43食目 作戦開始
作戦会議から二日後。
俺たちは、それぞれの戦機に乗り決戦の場へと歩を進める。
部隊編成としては突撃部隊と支援部隊、後方部隊とシンプルな部隊分けとなった。
俺が所属しているのは、もちろん突撃部隊だ。その数百二十機。
結界を破壊しないことには、いっちもさっちもいかないからな。
ヒュリティアはその機体性能から支援部隊へと配属された。その数三十機。
支援部隊は遠距離からの砲撃や狙撃、補給物資を前線に届けるという役割を持たされている。
後方部隊はクロヒメさんが取り纏めを行っていた。戦機の数は五十機。
後方部隊は最後の砦的な役割を持たされており、逃走する機獣の全てを撃破する役割を持たされている。
そのため、カバーする範囲は非常に広く、俺たち突撃部隊がどれだけ頑張るかによって後方部隊の負担が上下する立場にあった。
尚、装甲車両と歩兵部隊も後方部隊に配属されている。
戦闘機部隊は結界の解除と同時に機獣基地に爆撃、そのまま離脱して帰投という段取りだ。
ルフベルさんの説明によれば、彼らでは大鷲の機獣との戦闘は耐えられない、とのこと。
機動力は申し分ないが、空中での運動性は大鷲の機獣の方が遥かに上であるらしく、簡単に機体の上、即ちコクピットを狙える位置を取られてしまうらしい。
こんなんじゃ勝負になんないよ~? というわけで、爆弾を落としたらさっさと帰ってどうぞ、という流れになったようだ。
俺もその考えに賛成である。
無理をして死ぬのは意味が無いし、折角、勝利したというのに、その喜びを分かち合えないのは空しいのだがら。
『時間だ、始めよう。エルティナ君、準備はいいかね?』
装甲車両に乗り込み指揮を取るルフベル支部長が確認を取ってきた。
返事はもちろん、OKの二つ返事である。
「了解なんだぜ」
二つ返事じゃないじゃないですかやだー。
自分に微妙なツッコミを入れた俺はパワーアップしたエルティナイトに桃仙術を行使させる。
パワーアップ、とはいっても機体性能云々ではない。
装甲がよりヒロイックな形状になっただけだ。
だが、それはエルティナイトの異様性を引き立てるには十分。
一機だけ二十メートルに迫る巨体なのだ、そうもなろう。
ぽっちゃり姉貴の戦機も大きかったが、それでも十五メートルに届くか届かないかだ。
「桃仙術【桃破邪結界】!」
さてさて、上手く行くかな?
エルティナイトの手の平から桃色の波動が、ぽわんぽわん、と流れだした。
その波動は鬼仙術で作られた結界を音もなく霧散させてゆく。
どうやら成功したようだ。
この仙術、下手くそが使用したなら、結界がどこぞのバリアーみたいにパリーンと割れてしまい敵に感付かれてしまうのだが、俺のような上級者が使用すればご覧の通り、音も立てずに霧散させることが可能なのだ。
これで奇襲を仕掛けることも容易となろう。
そして、この手の結界を用いている連中は慢心して油断しまくりだ。
油断している連中のケツの穴に爆弾を突っ込んでさし上げろっ!
『航空部隊、作戦開始だ』
『了解』
俺たちの頭上を灰色の鳥が飛び抜けてゆく。
この世界のトムキャット的存在【S‐404】だ。
どこぞの戦闘機みたいな試験管コクピットが特徴的であり、それ以外はトムキャットと同じ形状をしている。性能も似たり寄ったりだ。
『さぁ、うちらも行くで』
「おう、みんな~突っ込め~」
『『『わぁい!』』』
突撃部隊の隊長は唯一のナイトクラス、ぽっちゃり姉貴が務めている。
彼女が駆る戦機【N・TAS‐027‐G・グラントシェイカー】は戦機協会の本部が製造したゴッズクラスの戦機となる。
ナイトクラスは昇格した際に、愛機をそのまま使用するか戦機協会が製造した専用機のいずれかを使用することができる。
今回彼女は戦機協会が用意した戦機を持って来たらしい。
当然、ナイトクラスから転落した場合、専用機は返却しなければならない。
グラントシェイカーは上半身がマッチョで下半身が貧弱という外見をしており、いかにもパワーファイターを思わせる無骨な黄土色の機体だ。
重火器がものを言わせる時代とは逆行するかのようなコンセプトで、手にする大槌だけが武器であるらしい。
もうエルティナイトと並ぶとファンタジーしまくっていて脳汁が溢れ出そうなんやぁ。
『さぁ、ひと暴れしたろうかい!』
「ふっきゅんきゅんきゅん……ダークパワー全開だぁ!」
そんなものは無いが、格好いい呼び名は全てに置いて優先される。
爆発音と振動が伝わってきた。
どうやらS‐404が攻撃を成功させたらしい。
『先制攻撃に成功、突撃部隊はそのまま機獣基地に突撃せよ。繰り返す……』
『皆、聞いたか? このまま、ぶっこむでぇ!』
雪崩のように機獣基地に突っ込む戦機たち。
主な構成メンバーはモヒカン兄貴、ゴーグル兄貴、眼帯兄貴に傷兄貴。
ペッたん娘姉貴にふぁっきゅんロキリズ。
そして、ぽっちゃり姉貴と俺だ。
スキンヘッド兄貴とワイルド姉貴は支援部隊に参加し支援砲撃を行ってくれる。
そして意外なことに、ファケル兄貴は後方部隊に配属された。
それはルフベル支部長立っての願いであった。
ファケル兄貴の戦機、ル・ファルカンはこの中で唯一の飛行能力を持つ機体であり、広範囲をカバーできる、というのが最たる理由である。
華々しい活躍をできないことを悔しがっていたが、最も重要な立ち位置にいるのは間違いなく彼である。
『一番槍は頂くぜ』
ここで眼帯兄貴の戦機TAS‐059・アインラーズが先行した。
アインラーズはアインリールの後期生産型であり、各性能の向上と安定を図ったアインリールの決定版というべき機体である。
ありとあらゆる状況に対応するために、アインリールには無かったハードポイントを増設し、様々な装備を簡単に取り付けることが可能となっている。
高性能化したにもかかわらず素直な機体に仕上がっているので、アイアンクラスの戦機にもかかわらず人気が高い。
値段も手が出せる価格に抑えられているので高評価だ。
ハードポイントの設置によって個性が出せるようになったため、中にはとんでもない機体も現れるようになった。
それが眼帯兄貴の高機動型アインラーズである。
機体のあらゆる場所にスラスターが設置されており、まるで滑るように移動するのが特徴だ。
ヒュリティアのルナティックが膠着状態で横着スラスター移動しているのと同じ原理である。
この移動方法は光素を阿保みたいに使用するので長期戦には向かないのだが、それは背中に装備した光素プロペラントタンクで補っているもよう。
武器は実弾系のリボルバーマグナムを使用していて実に渋い。
それが、機体色の黒と実にマッチする。
『いただきだっ!』
空爆により混乱していたレ・ダガーの頭部が爆ぜる。
見た目よりも強力な威力を秘めた銃であるようだ。
戦機たちの登場により、更なる混乱をきたす機獣たち。
中には亀やら、鹿やら、見たこともないタイプの機獣たちがいるが、それも見境なくぶっ壊してしまわないといけない。
何よりも、こいつらは可愛くない。
悪意の塊を動物の形にしたような連中なのだ。
何よりも俺をイライラさせるのは、魂も無いのに悪意を振りまくという事。
「命を奪うだけの機械かよっ!」
エリン剣で鹿を叩き潰す。
狙ったのは頭部、角に阻まれたがそのままお構いなしに剣を振り抜く。
ぐしゃり、と音を立てぺしゃんこになった鹿の機獣はバチバチと紫電を撒き散らして爆発した。
エルティナイトはその爆発に巻き込まれるも、魔法障壁を展開しているのでまったく問題無しだ。
「さぁ、どんどん行くぞっ!」
快進撃が続く。
しかし、それも長くは続かないことは分かりきったことであった。
「ふきゅん、来やがったな」
そう、深緑の悪魔が格納庫からゆっくりと姿を現したのである。




