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414食目 貫く想い

 ◆◆◆ レオン ◆◆◆



 銀閃の地獄のトレーニングは効果があったようだ。

 ナイトランカー達ですら、瞬く間に仕留める事ができたのだ。


 アリーナを後にしてから幾度か実戦の場に出た。

 でも、それらは僕が知る戦場じゃなく、不可思議な力が満ちた空前絶後の異空間。

 常識が非常識に成り果てる場面を幾度と目の当たりにし、普通ではいられない事を強く認識した。


 そう……僕は変わらなくてはならなかった。

 この不思議に対応するために。


 でも、耳を澄ませば、ほら―――ずっと僕に語り続けてくれた者たちが傍にいたんだ。


「それじゃあ、勝ちに行こうか」

『てっつー』『てっつー』『てっつー』『てっつー』『てっつー』


 うん、多い。


 いずこからより湧いて出てくる精霊戦隊のぷち鉄の精霊たち。

 彼らが宿り木を失った後、どうやらホワイトプリンスを一時的な仮住まいとしていたらしい。

 そうこうしている内に、こんなにも小さな精霊たちで埋め尽くされてしまったもようで。


 また、僕が彼らの姿が見えなかったことも都合が良かったのだろう。

 でも見えてしまうと賑やか過ぎて大変だったりする。

 基本的に精霊は自由だから。


 でも、独りではない、という心強さは武器になる。

 それを、独りぼっちの彼に教えてやろう。


『レオンっ! また俺の邪魔をするかっ!』

「あなたが、あなたの事しか考えていない限りっ!」

『この親不孝者めっ!』

「なんとでも言っていただこう! 僕は、僕の信念を変えはしないっ!」


 迷わない。僕は貫く心を教えられた。


 ホワイトプリンスに引き金を引かせる。

 ライフル銃から黄金色の光線が放たれる。


 いや、おかしいな。確かこれはビームライフルだったような。


『この俺に光素ライフルだとっ!? 手加減のつもりかっ!』


 いや、そうではない。何かがおかしい。

 この子たちが何かをしている線は……無いな。鉄の精霊だし。


 ライフルのパラメーターにおかしな点はない。

 しっかりとビームライフルと表記されている。


 では、あの黄金色の光線はなんだ。


『おまえが俺の邪魔をするというのであれば、もう息子とは思わんっ!』

「それも僕は、息子としてあなたを止める!」

『おまえが、俺を倒せるものかよっ!』


 センオウが動いた。背部大型スラスターを用いた高速戦闘。

 見た目の重厚さは見せかけで、全身がスラスターの集合体。

 どの位置、角度、距離からでも一気に詰め寄ってくる変幻自在の戦法。

 武装も内蔵兵器のため、初見では把握できないまま撃破されるだろう。


 でも、これまでの実戦ではそれが当たり前。それにより、僕は多くの事を学んだ。

 そして、理解したことがある。最も重要な事だ。


 それは、自分の直感を信じろ、ということ。


『てっつー!』

「来るっ!」


 高速接近からの無防備な姿。センオウが腹部を曝け出している。

 確実な機会―――でも、僕の直感は回避を選択する。


 ホワイトプリンスに回避行動を取らせる。直後に拡散ビームが撒き散らされた。


『何……!? これを知っていただとっ!?』


 驚愕するキングだけど、僕だって驚いている。

 事前に調べた情報に腹部拡散ビーム砲は存在していなかった。

 これはつまり、センオウは内部搭載兵器を変更できる、という事だ。


 事前に調べ上げたデータは、ほぼ役に立たない。自分の直感が頼りになる。


 これに僕は思わず苦笑いをした。

 なんだ、いつも通りじゃないか、と。


「やっぱり、精霊戦隊に付いて行った僕の直感は正しかった」

『てっつー』


 小さな精霊たちも「そうだね」と僕の決断を肯定してくれた。

 彼らも自分の意思で彼らに付いて行ったのだろう。

 言わば僕と彼らは同士なのだ。


 目的は違えども、僕らは確かに繋がっている。


 あぁ、簡単な事だったんだ。精霊と手を取り合う事なんて。

 難しく考える必要はないんだ。


 もっと楽に、そして単純に物事を見て、耳を傾ける。

 戦場では瞬きすら致命的になるだろう。


 でも、勇気をもって一度、この瞼を閉じよう。

 そして、期待を持って瞼を上げよう。


 ほら―――戦場の光景は一変するよ。



「僕らは一人じゃない。父さん、あなたは気付いていないだけだ」


 センオウを護るかのように沢山の精霊たちが纏わりついている。

 彼らはセンオウの中に入りこもうとしている沢山の黒い影と戦っていた。


 それは間違いなく――――憎怨の昏い意志だ。


『きづいてくれた』

『てつだって』

『てつだって』

『らおらむ、たすけたい』

『ずっと、いっしょだった』

『いっしょにいたい』


 もちろんさ。


 彼らはきっと、父と一緒に育った精霊たち。

 見た感じ、全ての種類の精霊たちが父に寄り添っている。

 彼は見えなかったのだろうか。


 いや、違うな。

 見えなかったんじゃないと思う。

 見えない振りをしたのだと思う。


 こんなにも精霊たちに慕われて、見えない振りをされていたにもかかわらず、彼らは決して父を見放さなかった。

 それは、彼に、それだけの愛情を抱いているからだ。


 ならば、気付かせよう。

 僕らは精霊たちと手を取り合ってゆける。


 決して一人ではない事を―――!


『俺の邪魔をするなっ! 俺はっ! 俺はっ! キングなんだぞ!』

「ならば、自分を慕う者たちの存在に気付けっ! 貴方には聞こえるはずだ!」


 センオウの背部コンテナから無数の誘導ミサイル。

 でも正確無比な抹殺者達は、あらぬ方向へと飛び去ってゆく。


『な、何っ!? ジャマーかっ!?』

「ホワイトプリンスに、そんな物は搭載してないよ」


 ぷち鉄の精霊たちがミサイルを乗っ取ってレーダーを無効化してくれた。

 そうすればミサイルも真っ直ぐ飛ぶことしかできない爆弾と化す。


『ならばっ!』


 センオウが右腕を向けてきた。その手の内にはビーム砲。

 僕に向かって放たれるビームはしかし、その手前で霧散する。


『ビームがっ!? どれだけのビームバリアを!?』

「バリアも搭載してないよ。父さん」

『俺を馬鹿にしているのかっ!? バリア無くしてセンオウの高出力ビーム砲を防げるわけが……』

「あなたは気付くべきだ。全てを取り巻く者たちに。あなたを愛し、信じ続ける者たちに」

『―――っ! だ、黙れっ!』


 やはり、聞こえている。見えている。

 なのに何故、貴方は目を逸らすんだ。


「勇気を出してくれっ! 父さんっ!」

『黙れと言っているっ! おまえに、この恐怖が分かるかっ!』


 センオウから黒い靄が一気に飛び出た。

 見間違いじゃない、あれは今までの僕なら絶対に見えなかったもの。


 負の感情、桃使い的に言い表すなら陰の力。

 僕は桃使いではない。だから、陽の力とやらを扱えない。


 でも、あれが見えるというなら……僕が全部吐き出させる!

 全部、余すことなく吐き出させる!


「精霊たちは敵じゃないっ!」

『誰も信じてはくれないっ! 目を! 耳を! 塞ぐしかないのだ!』


 あぁ、なんてドス黒い靄だ。

 あまりに悲しく見えるそれに、父の悲しみを今更知る。


 あんなに傍にいたというのに、人間は気付けないものなのか。

 でも、見えるようになったからには、もう僕は彼を見放さない。

 精霊たちがそうしてきたように。


「僕が信じる!」

『口だけだっ! 俺に近寄ってくる者たちは、俺の力だけを求めたっ!』

「だとしてもっ!」

『俺は、王でなくてはならない! キングでなければ価値がない!』

「違うっ!」

『だから……クーナも、おまえもっ! 俺から離れて行った!』


 特大の黒い靄が吐き出された。

 同時に僕の視界も歪む。


 あぁ、彼は誰よりも強く、でも繊細で、弱くて―――愛に飢えていたんだ。


『怖い、俺は怖いんだ! 失いたくないっ! だから……強くなくちゃいけないんだよ!』


 センオウが全ての武装を解放しようとしている。

 あれを解き放ってはいけない、という直感。

 ドス黒い想いが父の中にどんどん入り込んでいる。


『俺は……俺はぁぁぁぁぁぁっ!』

「父さんっ!? 精霊たちよっ! 僕に力を貸してくれっ!」


 一人では不可能でも。二人なら、三人なら……想いを共にする多くの者達とならっ。


 不可能も可能になる―――!


 戦場に漂う沢山の精霊たちがホワイトプリンスに、僕の中に入りこんできた。


 そうか、これがエルドティーネちゃんが諦めない理由。

 ようやくわかったよ。

 何故、精霊たちが人間に寄り添っているのか。


「ホワイトプリンス、全武装解除」


 もう、武器はいらない。必要ないんだ。

 こんな事で戦うこと自体が間違っている。


『俺は……俺は……独りで強くあらねばならないんだ! それが王だからっ!』


 父が内の憎悪を悲しみをセンオウの武装に載せて解き放つ。

 全周囲に対しての無差別攻撃。周囲に味方が居ない事が救いか。


「いくぞ……! 皆!」


 弾幕の嵐の中にホワイトプリンスを突っ込ませる。

 いくら精霊たちの力があろうとも、無傷で済むわけもなく、センオウに近付くにつれてホワイトプリンスは壊れて行った。


 コクピット内のコンソールが爆ぜ、メインモニターも半分が砂嵐の状態だ。

 でも、恐れない。僕は前へと進む。


 そこに救うべき家族がいるのだ。


『来るなっ!』

「今行くよ」


『やめろっ!』

「やめない」


 一層に攻撃が激しくなってゆく。

 ホワイトプリンスの左足が吹き飛んだ。

 背部スラスターで飛ぶ。


『やめろ……死ぬぞ!』

「僕は死なない」


『嘘だ! 皆そう言って俺の前からいなくなった!』

「もう、いなくならない」




 貴方を、そこから引きずり出すまでは―――!




 弾幕の嵐を乗り越えて、ホワイトプリンスはセンオウを両腕で抱きしめる。

 そのまま押し倒し攻撃を止めさせた。


『何故だ……何故なんだ? どうして俺を――――』

「家族だからだよ。父さん」

『……』

「どんなに憎かったからって、どんなに酷かったからって、僕らは家族なんだ」

『レオン……』

「何よりも、僕はあなたの心の悲鳴を聞いてしまった。幼い頃、あのまま、ずっとあなたの傍にいたら聞こえなかっただろう悲鳴を」


 センオウから戦う意思が消失した。

 同時に黒い靄が大量に吐き出され、やがて、それはピタリと止まった。


『……強くなったな』

「仲間がいたから。精霊たちが寄り添ってくれていたから」

『俺はいつから、彼らから目を逸らしたのだろうか。いつから、彼らの声を聞かなくなったのだろうか』

「今は聞こえているだずだ」

『あぁ……聞こえるとも。俺は弱い人間だった』


 父の嗚咽が聞こえる。


 ようやく彼は、最強という幻想から解き放たれたのだ。


 でも、その安息を邪魔する無粋な連中がいるもので。


「一つ目小僧かっ!」


 鬼が金槌を振り上げ僕らを叩き潰そうとする。

 でも、ホワイトプリンスは父を救うために満身創痍。

 もう動く事などできやしない。


『レオンっ! おまえら、頼むっ』


 センオウが右手を振り上げる。

 すると、そこから突風が生れ出て一つ目小僧を吹き飛ばしたではないか。


「父さん……」

『長い……長い悪夢を見ていた。おまえが、俺を目覚めさせてくれたんだ。ありがとう、息子よ』


 センオウはホワイトプリンスを優しく地面へと横たわらせる。

 やはり、ホワイトプリンスは操縦系統をやられたのかピクリとも動かない。

 迫る一つ目小僧の群れ。このままでは二人とも共倒れになるだろうか。


『息子をやらせはせん。やっと、やっとなのだ。俺たちは、これからなのだ!』

『えぇ、そうですとも』


 一つ目小僧の頭部が爆ぜた。狙撃だ。


「か、母さんっ!? ヒュリティアさんと一緒だったんじゃ!?」

『えぇ、そろそろだから行けって』

「はは、敵わないなぁ」


 長い間、離れ離れになっていた家族が一つになった。

 そこが戦場というのは実に皮肉な事で。


『ぶひぃ! 上手く行ったと聞いて!』

『クロナミ改、ただいま参上ですよ~』

「ク、クロナミっ!? なんでここにっ!?」

『ガンテツお爺さんが、火の精霊伝いに上手く行ったから行けって~』


 ニューパさんの操縦するクロナミ改がドリフトで一つ目小僧の群れを薙ぎ払った。

 可愛い顔をして無茶苦茶をする彼女は、相棒のクロナミが強化されてご機嫌だ。


 そんな戦艦を護衛するのはドープ。

 元ナイトランカーの彼は色々と性格に難はあるものの、その腕前は本物だ。


『ほらほら、そこの色男を運んでおくれ!』


 続いてアナスタシアさんからの指示が。

 どうやら事前に修理の準備をしてくれていたようで。


『了解した。クーナ』

『えぇ、貴方……お帰りなさい』

『あぁ、ただいま。クーナ』






 帰還後、ホワイトプリンスはリタイアだ、と告げられた。

 無理もない。機体が爆発しなかったのも精霊たちのお陰だったのだから。


 ついでに僕も骨の何本かをやっていたらしい。

 緊張が解けると度し難い痛みを感じ涙目になった。


「ゆっくり休め、レオン。あとは俺たちがやる」

「大丈夫よ。キングとクイーンを信じなさい」

「うん、信じている」


 父と母は、久しぶりに揃って戦場へと向かった。

 いつか見た後姿は眩しくて。


 貫き通す想い。

 きっと、これこそが憎怨の暗闇を貫き通す。


 僕はそう確信し、ベッドに身を横たわらせたのであった。


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― 新着の感想 ―
[一言] レキ「ところでレオンさんはよく呑まれなかったね」 レオ「母さんに色々釘さされたからね」 実況「もしここで裏切るようなことがあれば全世界に【ピーーーー】が放送されることとなりましたね」ウズウズ…
[一言] 和解する レオン「なんであんなに頑なに…」 キング「クイーンに小さいのが見えると言ったら 薬物検査とか精神鑑定とか受けさられて 見えちゃいけないモノと思ってたんだが…」 レオン「………」 ク…
[一言] キング奪還! まぁレオン君以外ではこうはいかなかったやろなぁ…というところなので素直に戻ってきてくれたのは当たり前だよなぁ?
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