表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/501

41食目 桃スペシャル

「おいぃ! こっちを見ろぉ! このへなちょこバードどもっ!」


 言葉が通じるかどうか分からないが、俺は外部スピーカーを使用して大鷲どもを挑発する。

 そして、ホビーブリギルトに奇妙なポージングをさせて連中に告げるのだ。


「このホビーブリギルトは、ブリギルト界前人未到の凄い盾、だからお前らには砕けない砕きにくいっ! この盾を恐れぬのなら、掛かってこい!」


 どうやら、俺の一流の挑発は効果があったもよう。

 ものすっごい勢いで大鷲どもが攻撃してきた。


「唯一無二の盾っ!」


 これに対し、俺は【多重魔法障壁】で対応。

 魔法障壁を連続展開させて耐久力のある障壁を作り出す。


 当然ながら、消費する魔力というか光素というかがマッハで消えてゆく。


 誰か助けてっ!


『……当たれっ!』


 ヒュリティアの次弾が火を噴く……がダメっ! 強固な装甲に阻まれるっ!


「鳥さんの癖にクッソかてぇな」

『……ちっ、この銃が貧弱すぎるのよ』


 彼女の舌打ちの音が聞こえた。これは、相当におこですぞっ!


 撃ってダメなら、打ってみろ。そんなことわざがあってもいい。

 てなわけで、魔法障壁を【変形】させて拳を作る。


「うおしゃあっ!」


 で殴りつける。


 青白く輝く巨大な拳は大鷲の一機を捕らえ地面に叩き付けた。


『……ナイスっ』


 地面に叩き付けられて弱っている大鷲に容赦なく弾丸を見舞う銀閃様素敵。

 これで、残すはあと一機。


 しかし、形勢不利を悟った大鷲は恥ずかしげもなく逃走を選択。

 これでは挑発も通用しないだろう。


 だが、アレを逃がしてしまっては作戦そのものが失敗に終わってしまう。

 絶対に逃すわけにはいかない。


『……エルっ! アレを逃がすわけにはいかないっ!』

「分かってる! でも、どうすれば……」


 その時、電流走るっ!


 俺の中の古き記憶っ! その中に答えはあった!


「う、おぉぉぉぉぉぉぉっ! 桃力ぁっ!」


 ホビーブリギルトの手の内に大いなる桃色の輝きが顕現する。

 それはやがて、一つの巨大な果実へと至った。


「もうこれしかない! いくぞっ、桃先生!」


 ホビーブリギルトの手の内に出現した桃先生を握り締め、大きく振りかぶる。


『……エル! それはっ!?』

「桃スペシャル! スクリュー! ピーチ! クラッシャァァァァッ!」


 手の内の桃先生に螺旋の力が生じた。

 それを、逃げる大鷲に向かって投げつける。


 桃先生がホビーブリギルトの手から離れた瞬間、恐ろしいほどの破壊の力が生じ、機体を後方へと弾き飛ばしてしまう。


 その際に、俺のホビーブリギルトの右腕が全壊、各機能にも支障をきたす警告文がモニターいっぱいに表示された。


『……エルっ!』


 吹っ飛んだ俺のホビーブリギルトを受け止めたのはヒュリティアだ。

 ガシャンという金属音と振動、それは俺が助かったという証。


『……なんて無茶を! 桃力を纏わないで桃スペシャルを使ったらバラバラになってしまうでしょうにっ!』

「ま、マジかっ!?」


 初耳です。


 ひび割れたモニターに映る桃色の弾丸となった果実は、一瞬にして大鷲を捕らえる。

 そして、そのまま貫通し空へと消えていった。


 桃先生に貫通された大鷲は一瞬の溜めを作り、爆発することなく桃色の粒子となって消えてゆく。

 これが、桃先生の力。救済の力だ。


 相手を滅ぼすのではなく、次なる生のために魂を浄化する。

 しかし、大鷲に魂があったかどうかは不明だ。


「光の粒子に変わった……? 魂があるってことか?」

『……桃力の影響を受けている? でも、魂があった場合はきちんと爆ぜるわ』

「言われてみれば……いったい何なんだ、こいつらは」


 大鷲の残骸を回収するヒュリティア。

 俺のホビーブリギルトは色々とガタが来ているが、なんとか自走は可能なもよう。


『……帰りましょう。次の戦闘には耐えられないわ』

「そうだな、帰ろう」


 こうして、九死に一生っぽい経験をした俺たちは荒野を後にする。


 えぇ、借金が増えました。とほほ。






 グマプッカでエルティナイトを回収した俺たちは急いでキアンカへと帰還。

 その足で戦機協会へ向かう。


 もちろん、ホビーブリギルトで撮影したデータは回収済みだ。

 あんな物を残しては大騒ぎになるからな。


 戦機協会キアンカ支部は戦機乗りでごった返していた。

 きっと、ルフベル支部長が集めた戦機乗りたちであろう。

 集う戦機たちも一癖も二癖もありそうな機体ばかりだ。


「クロヒメさん! ただいまっ!」

「おかえりなさい、エルティナさん、ヒュリティアさん。調査の方はどうでした?」


 彼女の問い掛けに、俺たちはブイサインをもって返答とする。

 瞬間、ロビーが騒めいた。


 同時にクロヒメさんの表情も、今まで見たことも無いような厳しいものへと変わった。


「そうですか……分かりました。こちらへ」


 それは、深緑の悪魔との決戦の始まりであった。




 応接間にはルフベル支部長の他に、ファケル兄貴、傷兄貴、眼帯兄貴、ペタン娘姉貴がいた。

 そして、スキンヘッド兄貴にモヒカン兄貴、ゴーグル兄貴にワイルド姉貴という、そうそうたる面子が揃っている。

 その中に、ふぁっきゅん元Eランク2位の男の姿。


「おぉん? なんでこいつがいるんだぁ?」

「ふん、ルフベル支部長直々の申し出があったから来てやったんだ」

「おいおい、もめごとは後にしてくれ。戦力という戦力を掻き集めたんだからな」


 それにしたって、ロキリズまで呼ぶことはないだろうに。

 だがまぁ、なんとしても機獣どもの基地を墜とす、というルフベル支部長の意気込みは伝わってくる。


「足を引っ張るんじゃないぞぉ」

「それはこっちのセリフだ」

「「むきぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」」


 額を合わせて大人げなく威嚇し合う俺たちに、ヒュリティアは肩を竦めて呆れた。


「……仲が良いわね」

「「良くないっ!」」


 何もかもが噛み合わない。

 俺の直感が語る、こいつだけはダメだ、と。


「「ふんっ!」」


 俺とロキリズが同時にそっぽを向いたところで、機獣の基地の説明となった。


「おっと、その前に……入ってくれ」


 応接間の奥のドアが開き、中から長い甘栗色の髪を三つ編みにしたぽっちゃり少女が、のっしのっし、と登場したではないか。


「げぇっ!? ヨコヅナッ!」

「どすこーい! って何言わせんねん!」


 その体型に見合わない恐るべき速度のツッコミが俺に炸裂する。

 というか、俺の【ヨコヅナ】の言葉に反応した時点で、彼女が転生者であることを把握した。


 やっぱ、条件反射による、ボケからのツッコミは我慢できないんやなって。


「たはー、やってもうたわ」

「ルフベルさん、この愉快なお姉ちゃんは何者だぁ?」


 ショックを隠し切れないぽっちゃりガールは華麗にスルーし、ルフベル支部長に説明を求める。

 すると、呆気に取られていたルフベル支部長が再起動した。


「あ、あぁ、彼女はナイトクラス27位、【滅振】のグリオネだ」


 ナイトクラス、その言葉が出た瞬間、ピンと空気が張り詰めた感じがした。

 ファケル兄貴たちも、雲の上の存在に緊張を隠せないもよう。


 だが、この俺は違う。

 格の違いというものを見せてやろう。


「ぽっちゃり姉貴、座って!」

「え? あぁ、うん。これでええか?」


 ぽっちゃり姉貴がソファーに腰かけた。

 ずぶずぶ、沈む彼女の巨大なケツはソファーを虐待しているようにしか見えない。

 俺はそこに追い打ちをかけた。


「ふきゅん」


 そう、俺はぽっちゃり姉貴の膝の上におっちゃんこし、ファケル兄貴たちに向かいドヤ顔を炸裂させたのであるっ!

 それと同時に、どちらの方が格上であるかをぽっちゃり姉貴に知らしめる、という隙の無い二段構えっ!


 ふっきゅんきゅんきゅん! 完璧だっ!


 すっ……。


「あっ」


 だが、ここで誤算っ!

 あろうことか、クロヒメさんが俺を奪取し、自分の膝の上へと戻してしまったではないかっ!


 なんたる不覚っ! あわよくばナイトクラスの称号までもが丸っと転がり込んだはずなのにっ!


「エルティナさん、流石にナイトクラスの方に失礼でしょう?」

「あぁ、うちは構わへんで。軽ぅし、柔らこぉうて寧ろウェルカ……ひえっ」


 しばしの沈黙の後、ルフベルさんが話を再開した。

 この暫しの間に、何が起こったのであろうか。


 俺は、ぽっちゃり姉貴の顔面が引き攣ったのを見ただけである。

 そして、クロヒメさんは何も答えてくれない。

 ただ、笑みを見せるだけである。


「……エル、世の中には知らない方が良い事もあるの。いいわね?」

「お、おう」


 全ての真相は闇の中に葬られた。

 俺はただ、クロヒメさんの膝の上で「ふきゅん」と鳴く事を強いられたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] そんな手段でナイトになろうとは汚い、さすが珍獣汚い。 そんなことではナイトではなくニンジャになってしまうゾ。
[良い点] >だからお前らには砕けない砕きにくいっ! 一行で矛盾するの好き。 >手の内の桃先生に螺旋の力が生じた。 らs…いや、よそう、俺の勝手な推測でみんなを混乱させたくない…(MST) >額を…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ