459食目 計画通に翻弄される珍獣
◆◆◆ エルドティーネ・ラ・ラングステン ◆◆◆
「うん……なんだ? 矢鱈と想いが流れ込んで――――ぴきゃぁぁぁぁぁっ!?」
「ああっ!? ママ上様がなんだか愉快な顔にっ!?」
「……これは……想いが急激にエルに? いえ、この子を通してエルティナイトに注がれている?」
そう、ヒュリティアの言う通り、これは人々の想い。
純粋なる平和への願い。
一つ一つは小さいけど、その数が尋常じゃない。
「何が、どうなってんだ?」
『なんだっていい!【平和っしょい】、するチャンスだ! うおぉぉぉぉぉっ!』
「落ち付きたまえ」
『落ち着いた、凄く落ち着いた』
どちゃくそ愛と勇気と努力を注ぎ込まれた黄金の鉄の塊の騎士は、もう上腕二頭筋がピクピクしていてキモイ。
それはそうと、何故、急激にこれほどの想いが送られてきたのか、これが分からない。
怖いわ~、マジ怖いわ~。
いきなり、こんなに想いを送られたら俺……邪悪と戦いたくなっちまうよ。
「なんだっていい! とにかく戦闘だ!」
『さっきといっていること違うじゃないですか、うおぉぉぉぉぉっ!』
「……この二人は、ほんと」
「まぁ、致し方のない事と諦めるで候」
ヒュリティアとザインちゃんに呆れられましたが、俺たちは元気です。
さて、現在は強化版青い悪魔に若干、苦戦中。
苦戦というか、なんというか。
撃破は簡単だけど、こいつら破片から簡単に再生するんですわ。
核を潰しても、核ごと再生するという理不尽ぶり。
「こりゃあ、何かしてるな」
「……再生じゃないわね」
「と申されますとぉ?」
ヒュリティアさんは「ふふん」と一切表情を変えずにドヤ顔を成されました。
人はそれを無表情というっ。
「……青い悪魔の時間を巻き戻している、が正しいわ」
「そういえば、キルラーズは召喚転生者でござったな」
そうだ、チーム願野多と同じく特殊な能力を所持している。
いったい何人いるか分からないが、ここまで生き残るくらいなのだから、それ相応のチート能力を持っていてもおかしくはないはず。
「ネタが分かっちまえば、対処は簡単だな」
「……いける?」
「もちろん。いもいも坊やっ!」
俺の想いから、小さな芋虫が「いもっ」と飛び出してきた。
全てを喰らう者・光の枝の管理者【いもいも坊や】である。
「来れ、闇の枝っ!」
「ふきゅおぉぉぉぉぉんっ!」
続けて闇の枝を召喚。これで準備は万端。
「いくぞっ! 光の枝、闇の枝よ!【時を食らい尽せ】」
「フオォォォォォォォォォォォォォォっ!」
「フキュオォォォォォォォォォォォンっ!」
光の枝と、闇の枝を同時に召喚した場合、俺は【時間】を食う事ができる。
だから、青い悪魔の時間を巻き戻した【時間】を食って無かったことにする。
さぁ、どのタイミングまで時間を戻せる?
今の俺は一時間はイケるぞ。
それ以降は色々とやることが増えるからやらないけど。
時間の改ざんって死ぬほど面倒臭いし、労力に見合わないのです。
「……五分、といったところね」
「カラクリさえ分かっちまえば、どうってことはないな」
「……それができるのは私たちだけなのだけど。まぁ、相手が悪かったわね」
ヒュリティアさんの言葉に尽きるだろう。
俺たち以外なら、存分に絶望を与える事はできただろうが。
それにしたって、憎怨ほどの絶望じゃない。
その程度の絶望なんてもう飽きた。
「青い悪魔のカラクリは解った! 皆は撃破に集中してくれ!」
『おう! 任せやがれ!』
『うおぉぉぉぉぉぉんっ!』
『クロヒメさんっ! そんな物を食べたらお腹壊しますよっ!?』
そこじゃないんだよなぁ、レギガンダー君。もっと頑張って。
Dチームは相変わらず大張り切り。宇宙に出てからの動きの切れが凄まじい。
元々は宇宙での戦いが多かったというから、ホームグラウンドに戻ってきた感じなのだろう。
活き活きし過ぎて緑のエネルギーがチラチラ見ておられます。
桃色エネルギーさんや、彼らに帰ってもらってください。虚無るから。
『敵の戦艦に変化が起こっています! 注意してください!』
ヤーダン主任が青い悪魔を押さえながらそう言った。
えぇ、例のあのくそデカハンドでです。
うっわ~、ある程度、予想していたけど……ヤーダン主任のそれ、えげつないな。
METハンドで切り刻みながら押さえ込んでの、ギガンティックメガキャノンの砲身を突き刺してゼロ距離射撃。
吹っ飛んでいったら後部ウェポンラックからのミサイル乱舞で止め、とかロマン過ぎて変態戦機に浮気したくなる。
まぁ、絶対に無理だけど。
一人でどれだけの処理を行ってるんだっちゅーねん。
流体パルスと血液の融合とか、光素チューニングとか、コジマ流水とか言われてもなんのことやらだ。
というか、そのオプションパーツで突撃はいけない。
当たり所が悪ければ「あ―――っ!?」案件ぞ。
『うふふ、おケツにぶち込んで差し上げましょう』
『ばっぶー! きゃっきゃっ!』
「アウトォォォォォっ! アクア君もいるんだろぉっ!?」
元男だから、そういうセリフにも躊躇が無いんだよなぁ。
そして、アクア君の喜びよう。これはもう駄目かもしれませんね。
これに青い悪魔たちは、一斉におケツを隠したとかなんとか。
『おぅ、時間を巻き戻しておったのか。それならば、わしにも対処できるわい。ほぅれ』
カオス・デスサーティーンが指先に小さな黒い炎を灯した。
それを虚空に突き刺す、と次々に青い悪魔が燃え上がり灰へと変わってゆくではないか。
「ガンテツ爺さん、何をしたの?」
『同じことじゃよ。巻き戻した時間を燃やし尽くしてやったんじゃ』
「エゲツねぇ」
『かっかっかっ、おまえさん程じゃないわい』
ガンテツ爺さんの場合、完全な消去だから、俺のように【やっぱやめた】と吐き出すことはできない。つまりは一方通行なのだ。
だから、これによって消滅したものは永遠に失われる。
時間を灰にするんだから再生なんてできやしない。まさに死神だ。
『お~、連中、頑張ったなぁ』
『戦艦を変形させて人型ロボットにする、とかロマンですね。濡れちゃいます』
「はい、そこの変態。変形ロボットに欲情しない」
どうやら、時間戻しが破られたことにより、キルラーズは奥の手を使ってきたもよう。
完全に変形した戦艦は六枚の翼を持つ、真っ赤な超巨大騎士の姿を見せた。
熾天使とでもいえばいいのだろうか。かなり荘厳な雰囲気を醸し出している。
『宇宙に蔓延る悪魔どもめ。宇宙平和機構特殊部隊キルラーズが成敗してくれる』
手の甲から途方もないエネルギーを放出し、それを振るう。
そのような大ぶりの攻撃に当たる間抜けは精霊戦隊にはいない。
だが、その一撃は近くの惑星を容易に一刀両断してしまったではないか。
『ちっ、攻撃力だけは一人前だな』
『攻撃力だけ? 考えが甘い。この【キングキルラーズ】を舐めてもらっては困る』
ファケル兄貴の挑発に乗ったキングキルラーズが忽然と姿を消す。
いったいなんだ? これは……この波長は―――テレポートっ!?
「ファケル兄貴っ! 後ろっ!」
『なんとぉっ!?』
ル・ファルカンの背後から輝く刃だけが伸び出てきた。
その一撃はル・ファルカンの左腕部を切り落とす。
ファケル兄貴の反射神経でなければ、腕どころか機体丸ごと消滅していただろう。
『褒めてやる。反射速度だけは一人前だ、とな』
『野郎っ……!』
拙いな、異空間に籠ったまま攻撃ができるのか。
『エルドティーネや、異空間ごと燃やすか?』
「いや……それをやられたら、最悪、空間跳躍中の誰とも知らない人たちまで燃やしちゃう可能性があるから」
『むぅ……ならばどうする?』
「う~ん、俺たちも中に入っちゃう?」
『ふむ、異空間に耐えられるのは、わしとエルドティーネ、エリンが少々といったところかの』
俺とガンテツ爺さんはアレだから大丈夫として、エリンちゃんも精霊王と融合しているから異空間での活動はできるっぽい。
ただし、圧倒的に慣れていないため、連れてゆくのは不安が残る。
カオス・エルティナイトも全力で暴れられないから戦力は多いに越したことがない。
異空間が壊れたら、それこそ次元が吹っ飛んじゃうしね。
『私も頑張るっ! 要は異次元空間から追い出せばいいんだよね?』
「まぁ、そういう事かな。エリンちゃん、手伝ってくれるかな?」
『いいとも~』
精霊王エリンの承諾を得て、俺とガンテツ爺さんは彼女を伴い異空間へと突入する。
突入方法は闇の枝に空間を食わせて入り口を形成だ。
よく異空間でつまみ食いをしている闇の枝は手慣れたものである。
「……異空間は次元にとっての卵殻膜よ。絶対に破壊しないようにね」
「分かったんだぜ」
ヒュリティアの説明を受けて慎重に行動する。
でも、余程の事がない限り壊れる事は無いというのでやり過ぎないように暴れろとのこと。
それが一番難しいのですが?
やがて、キングキルラーズの姿が見える。
ここで仕留めると何が起こるか分からない。
なので、決着は何がなんでも通常空間でだ。
『大したものだ。ここまで侵入できるとはな。褒めてやる』
「吠え面を掻かせてやるんだぜ。覚悟しろっ」
どこの誰とも知らない連中だが、彼らから伝わってくる陰の力は異常だ。
完全に女神マイアスに支配されていると考えていいだろう。
俺はここでも選択しなくてはならない。
だが、まずはこいつらを通常空間へと叩き出すっ。
決断はそれからだっ。




