42食目 ナイトクラス
ソルジャークラスの上となるナイトクラスは【三十人】という定員があった。
これを【ナイトサーティー】と呼称するそうだ。
このナイトクラスも実力が伴わないと、どんどんランクを落とされ、しまいにはソルジャーランクへと降格されてしまうらしい。
とはいえ、それは二十位以下のナイトランクばかりで、それ以上のランカーは実力が安定しているので、滅多なことではランクダウンが発生しないらしい。
また、この三十名のナイトクラスのトップテンを【聖騎士】と呼び、ナイトクラス一位を【聖王】と称えるらしい。
とはいえ、こいつらも戦機協会に属しているわけだから、実質的なボスは戦機協会会長という事になる。
つまり、聖王はサラリーマンに置ける部長的ポジションだった……?
そう考えると急にしょぼく感じてしまい、ものっそい後悔した。
これじゃあ俺、ナイトになりたくなくなっちまうよ……。
なんてことを考えていると、ルフベル支部長はソファーから立ち上がり、今作戦の内容を説明し始めた。
「今回、無理を言って彼女に来てもらったのは言うまでもない。この地方に存在する機獣の基地を完全に破壊するためだ」
「ルフベルさんよ、その機獣の基地は見つかったのかよ?」
「あぁ、ここにいるヒュリティア君とエルティナ君が発見してくれた。映像データをくれるかね?」
眼帯兄貴がルフベルさんに確認を取る、とルフベルさんは俺たちが撮影したデータを要求した。
ヒュリティアはジャケットのポケットからメモリーカードを取り出し、ルフベル支部長に手渡す。
メモリーカードを受け取ったルフベル支部長はそれをノートパソコンに挿入しマウスをカチカチとクリックする。
すると、天井から映写幕が下りてきた。
ルフベル支部長がもう一度マウスをクリックする、と今度はノートパソコンから光が発せられ映写幕が輝きだす。
どうやら、このノートパソコンはプロジェクターの機能も有しているらしい。
「これが、機獣たちの基地だ」
映写幕いっぱいに映るのは、わんこのお菊様であった。
「こ、これが……機獣の基地……?」
「あ、試し撮り消すの忘れてたんだぜ。これ、野良わんこのお尻だぁ」
一斉にコケる戦機乗りたち。
本当に済まないと思っている。だが、俺は謝らない。
「……次からね」
「う、うむ」
ルフベル支部長がもうワンクリックすると今度こそ機獣たちの基地を移した映像が表示された。
それに思わず身を乗り出す者もいる。
でも、スキンヘッド兄貴は座ってどうぞ。
つるピカの頭部がノートパソコンの光を反射して映像が映らない映りにくい。
「本当に機獣の基地が存在したんだね……」
「都市伝説か何か、と思っていたが……まさかな」
ワイルド姉貴とゴーグル兄貴も、この映像に戦々恐々としている。
それもそうだろう。
この映像には、おびただしい数の機獣が映っている。
それも五十や百ではない、軽く三百体はいる、と確信できるほどにだ。
「まった! そこ、ごっつぅヤツおるやんっ!?」
ぽっちゃり姉貴が声を荒げた映像は言うまでもなく、巨大な飛行母艦が映っているものだ。
本来はこの次にバッチリと映っている映像があるのだが、流石はナイトクラスは格が違った、と言ったところであろう。
「うっ……!? こ、これはっ!」
「こりゃあ、拙いでぇ! もう、これ完成してんちゃうかっ!?」
ぽっちゃり姉貴の指摘にルフベル支部長は青ざめた顔を見せる。
他の戦機乗りたちも同様だ。
「ま、まさか……機獣たちの母艦?」
「しかも、この形状は……と、飛ぶとでもいうのかよっ!?」
口々に「冗談じゃない」、と連呼する兄貴、姉貴たち。
確かに冗談ではないだろう。
話によれば、機獣は今まで徒党こそ組んでいたが、編隊を組んで襲撃してきた事は無かったらしい。
しかし、この母艦があれば、いくらでも編隊を組み短時間で町を襲撃することが可能になってしまうのだ。
対して、人間側は飛行母艦の開発が遅れているらしい。
試作機がいくつか存在するらしいが、戦闘は愚か飛行にも耐えれる代物ではないらしい。
「これは由々しき事態だ。本作戦は絶対に成功させなくてはならない。失敗は即ち、人類に滅亡に繋がるだろう。なんとしても、飛行母艦は破壊せねばならない」
これに俺はちょっとズレてる感をビビッと受信。
「ルフベルさん」
「うん? なんだね」
「この飛行母艦……いただいちまおうぜ」
「……は?」
俺の提案に一同がポカーンと口を開けて固まってしまった。
俺は何か変な事でもいったであろうか。
技術が追いついていないなら、完成間近の飛行母艦をいただいて研究すればいいジャマイカ、という理論に隙は無いはずだ。
「いやいや、敵のど真ん中だぞ?」
「どうせ叩き潰すんだから、ついでに貰っちゃえばいいじゃないか」
「……私もエルの意見に賛成よ。鹵獲して技術を吸収するの」
ここでヒュリティアの援護射撃っ!
そして、それが全面的に受け入れられる、という事実っ!
これに遺憾の意を示すべく、俺はテーブルの上に大の字になり怒りの咆哮を上げるっ!
「ふきゅんっ!」
「なるほど、ヒュリティア君の言うとおりだ」
しかし、これをスルーっ!
俺の決死の行為は無に帰したっ!
すっ……。
そして、今度はぽっちゃり姉貴の膝に収納されるっ!
ぷよぷよのお肉は、なるほど極上のソファーを思わせる。
これは人をダメにするお肉に間違いない。
そして、笑顔のクロヒメさんから謎の圧が放たれている件について。
それを同様の圧で中和するぽっちゃり姉貴も大概ではあるが。
「ふふふ、人をダメにする抱き人形やわぁ」
「ふぁっ!?」
どうやら、人をダメにするのは俺の方だったらしい。
いや、確かに俺は見た目がちっこいですけども、それなりに重い自信がありますよ?
「ちら~り」
「……エル、私が五歳児の平均。あなたは三歳児のそれ」
「ふきゅん」
素直にショックを受けました。
これは、あれだ。
転移した衝撃で縮んだに違いない。きっとそう。
世界的な配管工のおっさんも衝撃で縮むから多少はね?
「そういえば、身長も体重も量ってないや」
「……エルには無用よ」
「どういう意味ですかねぇ?」
「……そのままの意味。その内、急に大きくなるだろうし」
ヒュリティアの言葉に、俺は口を三角形にして遺憾の意を示す。
だが、やはり、そこは華麗にスルーされてしまう。くやちぃですっ!
俺たちがこのようなやり取りを行っている間にも話はトントン拍子に進み、飛行母艦の奪取も作戦に盛り込まれた。
続いて作戦の段取りに移る。
作戦は電撃作戦となり、短時間で機獣の基地を制圧することになった。
こちらの戦力は戦機二百、装甲車両百五十、戦闘機五十、歩兵百となる。
戦機以外は戦力になるかどうか不明。
多分、戦闘機は爆弾だけ落として「さいなら」となるだろう。
装甲車と歩兵は弱った機獣に止めを刺す役割だそうだ。
役目を果たせるかどうかは未知数だが、それぞれ対機獣用のロケットランチャーを装備しているらしいので期待することにしよう。
本作戦の目指すところは機獣の全滅である。
一体でも逃してしまえば、そこから町に被害が及ぶ可能性が生じるからだ。
だが、今作戦が成った場合、この付近の機獣は生産されることが無くなるため、広域に渡り機獣の脅威が解消されることになる。
失敗した場合のリスクは、機獣たちの猛反撃を受けて、下手をすれば幾つかの町が滅ぼされる可能性がある、という事。
各町から戦機乗りたちを集めたのだから当然と言えよう。
帝国の方にも根回しを行っているようだが、どこまで協力してくれるかは不透明だ。
「では、部隊分けを行う」
ここからが重要だ。
会議は更に熱を帯び、高まる戦意はチリチリと背中を焦がすのであった。




