421食目 なんだ、やれるじゃねぇか
あれから何度も不格好野郎に攻撃を仕掛けて分かったことがある。
それは、あれが単なる時間稼ぎ用の置きものだ、というものだ。
それが分かれば放置して先に進むのもありなのだが、問題になるのが一つ目小僧どもだ。
実際のところ、不格好野郎も脅威といえば脅威だが、叩き潰すべきは一つ目小僧どもの方が優先度は高い。
何故なら、こいつらは間違いなく戦艦を狙っているからだ。
流石の俺たちも、母艦をやられてしまったら戦闘が継続できなくなる。
それだけは、なんとしても避けねばならないのだが……。
「糞がっ! うざってぇんだよ!」
オラインの前にしゃしゃり出た一つ目小僧をレーザークローで引き裂く。
紙切れのように引き裂く事ができたが、近接戦闘ばかりを繰り返していては機体にもダメージが蓄積する。もう一戦控えているのに出番終了は勘弁だ。
『ルオウ、きりが無いぜ』
「んなこたぁ、分かってる」
そろそろズーイも痺れを切らせてきたか。
やつは不毛な消耗戦を嫌う。これ以上は意味が無いと判断したのだろう。
『なら、おやっさんが言ってた【切り札】を使っちまおうぜ』
「あ? 正気か、モヴァエ。試運転の際に何回失敗したと思ってやがる。ありゃあ、正気の沙汰じゃねぇ。安全が確保できない今、失敗したらそれこそお陀仏だぜ」
『なぁに日和ってんだよ? ルオウらしくもねぇ』
「んだと、てめぇ。上等だ、やってやるよ!」
『へっへっへっ、そうこなくっちゃあな』
ちっ、モヴァエの野郎。俺の扱いを分かってやがるから質が悪い。
だが、俺も【切り札】が脳裏を横切った。
確かにあれなら、数値上は不格好野郎を押し切れるだけの期待が持てる。
問題は、それに至るまでに失敗しないかどうかだ。
今回は敵がうじゃうじゃいる状態での試みになる。
「おい、おめぇら。覚悟はできてんだろうな?」
『何を言ってやがる。俺たちはいつ言い出すか待ってたんだぞ』
『いいから、さっさとやっちまおうぜ』
「……ったく。知らねぇぞ? タイミングを合わせろっ!」
「『『チェェェェェェェンジっ! ビースト! スイッチ・オン!』』」
三匹の獣が変形しつつ、とんでもない速度で宙へと昇ってゆく。
少しでも気を緩めれば意識を失うほどの圧に抗いながら操縦桿を制御し、画面の合体指示に従い機体を誘導。
各機が出鱈目な変形を繰り返し、まず俺のオライン、そしてズーイのリプコと強引ともいえる接合を果たしてゆく。
これなら上手く行くかもしれない。
しかし、そういう時に限って邪魔というものは入るもので。
「っ! くそガラスがっ!」
空を飛ぶタイプの鬼が合体中の俺たちに仕掛けてきた。
俺たちに向かって発砲するつもりだ。
合体中は防御力が極端に低下する。内臓を晒しているようなものなのだから当然だ。
本来なら練度を上げて、合体に掛かる時間を短くするのが一般的だが、これはほぼぶっつけ本番。短時間での合体は難しい。
しかし、くそガラスは何かに貫かれ爆散。
その爆炎の中を突っ切りながら合体を続ける。
『ルオウ! やっちまえよ!』
「ファケル! 応よ!」
ファケルの野郎に借りを作っちまった。これは益々終われねぇ。
「モヴァエ! しくじるんじゃねぇぞ!」
『分かってらぁ! おりゃっ!』
機体に伝わる振動は合体の全ての工程が終了したことを知らせる合図か。
その時の事だ、機体に異変が起こった。それは不思議な光景だった。
機体の全て、そしてコクピットまでがピンク色の輝きに包まれたではないか。
「な、なんだっ!? これはっ!?」
『おいおい、桃力で満たされちまってるぞ!』
『ちょーっ! 蛇ちゃん、前が見えないっ!』
『ふきゅおん』
モヴァエはもう置物でいいな。
異常値を示すモニターのパラメーター。終わったはずの変形が再び始まった。
いや、これは変形なんて生易しいものではない。変形する機能を持たされていない部分すら変形を繰り返し、設定に無い形状へと変化し続けているのだ。
『おいっ! ルオウ! 何が起こっている!?』
おやっさんからの通信だ。恐らくは異常が発生している事を嗅ぎつけたか。
「知らねぇよ、あんたが作った機体だろ?」
『俺は、そんな機能を……がたがた……おやっさん変わって』
「エルドティーネか?」
『ルオウさん、桃力を信じろ!』
ぶつ。
「……切りやがった」
一方的に言うだけ言って切りやがって。
尚も向上するエネルギー。いったい、なんなんだ。
怖いくらいの数値は測定器がぶっ壊れているのではと勘繰るレベル。
しかし、それとは裏腹に体の―――いや、魂の奥底から湧きだす莫大な力はなんだ?
もう我慢する必要はないだと?
もう自分を偽る必要はないだと?
その声はいつか聞いた優しきもの。
あぁ、そう言う事だったのか。
俺たちが生み出された理由、それは―――。
「努力のハチマキ引き締めて!」
『勇気の鎧を身に纏い!』
『愛の羽織を纏いしは!』
「『『日本一の桃太郎!』』」
俺たちは、このために生まれてきた。全て分かっちまった。
どうしようもない獣から人に至り、そして、桃力という刃を携えて鬼を討つ。
総統閣下が申された抑止力とは、この事だったんだ。
そして理解しちまった。総統閣下が何者なのかも。
でもよ―――俺たちにできるのは戦う事だけだ。
だから、命尽きるその時まで俺たちは戦うぜ、総統閣下。
『これは、最初から仕組まれていたことだったんだな……ルオウ』
「あぁ、桃使いとしてのデータが一気に解放されてやがる。きっと、総統閣下は僅かな望みを俺たちに託したんだ。そして、目覚めの時を待った」
『なんだか、悲しいぜ。閣下は俺たちの力で……』
「そこまでだ、モヴァエ。今はこいつらを叩き潰す!」
異形の変化を果たした鋼鉄の獣は若武者となり、純粋な桃力の刃を携えていた。
とんでもない桃力は俺たち三人が共鳴し合って生れ出ている。
一人ではダメだ。三人揃ってこその桃太郎。
鬼と桃太郎たちの戦いの歴史、それを知り得る総統閣下。
あなたは、そうまでして桃太郎を作り出したかったのか。
そのような状態にまで自らを追い込んで―――。
「行くぞ! おめぇら!」
『おう! いつでもいいぜ!』
『がっはっはっ! 思う存分に暴れようぜ!』
人型は呆れるほどに慣れた。もう手足のように動かせる。
「獣から人に、人から桃使いに進化したDチームの力を見せてやる!」
地上へと急降下。そのまま地面に桃力の刀を突き入れる。
「桃戦技【桃光剛破・螺旋斬】!」
突き刺した部分から巨大な桃力の竜巻が生まれ、広範囲に広がってゆく。
一度に数多くの鬼を退治するために生まれた桃使いの戦技だ。
『こっちは俺に任せろ! 桃仙術【桃光螺旋槍】!』
ズーイが桃力で産み出したドリルミサイルを放ち、不格好野郎までの道を無理矢理に作り上げた。
『あとは邪魔が入らねぇようにするかぁ! 桃仙術【桃結界陣】!』
『ふっきゅお~ん』
モヴァエが不格好野郎までの道を作り上げた。一つ目小僧たちはすぐさま湧いてくるが、その輝く道を破壊することはできない。その先に奴はいた。
「な、なんだこれはっ!? 力が抜けるっ!」
「そりゃあ、憎怨からの力の供給が止まるからな」
それを遮断させるモヴァエの桃仙術は、恐らく最高クラスの物だろう。
そして、ズーイの攻撃系桃仙術、俺の桃戦技。
そうさ、俺たちは【憎怨】を倒すためだけに作られた【人工の桃太郎】。
「おまえごときに躓いてなんていられねぇんだ! くたばりやがれ!」
輝く刀に莫大な桃力を注ぎ込む。それは錬成され長く鋭く、そして熱く輝いた。
「笑わせるなっ! このRGHにド素人ごときが倒せるものかねっ!」
「るせぇ! 欲に塗れた男の拳なんざ、何千、何万喰らおうが虫一匹も倒せやしねぇんだよ!」
桃太郎を踏み込ませる。
一気に景色が変わり、不格好野郎の間合いに入った。
「な―――!?」
「おるぅあっ!」
上段から刀を振り下ろす。纏めて不格好野郎の左腕を全て切り落とす。
「調子に乗るなっ!」
不格好野郎は残った右腕で反撃をしてくる。
『見え見えなんだよ! 桃仙術【桃光地閃槍】!』
桃太郎の足元から幾つもの輝く槍が飛び出し、不格好野郎の数多の腕を貫き破壊する。
「な、何故だっ! この私がっ! この私がぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
無数の首から炎を吐き出し、桃太郎を自分ごと焼き尽くそうとする。
『あ~、それ、お断りしてんだよ。桃仙術【桃光反射鏡】』
モヴァエが桃色の鏡を生成し、迫りくる炎を跳ね返す。
これも、桃力の出鱈目さが可能とするカウンター攻撃だ。
「ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁっ! な、何故だっ!? 何故、私が痛いのだっ!」
「おまえ、もうそれに取り込まれてんだよ」
「なっ!?」
「欲に忠実過ぎたな。おまえはもう人間じゃねぇ。そして、鬼ですらな」
「み、認めん! 認めんぞっ! この私がっ……」
「くたばりな、ガラクタ野郎! 桃戦技!【桃光剛破斬】!」
ありったけの桃力を刀に籠めて振り下ろす。
極めてシンプルで、そして分かりやすい桃戦技。
俺はこの桃戦技が気に入った。
「あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
桃力の圧倒的なエネルギーが不格好野郎の体内で爆ぜる。
爆散する不格好野郎の肉体は瞬く間にピンク色の粒子となって霧散していった。
「ふぅ……なんだ、やれるじゃねぇか。俺たち」
『当たり前だろ。俺たちはDチームなんだから』
『三人でかかりゃあ、怖いもの無しだぜ』
こうして、俺たちは自分たちが生まれた理由を知った。
モモガーディアンズに所属することになったのは運命だったのだ。
この仕組まれた運命に、しかし俺たちは考えさせられる。
果たして、このまま総統閣下の敷いたレールに乗り続けるべきなのか。
総統閣下……あなたは本当にそれでいいのか? 本当に……。
憎怨との接触手前でモヴァエの張った桃結界陣の中で、最後の休憩兼ミーティングを行う。
俺の頬の紅葉は気にしないでくれ。猫にじゃれつかれただけだからな。




