428食目 それは紛う事なき我らの最凶(ガーディアン)
◆◆◆ とあるカメラマン ◆◆◆
―――話をしよう。これは俺が実際に経験した戦場での話だ。
あぁ、悪夢か。
悪夢ってのは本当にそこら辺に転がっているもんさ。
これについては長い付き合いである情報屋のジェップも同意している。
そんな場所に生身で突っ込んでゆく俺が言うのもなんだが、そこは悪夢を通り越し、地獄すら生温かった。
紙一重で見えない力を避けながらの仕事は本当に神経を削るが、俺にはこれしかないからやるしかない。
ジェップの依頼で何度もエルティナという名の少女……いや、今はエルドティーネか。
彼女を追い続けてきたが、本当に奇想天外の大冒険になった。
機獣の巣穴を突くというから出張してきたが、そこが確実に俺のターニングポイントとなったのだろう。
そこで、俺は長年の相棒を護って死んだ。
何故守ったのかは分からない。本能的に動いてしまったのだ。
頭の半分が吹っ飛んだ感触は、今尚、忘れる事ができない。
―――でも、奇妙な事に、俺はその場で意識を取り戻した。
ビックリだよ。
まさか相棒が俺を繋ぎ止めるだなんてさ。
俺の吹き飛んだ頭の半分、そこに相棒が埋まって、俺を補填したんだ。
時間が経つにつれ、相棒は俺と馴染んだ。
貧弱だった人間の体は肉と機械が混じったものへと進化してゆく。
あぁ、そうだ。これは【機械人】への進化過程なのだろう。
でも、ただの進化とは違うようで。
「てっつー」
「ごむむ~ん」
この世には、ありとあらゆる物に精霊が宿る。
人ならざるものへと向かう過程で、ようやく俺はそれを見る事ができた。
そう、俺は凡人だった。ちょっとばかり危険に鈍感なだけの……人間だったのだ。
音速で飛んでくる何かの破片。今の俺には容易に認識できる。
少し足に力を入れれば、数十メートルは一瞬で移動可能だ。
周りの全てがゆっくりと動いて見えるのは、相棒が俺の意識を加速してくれているから。
俺の肉体が過度な動きについて来られているのは、俺の体に宿る数多の精霊たちが協力してくれているから。
彼らは囁く。俺に歴史を収めろ、と。
この瞬間を、全ての命に伝えろ、と。
俺には、ジェップのような先見の目も情報収集能力も無い。
俺には、実況解説のお嬢ちゃんたちのような不思議な能力も無い。
あるのはカメラマンとしての意地と誇り。
そして―――相棒たちだけだ。
だから、自分のできる事だけをやる。
カメラを担いでいるが、実はこれ形だけ。その正体は【多目的ツール】なのだ。
本来のカメラの仕事は、俺の右半分の頭部となった相棒がやってくれている。
攻撃の余波。複数の岩石が飛んできた。チャンスだ。
これらを足場にして跳躍。上空からの現場を捉える。
無論、これは全世界に中継していた。
この地獄のような戦場で、どうしようもない悪夢に挑んでいる勇者たちの姿を余すことなく伝えている。
それを実況解説する彼女らにも熱が入り、いよいよ戦いが佳境を迎えようとしているところで、異変に次ぐ異変。
それは輝く獣だった。
語力の足りない俺では、その獣をどのように伝えればいいか分からない。
ただ―――俺はそれが【希望】だと感じ取った。
どこまでも真っすぐで穢れの無い白がそう思わせるのだろうか。
地獄の中、悪夢を産み続ける円盤を白き獣が砕いた。
そこからだ。一気に流れが変わった。
我らの希望が、異形へと変化の兆しを見せたのだ。
その力は、あまりにも禍々しかった。お世辞にも正義のヒーローの物などではない。
度し難いほどに利己的で、吐き気を催すほどに醜悪で、致命的に冒涜的な力だった。
でも、どこまでも高潔で、呆れるほどに慈悲に溢れ、輝かしいまでの勇気を携えていた。
それは、例えようのない存在。
そう―――【混沌】だったのだ。
「……!」
息を飲む。
その力のあまりの美しさに。人が到達できないであろう異質に。
どこにでも居そうなヒロイックな騎士は、いよいよ以って人が届かぬ領域へと踏み出したのだ。
『我、全てを喰らう者! 我、全てを産む者の子! 真なる約束を携え! 今! ここに宣言する!【竜神融合!】』
光と闇が超常の騎士に流れ込んでゆく。
悪意と善意がぐちゃぐちゃになって一つになってゆく。
温かさと冷たさは境界線を取り払い、硬さと柔らかさは意味をなさなくなってゆく。
常識は非常識になり非常識が常識へ、と目まぐるしく変わり続ける。
これは悪夢なのか、それとも希望なのか。それすらも分からない。
ただ、一つだけいえる事がある。それは――――。
『全ての命を守るため! 精霊戦機【カオス・エルティナイト】! 転生降臨!』
『俺たちの信念! 砕ける物なら砕いてみろっ!』
―――彼女が、我らの最凶だという事だろう。
◆◆◆ エルドティーネ ◆◆◆
さぁて、もうやっちゃうかんな~? 見とけよ見とけよ?
「うおっ、すっげー姿だな」
「あい~ん」
『格好いいだろ?』
「角が九本に、ごっつい鎧。龍の翼が四対にぶっとくて長い尻尾。カラーリングも黒ベースに金のラインとかダークナイトですね分かります」
『尚、攻撃特化型』
「盾じゃないじゃないですかやだー」
『攻撃は最大の防御だから』
「ソウナノカー」
「……早く戦いなさい」
『「ひゅいっ!」』
どこまで行っても、このノリなんやなって。
ヒュリティアさんに怒られたので、さっさと憎怨を退治します。
退治って言っても、こいつはただのモナカです。中ボスです。
ビックリするけど、こいつ……本物であって本物じゃないんだぜ?
なんじゃそりゃ、だろ。普通に考えて。
「……ところでエルドティーネ。憎怨の話は本当なんでしょうね?」
きちんと憎怨の正体についてテレパスでお知らせしておいた俺はお利口さんだ。
情報の共有は大事。報告、連絡、相談。ほう・れん・そう。
みんな、覚えておけよ~? 俺は割と忘れる。てへぺろ。
「うん、あれはモナカの皮に記憶を植え付けたフェイク……ただし、【記憶だけ】は本物」
「……それじゃあ」
「記憶を消したかったんだ。女神マイアスは。カーンテヒルとの思いですらも」
「……やりましょう、エルドティーネ」
「ママ上、憎怨との長い因縁に終止符を」
「あぁ」
女神マイアス、あんたはそこまでして、自分を犠牲にする意味があるのか。
全てを捨てて、その先に何があるというんだ。
『待たせた!』
「ルオウ、おっそ~い。遅くていいのは桃使いまでだよね~?」
『うるせぇ! 文句があるなら、おやっさんに言えっ!』
不具合が発生していたであろう桃太郎がDチームと共に帰ってきた。
帰艦した機体たちもダメージを修復し戦線に復帰。
ただ、ファケル兄貴だけが『ぱ、ぱいぱい』とか不穏な呟きが聞こえるけど大丈夫だろうか。
まぁいい。これで、なんとかなりそうだ。
絶対に女神マイアスの思惑通りに事なんて進ませない。
憎怨も酒呑童子も、あんたなんだ。
次元の放浪者……決して終わらない旅路に【疲れたから】、とかそんな理由なんて聞きたくない。
俺が欲しい答えはそんなんじゃない。もっと別の言葉だ。
『おっと、いよいよか?』
『はぁ~、イシヅカに乗り換えた途端にこれかい?』
ここでプルルさんがイシヅカに乗り換えたもよう。厄災の数が減ったからだろう。
でも厄災たちもまだまだ健在。下手な鬼よりも遥かに強いので油断はできない。
「これが精霊戦隊のいつもの流れなんだぜ」
「くすくす、そうよねぇ」
首無しのお馬さんを平らげたユウユウ閣下は実に笑顔でした。
全力を出したら一瞬だけど、いろいろと面倒だからコツコツ戦ってね!
『にゃんだっていいにゃお! ボコれば万事解決にゃ!』
『にゃおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ! 暴力は良いにゃ!』
僕らの希望は暴力だった……?
流石はにゃんこびと、一切ブレないぜ!
ミオたちも、いよいよ本領を発揮できる機体を手に入れた。
揃いつつあるのだ。運命を収束させる力たちが。
だが、これすらも女神マイアスが敷いたレールの上。
俺はこれを逸脱する必要がある。
しかし、ただの力だけじゃダメだ。力と別の何かが必要だ。
だからこその【想い】であることは間違いない。
でも、それは女神マイアスに看破されているに違いないのだ。
それ+何かが必要になるだろう。
「ルオウさん、憎怨は俺がやる」
『ちっ、俺らを足止めに使う気か?』
「うん、この先にある結末をぶっ壊す」
『あ? この先……ははぁん? そう言う事かよ』
ルオウは思い当たる節があるようだ。
この戦いが終わったら、話を聞く必要があるもよう。
『ルオウ』
『分かってる、ズーイ。全部、仕組まれたことだったんだな』
『がっはっは! エルドティーネの嬢ちゃん、最後まで付き合うぜ!』
「ありがとう、Dチームの皆っ! ミオ! 準備はいいかっ!」
『いつでもいいにゃ~ん』
『やっちゃうよ~』
この三機で憎怨を【封じる】。
できるはずだ――――そこに器はあるのだから。
『残りの雑魚どもは俺たちに任せろ』
『んふふ、夫婦の共同作業と行こうじゃないかい?』
『ま、そうだな』
ライオットさんとプルルさんが残った厄災たちを押さえてくれるもよう。
クロヒメさんは暴走状態で酷いので見ないでやってください。
ニャングラップラーも『うをぉぉぉぉぉぉぉん』とか言いながら何かを捕食しているし。
……大丈夫か、あれ?
「何はともあれ、皆、突っ込め~」
『『わぁい!』』
女神マイアスの好きなようにさせて堪るか。
俺は母とは違う。
あんたが思っているよりも、遥かに最凶なんだからな。
最終決戦だと思ってたら中ボスだった、というオチに、俺は怒りの拳を振り上げる。
果たして、俺たちは女神マイアスの敷いた運命を破壊することができるのであろうか。




