445食目 陰で動く者たち
◆◆◆ タヌキの女神様・プリエナ ◆◆◆
「うん、上手く行ったみたいだよぉ」
「ま、そうだろうな」
ライオット君とプルルちゃん、そしてガイリンクード君とルバールさんを交えて、【敵】をどうするか検討中。
ミリタリル神聖国の聖城の王の間。今はそこが私たちの活動拠点。私の私室でもある。
ただし、地上では、だ。
本来の活動拠点は宇宙。エルドティーネちゃんには内緒だけど、私たちにも独自の宇宙戦艦が存在している。
それが【超時空跳躍戦艦・ヴァルハラ】。
これって私たちの世界のオーディンという神様が、女神マイアスと戦うために建造した戦艦をそのまま使っているのだけどね。
そこには終末の戦いを生き残った戦士たちが、今も在籍。カーンテヒルを護るために戦いを続けている。
エルちゃんは、もうそんな事はしなくてもいい、というけど【私たち】には居場所が無いから。だから、戦い続けるより選択肢は無い。
【勇者】様も、終わらぬ自分の使命を淡々とこなしている。何よりも、この道を選んだのは他でもない自分だ。自分が愛した世界を護るための人生に迷いなんてない。
でも……エルちゃん……エルティナちゃんの娘を見ていると【可能性】というものを見せつけられる。何度か私たちの予想を超えて前に進んだのだ。
だから、心が揺らぐ。ちょっぴり迷いが生じる。
何度も戦いに介入しようと思った。
でも、その度にエルドティーネちゃんは可能性の力を発揮し、最悪を砕き、自分の望む未来、それを手繰り寄せ勝利をもぎ取る。
あの子はエルティナちゃんとは違い、かなり【強引】だ。
エルティナちゃんが受け身の性格だとしたら、エルドティーネちゃんは攻めの性格。
きっと、エドワード君の性格を受け継いでいるのだと思う。優しさはエルちゃん譲りだろうけど。
だからかな、私たちが辿った悲しい結末、その殆どを砕いて前へ、前へと進んでいる。
でも、それは一人ではできなかったことで。
エルティナちゃんがそうであったように、エルドティーネちゃんにも沢山の仲間が集っている。
その中には私たちのかつての仲間も。
ううん、私だってそう。彼女に惹かれて力を貸している。
―――予定よりも遥かに早く。
「そろそろ化けの皮を剥がそうと思うんだ」
「今は宇宙平和維持機構だったか?」
ライオット君は私が焼いたクッキーを口に放り込んでは、むしゃむしゃと動かす。
今日のジャムクッキーは出来が良いので沢山作ったのだが、彼に掛かればもう半分が消滅。予備を作っておいてよかった、と自分の運の良さを褒めたたえる。
「そうだね。元々は【被害者】だった彼らも、少々やり過ぎたよ。【ヤイナミ】による召喚の儀式で永遠の命を手に入れたからだろうね」
「チーム願野多もそうなんだろ」
「うん、口には出さなかったけどね」
とある惑星では【勇者召喚システム】という呪いを応用した技術があったらしく、それで異世界より死なない限り運用できる生物兵器を量産していたもよう。
それによって生み出された勇者という名の怪物たちはやがて、主の目を掻い潜り惑星を脱出。
相当に酷い目に遭わされ続けてきたのだろう、やがて解放感は悪意となってコトコト弱火て煮詰められてゆく。
彼らは復讐の時のために、じっくりと力を蓄えたのだ。
でも、長い時を生きるというのは数多くの物を忘れるという事でもある。
私たちのように信念が無い場合、それらの想いは風化の道を辿る。特にくだらない者に対する復讐心は実に風化し易い。
でも恨みというものは何かの切っ掛けで蘇る。でも、正確には思い出せない。
突き動かされるかのように何かに当たる。それで気が晴れる。
それが酷い方向に悪化する。
それが宇宙平和維持機構の核ともいえる【特別鎮圧部隊キルラーズ】。
自分たちの人生を滅茶苦茶にしたラーズ王国を殺す、という意味で名付けられたその部隊は思想も理念も風化し久しい。
でも、権力の殆どがそこに集結している。だから、宇宙平和維持機構の幹部であってもキルラーズに口答えすることができない。ただの傀儡でいるしかない。
――――いや、甘い汁を啜る肥え太った俗物かな。うん。
「チーム願野多は大丈夫だよ。彼らを拾ってくれたのが【時の女神】で良かった」
「ミケか? とても女神には見えないがなぁ」
「そうだね。それに転生したお兄ちゃんと再会して、ちょっと子供っぽくなってるしね」
本当に、あの子は数奇な人生を辿っていると思う。何度やり直しても、あの子はミケとして生まれ、そして最終的には人柱になるのだ。
でも、今回は何かが違っている。
予感に過ぎないけど、きっと私の予想もつかないような何かが起きる気がする。
それを成すのは間違いなく、あの子だ。
「エリシュオンが手が掛からなくなったから、勇者様も次の行動に移ると思うんだ」
「そりゃあ、そうだろ。あの人は動かないと決めたら百年単位で動かないけど、動いたら事が終わるまでずっと動き続けるからな」
「緩急があり過ぎるんだよねぇ」
「しかも分身して、個別に生活するし」
「謎原理だよねぇ」
勇者様は謎が多い。現役時代からそうだったのだけど、私たちの予想を簡単に超えてくるのだ。
だからこその勇者、と言われては私たちも何も言えなくなる。
「それで、キルラーズはどうやって叩くんだい?」
「そうだねぇ。私たちの主力はGDだから、活動時間がネックだね」
「終末戦争はエルティナがいたからね。魔力供給は問題無かった」
「でも今は違うよ。高性能機はプロペラントタンクを接続しても稼働時間は30分程度だから、余程に作戦を練らないと投入するのも難しいもん」
「やっぱり、そう考えると光素が豊富な世界に、魔力が乏しいGDは合わないねぇ」
プルルちゃんの言う通り、この次元は魔力が少ない。
無いわけではないけど、カーンテヒルのように一晩経てば魔力を吸収して元通り、というわけにはいかない。
逆に光素は潤沢。一晩とは言わずに半日でフルチャージできてしまうだろう。
GDは高性能だけど、この次元には適していないのだ。
いくつか魔力が豊富な惑星はあったけど、そこにわざわざ赴いて魔力補充など愚の骨頂だよ。
「GDも光素変換器に変更する案が出たんだがな」
「どうだったんだい? ガイ」
「不具合が出て計画倒れになった。どうも互換性が無いらしい。それなら一から作った方が良いという結論になった」
「だろうねぇ……それで、出来たのかい?」
ガイリンクード君は肩を竦めた。
それを見たプルルちゃんは「やっぱりねぇ」と紅茶を啜る。
「ハッキリ言って戦機を購入した方が早いとさ」
「時間の無駄だもんね。ドクター・モモがいてくれれば、話は変わったんだろうけど」
「過ぎたる力はいつだって世を乱す。この次元の技術でなんとかするさ」
「そっか。ガイの言う通りだよ」
今は亡き恩人の名に、ちょっぴり温かい気持ちに。
これだけで私たちは戦ってゆけるのだから、とっても扱い易いのだろうなぁ。
「それなら少しスペグラを都合してもらえばいいんじゃね?」
「あの新型をかい?」
ライオット君が意外な発言。
彼はツツオウちゃんを所持しているので、そのまま「キルラーズを叩こうぜ」というかなぁ、とか思っていたのだけど。
「スペグラねぇ……」
「あれに、なんか不満なのか?」
「そうじゃないよ。どこも不満点はない。その【不満が無さ過ぎる】部分が不満なんだ」
「これは酷い」
ライオット君はお嫁さんの酷い難癖に呆れました。
でも、プルルちゃんは不満だらけの機体に乗っていたから、素直な子に乗るのが退屈なのかもしれない。
あの空飛ぶ巨大筆箱なんかは、何の冗談かと思ったくらいだし。
「あれはいいな。改造のし甲斐がある。手を加えるのも容易だろう」
「ガイ、まさか二丁拳銃にカウボーイハットと黒マントじゃないだろうね?」
「……ハハハ、マサカ」
図星だったもよう。
昔っからのトレードマークだものね。
でも、今回はそこまで時間を掛けてはいられない。
「それじゃ、おやっさんからスペグラを借りて電撃作戦しちゃおうか。【マジェクト】さんに連絡を入れておくね」
「鬼のおっさんもぶっこむのか?」
「うん、スペグラ100機でどうにかなるんじゃないかな」
「ぶっ!? 100機っ!? 30機くらいかと思ってたぞっ!?」
ライオット君は啜っていた紅茶を噴き出しました。
それがガイリンクード君に掛かってしっとりとしてます。
「ライオット、選択しろ。鼻の穴をひとつ増やすか、ケツの穴をもう一つ増やすかを」
「どっちも死ぬわ」
「まぁ、キルラーズはきっちりと潰すよ。残りはエルドティーネちゃんに任せる形にしておきたいんだぁ」
「まぁ、それが一番だね。僕はガイが勝つ方にクッキー一枚」
「それじゃあ、賭けにならないよぉ」
そもそもライオット君が女性に手を出せない事は、ここにいる皆なら知っているもん。
結局、ガイリンクード君の大きなお尻に敷かれた、ライオット君の情けない姿が見られましたとさ。




