419食目 それは精霊戦機
なんだ、何が起こった。
このくそ硬い一つ目小僧を一撃で葬れる火力を備えている機体は限られているはず。
Bチームの誰か? それともアストロイの援護射撃?
いや、この感覚はそのいずれでもない。
急ぎムセル兄ちゃんを起き上がらせる。
直ちに周囲の気配を探る、と大きな気配を感じた。
それはアストロイのすぐ傍。
「あ、あれはっ」
「あい~ん!」
俺たちは驚愕した。
そこには下半身が無い巨大な戦機が、ふよふよと浮かびながら十本ある手の指先から光素砲をぶっ放しているではないか。
その威力は圧倒的。赤黒く染まった一つ目小僧たちを紙切れのように破壊してゆく。
とんでもない破壊力だ。
「その機体……エリンちゃんかっ!?」
『うんっ、未完成だけど……これくらいは手伝えるからっ』
緑をベースとした女性的なシルエットを持つ精霊戦機エリン。
その周囲には沢山の精霊たちが飛び交い、機体の力を余すことなく引き出させている。
恐らく、あの精霊たちはそれだけではあるまい。
あのサイズの機体を浮かせるには風の精霊たちだけではダメだ。
輝く粒子を纏いながら舞い踊るかのように一つ目小僧たちを駆逐してゆく精霊戦機。
仮に足があったなら、更に破壊力は加速したであろう。
間違いなくトップクラスの攻撃力。
でも、動きが危なっかしい。
下半身が無いが故の不安定さも、それに拍車をかけている。
「助かった! ありがとなんだぜっ!」
『どういたしましてっ。さぁ、サボっていた分、戦うよっ』
大いに張り切るエリンちゃんはガンガンと光素砲をバラ撒く。
よくよく見たら機体のありとあらゆる個所から光素砲やビーム砲がばら撒かれているではないか。
これはもしかしなくても移動要塞みたいな感じになっている?
『うわわっ! ちょーっ!? 当たる、当たるっ!』
『大丈夫だよっ、曲がるから』
クロヒメさんに迫っていた光素砲が90度にカクっと曲がり再び直角に曲がって一つ目小僧に命中。
いったいなんじゃそりゃ、と確認してみれば光の精霊がドヤ顔を炸裂させていたという。
恐らくは光素を反射させたのだろう。二匹の光の精霊がその証だ。
「割と無茶苦茶だな」
『……精霊戦機なんて無茶苦茶の塊でしょ』
「返す言葉も無いんだぜ」
ヒュリティアにツッコまれて言葉を失いましたが俺は元気です。
でもエリンちゃんの参戦で停滞していた突撃が再前進。徐々に憎怨に近付いて行く。
「物陰に気を付けてっ」
奥に進むにつれてビルの残骸が視界を塞ぐ。
ここからの奇襲が厄介。隠れていると思ったら隠れてないし、隠れてないと思ったらちゃっかりいるなんてことが頻発して精神がゴリゴリと削れてゆきますよ。
いつものエルティナイトであれば纏めてドカーンだけど、今は対策されているからなぁ。
『予定距離です。Aチーム帰艦してください』
「了解なんだぜ」
ここでアストロイの連絡が入る。どうやら、予定距離に到達、Bチームとの交代時間となったもようで。
『わたしはこのまま、Bチームに参加するね』
「無茶しないようになっ」
『うんっ』
エリンちゃんはそのままBチームのアシストに回るらしい。
Bチームは攻守ともにバランスが取れているのでエリンちゃんも攻撃に専念できるはず。
いやぁ、ぽっちゃり姉貴の肉盾がすんばらしぃ。
何をどう足掻いても瞬く間に再生しちゃうとか絶望がマッハでしょう。
「でも、アレを憎怨もやってくるだろうな」
「……間違いないわね。ダメージを蓄積させるとかは考えない方がいいかもしれないわ」
スポーツドリンクをずびびと補給しつつ、最後の休憩タイムを最大限に活かす。
もう緊張で汗だくなのだが、ここでちょいと裏技。
ミニヤドカリ君を召喚し、汗を喰ってもらう事によって不快感を除去する。
「流石ヤドカリ君。紳士は格が違った」
「……こっちもお願い」
結局は全員分お願いすることに。一人、面倒を見ると連鎖するからね。
さて戦況はこちらが優位。
着実に憎怨へと進攻中なのだが、ここで俺の嫌な予感センサーに感あり。
強力な鬼の反応を認める。
撃破されたと聞いていた鬼の四天王でも再生させたか。
でも、憎怨はその更に上を行く事をやってきたのだ。
「なんというか……」
「……芸が無いわね」
なんという事でしょう、四天王を無理矢理融合させた不格好な鬼を送り込んできたではありませんか。
もうデザイン性なんてガン無視の良く分からない戦鬼でございます。
無茶苦茶な数の腕と無数の頭。ヤケクソ気味の足に女の乳房とケツ。
おまえはいったい何をしたいんだ、と確実にツッコミを入れてしまうであろうそれが、出鱈目な悲鳴を上げながら、鬼力を撒き散らし始めた。
「いぃぃぃぃぃぃっ、ひっひっひっひっ! いやぁ、素晴らしいですねぇ!」
まさかのパイロット付きでした。
でも、この声に露骨に反応する者がいたではないか。
「クロヒメさんっ!?」
「あいつだっ! RGHっ! あいつ……鬼と手を組んでいたんだわ!」
ニャングラップラーへと乗り込み、強引に戦場へと飛び出すクロヒメさん。
確かRHGだったか?
クロヒメさんが敗北した因縁の相手だ。
だからといって、ルール無用でヒャッハーはよろしくない。
それに相手は鬼に魂を売っている。まともに相手をしてやる価値も無い男だ。
「……まって、エルドティーネ」
「ヒュリティアっ、でもっ」
「……いろいろと雑念があったら想いが纏まらないわ。好きにやらせましょう」
「わぁお、相変わらず厳しいっ」
でも、実のところヒュリティアの言う通りだったり。
それに決着を付けられない悔しさは、ついさっき経験したばかりだ。
あの不格好な鬼の中に見える阿修羅戦鬼の腕。実に見るに堪えない。
本来ならヒャッハーしていたのは俺の方なのではなかろうか。
「……我慢って辛いわね」
「ほんとになぁ」
本来、精霊戦隊は自由でなんぼのチームなのだ。
この戦いが終わったら、また自由に世界に羽ばたこう。
「……エルドティーネ。ルナ・エルティナイトに合体しておきましょう」
「ふきゅん、そうだな」
「……この状態で竜信変化をしたら、きっと新たな段階へと進む。心構えは持っておいてね」
「分かったんだぜ」
ドラゴン・エルティナイトでも憎怨は圧倒できなかった。
でも、これはある程度、分かっていた事。
分かっていたとはいえ、ショックだったのも本当の事でございます。
「……ザイン、最後の出撃はあなたもエルティナイトの中に」
「承知。いよいよでござりますな」
「……えぇ、前世からの因果に終止符を打つ。その為に酒吞童子が二つに分かれたのでしょうから」
それだ。何故、酒呑童子は二つに分かれたんだ? おかしな話だ。
疑問を確かめるべく、この時間を利用して質問する。
すると、彼女の推測を聞く事ができた。
「……たぶん、邪魔になったんでしょうね。未練が」
「未練?」
「……もう知っているとは思うけど、酒呑童子は憎怨と同じ存在。そして、異世界カーンテヒルの女神マイアスでもあった。でも、彼女の目的はあくまで我が子である創世神カーンテヒルと再び出会う事だった」
「僅かな時間のずれで叶わなかったって聞いているんだぜ」
「……そう、彼女は自分が生み出した天使によって次元の放浪者となってしまった。それでも、諦めきれなかったんでしょうね」
「もしかしなくても?」
「……生きるために無数の人格を形成したのだと思うわ。それを統廃合して邪魔なものを消していった。そして、残った二つの人格が戦い、憎怨が勝利した」
「つまり、酒吞童子は女神マイアス?」
「……どうかしらね? 統廃合していたら、記憶がごちゃごちゃになってるだろうし」
「可哀想なんだぜ」
自分が何者か分からない恐怖は俺も良く知っている。
常に酒を飲んでいるのは単に好きだから、だけではなさそうだ。
「記憶を失ってるって本当かな?」
「……半分は本当、半分は嘘といったところね。直接聞いてみれば良いわ」
「えっ?」
ぺたぺた、と素足の音が近づいてくる。
振り向けば、そこには飲兵衛の少女の姿があった。




