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40食目 機獣基地発見

 特別依頼受領から三日。

 俺たちは再びグマプッカへと足を運んだ。


 今回は偵察なので、くそデカくなってしまったエルティナイトはグマプッカの戦機駐車場にてお留守番である。

 ルナティックはキアンカで修理中なため、ヒュリティアはエルティナイトの手に乗ってここまでやってきた。


 駐車場は少しお高いが屋内駐車場を利用。

 これで、鳥に【うんうん】を投下される心配もなくなる。


 さて、偵察に使う足であるが、これはグマプッカにある戦機レンタル店でホビーブリギルトを借り受けた。

 これならマーカス工場で操縦したこともあるので問題ない。


 また、その機体の小ささから発見されにくくなるだろう。


 グマプッカの東側から出た俺たちは、深緑の悪魔から飛び出た物体が去って行った方角を確認する。


「確か、こっちだったよな?」

『……えぇ、そうよ』


 その方角には荒れ地が広がっている。

 生物を拒むかのような大地には緑色というものが無い。


 取り敢えずは荒野地帯に向かう。

 案の定、乾いた大地と砂ぼこりが酷い。


「本当に、こんなところに基地があるのかなぁ?」

『……エル、反応は?』

「う~ん、微弱過ぎて分かんね」

『……奥に進みましょう』


 反応は確かにある。

 しかし、それはあまりに微弱過ぎて分からない。


 それはきっと向こうも同じことなのだろう。


「おっと、ヒーちゃんストップだ」

『……どうしたの?』

「少し陰の力の反応が強まった。ここからは慎重にいこう」


 ここで俺は実験を行う。それは魔法だ。


 俺の習得している魔法の中で【カムフラージュ】という光属性の隠蔽魔法がある。

 これは、光を屈折させて自身の姿を景色に同化させるという魔法だ。


 隠密行動に打って付けの魔法であるが、欠点が無いわけではない。

 まず、移動すると音が鳴る。そして、熱を隠すことはできない。


 まぁ、やらないよりはまし、といったところである。


「【カムフラージュ】、発動っ!」


 ホビーブリギルトに無駄に格好いいポージングをさせて【カムフラージュ】を発動させる。

 すると、ヒュリティアのホビーブリギルトが周囲に溶け込んだ。

 どうやら、魔法は無事に発動し効果を発揮したようだ。


『……ほんと、攻撃魔法以外は優秀よね』

「耳が痛いんだぜ」


 こうして進む事、二時間。

 途中で休憩を挟みながら調査を続ける。


『……そろそろ、機体の光素が尽きるわ。今日はここまでにしましょう』

「分かった。何の成果もなかったな」

『……いえ、そんなことはないわ。ここいら一帯は、【何もない】事が分かったのだから』


 こうして、一日目の探索が終了。

 続く二日目も空振りに終わる。


 最終日である三日目。

 気持ち焦り気味な俺たちの前に、それは現れた。


「ビンビンに陰の力を感じる。なんだぁ? この膜は」

『……どうやら当たりね。エル、この膜はなんだか分かる?』


 俺はホビーブリギルトにその膜を触れさせてみる。

 鋼鉄の腕から伝わる陰の力には【帰れ】との意志が込められていることが理解できた。


「はは~ん、これは鬼仙術【陰帰強行いんききょうこう】だな」

『……それは?』

「要するに、これに触れた者を無意識的に追い返す仙術だよ。対象にトラウマを想起させて二度と近づきたくない、思い出したくもない、って思わせる追加効果もある」

『……なるほど、発見できなかった理由が分かったわ』

「そうだな、事実、誰も発見できないんだから」


 しかし、これの突破方法は桃使いなら誰でも知っている。

 そして、相手に気取られない方法もだ。


 問題は、久しぶり過ぎて桃仙術が成功するかどうか。

 そもそも、桃力の発動自体に問題を抱えているという事実。


「ま、やってみるしかないよな」


 俺はホビーブリギルトに、人差し指と親指だけを立たせて合掌させる。

 その状態で桃力の発現を試みた。


 その結果、おケツから【ぷぃ】との音が出たのである。


「……くっせーんじゃ、おんどるるぁっ!」


 その怒りは桃力を呼び覚ます。


 こんなので呼び覚ますとか……桃使い辞めたくなっちまいますよ。


「なんだか納得いかないが……桃仙術【陽光輪道ようこうりんどう】、発動っ!」


 この桃仙術は、要するに結界に光のトンネルを開通させる仙術である。

 これにより、相手に気取られることなく結界内に侵入できるのだ。


 ただ、この桃仙術は発動と維持コストに桃力をかなり消費する。

 だから、あまり使用されない不遇の仙術である。

 これを使うなら、結界を破壊してカチ込んだ方が早いのだ。


 桃使いの大半は武闘派なので仕方がないね。


「よし、これでいいんだぜ」

『……流石ね。じゃあ、行きましょうか』

「おう」


 陰帰強行の先には、機械化された巨大な基地があった。

 至る場所に巨大な砲門も確認できる。


 滑走路と思わしき場所からは数機の機獣が飛び立ってゆく姿が見受けられた。


「これ、ヤヴァくね?」

『……規模としては小規模だと思う』

「マジか」


 見た感じ、機獣が軽く百機以上いるんですが?


 その中に、深緑色の機獣を発見する。

 案の定、量産されているっぽい。


『……いたわね』

「いたなぁ」


 深緑の悪魔の所在を確認した俺たちは、できうる限りの情報を持ち帰るべく、探索を続けた。

 所々でヒヤッとしたものの、なんとか誤魔化すことに成功。

 探索を続行する。


 そして、とんでもないものを発見した。


『……エル、あのドックの奥』

「あれは……まさか、空母か?」


 格納ドックからチラリと伺える巨大な鳥の姿。

 それは長高200メートルを越えるであろう空母であった。


 そこに搭載されている機獣の群れ。

 明らかに人間の町を侵略する気満々の連中に心が騒めき立つ。


『……思ったよりも時間が無さそうね』

「あぁ、戻ろう」


 俺たちはすぐさま帰路に就く。

 光のトンネルに辿り着くまでは気が気ではなかった。


 しかし、無事に結界外に脱出を果たし陽光輪道を消滅させる。

 これで、俺たちが基地を覗き見ていたことはバレないだろう。


 だが、その帰り道での事だ。


『……エルっ!』


 ヒュリティアからの通信。

 運が悪いことに大鷲の機獣に発見されてしまったらしい。


 原因はホビーブリギルトに無茶をさせて熱を持たせてしまった事だ。

 放熱が原因でカムフラージュの一部が歪んでいたのだ。


 そこからホビーブリギルトの一部が露出してしまったのが発見された原因と思われる。


「バレちまったのは仕方がないっ! 問題は連中を【どうするか】だっ!」


 大鷲は計三体。しかし、ホビーブリギルトの戦闘能力は低い。

 もう、クソザコナメクジ、と言っても過言ではないだろう。


 一応、護衛用にライフル銃を持ってはいるが、制空権を握っている大鷲に勝てる見込みは皆無だ。


 だが、ここで連中を逃がしてしまっては、俺たちが基地を偵察していたという疑念を連中に抱かせる。


『……エル、仕留めるしかないわ』

「ヒーちゃんも同じ解答に辿り着いたようだな」


 よろしい、ならば戦闘開始だ!


 まずは敵意を引き付けるために、ライフル銃をぶっぱなしながら俺が前に出る。


 今搭乗しているのはエルティナイトではなくホビーブリギルトだ。

 大鷲の攻撃が掠っただけでバラバラになりそうなほどの貧弱坊やに盾は務まらない。


 しかし、俺には魔法障壁という防御魔法がある。

 そして、それは【無限の可能性】を秘めた魔法でもあった。


「魔法障壁展開!」


 ホビーブリギルトの正面に青白く輝く壁が出現する。

 それと同時に大鷲の口から光弾が発射された。


 光弾は真っ直ぐ魔法障壁に衝突、魔法障壁と共に砕け散った。

 それは、一発で魔法障壁を砕く力を持っているという証。


「ぬあっ!? 威力がくっそ高ぇ!」

『……でも、隙ができたっ!』


 このタイミングを逃がす銀閃ではない。

 攻撃直後の硬直を狙い、ヒュリティアのホビーブリギルトがライフル銃を放つ。

 狙いは大鷲の口の中、その光弾発射口だ。


『……獲った! そこっ!』


 弾丸が放たれる音、そして破裂音。

 少しの間を置いて大鷲が膨れ上がり爆発して果てた。


『……まずは一匹!』

「うおぉ……マジパネェな」


 とはいえ、ヒュリティアは攻撃をされてしまってはひとたまりも無いだろう。

 運動性、機動性が酷過ぎるホビーブリギルトでは回避が難しい。

 ここは、俺が頑張るより他はない。


 大鷲は残り二機、果たして俺たちは、こいつらを仕留めることができるのだろうか。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] >その結果、おケツから【ぷぃ】との音が出たのである。 >「……くっせーんじゃ、おんどるるぁっ!」 お前のケツから出てるんだよなぁ…。 [一言] >その怒りは桃力を呼び覚ます。 >こんな…
[一言] 3人に勝てるわけないだろ! と思ったら早速一人脱落してしまいましたね。 くぉれは珍獣の勝利フラグですね、間違いない。
[一言] さすが珍獣様! 術を使おうとして、力んでぶっ放す!?
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