438食目 宇宙の先輩
さぁ、宇宙に出た途端に変なのに絡まれっぱなしだ。
しかし、この程度で「もう駄目だぁ、お終いだぁ」などとは言えない言い難い。
したがって、俺らがやるべきことはただ一つ。
拳で語り合う。とにかく拳だっ。
「よし、まずは殴ってからだな」
「……相手は鬼じゃないのだから、まずは会話よ。貧弱だったらどうするの?」
「それもそうだった! 宇宙警察、命拾いしたな」
『聞こえているぞっ! 宇宙出たてのひよっこ!』
なんか、めっちゃ怒ってる。肝っ玉の小さい野郎だ。
この程度のおちゃめを許せないとか、おまえ忍者だろ。
きたない、宇宙忍者、きたない。流石、宇宙忍者きたない。
「まぁ、取り敢えずは何の用だぁ。きたない宇宙忍者」
『宇宙警察だっ! なんだ、きたない宇宙忍者というのはっ!?』
「ああー、もう。あーいえば、こーいうんだから」
『こっちのセリフだっ! 公務執行妨害でしょっ引くぞ!』
公務執行妨害って第六精霊界の縄張りで通用すると思ってるとか、そんなんじゃ甘すぎる。
「おんどれ、何が公務執行妨害やねん。寧ろ、おまえらがうちらの縄張りに入って来てるやないか」
『何を言うかっ、我らがいなければ宇宙の平和は保たれないのだぞっ!』
「じゃあ、なんでうちらの星がエリシュオンの連中に侵略受けてるんや? 言うてみぃ」
『そ、それはっ……そ、そうっ! それを調査しに来たのだっ!』
これは限りなく【黒】ですね分かります。
「その宇宙平和なんちゃらは、何を以って平和なんだ?」
『それは宇宙を取り纏める【宇宙平和維持機構】の意思に恭順し共に歩む事によって成し遂げられる』
「じゃあ、エリシュオン軍をなんとかして」
『無論だ、目下、特使を送って和平交渉中である! 我らの庇護下にあれば飢えに困るようなことはないのだ!』
「え? あいつらに莫大な光素を提供できるのか?」
おっとぉ? これは拙いぞ。いや、良いのか?
エリシュオン軍も光素さえあれば無駄な戦いをしなくてもするのだから。
『こうそ? ふふん、そんなものは特使に持たせた食料の中に含まれておるわ』
「あちゃー」
光素を酵素と勘違いしているっぽい。
この声の主がどれだけの地位で、どれだけエリシュオン軍の事情を知っているかは分からないけど、交渉は確実に失敗するだろう。
『それに、宇宙平和維持機構の大艦隊が向かっておるのだ。我らに恭順するのも、もう間もなくよ』
馬鹿かこいつら。あいつらがそんな程度で特使を招き入れるわけないだろ。事態が切迫しているような連中だぞ。
そんな事も調べられないのか。そもそも交渉をはき違えていないか。これじゃあ、ただの脅迫だ。
「それは、上の意思か? 下の暴走か?」
『うん? 上層部の決定に決まっておろう』
「そっかー。ちなみに、おたくの名前、聞いておいていい?」
『ふふん、従う気になったようだな! 私の名は第13987隊【オーマスレグドルア隊】隊長、ズールイン・シッタ・ターカ大佐である!』
なるほど、差し詰め未発達な惑星の知的生命体の見張り役、と言ったところか。
それに、こいつからしても宇宙警察というのが【ただの案山子】だという事が分かる。
上層部とやらも、アンポンタン、が揃っているのだろう。
宇宙の平和を維持する、という理念は賛同するが……たぶん形骸化しているんだろうな。
「一応聞いておく。あんたは【宇宙平和は成る】と本気で思っているか?」
『知れたこと。その為に我ら宇宙警察は二千年もの間、戦い続けているのである!』
二千年もの間、エリシュオン軍をどうにもできなかったのか。なるほど。
「なるほど。話は分かった」
『さぁ、君たちの代表に連絡を入れたまえ! そして宇宙平和維持機構に加入するのだ! はっはっはっ!』
「だが、断る」
『は?』
何を素っ頓狂な声を出している。
おめぇのポイント稼ぎに付き合ってやる義理など無い。
こちとら、組織がどのように成り立っているのかくらい分かってるわい。
『ま、待てっ! それでは私のポイ……げふん。おまえたちの星が外敵から護られなくなるのだぞっ!?』
「はん、うちらはな。他星から侵略はされても、他星が助けてくれた事なんぞないんや。ぜ~んぶ、自分たちの力でどうにかしてきてるんやで」
「……ハッキリ言って、宇宙平和維持機構は利用する価値も無いわね」
『お、思い留まれっ! それに代表に話を通していないのではないかっ!?』
「俺が代表」
『ふぁっ!?』
「さぁ、お断りの返事はしたぞ? だったら、あとは分かるよなぁ?」
『ぐっ……第一種戦闘配備っ!』
『大佐っ! それはなりませんっ! 彼らはまだ幼いのですっ!』
『ええい! 黙れ、カーマイン中佐! 奴らはエリシュオン軍と通じているに違いない! でなければ侵略に耐えられるわけがないのだっ! この下等生物どもに思い知らせてやれい!』
『くそ……君ら、悪い事は言わない。撤回するなら今の内だぞ』
おっと、これは面倒臭い事に。
連中の中にもまともな奴はいるんだな。
「お心遣い感謝なんだぜ。でも、決定は覆らない」
『そうか、互いに武運を』
連絡は切れた。戦闘開始だ。
「桃結界陣、使っておくかぁ」
「……もったいない気がするけど。エルがそうしたいというなら」
庇護下に入れという脅迫など、エリシュオン軍やそれ以上に凶悪な鬼と戦い抜いてきた俺たちには通用しないんですわ。
さぁ、見せてもらおうか。宇宙の先輩の力とやらを。
「あ、ぽっちゃり姉貴。もういいよ」
「おっしゃ、取り敢えずバチコーンとやったるわ」
俺たちのG・アースが結構な数の宇宙警察の艦隊を羽虫を叩き潰す要領でバチコーンしました。
「……全滅したわね」
「あっはい」
「なんやねん、こいつら」
超強力バリアでも展開して「くっくっくっ、その程度か」とか期待してた俺のワクワクを返せ。
ほら見ろ、エルティナイトも出番あるかも、と期待してたのに秒で終わって困惑してるぞ。
「ざっこ。こいつら、ホンマに口だけやわ」
「残念な結果だったんだぜ」
仕方がないので気を取り直し、宇宙を漂う警察官どもを回収。G・アースに収容しました。
「ふっきゅんきゅんきゅん……ウェルカム、くそ雑魚先輩どもぉ」
「お、おのれっ! このような事をして後悔するなよっ」
ズールイン・シッタ・ターカ大佐はお魚が人に進化したかのような外見であった。
他のクルーたちも多種多様で、なるほど宇宙人が寄り合ってできた組織なんだな、と思わせる。
「……」
「痛っ!? いたたっ!? や、やめろっ! 捕虜の虐待は宇宙法で……!」
「……ここにはそんなものは無いわ。あるのは弱肉強食という絶対不変の掟よ。そんな事も忘れてしまったの、あなた方は」
「待ちなさい、ヒュリティア」
とにかく拷問派のヒュリティアさんは早速、行動開始。
一枚ずつ鱗を引っぺがしてゆく。痛そう。
しかし、これに待ったを掛けたのは、ユウユウ閣下であった。
「……ユウユウ。何故、止めるの」
「いい? 捕虜にはね、権利というものがあるのよ? そして順序も」
これにズールインは調子に乗る。
君たちは知らないだろうけど……どう足掻いても絶望なんやぞ?
「くく、そちらの女は分かっているようだな。便宜を図ってやってもいい!」
「まず、選ばせるの。手の爪か、足の爪かを」
「えっ?」
魚人間の顔が青ざめてゆく。元々青いけど。
「……そうだったわね。私が間違っていたわ。ズールイン大佐、ごめんなさい。私ではもう【どうにもならない】」
「えっ? ちょっ!?」
「大丈夫よ? 爪はまた生えてくるから」
「ひっ……」
「骨も折れてもくっ付くから。一本や二本、もげても死なないように【処理】してあげるから」
「ひぃ……」
どうやら、彼はユウユウ閣下が【本物】だと勘付いたもよう。
「ご冥福を祈るんだぜ。代理をたてないとなー」
「私がなろう」
わざとらしく声に出すと、意図を理解してくれたのか人間に近い姿の青年が名乗りを上げた。
人間と違う部分は額に第三の目がある事か。
彼は薄紫色の髪と赤い瞳を持つイケメンだ。背も高い。
「カ、カーマイン中佐っ!?」
「そのための副隊長ですので」
「謀ったな! 謀ったなっ!? カーマイン中佐っ!」
そんなわけないだろ、とクルーたち全員が額を押さえてました。
その後、ズールイン大佐は、ずるずるとユウユウ閣下に引きずられ森の中へと。
やがて「ア――――――――っ!?」という情けない声が聞こえました。
多分、爪じゃない。もっと別の大切なものを砕かれた悲鳴だ。
「……流石、ユウユウね。人の壊し方を知っているわ」
「ズールイン大佐に敬礼っ!」
何故かそうしなくてはならない、という脅迫概念にもよく似た衝動に駆られ、俺は【ぬぷぅ】されたであろうお魚マンに敬礼を捧げた。
彼の元部下たちも俺の意図を組んで敬礼を捧げる。全員、笑いを堪えるのに必死だ。
「さて、本題に入るか。俺は第六精霊界防衛機関【モモガーディアンズ】代表のエルドティーネ・ラ・ラングステンだ」
「私は【宇宙平和維持機構】所属、第13987隊【オーマスレグドルア隊】副隊長カーマイン・アスルト・レーゼ中佐です」
「取り敢えずは立ち話もなんだし、座って話そうか。ぽっちゃり姉貴、椅子とテーブルお願い」
「あいよ」
にゅるるん、と台地から植物の芽が飛び出し急成長。それらは互いに絡まり合ってテーブルと椅子の形に。
やがて、柔らかな若芽から頑強な幹へと至り成長を止めた。
「こ、これは……いったいどういった技術をっ!?」
「それを含めて説明するから。まずは座ってどうぞ。部下の皆も楽にしていいぞぉ」
「全員、休め」
カーマイン中佐の命令にようやく宇宙警察官たちは緊張を解いた。
「あ、でも、ここから離れないように。この周囲にはでっかいトカゲがわんさかいるから」
「トカゲですか?」
「そう、あれ」
のっし、のっし、と迷い込んできたガルンドラゴンちゃん、おっすおす。
「うわぁっ!? モ、モンスターだっ!」
「あ、それ子供だな。ちっこい」
「えぇ……?」
三メートル程度の黄金の竜が紛れ込んできた。
たぶん遊んでいる内に迷い込んできたのだろう。
「シグルド、群れに帰してきて」
「相分かった」
にゅるん、と俺からシグルドが出てきて大騒ぎに。
でも気にしない。これから、嫌と言うほど彼らは見る事になるだろうから。
「さて、それじゃあ、話をしよう。あれは一億と二千年前……」
もちろん、そんなに遥か昔の話はしない。
したところで理解できないだろうし。
しかし、聡明なカーマイン中佐は驚きはしたものの、頭から否定することはなかった。
説明はとんとん拍子で進み、全ての説明を聞き終えた彼らは、ただただ驚愕するしかなかったという。




