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46食目 異常なる者

 ◆◆◆ ファケル ◆◆◆




 我が愛機ル・ファルカンは今日も絶好調なり。


 機獣基地への電撃作戦は順調に事が進んでいる。

 ただ唯一の不満点は、この俺が雑魚どもの始末という点だ。


『ファケルさん! 六時の大鷲型を!』

「あいよぉっ!」


 空を自由に跳べるのが現状、俺のル・ファルカンのみというのが最大のネックとなっている。

 俺の立場がいかに重要なのかは理解しているが納得はしていない。


 俺とて戦機乗りである。華々しく活躍しファケルとル・ファルカンここにあり、と主張したいのだ。

 それが、順位上げ、及びランク向上にもつながる。


 六時の方向に大鷲型を五機確認。

 単体ではそれほど強くはないが、数が集まると厄介な相手だ。


 だが、それは飛行能力を持つル・ファルカンだからいえることであり、ブリギルトやアインリールでは単機だとしてもきつい相手となる。


「そぉら、喰らいなっ!」


 ル・ファルカンの光素マシンガンを大鷲型に向けて連射する。

 このマシンガンはランバール社製の【光素オーラマシンガンR‐03】。

 エネルギータイプの弾丸をバラ撒くタイプの機銃であり、最大の特徴としては軽いことと高威力な点が挙げられる。

 また弾詰まりしない点も嬉しいところだ。


 また、弾丸も周囲に漂う光素を吸収し自動蓄積してくれるので懐に優しい。

 とはいえ、戦場ではそのような悠長なこともしていられないので、エネルギーマガジンを入れ替えて即時充填するのだが。


 青白い弾丸に射貫かれた鋼鉄の大鷲どもが地上へと落下して果てた。

 簡単な作業だ。


 だが、その作業の難易度を上げるのが、クロヒメ様の指示。

 俺をこき使い過ぎだろ、あの女。


『十二時、十一時の方向! 私は三時の方向をやります!』

「へいへい、お任せあれ、ってなぁ!」


 ルフベルの娘にしてAランク五十位の腕前は伊達ではなく、アインリールの後期生産型のアインラーズをカスタマイズした狙撃型で大鷲型を次々と仕留めてゆく。


 手にしているのはアマネック社の狙撃銃【ロゼッタ】か。良い趣味をしている。


 ロゼッタは威力と有効距離のみに焦点を当てて開発されたという。

 しかし、そのあまりにもピーキーな性能は使い手を狭めた。

 それは銃の寿命かちをも縮め、今では生産終了となった貴重品である。


「アレを使いこなすか……伊達にAランクは名乗ってねぇな!」


 こちらも負けてはいられない。

 たかが十二匹の大鷲型なんざ、俺一人で処理して見せるさ。


「ってぇ! 多いわっ! 馬鹿野郎っ!」


 正直、後悔しました。これぞ、数の暴力。


 ル・ファルカンは機動力こそあるものの、一撃必殺というものがない。

 また、機体重量を増やすことは運動性能の低下にも繋がりよろしくないのだ。


 だから、搭載兵器には気を使うし、バランスもよく吟味しなければならない。


「くそっ、勿体ねぇが……行けっ!」


 アマネック社製の三連ミサイル【トリプル】を発射する。

 軽くて高威力で弾速も早いという、俺の虎の子だ。


 そのお値段、ひとセット三百万ゴドルなり。

 だが、己の命と比べるまでもない。


 三連ミサイルは多数の大鷲型を巻き込み爆発。

 連中は密集隊形を取っていたことが災いした。


 残った連中はR‐03で仕留める。


「ふ~、ヒヤッとしたぜ」

『ファケル、五時の方向、頼めるか?』

「あぁ、構わんさ、ボイルド」


 ボイルドからの要請を受けた俺は、そのまま五時の方向にいる大鷲型に攻撃を仕掛ける。


 しかしまぁ、大忙しだ。

 これは報酬を上乗せしてもらわないと割に合わない。


 だが、問題はいつまで集中力が持続するかだ。

 ル・ファルカンは精密な操作を要求される。

 したがって、集中力が切れる、とその真価が発揮できない。


 それどころか、己の身を危険に晒すことにも繋がるだろう。

 ル・ファルカンは、その装甲を限界まで削っているため非常に脆いのだ。


 とここで無線から【深緑の悪魔】が出てきたとの報告が上がった。


「深緑が出て来たってぇ!?」

『そちらはグリオネさんと、エルティナちゃんが対処します! ファケルさんは引き続き大鷲型の撃破を! 一体でも逃すわけにはいきません!』

「グリオネは分かるが……嬢ちゃんもか!?」

『あの子は一度、深緑の悪魔を撃退しています! 信じましょう!』


 クロヒメはそう言って通信を終えた。

 部隊の指揮をしながらの狙撃は恐れ入るところである。

 俺みたいに機獣の相手だけをしているのは楽な部類に当たるだろう。


『ファケル、弾薬は足りているかっ!?』

「レダム、心許ないっ!」

『射出する、受け取れっ!』


 支援部隊のレダムから通信。

彼のアインリール砲撃から小型パックが射出された。


 それは空中で爆散し小型パラシュートを展開。

 それに括り付けられているのはR‐03のエネルギーマガジンだ。


 これは、消耗が激しいだろう、と予測したレダムが俺用に幾つか用意した補給弾である。


「サンキュー」


 エネルギーマガジンを空中でキャッチし、マガジンをル・ファルカンの腰にジョイントする。

 機体の光素はまだ十分にあるので、光素の補給はまだ大丈夫だろう。


 気になるのは深緑の悪魔だ。

 あれが縦横無尽に戦場を飛び交うと、最悪作戦失敗にも繋がらない。

 もしもの時のために、俺も十分気を配る必要がありそうだ。


 そう思っていた時が、俺にもあった。


「なんだ……ありゃあ?」


 宙に無数に浮かぶ青白い円盤のような物。

 それを足場にして空へと駆け上がる巨大な戦機たち。


 明らかに異常な光景であったが、それを更に異常付けるのが輝く円盤に叩き付けられる深緑の悪魔の姿であった。

 それ言うなれば、鳥籠に閉じ込められた鳥。


 自由を失った鳥が、どのような末路を辿るのか。

 俺は、それをよく知っていた。


 否応もなく、俺の恩人の最期を思い出してしまう。


「先生……! ちくしょう、まだ、引きずっていやがるな、俺」


 アラーム、敵にロックオンされた!?


 ロックを解除すべくバレルロールを行う。

 猛烈な重圧が掛かって嫌なのだが、ロックを外すにはこいつが一番手っ取り早い。


「んなろっ! 墜ちやがれ!」


 大鷲型の背中をR‐03で打ち貫く。


 油断も隙も無い連中だ。冷や汗が背中を伝ってゆくのが分かる。

 かなり集中力が低下している証ともいえようか。


『ファケル、少しペースを落とした方がいいんじゃないかい?』

「馬鹿言うなよ、ルビランタ。空を飛べるのはル・ファルカンだけなんだぜ?」

『強情だね。でも、そういうの嫌いじゃないよ』


 んなろぉ、ちょっと、ときめいたじゃねぇか。


 ルビランタの抑揚のない声に少しばかり元気を取り戻した俺は、再度気合を入れ直し、大鷲どもの駆逐を続行する。


 地上の虎や鹿どもは、ラルクやグラントたちが上手く仕留めているようだ。


「ラルクか……なんであいつもEランクにこだわるんだか」


 モヒカン野郎も脛に傷を持つ身であった、と聞く。

 何をしたかは詳しくは知らないが、どうやら【殺し】をやったらしい。


 それは不可抗力だったようで罪には問われなかったが……ヤツ自身はそうではないようだ。


「自分を縛るのは馬鹿くさいだろうに」


 空はこんなにも自由だってぇのに、俺の話を聞きやしねぇ。


「戻って来いよ、【天空の矢】。空はおまえを待っているんだぞ?」


 俺の独り言は、飛ぶことを諦めたモヒカン野郎に届くことは無いだろう。

 だが、空がヤツを待っているのは間違いない。


 空にいると、空の気持ちが分かるのだ。


 翼を捨て、地上に這いつくばる【折れた矢】が、大空へと戻る日は来るのか。


「感傷に浸っている場合じゃねぇか」


 ぶっちゃけ、もう撃墜数を覚えちゃあいない。

 それほどまでに大鷲型の数が多過ぎる。


「いやはや、人気者は辛いねぇ」


 その時、大きな爆発音。

 緑色の機体が落下しながら大爆発を起こしたとの報告が入る。


『全軍に次ぐ! 深緑殺しがやったぞ!』


 ルフベルの旦那からの報告だ。これに俄然、勢いづく攻略軍。


「やりやがった……! やっぱ、本物なんだな、嬢ちゃんっ!」


 こっちも負けちゃあいられない。

 俺の活躍いかんでは、エルティナの嬢ちゃんの勝利に水を刺しちまう。


 俺は、残る大鷲を全て仕留めるつもりで、ル・ファルカンを大空に舞わせるのであった。


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