420食目 絞りかすの少女
「やぁ、割と核心に迫っちゃったねぇ、ひっく」
「酒呑童子」
「私の事はヒュリティアちゃんの推測通り。未練たらたらで、沢山の私を生み出して、また失敗して、また私を生み出しての繰り返し」
酒吞童子は缶酎ハイのドライ味をプシュッと開けて、それを一気に飲み干した。
「ぷっは。飲む?」
「こう見えても未成年なんだぜ」
「ぎゃははっ、そんな乳をした未成年がいるかーい」
ゲラゲラと腹を抱えて笑う酒吞童子は、実のところ悩みなんて抱えていないんじゃないだろうかと思わせる。
まさかとは思うが、その悩みすらも統廃合で捨てちゃったんじゃないだろうな。
「あー、分かっちゃった? そう、私は大切な悩みも捨てちゃった。だから、今探してる最中なんだ」
「え?」
そのまさかであった。
「とても大切な悩み……いや、未練だったのかな。どうして捨てちゃったのか分からないよ。でもね、なんだか分からないのに、心の奥底から、探せ、って声がするんだ。多分、統廃合した自分の中で最も我の強い私の声」
「女神マイアスの声か?」
「たぶんねー。でも、叶えてあげられるかどうかは分からない。私で【最後】だし」
「最後?」
「そ、後がない。寿命ってやつ? 延命のし過ぎでクローンも作れないから、正真正銘のラスト。魂の終わり」
魂の終わり、それはただ死ぬだけじゃない。完全なる消滅を意味する。
輪廻の輪の中に還って魂を洗浄修復する理由は魂の消滅を防ぐため。
しかし、それも叶わないほどの長期間、自力で延命や複製を行えばどうなるか。
行き着く先は、手の施しようが無くなり永遠に失われる、という結末。
そこまでして生き延びて、大切な記憶を捨ててしまって、今はそれを探している。
何故、人は大切なものすら忘れてしまうのか。
「やっぱ、憎怨にケリを付けるべきなんだろうなぁ」
「憎怨にも記憶が残っているのか?」
「そりゃあ、あるさ。ひっく。私だもん」
更に缶酎ハイを開ける酒吞童子。今度はレモン味。度数は9。実に謙虚な数字だ。
「私は鬼の総大将って肩書だけど、実際は雑魚だよ。四天王の方が強いもん」
「そうなのかー」
「そうなのだー。憎怨が全部持って行っちゃったからね。私は絞りかす。それでも私について来てくれているのは不思議」
酒吞童子は千鳥足で傍にあったベンチに腰かける。
「たぶん、私は……私たちは叶わぬ願いに疲れていたと思う。だから、多くの私を統廃合して、思い出を捨てて行ったんだ。そして、憎怨こそが女神マイアスの成れの果て」
「憎怨が第六精霊界を破壊しようとしている理由は、あれが鬼だからじゃない、ってこと?」
「あれは正真正銘の鬼だよ。でも、女神マイアスでもある。でも、理性なんてほぼないだろうね。邪魔だからって私なんかを作って切り離しちゃったんだから」
「それだ、なんで切り離したんだ?」
「甘さを捨てるためじゃないかな。何度も異世界の原住民に同情しちゃって、失敗して、また異世界転移を繰り返していたから。それにね、憎怨の寿命だって無限じゃない。言ったでしょ? 最後だって」
「憎怨もあれで最後なのか?」
「そう、最後。だからこそ、完全を求めた。あとが無いから」
缶酎ハイを飲み干した酒吞童子は改めて俺の顔を見る。
「不思議だね。エルドティーネを見ていると、失った記憶が蘇って来るんだ」
「そうなのか?」
「うん、女神マイアス。かつての私。名前も思い出せなかったんだけど、思い出しちゃった。でも名前だけ。大切な部分は思い出せない。悲しいなぁ」
三本めの缶酎ハイを開ける酒吞童子はそれを一気に喉に流し込んで……。
「おぶっはぁっ!?」
それをキラキラと霧状にして吹き出した。
「ほぎゃぁぁぁぁぁっ!? か、からぁぁぁぁぁぁいっ!?」
「……それ、ヤーダン主任の唐辛子酎ハイよ?」
「赤いからイチゴ味だと思ったのにっ! がくっ」
酒呑童子の死亡を確認。おかしい人を亡くしてしまった。
取り敢えずベンチにでも放り投げておこう。ぽいっちょ。
「結論としては、なんでもいいから憎怨は退治だっ、でいいかな」
「……そうね」
「もしかしたら、憎怨に残った記憶も、酒吞童子に戻るかもだしな」
「……その可能性は否定できなかったわね。なら、やっちゃいましょうか」
割と簡単に言ってますが、それはとってもしんどい事でございます。
でも、やらなきゃなんないんだよなぁ。
さて、戦況の方だけどこれが中々によろしくない。
出来損ないの戦鬼相手に大苦戦。
見てくれはアレな再生四天王集合体だけど、それに組み込まれているであろう人間が、厄介の極み、あーっ! とのこと。
たしか……LHGだったか? よくわからん。ふぉーっ!
「……拙いわね。エルティナイトを出した方がいいかもしれない」
「だなぁ。一応は連絡入れてみる」
というわけでファケル兄貴に連絡を……あっ、間違えた。
「へいへい、ライオン、ビビってる」
『あぁ!? 喧嘩売ってんのかっ!』
「……なんで真っ先にルオウに連絡を入れているの?」
間違ってボタンを押しただなんて言えない。
ワン切りもあれなので取り敢えず発破をかけておいた。
「手こずっているようだな。手を貸そうかぁ?」
『余計な事をするんじゃねぇ! こんなやつなんざ、俺たちだけで十分だっ!』
ぶつっ。
マッハで電話を切りやがりました。流石はルオウさんやで。
「余計なことはするなって」
「……もう、一応は出撃の用意はしておきましょう」
真心籠めた救援の申し出は断られた。
誠にもって遺憾であるが、これも彼らが選択した事。
俺は生暖かい眼差しで戦いをなんとなく見守るだろうな。
◆◆◆ ルオウ ◆◆◆
あの野郎、煽ってきやがって! 帰ったらただじゃ済まさねぇ!
怒りでぐんぐんと力が湧きだしてきやがる。それに呼応するかのようにオラインのやつが出力を上げてきやがった。
慣らしが済んでもいねぇってのに無茶苦茶だぜ、こいつは。
「へへ……面白くなってきやがった!」
この程度でビビっていたんじゃDチームを名乗れねぇ。出鱈目が形になったのが俺たちだ。そいつを、あの不格好野郎に教えてやろうじゃねぇか。
「おい! ズーイ! モヴァエ! 仕掛けるぞっ!」
『あぁ? クロヒメの嬢ちゃんの獲物じゃねぇのか?』
「ここは戦場だ! んなことなんざ知るかっ!」
『あ~あ、俺は知らねぇぞ?』
ズーイはまだ火が入っていないのか冷静だった。
俺に呆れたのはモヴァエのやつだ。それでも、あいつは俺以上にやる気だ。
「構うこたぁねぇ。文句があるなら掛かって来いって話しよ」
『仲良いな、おまえら』
「あれが突っかかって来るだけだろ」
オラインを不格好野郎に突撃させる。圧に押し潰されそうになるほどの加速力は、実のところまだ全速力ではない。とんだじゃじゃ馬だ。
「うぬぅっ……っしゃあっ!」
鬣のレーザーブレードで切り裂く。
桃力とやらを常に纏っていろ、というのはこの鬼という存在にダメージを与えるのに必要不可欠だからという。
しかし、こうも高速再生する相手にこの程度の力でどうにかなるものか。
『うぇあっ!』
クロヒメの赤く輝く一撃が不格好野郎に炸裂する。あれの一撃でも頭部が丸ごと破壊されるが瞬く間に再生していった。
『おいおい、鼬ごっこだぜ』
『なんなんだよ、あれ』
「知るか! 再生するってんなら、再生したくなくなるまで叩き潰す!」
今も昔も、この手のタイプはそれに限る。
肉体は再生しても、精神はどこまで持つか試してやろうじゃねぇか。
「おらぁっ! テールキャノンっ!」
オラインの尾の先に搭載された光素砲からピンク色の光線が放たれる。桃力入りの極太の光線だ。
それは不格好野郎の右肩をふっ飛ばす。
『いやはや、無駄な事を。私はね、不死の力を手に入れたんですよ』
「なぁにが不死だ! どうせパチモンの力だろうがっ!」
続けてズーイのドリルミサイルが不格好野郎の足の何本かを千切り飛ばす。
しかし倒れない。あれだけ足があれば他が補うから当然か。
『ちっ、部位破壊はあまり意味がねぇな』
そしてモヴァエは……何故か威嚇するに留まっていた。
『ちょーっ!? 前が見えないっ!』
『ふきゅおーん』
何をやっているんだ、あいつは。
『ちょっと! あなたたちっ! RGHは私の獲物よっ!』
「るせぇ! 早い者勝ちだ!」
『きーっ! 覚えておきなさいよ、ルオウ!』
「はん、女のたわごとなんざ、直ぐに忘れちまうな!」
クロヒメのやつが獲物を渡すまいとラッシュをかける。
だが、結果は同じ。瞬く間に再生を果たし反撃をしてきた。
あれを潰すには特大級の一撃を喰らわせてやる必要がある。
それならばBチームの火力を一点に集中させる必要があるか。
だが……この戦況、どこかで手を緩めれば一つ目小僧たちがなだれ込んでくる。
さぁて、どうしたものか。




