411食目 古き鬼の底力
◆◆◆ ヤーダン ◆◆◆
鬼と鬼との戦いが始まった。
内、決着が一つ。どうやらユウユウが勝利したらしい。
恐るべき破壊の波動が全世界を包み込む。本当に滅茶苦茶な力だ。
彼女が敵として襲い掛かってきた場合、私たちで対処することは難しいのではないか、そう思うまでもないほどの圧倒的な力。
でも、新しき鬼と名乗る彼らは一切の動揺を見せない。
「ふん、淫鬼め……口ほどにも無い」
「しょせん奴は幹部最弱」
「安全な揺り籠の中で囀っていればいいものを」
散々な言われようだ。仲間内からも疎ましく思われているのだろう。
「「「でも、めんこいから許す」」」
ダメだ、こいつら。早くなんとかしないと。
しょせん、鬼でも男は男なのだ。なんとなく、この世の真理を知ってしまい、私は深いため息を吐いた。
でも、私も人の事は言えない。肉の快楽を知っているが故に虎さんを利用している。
いや、うん……彼、凄いからね。仕方がないよね。
じっくりと堪能したいのだが、そのためにも憎怨を退治しないといけない。
欲望駄々洩れだけど、なんとなく想いをひとつにすればOK、と許可をもらっているので何とかなるはず。
さて、問題はこいつら。
エルドティーネちゃんからは、ある程度情報を貰っているけれど、私たちの機体はエルティナイト程、無茶をすることができない。
未知数なのが虎さんの【鬼骨機】。
分類的にはエルティナイトと同じとは言っていたが、どう見ても頑丈そうには見えない。
そして、虎さんには悪いけどパイロットとしての技量は私以下。
果たして、炎戦鬼相手にどこまで戦えるか。
『ヤーダン、手を出すなよ』
「ですがっ」
『タイマンだ。女が水を差すんじゃねぇ』
「……もう、分かりました。飛び火しないよう気を計らいますから、さっさと仕留めてください」
『はっはっはっ! おっかねぇ、女!』
ブツ、と通信が切られ戦いが始まった。
暴風戦鬼は氷戦鬼と組んで戦うようだ。
彼らはコンビネーションを得意にしている、とのことなので、私が介入するのはこちら側の方がいいだろうか。
困ったことに、こちらの鬼に対抗する古き鬼たちは、とんでもない旧式機を持ち出している。
幾ら精霊が憑いているとはいえ、性能差を覆すのは難しいだろう。
ミオもこの戦いに介入したがっていたようだけど、エルドティーネに付いてくるように命じられ、今はアストロイの護衛に就いている。
この戦力で新しき鬼を撃破するしかないのだ。
「古きものよ、地獄の業火で燃え尽きるがいい! 鬼仙術【鬼火粘焼】!」
鬼骨機の足元から黒い炎が飛び出し脚部にへばりついた。それはじわじわと機体全体に及び、白い機体を覆い尽くす。
「と、虎さんっ!」
「ばぶー!」
まさかの即時発動。対峙している際に仕込んでいたのだろう。
油断も隙も無い男だ。流石にこれは介入するべきか。
『好物を取られた時のような声を出すな。こんなマッチの火みてぇなもんで燃やし尽くせるわきゃねぇだろうがよい』
鬼骨機が右手を振る。それだけで粘着質な黒い炎が砕け散った。
「うぬっ!? 汝の鬼力……そうか、そうであったな!」
『鬼力、特性【砕】。今回は純粋な【俺】だからよ。使えるぜ?』
「全てを砕く最悪の能力……くっくっく、なるほど! 相手にとって不足無し!」
『阿呆が、こっちはがっかりしてんだよ。この程度の鬼力も貫けない情けない鬼風情が』
鬼骨機が濃厚な鬼力で覆われる。まるでそれは肉を纏った赤黒い鬼のようでもあった。
いや、まさか……これが鬼骨機の使い方なのか。
骨の機体は、鬼力という肉を留めるための器。肉は鬼力。そして、虎さんは心臓。
つまり、今の鬼骨機は……鬼そのもの。
鬼骨機が巨大な骨の棍棒を振り上げる。
それにも赤黒い輝きが纏わりついて歪な輝きを見せつけた。
無造作に振り下ろされる棍棒。そのようなものに当たる炎戦鬼ではない。
余裕をもって回避する。
でも、炎戦鬼の様子がおかしい。ガクガクと機体が小刻みに震え、右腕が爆ぜた。
「ちっ、大気を砕くかっ」
『茨木の技を参考にしたのさ。鬼戦技【次振撃】ってな。どこに逃げても無駄だぜ?』
骨の棍棒を担ぎ、炎戦鬼を圧倒する。虎さん、素敵。抱いて。いや寧ろ、抱く。
「ふん、我が身を砕いたところで、どうという事は無い。くだらぬ児戯よ」
砕け散った炎戦鬼の右腕が炎と共に高速再生される。
どうやら、自己再生能力に優れているようだが。
『おう、いいぞ、どんどん再生させろ』
「調子に乗っているようだが……それもここまでよ。我が力、とくと思い知れ」
炎戦鬼は中指と人差し指を立て、何やらぶつぶつと念じた。
すると、立てた指に濃い炎が灯る。それを鬼骨機に向けたではないか。
「鬼力、特性【封】! 我が鬼力はおまえの鬼力の特性を封じる!」
『あ?』
炎戦鬼は更に両手を突き出した。同時に周囲の温度が急上昇してゆく。
その熱に耐えられず発火、炎上してゆく一つ目の鬼たち。敵味方など関係ないのだろう。
「いけないっ! アクア!」
「あーうー!」
アクアの力を借りて精霊魔法【水の踊り子】を発動。
周囲に水柱を何本も発生させて水の壁を作り出す。
これでアストロイを護りつつ、周囲の温度を緩和させるのが狙いだ。
「鬼仙術!【炎獄爆火山】!」
それは火山の噴火だった。
鬼骨機の足元が爆発し、溶岩が噴き出す。粉塵を撒き散らしながら、続いて岩石の雨が降ってくる。
両軍ともに被害は甚大。それをお構いなしに使用するなどと!
「ぐわっはっはっはっ! どうだ! 粉々に砕けたであろう! 鬼力の特性を封じられたおまえではどうしようもできまい!」
なんという事だ、鬼骨機がバラバラに! こんなことって……!
「くっ……よくも私の【ピー!】を!」
「ば、ばぶぅ……」
アクア君。君、呆れているけど意味が分かっているの?
でも、今はそれどころじゃないっ!
私の【バキューン!】を台無しにした罪は重いっ! 滅ぼすっ!
マネックの狙撃銃を構える。
でも、その引き金が引かれる事は無かった。
『ヤーダン、手を出すなって言ったろうが』
「ふぇ?」
『あの程度で俺がくたばるか。阿呆が』
でも、鬼骨機は見る影もない。その名残が周囲に散乱しているだけ。
でも、でもっ、虎さんの声は聞こえるのだ! どこからっ……!?
すると突然、炎戦鬼が狂ったように藻掻き始めた。
その光景はまるで溺れているかのようで。
「ぐっ! がががががっ!? き、貴様っ!」
「はっはっはっ、おめぇ、本当に鬼か? 見てくれに騙されて本質が見抜けねぇなんざ、鬼失格だぜ?」
なんということだ、炎戦鬼の機体から虎さんの声が聞こえるではないかっ。
いったい、どういうことなのだ。
「肉体を霧状にして移動なんざ、初歩の初歩。鬼力の特性だけを封じるからこうなる。あぁ、それともあれか? 特性を封じるだけでやっとだったか?」
「お、おのれっ!」
「そりゃあ、すまねぇことをしたな。俺の鬼力が強過ぎてよ」
どうやらコクピット内で殴り合いが始まっているようだ。
炎戦鬼の悲鳴が聞こえていることから一方的な内容になっているもよう。
「がふっ、こ、こうなれば、機体ごとふっ飛ばしてくれる!」
「往生際が悪いねぇ。でも、それは困る」
「くくく、貴様も自爆には耐えられぬようだな!」
「いや、そうじゃない。こいつは俺がもらう」
「何? そんな事ができるわけがなかろう! これは我が半身ぞ!」
「それができるんだよなぁ、これが。鬼力! 特性【奪】! 俺の鬼力は全てを奪う!」
「な―――陰式でもないのに、何故、二つ目の特性を……!」
炎戦鬼がガクガクと震え、そして胸から機体そっくりの男を吐き出した。
恐らくは彼が炎戦鬼その人であろう。
「転生の引き継ぎ特典だ」
「ふざけるなぁ!」
「ふざけてなんざいねぇよ。使えるんだから仕方がねぇだろ? わっはっはっ! これでこいつは俺の物だ! ……あばよ」
ぷちっ。
炎戦鬼は死んだ。彼の半身に踏み潰されたのである。
あまりの急展開に情報の処理が追いつかないが、なんとか声を絞り出す。
「え? 虎さん? ですよね?」
「おう、虎さんだぞ」
おっふ、安堵で涙がっ。
「し、心配したんですからねっ」
「馬鹿野郎、俺が負けるわきゃねぇだろ。こんなクソザコによ。まぁ……なんだ。あれだ」
炎戦鬼と行動がシンクロしているのであろう。彼は頬をポリポリと照れ臭そうに掻いた後に告げた。
「あとで抱いてやる。さっさと終わらせるぞ」
「は、はいっ」
言質は取りました。ふひひっ。
そうとなれば暴風鬼と氷戦鬼の戦いに介入しましょう。
こちらは、介入するなとは言われていませんし。
でも、私はその光景を見て絶句した。
バラバラになって煙を上げている二機のアインリールと、指でつまみ上げられている酒吞童子ちゃんの姿に。




