407食目 最後の一押し
決戦の時まであと一ヶ月へと迫る。
この時期になると各国の戦力はエンペラル帝国へと出兵を始め、大部分がターウォへと部隊を駐屯させた。
そうなれば鬼たちが部隊を差し向ける。
そこで初めて、彼らは鬼と戦う事がどういうことなのかを理解するのだ。
「報告を見る限り、やっぱ【鬼ってマジキチ】って報告が大多数だなぁ」
「……でしょうね。私たちも早めにターウォに向かった方がいいかも」
現在、ノアの大草原にてバーベキュー大会を行っております。
こんな大変な時期に何をやっているのか、と聞かれれば答えてやるのが世の情け。
すばり、【食い溜め】です。
エネルギー消費を食べ物で賄う、という発想に間違いはない。
でも、そのエネルギー補充には時間が掛かるという欠点があった。
そんな事を弾丸が雨あられする戦場でやってられない。
現に俺は、コクピット内でラーメンをひっくり返した、という実績を持っているのでいかんともしがたいのである。
そうなれば、残る方法はあと一つ。食い溜めだ。
人間には不可能とされるそれは、俺は白エルフで人間じゃないもん、という屁理屈によって、おっそうだな、となり許される。
まぁ、実際は喰った物を、俺の想いの中にぶち込んで、適時、それをチゲが胃袋にぶち込む、という形を取っているのだが。
要はサブタンクを増設した、とでも言えばいいだろうか。
今はそれを満タンにすべく、食いまくっているのだ。
これも結構に大変。幾らでも食えるけど顎が疲れる。
なるべく柔らかいものを食べているけど、それでも疲れるものは疲れる。
適時、休憩を挟みながらモリモリと食べ進めております。
それに柔らかい物ばかりだと飽きる。
だから、今日はバーベキューってわけだ。
あ、そうそう。
昨日、遂にスキンヘッド兄貴から一本を取った。
超まぐれだったけど、割と自信に繋がった感。
その後、ものすっげーボコボコにされたけどなっ(十二連敗)。
「……ところで、桃先生はなんて?」
「うん、なんとかしてくれるっぽい。ターウォの神桃の大樹を使うって」
「……そう。それじゃあ、今は大忙しね」
「たぶん。しかしまぁ、よく考えたもんだぁ」
「……えっへん」
食事の際はアダルトモード安定。
口も大きくなるし、身体能力も上がる。
逆にリラックスしたい場合は幼女モードが安定。
こいつに勝るボディは無いぜぇ。滑らかボディ、万歳っ。
「もきゅっ!」
「あぁ、顔面が付けダレだらけにっ」
真っ白な毛が茶色に染まるモフモフ。
それを友蔵さんが甲斐甲斐しくふき取っている。
宇宙船ノア―――正式名称、惑星脱出艦ノア。
人類を存続させるためだけを目的として建造された、人工理想郷。
しかし、それはエネルギー無くして機能しない不完全な物。
そいつに、しゃーねーなー俺が立たせてやるか、と光素をぶち込んだところ、割とやり過ぎたようで今は妙に漲っている。
『きっき』
「ふきゅん」
『ききっ』
「ふっきゅーん」
「……コウサクン、なんて?」
「ニャンガーシリーズの応急処置が終わったって」
「……そう、オートパイロットだったかしら?」
「にゃんこびとがいないからな。そうなると思う」
ただしくは、生体コアとしてのにゃんこびと。
でも、そういうのは好きじゃない。
自分の意思で、こいつらに乗るのであれば止めはしないけど。
「でもいいのか? もう惑星ティエリに帰れるんだぞ?」
「ここで、そのまま帰ったら寝覚めが悪いにゃ。それに、にーちゃんを見つけちゃったし」
鉄板で焼いた焼きそばを啜る小人、本来のにゃんこびとミケはそう理由を付けた。
戦う理由など、その程度でいい。彼女はそういうのだ。
それはミケが戦闘民族であるから、という理由もあるだろう。
でも、彼女はそれに付け加える。
「にゃにより、ミケはおまえが気に入ったにゃ。ヴァルナ姉貴に似てるにゃ」
「ヴァルナ?」
「にゃ~ん、ミケたちのボスにゃ。竜人ヴァルナ。今は永い眠りに就いた大切な人にゃ」
「そっか」
ミオたちからは、前世で経験した大きな戦いを聞かされている。
記憶が飛び飛びな部分もあったようだが、ミケはその頃からずっと生き続けている存在であるようで。
「もう会えないのは辛いよな」
「にゃ? 普通に会えるにゃ」
「え?」
「ただ起こすと怒るにゃ。もう歴史に自分は要らない厄災だからって」
「理解が追いつかないんだぜ」
「ヴァルナ姉貴は十二の厄災の一人にゃ」
説明は割と長くなった。
にゃんこびとにしては極めて丁寧な説明だったことに驚く。
要は、一体だけでも世界を危機に陥れる十二の厄災も、中には人類に味方する者が居て、そのヴァルナなる人物は人間側に付いて終戦まで戦い抜いたということだ。
そして、未来を勝ち取って後を託したとのこと。
今はその子孫が頑張っているらしいが……ミケとにゃんこびとたちはノアを誤作動させてしまい、惑星ティエリから遠く離れた地点へと空間跳躍してしまったとのこと。
何やってるの、英雄様? オチが酷過ぎやしませんかね?
「過ぎた事にゃ~ん」
「流石にゃんこびとは格が違った」
なんやかんやあったが、こうして惑星ティエリの近くという第六精霊界へと立ち寄ってエネルギーを補充しようとしていたところ、俺たちの戦いに巻き込まれた、というわけだ。
俺たちとしては協力の申し出は有難い。
でも、彼らにはそこまでするメリットは無いのだが。
まぁ、考えても無駄か。
気に入ってもらえたなら、それに応えればいい。
これで、ええねん。
「もきゅーっ!?」
「ああっ!? 分有里君が、カレーの寸胴にっ!」
何やってんだ、モフぅ!
なんという事でしょう、純白の毛玉がカレー塗れにっ!
大惨事ですぞっ!
チーム願野多のぽっちゃり姉貴こと【生田川ささら】姉貴が、むんずとモフモフを摘まみ上げた。
彼女は水色の長髪に水色の瞳、そして眼鏡にぽっちゃり、というかなりの属性を所持している。
それに加えて炊事洗濯、特に料理上手という隙の無い二段構えだ。
うちのぽっちゃり姉貴は彼女を見習ってどうぞ。
生田川姉貴は人差し指を立ててぐりぐりと回す。
すると、モフモフに付いたカレールーが独りでに動き出し回転しながら獣毛より離れてゆくではないか。
「……精霊魔法かしら」
「若干、違う気がする」
違和感の正体は直ぐに判明した。
彼女自身がウンディーネという水の精霊であるというのだ。
つまり、精霊の力を引き出すのではなく、自らの意思で自分の力を行使している、という事になる。
実のところ、これは俺たちにとって得難き情報。
無理矢理引き出させる力には無い、繊細なコントロール。
これこそが、今の俺に必要なものであったからだ。
「よこせっ、その繊細さ……!」
「あ~れ~、私には御崎君という人がっ」
あれ? あの人、遠山っていう日本美人さんが居なかった?
え? 何? 二股? いやっ、彼らは異世界人っ!
重婚もオッケー、という可能性が微レ存?
そうなれば、深くは突っ込まない方がいいかもしれない。
「その力って、どうやって習得したんだ?」
「これはですね~、知らない内に~、覚えてました~」
「短い付き合いだったな。ぺっ」
「利用するだけ利用して、捨てるというんですか~?」
「コノヒトデナシー」
絶妙なタイミングで焼き網の上にコノヒトデナシ貝を載せる三つ目ボーイは話が分かる男であった。
【日道空助】、坊主頭の彼は額に第三の目を持つ。
やたらと視力が良いらしく、チーム願野多の偵察係として大活躍する傍ら、恐るべきドスケベらしい。
尚、一度、ヒュリティアに手を出して全殺しにされた実績を持つ。
どうして生きているんだぁ?
『ほぅ、おまえ……良く分かってる感』
「ふっ……闇に堕ちし暗闇の貴公子は、なんだってお見通しなのさ。この暗き眼によってな」
エルティナイトは中二病患者のダークエルフ兄貴と意気投合している。
たぶん、あの二人の会話に混ざったら頭がおかしくなって死ぬ。
なので選択は【そっとしておこう】一択だ。
「決戦となるとTASボングじゃ力不足になるかな?」
「そうですねぇ。でも、基本僕らはロボットの操縦よりも白兵戦の方が得意ですからね」
「うん、前へ出るよりも支援に徹した方がいいかも」
御崎兄貴と友蔵さんは、どうやらTASボングの性能をよく理解しているっぽい。
でも、前線に出ないのであればあれで十分。
何よりもサブパイロットの特殊能力が異常に強力なのだ。
特に遠山姉貴が戦場に居るだけで、モモガーディアンズは三倍近くも強化される。
下手に前線へ出る必要なんて何一つない。
「……おやっさんに頼めば、そこそこ強化してくれるわ」
「おや、お忙しいのでは?」
「……基本設計だけ頼めば、あとはコウサクンがやってくれるでしょう?」
「あぁ、それもそうですね」
なんだか、嫌な予感がっ。
おやっさんは片手間で【変態強化パーツ】をホイホイ作っちまうんだぜ?
「……エルドティーネ、手が止まってる」
「おっ、おう」
焼き上がった極厚の牛ヒレ肉をぱくりんちょ。
オレンジソースの酸味が油を中和して食べ易いデース!
「それでは、おやっさんに打診してみます」
「……そうね。こっちからも伝えておくわ」
確実に近づく決戦の日。
俺たちは残された時間をフルに使い、いよいよその日を迎える。
決戦の地、帝都ザイガ。
そこを取り囲むかのように総勢三十万機の戦機が配備された。
いざ、決戦である。




