、という機械人間だったのだ。


機械人ヒューメタルだ。名をK・ノインという」

「……ヒュリティア」


 名乗りを上げた私は、その声に彼女が深緑の悪魔であることを確信した。

 そして、黄金の弓を亜空間へと収納し、代わりに腰にぶら下げていた棒を引き抜く。


「……あなた、深緑の悪魔ね」

「だとしたら?」

「……借りをここで返すわ」

「やってみろ! このK・ノインに対して!」


 引き抜いた短い棒に魔力を流す。

 金属の短い棒は先端より輝く刀身を発した。


 これは【月明かりの剣】という近接戦闘用の光剣である。


 エルティナが言うには、ふぉーす、がどうだの、じぇんが、がどうだのと言っていたが詳しくは理解できない。

 彼女は時々、無知な私には理解できない事を口走る。


 こういう時は分かった振りをしておけば、大概なんとかなるのでそうしておいた。


 私は悪くない、うん。


 しかし、予期せぬ決戦となった。


 艦橋に配備された鋼鉄の犬たちは兵士が受け持ってくれている。

 私は深緑の悪魔との決着を付ければいい。


 そして……両者、どちらからともなく動いた。


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― 新着の感想 ―
[一言] ヒュリティア 「期待した人は川に身投げして溺死するように」 珍獣(‘◉⌓◉’) NG「処する?主役だけど?」 ヒュリティア「沸騰したお湯で出汁を取りましょう」
[一言] 深緑の悪魔!?死んだはずじゃ。
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