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412食目 鬼の戦いは混沌が深まる。

「なんてことっ! 早く助けなくてはっ!」

「放っておけ」


 でも、虎さんは非情にも彼女らを見捨てる選択を取る。

 幾ら鬼だからと言って、それはあんまりなのではなかろうか。


「あいつらの方が、よっぽど質が悪い。見ろよ、自称四天王どもの勝ち誇った顔を。あれを真逆にしてやろうと企んでるのさ」

「えぇっ? でも、逆転の芽なんて一切無い状況じゃないですかっ」

「それをひっくり返すのが面白れぇんだろうが」


 勝ち誇る戦鬼たちはアインリールの残骸を踏み潰し、こちらに向き直る。

 そして摘まみ上げた少女をこちらに突き付けたではないか。


「ふはは! 口ほどにもない! これが、かつての鬼の大将とはな!」

「それにしても炎戦鬼も情けない! 何が一人でやるだ!」

「そうとも! 意地を張るから負けるのだ!」

「我らが手を取り合えば、このように負ける事も無いのだ!」


 言っている事は正しいのだが、素直に肯定することはできない。

 そして、彼らが行っている事は脅迫だ。


「こいつの命が惜しくば機体を捨てろ!」

「肉体を、魂を我らに捧げよ!」

「あひゃひゃっ、ささげよ~」


 ちょっと、酒吞童子ちゃん? きみはどっち側なのかな?


「惜しくねぇからプチっとやっちまえ」

「ちょ―――虎さんっ?」

「出来ねぇなら、纏めて潰してやる」

「ハッタリを」


 ぐしゃっ。


 虎さんは、酒吞童子ちゃんを摘まみ上げていた氷の戦鬼を炎の拳で叩き潰してしまいました。

 そのような事をすれば酒吞童子ちゃんも無事ではなく、地面に叩き付けられ赤い染みを。


「ひゃあっ!?」

「この程度でいちいち可愛らしい声で鳴くな。ベッドの上だけにしろ」

「で、でもっ」

「おらっ、いつまで死んだふりをしてんだ。俺が残りも食っちまうぞ」


 虎さんの脅迫? に舌打ちの音。戦鬼たちではない。

 氷の戦鬼は潰された部分を再生中だし、暴風の戦鬼は氷の戦鬼を庇っている。


 となると星熊さんか熊さんが生き残っている、ということか。


「せっかちだねぇ、虎熊は」

「そうだよ。ここからが面白いのにさ」

「うるせぇ、さっさと終わらせろ」

「またくもう。早漏は嫌われるよ? 鬼力、特性【巨】、あたしの鬼力は全てを巨大にする!」


 めりめり、メキメキと音を立てて巨大化してゆく星熊……全裸ぁぁぁぁぁぁっ!?

 それは拙いでしょっ!? いくら筋肉レディでもっ!


「おっと、これは拙い。鬼力【霧】。僕の鬼力は霧を生み出すってね」


 熊さんは鬼力で霧を生み出した。これで巨大星熊さんの股間が隠れてなんとか見るに耐えれる状態に。

 あ、だめだ。お尻の穴が……。


 というか、何十メートルあるのだろうか。戦鬼たちよりも大きいから軽く7~80メートルくらいはあるだろうか。

 比較するとマネックが小動物に見えてしまうほどの差だ。


「な、なんだそれはっ!? ふざけるなっ!」

「ふざけてなんていないさ。けど、あたしがこの状態になったら楽しめないんだよね」


 一方的になるから、との言葉と共に鉄拳が暴風戦鬼の顔面に叩き込まれる。

 巨体にもかかわらず、目で追う事叶わないストレートパンチは、風の戦鬼に回避という行為すら許さなかった。

 砕け散る暴風戦鬼の頭部だが、それは瞬く間に消え去り、暴風となって元在った場所に集合し再生される。

 ただ破壊するだけでは対してダメージを与えられない、というわけだ。


「おやおや、これは楽しめそうだね」

「き、きさまっ!」

「暴風よ! だが相手は一人っ! 我らが力を合わせればっ!」

「おうよっ! いくぞ氷戦鬼!」


 暴風と氷の戦鬼が手を重ね、猛吹雪の竜巻を発生させた。

 恐るべき合わせ技に周囲で暴れていた鬼たちが凍り付き、強力な風でバラバラに砕け散ってゆく。


「あううっ!」

「ったく、後ろにいろ」


 虎さんが炎で保護してくれました。あったかぁい。

 でも、アクア君が「ばぶ~」と焼きもちを焼います。

 私を護るつもりだったのだろう。可愛い。


「そんなものが……あだだだだだっ!? ちょ―――股間の霧が凍って敏感な部分に刺さってんですけどっ!?」

「霧だからねぇ。そりゃあ、凍るさ」

「く、くまーっ!」

「ぎゃははははははははははははっ!」


 虎さん、大笑い。

 もう滅茶苦茶だ。これが鬼の四天王同士の戦いというものなのだろうか。


「面白いよねぇ。ひっく」

「……え?」


 背後から少女の声と酒気。

 座席の背後から伸びる白い手が私の乳房を揉む。


「うひひっ、やぁらかぁい。ひっく」

「しゅ、酒吞童子ちゃんっ!?」

「うぇ~い、わたしだよぉ」


 潰れたトマトのようになったはずの少女が、ありし頃の姿のまま、マネックのコクピットに。

 いや、それよりもどうやって入り込んだのだろうか。

 私は戦闘開始から一度もコクピットハッチを開けていないというのに。


「鬼力、特性【酒】~っ。私の鬼力は酒があれば何でもできるぅ」

「え? お酒っ? コクピットにお酒なんて……あったわ」

「うひひひっ、ボインさんも好きねぇ? ひっく」


 片付けるのを忘れていたらしい清酒の一升瓶。コクピットの後部に置いてあった物を利用し、そこから実体化した、と彼女は説明した。

 虎さんも霧化して入り込んでいたから、鬼にとって肉体を変化させるのはわけが無いのだろう。


 ただ、酒吞童子ちゃんの場合は特別で、酒さえあれば世界の裏であってもそこから発生できるらしい。

 つまり、彼女はお酒になる事が可能。水をお酒にすることすらできるとのこと。

 でも、度数が酷いので人間には飲めないらしい。残念。


「ば~ぶ~、ひっく」

「あ、アクア君?」

「あ~、ごめんね~。酔っぱらっちゃったぁ? ひっく。水と相性が良すぎるから、かってにお酒になっちゃうんだよねぇ」

「赤ちゃんが酔っぱらったぁっ!?」


 なんという事でしょう。アクア君は、この歳でお酒を知ってしまったのです。


「まぁ、大丈夫。水の精霊だしさ。帰ったら、お水を沢山飲ませてやって。アルコールを排出できるだろうしさぁ」

「まったくもう……赤ちゃんがお酒なんて早いんですよ」

「ばぶっく。きゃっ、きゃっ」


 ご機嫌なアクア君はきっと将来、大酒飲みになるでしょう。もぅ。


「それよりも、熊っちもやるみたいだよぉ。ひっく」

「え? 熊さんも巨大化するんですか?」

「しないよ。あの子は【そのまま】戦うでしょうね」

「いや、流石にそれは……って、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」


 160センチメートル程度の少女ともいえる熊さんが空を飛んでます。

 そして、手にしたライフル銃から桃色の光線をガンガン発射しているではありませんか。

 それは氷戦鬼の赤黒い防御膜を容易に貫き、彼の戦鬼に大ダメージを与えていた。


「熊さんのあれって……パワードスーツ?」

「似たようなもんだねぇ、うぃっく。【GDゴーレムドレス】っていう人間サイズの魔導装甲でさ。宇宙でも活動できるんだよ」

「む、無茶苦茶ですね。そんな技術、ここには存在しないですよ」

「そりゃあそうだよぉ。異世界の技術だもぉん。ひっく!」


 その技術、物凄く欲しいです。寧ろ、いただく。

 私の眼鏡がギラリと輝きます。その輝きに愛する息子と、鬼の総大将ちゃんがビクッとしましたが気にしない方向で。


「あはは、それ久しぶりに見たねぇ。終末の大戦以来?」

「GDデュランダだよ、星熊。そうだね……でも、これは正確に言うとあの時のやつじゃないよ。試作機の方を手直ししたやつだから」

「そっかー。あっちはぶっ飛んでたもんね」

「天翔ける弾薬庫、ってコンセプトだったからねぇ」


 はい、気になります。あとでガンガン飲ませて全部吐かせてあげましょう。

 大丈夫です、私は幾らでも飲めます。


 お酒に強い鬼? 私以上に強い方は見たことがありません。


「お、お手柔らかにねぇ? ひっく」

「酒吞童子ちゃん、私はいつでも優しいですよ? うふふ」

「え、笑顔が怖いっ!?」

「ばぶーっ!?」


 何故か悲鳴を上げられました。解せません。


 そんな事よりもGDです。アレは素晴らしい。もう、興奮しすぎて濡れます。

 きっと、アナスタシアさんや、おやっさんも同じ反応を示すでしょう。


 あぁ、なんという罪深いパワードスーツなのでしょうか。

 デザインもファーラのような破廉恥さがないですし、いかにも正統派の美少女ロボ的な感じで素敵すぎます。


 そして、搭載している武装がえげつないのもグッド。

 六つからなる遠隔操作砲台は攻防一体。高火力のビームの発射はもちろん、複数を連結させてバリアも展開できるなんて脳汁が溢れちゃいます。

 そして、ほぼ全身に姿勢制御用のスラスターが備わっている、とかもう堪りません。


「あっ、氷つぶてを透明の盾で防ぎましたよっ! 魔法障壁ですかっ!?」

「あれは、ビームシールドだねぇ。魔法じゃないよぉ。ひっく……ぐびぐび」


 なんという事でしょう、攻撃するためのビーム装置を防御に回すとか。そんな発想が思い付くだなんて、製作者は相当に柔軟な発想の持ち主だったのでしょう。

 是非ともお会いしたいところですが、GDは異世界の技術。お会いすることは叶わないのでしょうね。残念です。


「な、何故だっ!? こんな、豆粒のような奴にっ!」

「鬼力・陰式を使ってるのかい? 出し惜しみをしたら僕には勝てないよ?」

「ぐぬぬぬぬっ!」

「おやおや、もう使っていたのかな? 分からなかったよ。あ、ちなみに、僕の桃力の特性は【集】。全てを集める力さ。【散】との相性は最悪だろうね、んふふ」

「おのれっ! おのれっ!」


 どうやら氷戦鬼の鬼力の特性は【散】というものらしい。

 名からして散らす能力なのだろう。

 熊さんは【集】の能力で以ってそれを封じ込めてしまっている、というわけか。実にえげつない。


 氷戦鬼はもう蜂の巣のような状態になっている。

 再生に回す力が残っていないのか、それともほかの理由があるのだろうか。


「ダメだねぇ。昔やり合った金童子の方が遥かに強いよ」

「っ!? 四天王同士で殺し合いなどとっ!」

「仲良し過ぎたね、君らは。じゃ、一旦お別れだ。出直しといで」


 熊さんのライフル銃が氷戦鬼の胸部を貫く。

 崩壊してゆく氷の巨人。コクピットを貫き、氷戦鬼本人を仕留めたのだろう。


 でも、出直せ、と言ったのは彼女では退治ができないという事か。


「やっぱり前世とは違うねぇ。退治とまではいけないよ」

「そりゃあ、そうだ。殆どは【向こう】のおまえが持って行っちまってんだろ?」

「まぁね。んふふ、でも僕は隣に旦那が居れば、あとはどうでもいいんだよ」

「惚気やがって」

「今のきみに言われたくないねぇ」

「言ってろ」


 氷戦鬼は倒された。あとは暴風戦鬼だけなのだが……うんこれは酷い。


 裸の巨女とムキムキの戦鬼が激しいプロレスを繰り広げている。

 地上がリングだ、とかのキャッチフレーズが付いて、実況解説の彼女らが駆け付けそう。


『ああっと~! ここでコブラツイストが決まったぁぁぁぁぁぁっ!』

『これは効いてますよっ! 色々な意味でっ!』


 なんで居るの、あなた達。


 まさか本当に居るとは思いませんでした。取り敢えず現実から目を背けます。


「これで終わりだよっ」


 戦いは終盤に入ったようで、隙を突いた星熊さんが鼻血ダラダラな暴風戦鬼を奇妙な形でホールドし天高く跳躍。

 そのまま地上にお尻から落下する、という理解に困る技を炸裂させました。


「げぼっ! み……見事っ」


 大量の血反吐を撒き散らし大地という名のマットに沈む暴風戦鬼。


「ふぅ、強敵だったねぇ」


 やり切った感のある彼女ですが、大股を開いての着地では霧が役に立ってません。しかもツルツルなので丸見えです。

 私たちは何を見せられているのでしょうか。誰か教えてください。


 ここでゴング。勝敗が決したようです。

 誰が鳴らしているのでしょうか……カメラマンさんでした。彼も忙しいですね。


『ああっと! 決まったぁぁぁぁっ! これは伝説の【五処蹂躙固め】っ!』

『またの名を【ピー】【キン肉バスター】といいます』


 規制音が仕事をしていません。大丈夫なのでしょうか。

 まぁ、戦場での事故なので問題はない、という事にしておきましょう。


「おい、そこの。あとで録画回せ」


 虎さんがカメラマンさんにそう要求する、と彼は親指を立ててとてもいい笑顔を見せました。


 これって、全世界に星熊さんのあれが行き渡ったってことですよね。

 大丈夫かな……星熊さん。


 きっと、理解してないんだろうなぁ……あの笑顔。


 兎にも角にも、モモガーディアンズは新鬼の四天王を撃破。

 でも、エルドティーネちゃんが危惧していた阿修羅戦鬼は姿を見せていません。


 そのような心配をしたところで、ひときわ強い覇気のようなものを感じました。

 方角は帝都ザイガ、その入り口付近。


「ちっ……一番美味そうなのは、やはりあのチビの方に行ったか」

「エルドティーネちゃん……」


 激しいぶつかり合いの音は、彼女らの戦いのゴングだったのでしょう。

 混迷極まる戦場。私たちはアストロイに合流すべく、ここを後にするのでした。


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[良い点] やっぱりいるよ実況解説とカメラマン 実況「旦那を質にいれても観に行きたい試合がここにある」 解説「カメラマンのテクで自動的にモザイクがかかりますので全年齢に御視聴頂けます!」 カメラマン…
[一言] 筋肉巨女全裸プロレス…あーっとこれは公共の電波には乗せられません! 全画面モザイクは放送事故です!
[一言] 異界の技術に興味津々 主任「GDについてもっと詳しく!!」 酒吞「この食いつきよう…鬼みたいだわ〜」 虎熊「鬼の亜種かもしれないな… オレも手こずるから…」 酒吞「完全敗北と聞いたけど?」 …
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