390食目 彼らとだったから
戦いなんてもんは要に、互いの対象の首を先に取っちまったもん勝ちだ。
回りくどい事をして戦争を長引かせることになるのは、そこに政治の話が入り込むからで、純粋な闘争によるものであれば割と早く決着が付く。
特に今回は目的が単純明快。
精霊対人類……いや、【精霊王の妄執】対【人類の生きる意志】という構図だ。
確かに精霊の力は恐るべしだが、全く統率が取れていない状態ではクソザコナメクジ一般市民しかびっくりさせられないだろう。
もちろん、ド三流の戦機乗りもビビらせることはできる。
だが、俺たちくらいになる、と威圧で連中を大人しくさせる事が可能。
特にユウユウ閣下がそれをやると最悪、ショック死なんてことにもなる。
「……さぁ、いいわ」
「うん、なんだか恥ずかしいなぁ」
「……それくらい、わざとらしい方が良いのよ」
今俺がヒュリティアにされているのは、メイクアップである。
これから、モモガーディアンズの結成の仕上げで全世界に向けて演説を行おう、というのだ。
姿は見る者に舐められないようアダルトモード。そして、おふざけ一切無し。
俺のバックにはくそデカエルティナイトをお飾りで立たせ、俺が誰であるかを盛大にアピール。
俺の姿は知ってなくても、エルティナイトなら知っている、という戦機乗りや市民は沢山いるからだ。
そして、俺の衣装というのがエルティナイトとお揃いの西洋風の甲冑。
純白のドレスに銀の甲冑を身に付けた、いわば戦乙女と化している。
武器はフルベルト王から賜った光素剣だ。
うっかり、自室のベッドの上に置きっぱなしにしていたから無事でした。
ドジっ子スキルも、たまには役に立つもんだぁ。
「エルティナや、準備はできたかの?」
「おう、ばっちりだぜ」
「ふふん、勇ましい姿にしてもらったようじゃの」
俺の姿を見て目を細めるガンテツ爺さん。
あれやこれやと言うつもりはないらしく、俺の晴れ姿を身に来ただけのもよう。
「よもや、こんな大事になるとはのう。戦機チーム結成時が懐かしいわい」
「確かに。あの時は単にナイトクラスに昇格することだけを考えていたもんな」
今では、そんなことよりも遥かに大切なことを成し遂げなくてはならない。
これは、その一歩。この先、何歩になるか分からない歩み、その中の一歩に過ぎない。
でも、ここでコケれば全てがご破算になるのは間違いない。勝負の時だ。
「……行きましょう、エルドティーネ」
「うん、ヒュリティア」
エル、ではなくエルドティーネ。
そして俺もヒーちゃんではなく、ヒュリティア。
互いを認め合い愛称呼びを止めたのだ。
これは彼女も俺を認めてくれた、と言う事なのだろう。
母の幻影ではなく、一個人としての俺として。
薄暗い通路をヒュリティアとガンテツ爺さんに囲われて行く。
ここはコロッセウム。その向こうには光。アリーナに続く道。
しかし、そこは今日に限っては俺だけの戦場。
騒めく人々の声。彼らは俺の登場を待っている。
「おう、来たな」
「ファケル兄貴」
「随分と、おめかししたやん」
「ぽっちゃり姉貴」
『てっつー』『てっつー』『てっつー』『てっつー』『てっつー』
「プチども、おまえらも来たのかぁ。ありがとな」
通路に並ぶ精霊戦隊の面々。
彼らが俺の一世一代の大勝負を見送ってくれているのだ。
「けっ、なんだっていいさ。さっさと終わらせて来い」
「ったく、気のきいたセリフくらい考えておけよ」
「がっはっはっはっ、まぁ、ルオウらしい励ましさ」
「相変わらずだなぁ。ま、ありがとな」
Dチームの面々も心配をしてくれているっぽい。
「エルちゃん、困ったら拳で訴えて!」
「クロヒメさんの言う通りにゃ!」
「拳は全てを解決するにゃ!」
「キックもいけるよっ!」
「か、考えておくんだぜっ」
クロヒメ世紀末組はやはり脳筋だった……?
励まし方も世紀末風で苦笑炸裂ですぞっ。
「ぶ、ぶひぃっ! ふ、踏んでくださいっ!」
「汚れるからヤダ」
「ぶひぃっ!」
肉団子さん、まともな事を言えないんですか?
壊れるなぁ、見送り。
「我が主っ! ご立派な姿でっ!」
「どやっ」
「んほぉぉぉぉぉぉっ! しゅきぃ」
「落ち着け、H・モンゴー君」
H・モンゴー君は妙にエキサイティングしている。
たぶん、俺の格が上がると自分の格も上がる、と錯覚しているのかも。
僅かな時間、夢を見させていてもいいだろうか。
「まさか、こんな事になっちゃうなんてねぇ~」
「そうかい? ニューパ。エルティナ……エルドティーネに付いて行った時点で、これくらいは覚悟していたけどねぇ?」
「アナスタシアさんたちと一緒にしないでくださいよ~」
「うっす」
「ちょっ、オーストまでっ!?」
「わっはっは! 俺たちは寧ろ、トラブルはウェルカムだ!」
『ききっ』
ニューパさん、アナスタシアさんたちにチームおやっさん。あとコウサクン。
皆、俺たちを支えてくれる縁の下の力持ちだ。
彼ら無くして、戦い抜く事などできやしない。
「もきゅ」
「おっす、モフモフ」
「もっきゅ~」
「頑張ってこい、と言ってますね」
「分かっているんだぜ。これでも結構長い事、モフモフと一緒に居たんだし」
「そうですか……ふふ、そうですよね」
チーム願野多学園を代表してモフモフと友蔵さんが見送りに来てくれた。
俺は友蔵さんほど、ハッキリとモフモフの言っていることは分からないが、それでも伝えたいことは理解できる。
頭ではなく心で理解できるのだ。
「立派な姿ですね」
「ヤーダン主任」
「ふふ、なんだか凄い事になってしまって。研究ができて喜ばしい、とはしゃいでいたのがずいぶん昔の事に感じます」
「ヤーダン主任が一番激変しちゃったもんな」
「今じゃ、元男です、と言っても信じてもらえませんしね」
「デスヨネー」
今日もセクシーなヤーダン主任。
いつも隣に似るリューテ皇女は一足早く、アリーナにて待機している。
その代わりにオカーメ隊を代表してフレアさんがペコリんちょとお辞儀。
言葉こそないが、真摯な眼差しで見送ってくれた。
「エルドティーネっ」
「レギガンダー君」
「俺っ、必ず追いつくからっ! 一人前の桃使いになって! だからっ!」
「待ってる。俺を支えてくれよな」
「か、必ずっ! 頑張ってな! エルドティーネっ!」
「あぁ」
ちょっぴり興奮しすぎなレギガンダー君。
俺の救出作戦でも急成長し、自身の力に戸惑っている様子。
それでも、自分の目標は見失っていないようで。
そう遠くない未来、きっと彼は俺を支えてくれているに違いない。
「やぁ、綺麗だよ、エルドティーネちゃん」
「レオンさん」
「君は、君だけの戦場に立つんだね」
「うん……正直、怖いんだぜ」
「でも、逃げないんだろ?」
いつになく真面目な表情のレオンさん。
彼に対する返事は言葉ではなく、彼の瞳を見据えての頷き。
「そうか。僕もそろそろ逃げてばかりじゃいられない……か」
「レオンさん?」
「いや、こっちの話さ。頑張って、皆が付いている」
「うん、行ってくる」
白い貴公子レオンさんに送り出された先にはサムライ娘と鎧武者の姿。
「ママ上、いよいよでござるな」
『然り』
「ザインちゃん、マサガト公」
「御屋形様も、ママ上のような時期がござった。それでも決して諦めはしなかったでござる」
『諦めるのは、死してからでも遅くはない故』
「ありがとな、二人とも。そうさ、俺は諦めない。ふふん、死んでもな?」
「『承知っ!』」
娘と悪霊に送り出される。
そうさ、俺は死んでも諦めない。諦めるわけにはいかないんだ。
「よぉ、立派立派。エルよりも美人なんじゃやないのか?」
「確かに。エドワード閣下の良い所が受け継がれている感じさね」
「ちょっとぉ、エルちゃんが聞いたら怒るよぉ?」
「ふきゅん」
母を良く知るライオットさん、プルルさん、プリエナさんだ。
やっぱり、俺は母と似ているようで微妙に違うっぽい。
「お母んって、どんな感じだったの?」
「常に眠そうな顔」
「目の形だよ。ジト目ってうのかね。こんな感じで」
「ひっどいよ~。それはやり過ぎっ」
プルルさんの酷い顔を持てみんな笑いました。緊張が幾分か解れたっぽいです。
もしかして、ピンクわた飴さんはこれを狙って……?
「ま、俺たちからは特にいう事は無いな」
「そうだね。食いしん坊の時だって、そうだった」
「私たちができる事なんて、頑張って、という応援だけだよぉ」
「うん、頑張ってくる。ありがと」
世界を超えてやって来た者たちに送り出される。
その先には同じく運命に導かれ……いや、彼女の場合は違うか。
「くすくす、立派な姿ね」
「ユウユウ閣下」
「ちょっと、そこに屈みなさいな」
「こう?」
「えぇ、良くってよ。ダーリン、聞こえているんでしょ?」
ユウユウ閣下が言うところのダーリン。
それは全てを喰らう者を統べし者、竜の枝のシグルドの事だ。
「エルドティーネの今の姿、戦闘服に固定してちょうだいな」
それは彼の返事であったのだろう。
身に付けているドレスと鎧が桃色に一瞬輝いた。
「うふふ、これで良いわ。正念場よ、エルドティーネ」
「うん」
「この演説はダーリンも観ている。これは竜の試練と考えてもいいわ」
「うん」
そう、俺にはもう一つ、乗り越えねばならない試練がある。
俺に宿る全て喰らう者、その完全な制御には竜の枝が必要不可欠なのだ。
「これは、かつてエルティナも挑んだ試練。でもね……エルドティーネ。あなたは母親とは違う」
「分かってる」
「聖女なんかじゃない。王でもない。支配者でもない。そして、知名度だってない」
「あぁ」
「あなたは闘う者。理不尽に挑む者。運命に逆らう者……永遠の反逆者よ」
「そういう事になるよな」
「うふふ、分かっているなら良くってよ。さぁ、行きなさい。竜と、桃人と、鬼の能力を受け継ぐ全ての人の意志」
ユウユウ閣下に背を押される。
俺という存在をよく理解しているのだろう。
それを信じ、あくまで裏方に回ってくれている彼女には頭が上がらない。
「わしらは、ここまでじゃな」
「……ここからは、あなただけの戦いよ」
「ガンテツ爺さん、ヒュリティア、ありがとう。行って来る」
多くの言葉なんていらない。
彼らとだから、俺はやってこれたのだ。
二人の手に背を押され、俺は出口へと向かう。
『あい~ん』
「あぁ、大事さ。アイン君。行こう」
そして、俺にとっての始まりの精霊アイン君。
彼と一緒だったから、俺は決して歩みを止めなかった。
そんな彼と一緒だから、俺はこれからも戦える。
俺は、俺だけの戦場に独り立つ。
決して折れぬ鉄の意志を携えて。
今、勝負の時。




