394食目 突入、鋼鉄の巨大花
マザーの報告によると精霊王軍の戦力は、およそ18万6千。
それに対し、モモガーディアンズは、およそ五万三千。
全世界から戦力を集結させる時間が無かったから仕方がない、とはいえ、この差は酷い。
しかし、それがどうした、という話もチラホラ。
そもそもが、数を揃えばいいという問題でもなく。
そして、今回の勝利条件だって特殊。
精霊王の打倒と同時にエリンちゃんの救出。
王都ドグランドを守り抜く。
この二つを達成することだ。
そして戦場では、まったく遠慮しなくてもいい。
桃使いたちが、命たちを護ってくれる。
そうなれば、ガンテツ爺さんは何も遠慮する必要はない。
その地獄の業火すら焼き尽くす、全てを喰らう炎を存分に振るえるのだ。
さぁ、ご覧ください。
戦機たちが、機獣モドキが、なんかの巨大生物が蒸発してゆく様を。
……マジで怖いわ。もうガンテツ爺さんだけで、いいんじゃないかな?
戦場に降り立った赤と黒の悪魔に、精霊王軍の精霊たちがピーピーと鳴く。
たぶん、俺も同じ立場だったら鳴く。ふきゅん。
でも、ガンテツ爺さんだって無限というわけじゃない。
『ガンテツ機、後退。ヒュリティア隊、前に出ます』
「マザー、【ビッグフラワー】まで、あとどのくらいだ?」
『およそ、230』
あと230キロメートルか。
んじゃ、ちょいと食っておけるな。
俺はごそごそとサイドポーチからとある物を取り出す。
それはシュークリームだ。
こいつのねっとりとした甘みで緊張を和らげ、興奮し消耗したカロリーを補うという寸法である。
「うまっ、うまっ」
『おいぃ、俺にも後で作ってもいいぞ』
「考えておくっ」
本当はコーヒーとかも欲しかったけど、戦闘中にジョバッたら大惨事だから、ここは我慢。
『精霊王軍、増援。数三万』
「どんだけ数を揃えてんだよ」
『その場で生成している可能性、有り』
「自己生産か。面倒臭い」
とはいえ、これって憎怨もやってくる可能性大。
予行練習には良いか、というか憎怨も同じ戦法で特攻し。
大将の首を取る、という意味ではこの戦法が一番。
回りくどい事をしていたら、かえって被害が増えちまう。
「モモガーディアンズの消耗は?」
『小破、3570。中破、1489。大破、369。死者、0』
「まだ序盤だからな。でも、死者0はいいぞこれ」
きちんと桃結界陣が機能しているようだ。
きっと、戦場には桃色の玉が無数に浮いていることだろう。
でも、この線上に流れ込む桃力に、彼らとは違う桃力を感じる。
それは、ここから遠く離れた場所から注がれているような気がして。
「(桃先生……あんたなのか?)」
きっと、そうなのだろう。
出来の悪い生徒でごめんな。きっと、結果を出して応えてみせるよ。
『クロナミ、被弾』
「状況っ!」
『機関損傷、後退します』
「くそっ、想像以上の抵抗だな」
『数が違いますから。そもそもが、旧式艦でここまでよく耐えていた、と誉めるべきです』
「クロナミも、そろそろ限界なのか」
『引退を考える時期でしょう』
結構、無茶をして戦場に居たこともあった。
でも、それはガチの戦場ではなく、局地的なもので限定的な戦い。
化け物との戦いで拠点として活躍していただけだ。
寧ろ、これが普通の事であって今までが異常だったのだろう。
「クロナミの件は後で考える。アストロイを前に」
『アイ・マム』
すれ違うクロナミ。艦尾から黒い煙を上げている。
今まで俺たちを支えてくれた船が力不足と言われて悲しいが、これが現実。
これを受け止められなくては、もっと酷い結末を辿ることになるだろう。
『エルちゃん、ごめ~ん! 回避できなかったよぉ!』
「気にする必要はないんだぜ、ニューパさん」
『アナスタシアさんたちが、直ぐに応急処置をするって!』
「了解なんだぜ」
その頃までには戦いを終わらせたいところ。
さて、ここからまたガンテツ爺さんの時間だ。
僅かな時間だけど、ごり押しができる。
でも、精霊王が何かやってきた。
彼の全てを灰にする炎の勢いが弱い。
「ガンテツ爺さん?」
『おう、何かやってきたのう。炎の勢いが弱まっておるわい』
『分析完了。大気に霧状の物質を散布しているようです。レーダーにも異常』
「おいおい、これじゃあミサイルとかの命中精度が落ちるんじゃね?」
『落ちます』
まぁ、俺はレーダーに頼ってないからいいけど。
それにしたって、戦艦のミサイル攻撃が当てにできなくなったのは痛い。
モモガーディアンズの所属艦300隻の攻撃力激減じゃないですかやだー。
「ガンテツ爺さん、どう? いける?」
『多少威力が落ちたところで、どうこうではないわい。もうそろそろじゃから、支度をしておけい』
「了解なんだぜ」
おぉう、なんという頼もしさ。
彼の言う通りで、そろそろ突破口が開けるとのこと。
しかし、精霊王はなんで、こんな突破されやすい陣形で戦いを挑んだんだ?
鋼鉄の巨大花は、もう目前まで迫っている。
モモガーディアンズの突貫力は他の追随を許さない、と言うだけの事なのか?
『マスター、出撃予定地、到達まであと30秒』
「……考えても無駄か。分かった」
TASムセルをカタパルトに接続させる。
「スタンバイ」
『レディ』
あえぇぇぇぇぇぇっ!? ムセルが喋ったぁぁぁぁぁぁっ!?
『発進、どうぞ』
「TASムセル、エルドティーネ、出撃ぞっ!」
勢いよく機体が射出される。背部のフライトユニットが火を噴いた。
アダルトモードじゃなかったら、ぺちゃんこにでもなりそうな圧だ。
TASムセルに続きアインファイターたちも出撃する。
彼らは射出された後に戦闘機へと変形、TASムセルに追随する。
『エルティナ! 墜ちんじゃねぇぞ!』
「それは、こっちのセリフなんだぜ、マーカスさん」
俺はまだ現役バリバリの戦機乗りでございますことよ? おほほ。
『気負うんじゃねぇぞ、ラルク』
『問題ねぇよ、レダム……俺はよ、帰ってきたんだ。あいつがいる空によ』
モヒカン兄貴とスキンヘッド兄貴の通信が流れてきた。
彼らだけじゃない、ここで戦っている者たちの声がどんどん流れ込んでくる。
様々な感情が渦巻く戦場に俺は身を投じた。
ムセルを通して怒りや殺気を感じ取る。
見える……見えるのだ。
それらが形となって俺に迫ってくるのが。
「そこか」
ムセルから完全に死角になっている場所からの狙撃。
しかし、それを俺は一切見ずに回避することができた。
まるで、戦場の全てを把握できているかのような感覚。
「これが俺の絶対領域?」
『おまえがそう思うなら、そうなんだろうな』
「そっか。エルティナイト、飛ばすぞっ」
『おう、スピリビット・オブ・ドリル、用意しとけよ』
「もう左手に換装してる」
ムセルの左腕に輝く螺旋。これで巨大花を貫け、とはいうが、割と小さい。
こんなんで、あの巨大花の装甲を貫けるんですかねぇ?
『……エルドティーネ! 援護するわ!』
『遠慮せずに、ガンガン行くにゃっ!』
ヒュリティアのルナティック、ミオのラストニャンガーが援護に入ってくれた。
俺たちを阻む精霊王軍の有象無象は数が多過ぎる。
一機一機は弱くても、それが重なれば脅威となるのだ。
『お、ありがたいな』
『にゃ~ん』
『イシヅカも、ここじゃまだ本領発揮とは言い難いしね。助かるよ』
シシオウの背に岩石の巨人を乗せて走る鋼鉄の獣。
そう言う事もあってか、全く戦闘に加われていない。
尻尾先のビーム砲でちょくちょく攻撃しているけど、全く当たっていないという。
ライオットさん、射撃超へたっぴ。
でも、ルビートルが援護に入っているから多少はね?
こっちもボヘっとはしていられない。
ヘヴィマシンガンで雑魚どもを桃色の玉に変えてしんぜよう。
「いやぁ、金ぴか目立ちますね」
『実力を伴った者は目立って当然だ!』
狙い撃ってください、って言っているようなもんなんだよなぁ。
それでも、金ぴかルゴードは囮として役に立ってくれています。
あ、もちろん、モフモフとコンビを組んでいるH・モンゴー君も。
いやぁ、悲鳴、凄いですね。
「しかし……マーカスさん。マジでスゲェな」
『変態的な挙動、誇らしくないんですかねぇ?』
めっちゃ変形しまくってますやん。
直線を戦闘機、変形しての細かい位置取りで敵機を撃破しての、また変形で離脱。
纏めて撃ち墜とすとか当たり前にやってるけど、普通はできませんぞっ。
俺はと言うと、チマチマと地味に撃墜しております。
これでいいねん。欲を出すとろくなことにならないし。
それに俺がやることは別にある。それは彼らの突入口を開く事。
さぁ、やるぞっ!
回れ、俺の愛と勇気と努力! 生れ出る力を螺旋に乗せてっ!
「なんか、エライことになってる」
『こわれるなぁ、ドリル』
天に掲げた左腕のドリル。それは高速回転しながら謎エネルギーを放出。
それは俺の愛と勇気と努力に反応し、どんどんと膨張。
いまやムセルを遥かに超えるメガトンドリルと化していた。
『そのまま、いちゃえぇぇぇぇぇっ!』
「主に言い方がキモイ」
『俺のガラスのハートにほんのりと傷が付いた。訴訟』
「おめぇのハートは鋼だるるぉっ!?」
愛と勇気と努力と、ほんのちょっぴりのイライラをドリルに乗せて、巨大花の花びらのつけ根にドカーン。
盛大に大穴を開けてやりました。
「……うっ」
『エルドティーネ、シュークリーム食べとけ』
「そっか、何度も使えるってわけじゃねぇな、これ」
体力の消耗が半端ではない。使えてあと一度、といったところか。
切り札として取っておくか、それとも使わないでおくか。
ものすんごい威力な分、悩ましいところだ。
兎にも角にも、ビッグフラワー内部に突入することに成功。
これで作戦が終了したわけではない。ここからが勝負なのだ。
そういえば、シシオウって飛べないけど、どうやってここまで来るつもりだ?
『結構、高さがあったな』
なんか普通に来た。ルビートルも背負ってら。
「どうやってここまで来たんだぁ?」
『空を走ってきた』
「なんでもありかぁ」
『わっはっはっ、それをおまえに言われちゃあな』
「さーせん」
言われてみれば、俺の方が何でもありをやってたわ。
何はともあれ、これで精霊王の下へと突撃できる。
もう直ぐ、助けてやるからな、エリンちゃん。




