444食目 和平
いよいよ会談が始まる。向こうはそうそうたる面々をだしてくると予想。
でも、俺たちは殆ど顔を知らないから「ふ~ん」という反応になると思います。
C・スルト少将の案内の下、挙動不審な動きを見せつつ進軍するエルフ組は、まさに破竹の勢いでブラックリストに載るだろう。
「……エル、大変よ」
「どうしたっ、ヒーちゃん」
「近くにトイレが無いらしいわ」
「な、なんだってーっ!?」
そりゃあ、排泄が必要無い種族だもんね。そうなるわ。
「一応、昔使っていた拙者の【おまる】があるでござる」
「流石だ、ザインちゃん」
「……私たちの、この見た目でそれを使えというの?」
現在、皆アダルトモードです。
でも……でぇじょぶだ、モザイクは用意してる。
さぁ、思いっきり【ドンっ!】するがいい。
「……まぁ、もよおしてないけど」
「そーなのかー」
「一応、ここは有機生命体管理エリアですので、もう少し進めば排泄エリアがございますぞっ」
H・モンゴー君の情報により、おトイレがあることが判明。
でも男女というくくりがあるだけでプライバシーはないもよう。
個室が無いとか雑過ぎぃ!
そもそも、プライバシーとかそういうの以前に、男女である意味が無いのがエリシュオン星人。
子孫を残す場合もデータの交換で「おぎゃあ」と即爆誕。
野郎と野郎、お姉様とお姉様での組み合わせでもまったく問題が無い、という性別の垣根が息をしていない連中であるようで。
性的興奮も無いから、姿形は完全に趣味だそうで。
「でも私は男性型がいいですな。おっぱいは好きになれませぬ」
「一応、女性型に入ったことがあるんだ」
「いやぁ、あの時は大変でしたぞっ。男性型に群がられて四苦八苦しておりました」
「人気があったんじゃねぇか。勿体ない」
性的興奮が無い、とはいったい……?
お料理スキルが妙に高いのは、そこら辺と関係しているのであろうか。
でも、今更女性型になられても困惑するので、そのままの君でいてほしい。
「ここだ。準備はいいかね?」
「おっと、ここかぁ。H・モンゴー君、準備はいいかね?」
「問題ございませぬ、我が主っ! 合図と同時に突入いたしますぞっ!」
というわけでH・モンゴー君は一旦、ここで待機。
出番が来たら、ちょい役で「ドヤァ」してもらう予定だ。
「さて……ちぃとばかり舐められないようにっと」
全てを喰らう者の力をちょっぴり解放。
周囲の物質がビクンビクンし始めたのを確認し、C・スルト少将に目線で合図を送る。
「おごごごごごごご」
「……エル、ちょっと抑えてC・スルト少将が割と面白い事にっ」
「くっ、機械人には早過ぎたかっ」
「私は平気ですぞっ、我が主っ」
うん、そうだね。
H・モンゴー君はユウユウ閣下で鍛えられてるもんね。
「仕方がない、普通にいくかぁ」
「最初から、それで安定でござ候」
というわけでユクゾッ! でっででででで、カーン、でっででででっ。
勇ましい出陣BGMを自前で用意。
でも、ヒュリティアに「し~」されて勇ましさは一人でどこかに駆け抜けていった。
カシュ、ウイ~ンとの機械音が鳴り、鋼鉄の扉が左右に割れる。
そこには軍服を身に纏った、機械人のおっさんどもの姿。
どれもこれも強面だけど、スキンヘッド兄貴の顔の方が怖いから特に問題は無かった。
「第六精霊界のエルドティーネ・ラ・ラングステン殿が参られました」
「ようこそ、エリシュオン星へ」
「お邪魔するんだぜ」
ここでビクビクしてしまっては盛大に舐められるのでいつも通りに行動―――しようとしたところでヒュリティアに「めっ」された。
おぎょうぎよくいこうぜ、との命令には逆らえないっ。
俺は、がんがんいこうぜ、でいきたかったのにっ。
「おかけください」
「お言葉に甘えて」
社交辞令を交わしながら軽く自己紹介。
どうやらA・ヴァストム中将というのが実質的なトップらしい。
「大将は空席なのかな?」
「気になりましたかな? 大将は……そうですな、そちらで言うところの永久欠番とでも言えばいいのでしょうか」
「なるほど、それほどの英雄がいたということで?」
「そういうことです」
嘘は言っていないが真実でもなさそう。
どちらかというと【臭い物に蓋をする】感じだ。
つまりは死んでないけど生きてもいないよ、ということなのだろう。
こちらのルールが、エリシュオンと同じとは限らないから、身分制度もこういうのがあってもおかしくはない。
「さて、それでは本題に入りましょうか」
「そうしましょうなんだぜ」
そろそろ言葉遣いが破綻し始めてるけど、まぁ、繕っても仕方が無いからね。
すぐバレるから、このまま特攻じゃい。
「本当にエリシュオン国民全員を賄えるだけの光素を提供できるので?」
「その質問に答えるには、まず光素がどれだけ貯蓄できるのかを知る必要があるんだぜ」
「なるほど、正論だ。では……」
A・ヴァストム中将は光素貯蓄装置の最大保有量を説明。
最大までストックすれば一基に付き全国民が一年は暮らして行けるらしい。
それが三基あるらしいので、満タンにすれば三年は持つ。
「なるほど……なら半永久光素エンジンの完成まで持つなぁ」
「小惑星レベルの光素タンクですぞ? それを満たせると?」
「余裕だな。そもそも光素とは何かを理解してる?」
「むっ……」
これにその他いろいろが「失礼ではないか」とかヤジを飛ばしてきた。
そういう役目なのだろう。なので、これを華麗にスルー。
「ご説明願いますかな?」
「分かったんですだぜもん」
「……エル、言葉遣いがバグり始めてる」
光素とは命だ。では、命とは何ぞや、となった時に【卵子と精子がブッピガンした結果】、と答えるのは100点中、9点となってしまう。
「光素とは太陽だ。そこから生じる輝きが光素の正体」
「太陽光の事ですかな?」
「正確にはそれに含まれる【旨味】なんだ。生命体はその旨味を食らって命を留めている」
「ですが、薄暗い洞窟や海底で暮らしている生物はどうなりますか?」
「光が届いていないだけで旨味は届いている」
「むぅ……にわかには信じ難い新説ですな」
A・ヴァストム中将は難しい表情を見せた。無理もない。
「ただ、太陽を浴びているからって光素を無限に作り出せるわけじゃない。旨味は【調理】してこそ真の力を引き出せる。エリシュオン星人が自力で光素を作れない理由を俺は考えた。それが体内、いや魂にその機能が欠落しているからだ、と考え付いた」
「我らの魂……コアにそれが欠落している、と?」
「H・モンゴー君でだいたいは理解できた。それに解決方法も」
俺はパンパンと手を鳴らす。するとドアが開き待機していたH・モンゴー君がワゴンを押して入ってきた。
そのワゴンの上には沢山の【オムライス】の姿。もちろん全て光素料理だ。
「さぁ、太陽の料理を頂いてくれさいですぞよ」
「ますます酷いでござる」
気にするなっ!
「むぅ……ん? こ、これはっ!?」
「中将っ、これらは全て【光素】でございますぞっ! このH・モンゴーが入手したデータで作り上げましたっ」
「何? これが全て光素だと?」
「はいっ、実際に食材を調理し、そこから光素を抜き出したものがこちらですっ」
「ふむ、確かに光素だな。だが、これが解決方法というのか?」
「まずは一口。食べれば分かりましょうぞ」
A・ヴァストム中将はまず自分が一口目を食べた。
中々の胆力。それとも毒が通じないからであろうか。
しかし、一噛み、二噛み、モグモグしてゆく内に口角が上がり強面が破顔してゆくではないか。
「これが光素の【旨味】というものなのか」
「それが命なんだ。美味いと感じ取ったその時、光素は大量に増幅される。命を取り込む生き物が、他の生き物を食事という行為で取り込む理由は、ここに小さな【輪廻の輪】が出来上がるからだ。この循環こそが光素を爆発的に生み出す」
そして、それらはいずれ星に帰り、星に莫大な光素を生み出させる。
星は常に太陽の輝きを受けて光素を生産している。そして、命を生み出し、それをそこで暮らす者たちが喰らう。終わることのない輪がそこにあるんだ。
でも、エリシュオン星にそれは無い。
太陽があっても輪が無いから光素は働きたくないでござる状態。
そして、エリシュオン星人も【食べる】という喜びが無いから、光素を消費するだけの置物になってしまっている。
生きるということは食べる事。食べる事は喜びである。エリシュオン星人にはそれが圧倒的に足りない。
「な、なんだっ!? この圧倒的な情報量はっ!?」
「これは、古の時代に存在していたデータなのではないのかっ!?」
「不明な情報がインストールっ!? 大丈夫なのかっ!?」
オムライスにパニックになるおっさんどもの図。
中々に愉快ではあるが、そろそろ話を進めてゆかねば。
「オムライスはどうでしたなかもんですばい」
「うむ……実に有意義なデータだ」
「人はそれを【美味しい】というんだ」
「美味しい……か。どこか温かくなるかのような言葉だ。記録しておこう」
やはり―――食事は機械の身体をも温かくするようだ。
光素とは命であり、それは有機物だろうと無機物だろうと分け隔てが無いのだろう。
そんなものを区別しているのは人間だけなのだ。
自然体……光素はそこにあり自分の仕事をこなすのみ。
「光素の姿を理解できたかなもんぷち」
「そろそろ、普段の喋り方でも構わんよ。こちらもそうする」
「助かった、もう駄目かと思ったよ」
許されたっ。俺、許されたっ。
「……いろいろと申し訳ないわ。こういう子なの」
「無理をしているのは分かったさ。こちらも取得するデータを純化するのに面倒だ」
「分かるで候」
色々貶された。鳴きたい。ふきゅん。
「……とにかく、可能性は示したわ。さっさとタンクを満タンにしてしまいましょう」
「そうだな。その為に食いまくってきたんだし」
尚、光素を抜き出しても有機体であればまったく問題はないです。栄養は残るからね。
あとは身体の中の光素の旨味と結合して、爆発的に光素が増えるよっ。
「……増えていますなぁ、中将」
強面の機械人たちはオムライスを完食。満ち足りた表情を見せた。
「あぁ、こんな現象は初めてだ。H・モンゴー君」
「はっ」
「君は【これ】を知ったのだな? だからこそ、彼女に下った」
「はっ、そうでありますっ」
A・ヴァストム中将はH・モンゴー君を見つめ、そして表情を和らげた。
「良き、主人を見つけたな」
「はっ!」
H・モンゴー君については完全に偶然だったんだけど、こうして考えるとこれも巡り合わせだったんやなって。
尚、扱いは変わらないもよう。悲しいなぁ。
こうして会談は上手く行った。貯蓄タンクも全部満タンに。
結果を見せたことにより、めでたく停戦となりました。
終戦協定は別途、準備がいるから今はこれで十分だろう。
「し、信じられん……僅か一時間で、全てのタンクが満たされるなどと」
「白エルフ、嘘つかない」
「……黒エルフも」
「「えっ?」」
不正が発覚しました。
「あとはアストロイのエンジンを設置すれば、暫くは大丈夫だろう」
「暫くは……か」
「うん、俺は思うんだ。エリシュオン星人だけじゃ種族は完結できない、と」
「そのためのDチームでもある、と?」
「たぶん」
総統閣下という人は未来を見据えていたのだと思う。
有機体である人間が作物を育て、収穫し、調理し、そこから光素の旨味を抜き出して機械人へと提供。抜き取った料理は人間が食べ、光素料理を機械人が食べる。
その人間を機械人が守りサイクルを完成させる。
可能性を追求したが、その志半ばで眠りに就くことになったのが、エリシュオン星人が暴走した切っ掛けになったのではなかろうか。
「これから、大改革が必要になるな」
「きっと上手く行くさ。情報を一気に拡散できるんでしょ?」
「できるが……それを信じるかどうかは個人だ。我々は可能性を見せつけなくてはならない」
「それはA・ヴァストム中将に任せるんだぜ。俺は、宇宙平和なんちゃら、というチンピラどもをなんとかする」
「はっはっはっ、宇宙平和維持機構をチンピラ呼ばわりするか。中々に面倒臭いぞ?」
「それでも、やらなきゃ明日は来ない。それが終わったら……」
「うむ。アレに挑むか―――」
エリシュオン星人ですら、真の名を口にするのを躊躇うか。
女神マイアス、それともこういうべきであろうか。
【全ての命の悪意】。
この純然なる悪意の集合体を俺たちはどうにかしなくてはならない。
きっと、それを女神マイアスは望んでいるのだろうから―――。




