413食目 キングとプリンス
◆◆◆ レオン ◆◆◆
見慣れたコクピットの中で、僕はかつての事を思い出していた。
父に憧れ、己を鍛え、しかし、彼の本質を見てしまった幼い頃。
あの頃は本当に未熟だった。
正義を振りかざし、弱者を虐げる暴君に戦いを挑むのは必定だったのだろう。
自分こそが正義だと錯覚していたし、中途半端に強かった。だから獅子の尾を踏み殺されかけた。
そんな僕を殺そうとしたのは実の父親なのだが、母が密かに逃がしてくれたことによって今の僕はある。
僕は逃げ出した後、戦機乗りをしながら自分を見つめ直した。
僕には何が足りなかったのか。何故、負けてしまったのか。
それらを徹底的に洗い出し、一つずつ解決してゆく。
両親の元から逃げたのは十歳くらいだったはず。
その頃は神童とかもてはやされ、いい気になっていた。
それを粉々に粉砕してくれた父親には感謝しなくてはいけない。
「天才はいる……悔しいけどね」
尋常ならざる成長速度。そして鋼の精神。
僕は彼女に可能性を見た。それは、僕自身の可能性をも見つけさせた。
何年も掛けて探して、苦悩していた日々は何だったのか。
いや、違うな。
その苦悩があったからこそ、僕は彼女に出会ったのだろう。
僕に足りないもの、それらを全て持ったエルドティーネという少女に。
彼女の傍でしっかりと勉強させてもらった。
僕に足りなかった【貫く心】を。
どんな劣勢な環境に追い込まれても諦めないという心を。
そうだ、僕には覚悟が足りなかった。
逃げ道を作っていた。
そんな逃げ腰であの父親に……いや、自分自身の弱い心に打ち勝てるはずがない。
「さぁ、凡人が天才を超える姿を見せてやろうじゃないか……相棒」
ホワイトプリンス。アリーナが僕のために、と無駄に派手なカラーリングとデザインで建造した機体だ。
それはアリーナチャンピオンである僕を引き立てて、アリーナの収入を増やす目的があったものの、性能は当時の最高基準を満たしていた。
この機体を譲り受けた当初は眉を顰めたものである。流石に露骨すぎて笑えなかった。
だけど、五年もの間、アップデートしながら乗っていれば愛着が湧くし、何よりも相棒は素直だった。
僕の思った通りに動いてくれる。それでも、僕は彼にそれ以上を求めた。
これでは勝てないキングに勝てない、という脅迫概念が僕らを、ただの勝利製造マシンへと変貌させた。
それに違和感を覚えなくなった頃に、たまたま見た試合。
それはエルドティーネちゃんとレギガンダー君の運命の戦いだった。
それは試合ではなく、正しく戦いだった。
想いと想いとがぶつかり合う譲れない戦い。
僕に足りなかったものは間違いなくそれだ。
ただ感情をぶつけたところで格上に勝てるわけがない。
正直な話、機体性能、技量はレギガンター君のサイコ・ジャイアントの方が何十倍も上だったはずだ。
でも、勝利したのはエルドティーネちゃん。
確かに彼女の光素量は尋常ならざるものだが、それだって使いこなせなければ意味がない。
ただ持っているだけでは勝利には繋がらないのだ。
彼女はそれを用いて勝利を手繰り寄せる方法を本能で知っている。
だからこそ想いを貫ける。迷うことなく。
ホワイトプリンスをホバー移動させ脚部への負担を軽減する。
脚部への追加パーツであるホバークラフトカバーはおやっさんが考案したもので、これ自体に光素プロペラントタンクが備え付けられており、機体本体の光素が消費されることはない。
また、不要になった際は容易に切り離せる。
これで光素を温存することが可能になる優れものだが、戦闘の際は細やかな動きが阻害されるので、あくまで格下相手という条件付きでの戦闘となるだろう。
つまり、これは完全に移動用と考えた方がいいわけだ。
「いた……! やはり、彼女の狙い通りか!」
白と金色のライン。
王を意識して建造させたキングの戦機【センオウ】。
力の信奉者……いや、亡者と言った方がいいか。
元ナイトランカー1位の男が数機の戦機を率いて帝都への侵入を試みている。
モモガーディアンズに参加しておきながら、自分勝手をしているキングをエルドティーネちゃんは好きなようにさせていた。
それは彼の人となりを調べるためだったのだろう。
でも、予想通り彼女の興味は早い段階で消失していた。
それを汲み取ったガンテツ老は、恐らくキングを消す方針を固めていたのだろう。
彼は思慮深い性格であるが、動く際は烈火のごとき容赦の無さだ。
だから、そこが僕にとっての最後のチャンスになる事は間違いなかった。
説得を重ね、キングを倒す機会を譲ってもらう。
僕が駄目だった場合は、ガンテツ老がキングを消す算段になっている。
それについては不満はない。
あとは僕次第という事だから。
「仕掛けるぞ、相棒。あの時果たせなかった願いを……今果たす!」
力に囚われた者は、力によってのみ解放される。
いつか見せたあなたの優しい顔は、絶対に偽りなんかじゃない。
僕はそれを信じている。
だからこそ、母は僕に託したのだ。
「まずは……取り巻きをっ!」
背負ったスナイパーライフルを装備。弾薬は六発。
取り巻きも六機。全て一撃で仕留める。
銀閃の課した地獄のような特訓は伊達じゃない!
◆◆◆ キング【本名・ラオラム】 ◆◆◆
あぁ、また声が聞こえる。
誰も信じてはくれない者たちの囁き声。
誰も信じない、誰も―――――だから耳を塞ごう。
いや、そんな事よりもだ。いよいよ、この時が来た。
これは天啓だ。俺が宇宙最強になれとの。
そうとも、呼んでいるのだ。他ならぬ憎怨が。
俺の野望に協力してくれるというのだ。
最強になれば何も恐れる事は無い。
何も失う事は無い。
金も、地位も、信用も、愛だって失うことが無いのだ。
失うのは俺が弱かったからだ。強くなれば全てを取り戻せる。
キングの称号は俺に安息をもたらさなかった。
血の小便を流してまで手に入れた地位は、俺から家族を奪った。
何故だ!? 俺は強くなったはずじゃなかったのか! 何故、失うっ!?
「あぁ……そうともさ。まだ俺が弱いからだ。強くなりゃあ、クーナだって、息子だって……」
帰ってくる。全部だ。全部帰ってくるはずだ。
俺の下に、家族が。
だから……力を! 俺に力を!
―――力が欲しいか?
欲しい。誰にも負けない力が。
―――ならば、早く来るのだ。我の下に。欲の権化よ。いと香しき魂よ。
あぁ、また聞こえた。蕩けるかのような囁き声が。
彼女なら、俺を理解してくれる。
だから、誰にも邪魔はさせない。誰にも。
彼女を取り込み、俺が絶対不変の王となる。
誰も俺には逆らえなくなるんだ。
絶対的な力は愚者を抑えつける抑止力になる。
そうさ、俺こそが、この世に永久の平穏を与える者になるのだ。
爆発音っ―――! 弾除けが一つ駄目になっただとっ!?
続けて、もう一つ駄目になった。
確かにこいつらは俺の弾除けではあるが、しっかりと吟味して連れてきたナイトランカーだ。
そんな連中を仕留める、となると相当の手練れという事になる。
『キング! あの白い機体は……う、うわぁぁぁ……ザ―――』
「あの機体は……アリーナチャンピオンのっ!?」
何故、ヤツがここにいる!? しかも単機だと!?
このキングを相手にっ! なんという不快っ! 許し難いっ!
「お遊びチャンピオンに何を手こずっているか! 早く始末しろ!」
『はっ!』
残り四機だが、内二機は下位とはいえパラディン。
アリーナという微温湯に浸かっている若造では手も足も出まい。
そのまま、こそこそしながら戦っていれば、まだ勝利の芽はあったものを。
『回り込んでかこ……ザ―――――』
『なっ……ザ―――――』
『こ、こいつのうご……がぁぁぁぁぁ! ザ――――』
『キ、キング様っ! たすっ……ザ―――』
なんだと……ナイトランカーが一分も持たないだとっ!? あり得んっ!
線の細い白い機体がスナイパーライフルを捨てる。
そして背負った楕円形の盾とライフルを構えた。
ヤツの闘気が俺に向けられる。迷いのない純粋なそれに、俺の体が震える。
これは……久しく感じていなかった喜びか。
『久しぶり、とでも言えばいいのかな?』
「何?」
『あの時、果たせなかった想いを果たしに来たよ』
「――――っ!」
何故、ここにいるっ!
おまえが……おまえがホワイトロードだというのかっ!?
『父さん』
「レオンっ!」
何故だっ! どうしてっ!?
どうして俺に戦いを挑むっ! 我が子よっ! そのまま隠れていれば、俺は最強となって、おまえを迎えにっ!
否応なしに戦いの口火は切って落とされる。
それは、あの日の戦いの再現でもしているかのようだった。
俺の悪夢は、まだ終わらない。




