45食目 バ・オーガー
深緑の悪魔との戦いが始まった。
ぴょんぴょん、と魔法障壁の足場を駆使しながら深緑の悪魔へ接近する俺たち。
対する深緑の悪魔は射撃兵装を遠慮なくぶっ放してくる。
しかし、それらは途中で魔法障壁の足場へと衝突し弾け飛んだ。
当然、魔法障壁は消耗品なので攻撃が命中すると消滅する。
それだけだと深緑さんが、退き撃ち、という小賢しい手を使うので、やたら滅多ら出鱈目に魔法障壁を発生させまくる。
その結果、深緑の悪魔はあちこちの魔法障壁にぶち当たり空中での姿勢制御を崩していた。
そこに追い打ちを掛けて差し上げる俺、優しい。
「追加でございま~す」
「あいあいあ~ん」
『ふ、ふざけるなっ!』
魔法障壁の足場は俺たちの足場であると同時に、深緑の悪魔を閉じ込める鳥籠だ。
もうビュンビュン逃げ回ることなど、できやしねぇからな?
覚悟しやがれ、おるるぁんっ!
『よっしゃ! もろたでっ!』
俺に気を取られていた深緑の悪魔が、グラントシェイカーのきっつい一撃を頂戴する。
大槌が飛竜の頭部に炸裂し、その勢いのまま魔法障壁の足場へと叩きつけられた。
『ぐあっ!? な、何故、【バ・オーガー】を発動しているル・ワイバルにダメージを与えられるっ!?』
深緑の悪魔から、また悲鳴が聞こえた。
さきほどバ・オーガーと言っていたが、恐らくは鬼力もどきで間違いないだろう。
それに、どうやら深緑の悪魔は桃力と鬼力の関係を知らないもよう。
恐らくは、この機能を使えばダメージないよ、程度しか知らされていないのだろう。
つまり、この情報から、深緑の悪魔は組織の末端でしかない、という事が判明する。
序盤の強敵ポジションかな?
『バ・オーガー? なんやそりゃ』
「きっと、あのほんのりと見える、赤黒いバリアみたいなやつのことなんだぜ」
『あぁ、アレの事かいな。ちっとも効果無かったで』
あっはい、桃力をぽっちゃり姉貴に纏わせておりますんで。
『それよりも、止めを刺したるわ!』
『一撃を入れれたくらいで調子に乗るな!』
『その一撃が致命的だった、って思わんのかいな?』
『何?』
グラントシェイカーが再び大槌を構える。
だが、深緑の飛竜は、ただもがくのみで羽ばたくことが叶わなかった。
『な、なんだこれはっ!? どうしたというのだ、ル・ワイバル!』
『はっはっは、どや? これがグラントシェイカーの能力、【スタンクラッシュ】や』
説明しよう。
グラントシェイカーの【スタンクラッシュ】とは、グラントシェイカーの大槌を通して特殊な電流を相手に流すことによって引き起こされる機能障害を伴う打撃攻撃である。
この一撃を受けた機体は文字通り行動不能となり、一方的な攻撃に晒されることになるのだ。
ある意味で強力な攻撃を受けるのよりも恐ろしい結果になる、これこそがスタンクラッシュの脅威性であり、グラントシェイカーの真骨頂ともいえる一撃である。
ぽっちゃり姉貴が、そう熱弁していたから間違いない。
以上! 説明終わりっ! 速やかに戦闘に戻って差し上げろっ!
『とどめの一撃、くれたるわ』
『お、おのれぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!』
ぽっちゃり姉貴が止めと言わんばかりに、グラントシェイカーの大槌を振りかざした。
その時、俺に悪寒が走る。
俺はその直感を疑わない。
即座にエルティナイトに盾を構えさせて両者の間に割って入った。
『バ・オーガー! 最大出力!』
「なんとぉっ!?」
それは紛れもない鬼力の放出であった。
深緑の悪魔から莫大な赤黒い輝きが放出される。
これは放つ方、それを受ける方、双方ともに危険な状況である。
こればかりは、桃力を纏わせた魔法障壁だけでは防ぎきれない。
したがって、ここでも桃仙術のお世話になる。
「桃仙術【護光の盾】!」
これは盾専用の桃仙術である。
しかし、知名度はかなり低い。
何故ならば、桃使いの大半は盾を使用しないからだ。
鬼との戦いはやるかやられるか、先に攻撃を当てた者勝ち、という傾向があるので、なるべく身軽にして攻撃を確実に当てる戦法を追求する者が多い。
したがって、この盾専用の桃仙術は日陰に追いやられて、しょんぼりする存在となっていた。
俺も他の桃使い同様に、盾を使用しない戦い方をしていたが、前世に置ける桃仙術の師である【桃老師】に無理矢理覚えさせられた経緯があった。
それが今、役に立った、というわけだ。
桃仙術【護光の盾】を発動する、とエルティナイトの盾が濃い桃色の輝きに包まれる。
その盾でもって、赤黒い輝きを防いだ。
とはいえ、盾でカバーできない部分も当然発生する。
そこは、根性でカバーだ。
「ふきゅーん! ふきゅーん! ふきゅーん!」
根性どこ? ここ……?
根性なんて必要ねぇんだよ! 殴った方が早い!
耐え忍ぶことから何も学ばなかった俺は、【護光の盾】を纏った盾で深緑の悪魔をぶん殴る。狙いは腹部。
それは想定外の一撃であったのか、鋼鉄の飛竜は身体をくの字に折り曲げて吹き飛び、やはり空中の魔法障壁の足場に激突した。
かなりなダメージが入った、と思われるも、こちらも装甲をゴリゴリと削られてしまう。
まぁ、エルティナイトの場合、装甲はただの飾りなので問題は無いのだが、格好悪くなってしまうので、やはりNGである。
『な、何故だっ!? どうして、おまえはバ・オーガーの輝きが通じないっ!?』
「簡単な事だ」
俺はエルティナイトに日の出立ちを敢行させる。
これがナイトの醍醐味。
「それは、俺が乗っているのが【精霊戦機エルティナイト】だからだっ!」
正しい情報を馬鹿正直に教えるとでも思ってんのかぁ? そんなんじゃ甘いよ。
まぁ、嘘は言ってないから多少はね?
桃力の厳正な審議の結果、これはセーフとなりました。
俺は許されたっ!
『おのれ、おのれっ……! エルティナイトぉっ! 一度ならず、二度も私の邪魔をするというのかっ!』
「精霊戦機エルティナは邪悪が存在する限り、何度でも現れる、ってそれ一番言われてっから」
さぁ、決着を付けよう。
ヒュリティアも、そろそろ飛行母艦に突入するだろうし。
「ぽっちゃり姉貴、ヤツに引導を渡すんだぜ」
『分かった、いてこましたるわ!』
戦法としては単純だ。
俺が盾を務め、ぽっちゃり姉貴が止めを刺す。
そのためには、俺が深緑の悪魔を弱らせる必要がある。
『エルちゃん、あんな……?』
「ふきゅん?」
その直前でぽっちゃり姉貴が大胆な作戦変更を申し出てきた。
なんと、自分が盾役を引き受ける、というのだ。
『えぇか? 自分が一番、あいつにダメージ負わせられるんやと思う。残念ながら、うちではアレに止めは刺せんと思うんや』
「どうして?」
『経験かなぁ? 一撃入れた感触で分かったんや』
「そっか……じゃあ、任された!」
『その割り切り方、うち好きやわぁ。ほな、いくでっ!』
陣形はこのまま、エルティナイトを先頭に突撃を開始。
魔法障壁の足場を、ぴょんぴょん、しながら深緑の悪魔に接近する。
対する深緑の悪魔は口を開け放ち、赤黒い炎の塊を形成し始めた。
空港で見せた灼熱の吐息を放とうとしているのだ。
「拙い! あれは灼熱の吐息だ!」
『大丈夫や、自分はそのまま行ったれ!』
ここで、グラントシェイカーが前に出た。
俺はぽっちゃり姉貴を信じ、グラントシェイカーの肩を踏み台にして更なる跳躍を行う。
『上を取っただと!? だが!』
『どこ見とんねん!』
俺に気を取られていた深緑の悪魔にグラントシェイカーが組みついた。
しかし、深緑の悪魔はお構いなしに灼熱の吐息の準備を進める。
『おまえさえ! おまえさえ仕留めればっ!』
今まさに、灼熱の吐息がエルティナイトに放たれんとした時、グラントシェイカーの右腕が深緑の悪魔の口内に突き立てられた。
『無視すんなって言っとるやないか、ボケぇ!』
爆発するグラントシェイカーの右腕部。
ゴッズクラスの機体だというのに、この雑な扱い方。
俺は、誰にもできないことを平然とやってのける、ぽっちゃり姉貴に痺れる憧れる。
『き、貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』
『今や、エルちゃん! やったりぃ!』
『おうっ!』
鋼鉄の飛竜の頭部は、グラントシェイカーの右腕部の爆発に巻き込まれ半壊。
当然、灼熱の吐息も四散してしまっている。
俺は桃力をエリン剣に注ぎ込んだ。
やはり、前回同様の現象が引き起こされる。
エリン剣の刀身部分が爆ぜ、その破片が次々とエルティナイトに装着されてゆく。
一瞬にしてエルティナイトがダークナイトと化し、エリン剣の柄より桃色の猛々しい輝ける刃が形成された。
それを、振り上げさせる。そこに退魔の力を注ぎ込んで。
「桃戦技!【桃光剛破突き】!」
退魔の刃が世界を陽の輝きで満たす時、陰の力に蝕まれた者は、その存在を光の中へと還ってゆく。
輝ける桃色の刃は鋼鉄の飛竜の頭部を貫き、胴体にまで達した。
『おのれ、おのれ……! これで、勝ったと思うなよぉぉぉぉぉぉぉっ!』
バチバチ、と深緑の悪魔が放電し始める。
俺はエルティナイトにグラントシェイカーを抱きかかえさせて、深緑の悪魔を蹴り飛ばした。
遠ざかる深緑の悪魔は一瞬、機体を膨れ上がらせた後、轟音と共に炎に包まれ消滅する。
『やったで! うちらの勝利や!』
「ぽっちゃり姉貴、機獣を全滅させて基地を沈黙させるまでが作戦なんだぜ」
『あぁ、そうやったな。エルちゃんはええ子やなぁ? 飴ちゃんいるか?』
「後でもらうんだぜ」
『そかそか、仰山あるさかいにな』
地上に降り立った俺たちは引き続き戦闘を継続する。
グラントシェイカーは右腕部を失ったが左腕部が健在であるため、問題無く戦闘が可能との事。
それに、眼帯兄貴やついでにふぁっきゅんロキリズも活躍しているので、一般機獣ども相手なら問題はないもよう。
スキンヘッド兄貴やワイルド姉貴たちの支援砲撃も順調におこなわれているので、俺がヒュリティアの援護に行っても問題は無いだろう。
「ここは任せた。俺はヒーちゃんたちの援護に向かうんだぜ」
『ほいきた、うちらに任せとき』
俺は、ぽっちゃり姉貴たちに機獣の掃討を任せ、ヒュリティアたちの援護へと向かう。
果たして俺たちは、このまますんなりと機獣の基地を陥落させることができるのであろうか。




