392食目 モモガーディアンズ出撃
モモガーディアンズの結成宣言から三日後。
ドワルイン王国王都ドグランドにマーカスさんが到着した。
その交通手段というのがたまげたもんで、飛行機から人型に変形する戦機で飛んできたという。
「マーカスのおっさん!」
「……おまえ、本当にエルティナか?」
何気にアダルトモードでの顔合わせは初めてである。
それでも俺がエルティナであることを理解してくれたもよう。
「今更、おまえの妙な力や現象についてはどうだっていい。それよりもエリンだ」
「分かっているんだぜ。その為に、俺はモモガーディアンズを結成したんだ」
「ならいい。今回ばかりは俺も戦いに参加する。止めたって無駄だぞ」
「今のおっさんを見てりゃあ、ダメだってことくらい分かるんだぜ」
マーカスさんはキアンカの襲撃にて限界を迎えた戦機と、お役御免となっていた戦闘機をミックスして作り上げた可変型戦機、その名も【アインファイター】を製作。
道中でテスト飛行しながらドグランドを目指す、という無茶なことをやっていた。
それに付き合っていたのは俺が最初の頃にお世話になっていた、モヒカン兄貴、スキンヘッド兄貴、ゴーグル兄貴とワイルド姉貴だ。
「ふきゅん、久しぶりなんだぜっ」
「「「「……」」」」
「あ、分からないかぁ。ふきゅん」
というわけで縮みました。
「おいおい、話には聞いてたがなんでもありかよ」
「話を聞いてたのかぁ。人が悪いなぁ」
「いやいや、普通に信じられるかよ」
というわけで、彼らが知るエルティナになったことにより、警戒心は長い旅に出るのであった。
さて、モモガーディアンズに合流したマーカスさんたちではあるが、アインファイターは完璧ではないらしい。
色々と無茶をしてミックスしているため、様々なトラブルが発生しているとのこと。
それを見てもらうべく、アナスタシアさんとおやっさんに見てもらう流れに。
「いやいや、ひっどい発想だねぇ」
「よくもまぁ、こんなギリギリの改造を」
もちろん、彼らにとっては誉め言葉だ。
全部が全部、ぎりぎりという変形機構はマーカスさんの繊細で豪胆な手腕により、辛うじて上手く行っているとのこと。
それでも、何度も変形していれば歪みが生じて変形中に分解してしまう、との危険性を示唆された。
当然ながら、それは承知の上で運用しているらしい。
「戦闘中は基本的に人型を想定しているからな。戦闘機は移動用だ」
「勿体ないねぇ。戦闘中でも使いたいよ」
「無茶を言うな。ポンコツ同士を組み合わせたんだぞ」
アナスタシアさんがもったいないという理由は分かる。
フライトシステムを装着し飛行するのと、可変による戦闘機形態では何もかもが違う。
そもそもが、機体重量からして違うのでスピード自体が雲泥の差だ。
しかも、全身にスラスターを増設しているので空中で人型に変形し、急旋回もできちゃうという。
それが計五機。それ急造しちゃう、というのだからマーカスさんは変態である。
『ききっ』
「あ? なんだ、このロボットは」
「あぁ、それはコウサクンさ。何か用かい?」
『きっきー』
「おやおや、二日あればどうにかできるってさ」
「それの言っている事を理解してんのか?」
「一緒に過ごしていりゃあ、なんとなく分かるんだよ」
『きっきー』
メカニックチームがワイワイやっているのを横目に、俺たちパイロットはエリンちゃん救出に意欲を燃やす。
特にキアンカ組は彼女との縁が深く、群れるのを嫌うモヒカン兄貴も今回ばかりはモモガーディアンズへの参加を表明している。
「モヒカン兄貴、スキンヘッド兄貴。ありがたいけど……いいの?」
「あぁ、構わねぇさ。俺、個人のこだわりどうこう言っている場合じゃねぇ」
「マーカスさんには散々世話になってるからなぁ。ここいらでドカンと返しておきてぇ」
彼らも歴戦の強者であるが、いかんせん機体に恵まれない。
お金の関係もあるから仕方がないけど、機体さえ十分なら一線級の腕前だと思う。
ただ、ゴーグル兄貴とワイルドアネキは、申し訳ないが普通の中堅層。
オカーメ隊にも及ばないだろう。
ただし、得意分野で勝負に持ち込めば十分過ぎるほどの勝機はある。
ゴーグル兄貴は万能タイプだが、割と近接戦闘が得意。特にヒット&アウェイをやらせれば格上にだって勝てるかもしれない。
ワイルド姉貴は面倒臭がってあまりやらないけど、狙撃の腕前は中々のもの。
それを大砲でやるから当たらないのであって、狙撃銃でやればしっかりと当たる。
モモガーディアンズに参加するのであれば、しっかりとした機体を渡したいところ。
そこで登場するのが量産型マネック。その名も【アネック】だ。
コツコツとヤーダン主任が本社へと戦闘データを送信していたらしく、量産化の目途が立ったらしい。
性能を落とさないように計らいながら、余計な部分を削ぎ落していった結果、新たなるアイアンクラスの戦機として誕生することになった。
アインリールと比べて三倍近くの性能差があるアネックは装甲材を鉄にすることによりコストを抑える事に成功。
スチールクラスが主流となった現在では、消費量が落ち込み始めていた鉄を優先して使用できるため、多くの注文が舞い込んできても対応できるとのこと。
しかも、そこら辺のスチールクラスよりも性能が高いというのだから言う事なしだ。
更には比較的お安い。流石にアインリールと比べれば高いが、スチールクラスの価格には届いていないのだから凄いとしか言いようがない。
これをモモガーディアンズに優先的に配備してくれる、というのだからありがたい事この上ないではないか。
でも、ヒュリティアには別の考えがあるようで。
「おぉい! ルオウ! これでどうだっ!?」
「今行く!」
おやっさんとルオウが、ああだ、こうだ、とやり合っている。
彼らは今、専用機の最終調整を行っていた。
Dチームは元々機獣を操縦していたとあって、獣と人型とに変形できる特殊戦機を開発してもらっていた。
ルオウが獅子、ズーイさんが山羊、モヴァエが蛇とのこと。
以前、愛機としていたそれに人型形態を付与する感じ、となるらしい。
……が、おやっさんに任せたのが運の尽きよ。
絶対に「こんな事もあろうかと」と言う気満々だぞ。
見ろぉ、あの邪悪な暗黒微笑をっ!
既に仕込みは終えている、って宣言しているようなもんだぁ!
「おっと、エルドティーネ! ムセルの整備をできるようになっておけよ!」
「ふきゅんっ! 分かっているんだぜ、おやっさん!」
「ならいい!」
実は、おやっさんにムセルの設計図を渡されており、それを頭の中に叩き込むように言われている。
これは、いつどこでムセルが壊れても、あり合わせの物で修理できるようになっておけ、といった趣旨である。
でも、一度練習でバラしてみると不要なパーツがざっと40個もあった件。
もちろん、不要ではなくおやっさんの手を借りる事になりました。
「おまえさんも大変だな」
「あの頃が懐かしいぜ。妙なガキンチョが、今じゃあ総大将だもんな」
「肩書はそうだけど、俺はあの頃から何も変わっちゃいないんだぜ」
「だろうなぁ」
「さっきの大人の姿はグッとくるものがあったけどよ」
そう言って笑うモヒカン兄貴とスキンヘッド兄貴も、あの頃から何も変わっていない俺の先輩たちであった。
それから三日後。いよいよ精霊王が動いた。
「……エルドティーネ、精霊王が動いたわ」
「あぁ、分かってる。悪意がこっちに向かってなだれ込んでやがる」
既に戦う準備は出来上がっている。
精霊王が動く事は彼女の意志の揺らぎで理解していた。
本当に不安定だ。
愛と怒りと憎しみとで揺らぐ想い、それは精霊王とエリンちゃんの想いが妙な状態で混ざり始めているからだろう。
彼女たちは知っているはずだ。【彼女たちの父親】、マーカスさんが来ているという事に。
アストロイのハンガーデッキ。そこで降着状態のムセルに触れる。
鉄の頼もしい硬さと油の咽るにおいが俺を満たす。
「頼むぞ、ムセル。おまえに俺の全てを委ねる」
「……スピリッツ・オブ・ドリルの使い方は理解していて?」
「もちろん」
「……ならいいわ。エルティナイトも覚悟は良い?」
『誰に言っているぅ。ナイトはいつだって覚悟上等。寧ろ、覚悟を粉砕するっ!』
「粉砕したら駄目なんだよなぁ」
ちょっぴり不安な相棒だが、絶対に連れてゆく必要がある。
それは嫌な予感、というものではない。確信に近い何か。いや、必然。
エリン剣が忽然と消えていたのだ。エルティナイトですら気付かない内に。
絶対に何かが起きている。起こしている。
精霊王の真の切り札は、あの巨大花ではない。
いつか聞いた【黒の巨人】。それに相違ないだろう。
『マスター。号令を』
「分かった」
マザーに頼み、モモガーディアンズ艦隊に号令をおこなう。
「みんな、精霊王が動いた。目標はドグランドと思われる。これは負けが許されない戦いだ。何がなんでも勝つぞ!」
スピーカーから割れんほどの雄たけびが聞こえてきた。
みんな、覚悟は決まっているもよう。
「モモガーディアンズ! 出撃!」
『アイ・マム。モモガーディアンズ、出撃』
かくして、モモガーディアンズと精霊王軍はドグランド南の大平原にて真っ向勝負を迎える。
果たして、勝つのはどちらか。
そして、俺たちはエリンちゃんを取り戻すことができるのか。




