472食目 南エリア攻略戦 そのさん
◆◆◆ ヒュリティア ◆◆◆
TASムセルの基本操作はルナティックと殆ど変わらない。しかし、とにかく癖が強い。
これはエルドティーネに合わせた調整がされているからだが、反応速度がルナティックの三倍近くもある。
ハッキリいって、これを常人が通常の戦機感覚で動かしでもしたら、簡単に意識を持って行かれるだろう。尋常ではないタフネスだ。
「……右っ、いや、左っ!?」
『レディ』
感覚が出鱈目に入り込んでくる。
殺気というのだろうか、いや、これは間違いなく殺気。そして、困惑、恐怖。様々な想いが敵味方関係なく私に入り込んでくる。
あの子は、これらを処理しながら戦い続けているというの? だとしたら異常を通り越している。少し、あの子に対する評価を低く見積もっていたか。
「……ええいっ、いちいち敏感過ぎるのよっ!」
ムセルがサポートしてくれていなかったら、もしかすると危なかったかもしれない。
振り回される。防御力がほぼ無いに等しいのに、なんてパワーっ。
接近された。反応っ、間に合わないっ。
『レディ』
ムセルが自らの意思で攻撃。アームドパンチで四つ目を破壊する。
スペグラも良いパワーだったけど、これは桁が違う。下手をすればエルティナイトも殴り倒せるレベル。
アームドパンチを放つ際に、桃力を纏わせているのは【ムセル自体が桃使い】だからか。
それともエルドティーネの桃力を蓄えているのか。
いずれにしても、常人では彼を最大限に活かすことは叶わないだろう。
「……あと……32体っ。やれるわよねっ?」
『レディ』
ごめん、今の言葉は私自身に向けたもの。少し弱気になっているのかもしれない。
まだまだ面倒を見てあげないといけない、そう思っていた子が、自分よりも先に行っていた、という衝撃は私を動揺させるに十分だった。
でも、大口を叩いてしまった以上、情けない結果は晒せない。
何がなんでも、ここの連中は全て退治する。塵一つ残さない。
だが、思っていた以上に一つ目小僧が厄介だ。完全に他の鬼のサポートに徹している。
こういう手合いが一番厄介。真っ先に潰したいのに上手い事、青い悪魔に隠れながら援護射撃を行ってくる。
ヘヴィマシンガンの弾が切れた。カートリッジは……!
「……カートリッジ!」
『レディ』
TASムセルの背部ランドセルの左側面からカートリッジが押し出される。
それを空いている左手で受け取って素早く弾切れのカートリッジと交換する。
「……呆れるほど効率的ね。火力重視じゃなくて継続戦闘能力を―――いえ、確実性を求めるあの子らしいわ」
戦線に復帰まで全く時間が掛からない。しかも激しい戦闘中でも容易に可能。
少し複雑な操作が必要になるけど、両手が塞がっていた場合にはランドセルのサブアームを使えば弾薬の交換もできる。
脇のガトリングキャノンも使い易い。牽制には打って付け。九連ロケットランチャーも上手く使えば高威力。
惜しむらくは、私は魔法障壁を扱えないのでスピンシールドを利用できない事か。
青い悪魔を仕留めた。硬いこいつをどうにかすれば、あとは煮るなり焼くなりだ。
四つ目も動きは良いが攻撃が単調。それに比べて一つ目はフェイントを織り交ぜるようになってやり難い。
こういう時はエルティナイトのごり押しできるパワーと頑丈さが欲しくなる。
「……でも、こういう駆け引きは嫌いじゃないのよね」
「ぶろろ~ん」
「……えぇ、油断はしないわよ。ブロン君」
私が見落としていても、ブロン君がカバーしてくれる。
ルナティックに乗っていた頃からずっとそう。彼はさり気なく私を助けてくれていた。
だから、私は少しばかり羽目を外して戦っていても大丈夫だったのだ。
この子は目立つのが嫌いだから戦果を誇らないけど。結構な金星だって上げている。
『レディ』
ただ、ムセルは凄まじいの一言。チャンスと見るや否や攻撃。一つの弾丸で三体を同時に仕留めるなど当然のようにやってのける。
彼の出番は大抵が乱戦なので、じっくりと活躍を確認することはできなかった。
だが、彼に搭乗して分かった事がある。それは異常なほどの判断能力。
未来が見えているのではなかろうか、というほどの迷いの無さ。
彼は機械だから、という理屈では言い表せない超常的な動きは、私を酔わせるには十分過ぎる。
正直、エルドティーネに嫉妬。私はムセルが欲しい。
「……っと。いけない、いけない。浮気はダメね」
「ぶろん?」
「……ふふ、なんでもないわ。早く終わらせて、私たちのルナティックに戻りましょ」
ターンピックを打ち込んで高速回転からのヘヴィマシンガンの乱射。
その全てを鬼に命中させるムセルの腕前は異常を通り越し怖いくらい。
彼も戦果を誇らないタイプなので、実際の活躍よりも低い評価に見られている。
だが、実際に彼に搭乗し共に戦えば、その認識は180度ひっくり返るだろう。
「……鬼の全滅を確認。ムセル、オートパイロット、いけて?」
『レディ』
「……それじゃあ、行って来るわ。ブロン君」
「ぶろ~ん!」
TASムセルから降りて結界装置の内部へと突入。やはり、内部には多種多様の鬼たちがひしめいていた。
「……面倒臭そうなのが沢山いるわね」
黄金の弓を生み出し乱射。やはりムセルのようにはいかない。何発か外した。それでも入り口付近の鬼は殲滅完了。復活しない内に奥へと進む。
内部は向上のような感じで無機質な作り。階段も多くどこから鬼が現れるか分からない。
ビリビリとした殺気を感じる。しかし、TASムセルに乗っていた時ほどではない。
あの感覚はこういった時に欲しい。ままならないものだ。
「ぶろ~ん」
「……右階段に三体、中央に二体、左に六体ね。ありがとう」
「ろ~ん」
ブロン君が偵察をしてきてくれた。左がハズレのもよう。中央から突破し、結界装置を止める事を優先する。
結界さえ停止してしまえば、あとはエルティナイトでどうとでもできる。
「何をしているだっちゃ!? 早く侵入者をぶっ殺すめろん!」
なんか、妙なのが出てきた。虎柄ビキニのおっさんだ。正直、見るに堪えない。
なので、即射殺する。
「ああっ!? だっちゃ鬼様がやられた! ざまぁ!」
「なんてことだ! もう助からないぞ! ざまぁ!」
「ばんざーい! ばんざーい! ざまぁ!」
これは酷い。相当に嫌われていたもよう。
仲間である鬼に嫌われるとか救いようがない。
「……それはそれとして……死ね」
「「「ぎゃーっ! 鬼殺しー!」」」
なんというか……こういうタイプは本当に元気ね。
邪魔するものだけを退治して上へ上へと駆け昇る。一々殲滅していては時間が掛かるし、こいつらは即時復活する。
唯一の救いは復活のポイントがランダムだという事か。
なら、例えばこの南エリアを完全に破壊してしまえばどうなるか。
破壊した後に重力の牢獄を作ってしまえばどうなるか。
「……悪くない。やってみましょうか」
闇の枝を使えばできなくもない。あの子は歪みを作る者。正常なものを破壊する者。
世界は自分の傷を治すために膨大な力を一点に集中させるだろう。
全てを吸い込み傷の修復に当てる。それが【自然型ブラックホール】の正体。
あの現象は【世界が自分の傷を治している】に過ぎないのだ。
そうと決まれば、さっさとこの結界を停止させ、エルティナイトに全力でファイアーボールを撃ってもらう。彼と彼女なら南エリアを粉微塵にすることぐらいはできるだろう。その後に重力の牢獄を形成する。
鬼退治が、ただの徒労だなんて許せない。鬼たちにもペナルティは必要だろう。
ドアを蹴り破る。まさか蹴り破られるとは思っていなかっただろう鬼の一体がドアに押し潰され、潰れたトマトのようになった。尚、ドアは金属製。
「き、来たぞっ!」
「……くたばりなさい」
制御室の鬼たちは全員が女性型。恐らくは乗り込んできた者に精神的な動揺を与えるための姿。
でも残念ね。来たのが私で。
情け容赦なく、輝く矢でハチの巣にしてやる。
私は、そのような姿で動揺するような、一般的な精神構造は持ち合わせていないのだ。
「お、おのれ……悪魔めっ」
「鬼に悪魔って言われる日が来るとは思わなかったわ」
眉間に輝く矢を打ち込む。鬼女は動かなくなった。
悲惨な姿だけど、まったく心は動かない。これよりも悲惨な死体なんて、幾らでも見てきたから。
それこそ、仲間の死体も沢山見てきた。鬼が原因でね。
「さて、これはどうなっているのかしら?」
見たことも無い操作系統だ。下手に動かしたら悪化するかもしれない。
「ぶろーん」
「……あっ」
ブロン君がボタンの一つに乗っかった。すると、パワーゲージが動いてMAXの位置に。
実体がないはずのブロン君が動かせるのはおかしい。
「……そうか、この装置は触れないんだわ」
「ぶろろん?」
非実体系の操作盤。それがブロン君が動かせた理由。実に嫌らしい。
実体では操作できないそれは、苦労して辿り着いても徒労に終わる可能性が高いのだ。
でも、私たちには精霊が憑いている。ならば、操作可能なはず。
ぼんっ。
「……爆発したわ」
「ぶ、ぶろーん!」
どうやら、私が何かをする必要も無かったもよう。
ブロン君の押したボタンがアタリだったようだ。
出力を最大にして一定時間が経過した事により、オーバーヒートを起こしたのだろう。
急激に結界の力が弱まり、やがて結界装置は停止してしまった。
「……お手柄よ、ブロン君」
「ぶろ~ん!」
お手柄に、ぴょこぴょこ、と飛び跳ね喜ぶブロン君可愛い。
さぁ、これで南エリアの制圧までもう一息。
今は急いでTASムセルの下へと戻るとしよう。




