386食目 TASムセル
「なんじゃこりゃあっ!?」
『おいぃっ! もちつけっ!』
「いももぉっ!」
TASムセルの足底に装備されているロボット用のローラースケート【ローラーダッシュ】を使用したらこの有様。
アホみたいに早くて何がなんだかわけワカメ。
だから俺はひたすらに鳴く機械と化すだろうな。
「ふきゅ~ん! ふきゅ~ん! ふきゅ~ん!」
あ、でも、なんとなく機体を左右に避けさせないといけないのは分かります。
「おごごご……っ!」
『信じられるか? こいつ……白目痙攣しながら時速389キロメートルで障害物をかわしてるんだぜ?』
「いもぉっ! いもぉっ! いもぉっ!」
そんなにスピードが出るとか誰が思うんじゃい。
おやっさんめ、わざと言わなかったなっ。
帰ったら、思いっきり文句をケツから垂れ流してやるぞっ。
『おいぃ、胸部贅肉ぅ。そろそろ、射撃訓練も行うべき、そうするべき』
「簡単に言ってくれちゃってっ」
流石にエルティナイトはロボなだけに頑丈だ。
超速度から来る圧にへっちゃらで耐える。
というか、機体は大丈夫なのに中の人がしんどい、とか大丈夫なんですかねぇ?
地上で地面に接地しての時速400キロメートル。
しかも舗装されてない状態とか頭おかしい。
無理無理、死んじゃうっ!
でも、無茶ぶりナイトは、【ターンピック】を地面に打ち込んで高速旋回してーの、そこからの射撃を一般直立樹木に決めろ、と申します。
おめぇ、ブレインがバグってはにぃ、してんじゃねぇだろうなぁ?
「樹だって生きてんだぞっ」
『後で、でっぷりに直してもらう』
「おまっ、ぽっちゃり姉貴が大激怒するから絶対に言うなよっ!?」
『考えておくぅ』
もう視界がぐるぐるするんですわ。
『旋回しすぎぃ!』
「ほぎぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」
もう駄目、ゲロリアンしそう。
なんじゃ、この機体は。無茶がコサックダンスしながらムーンウォークして三回転捻りを炸裂させるくらいにヤヴァイ。
「こんなんで命中させれるかぁっ!」
『当たってんだよなぁ』
あっはい、慣れました。
そして見えました。
身体の能力値、というか肉体的強度は奪われているけど、反射神経とか動体視力とかは奪われなかったようだ。
いや、これは奪われなかった、というよりかは……。
「なんだこの感覚? この異常が異常でなくなる感覚はっ?」
『どうやら【絶対領域】に目覚めた感。早かったな』
「あぁ、確かガンテツ爺さんが言っていた……って! その為にこんな無茶をさせていたのか、おんどるるぁっ!?」
『普通にやってたら、時間が足りないのは確定的明らか』
なんというスパルタンダブルエックス。
サテライト拳法が悪漢どもを光の中に消し去る。
「くっそう、納得はしないが……この機体が最高に感じまう。とっても酷い機体なのにビクンビクン」
『おいばかやめろ、ヤツが嫉妬の嵐でフォーエヴァーしてしまう』
「いもぉ」
実際問題、慣れてしまった今に至っては、まだまだいける感じはする。
そこで課題となるのがやはり、俺の肉体強度。
ぶっちゃけ、これが限界。
というか時速400キロメートルで耐えれる時間は15秒くらいか。
まぁ、対策が無いわけでもない。
ユウユウ閣下に重力バリアを作ってもらって、それで俺を覆ってもらえばいいのだ。
ただ、俺と鬼力は非常に相性が悪いので、そう長い時間、重力バリアに頼れないだろうけど。
「普段は半分、といったところか」
『時速200キロメートルじゃあ、心許ないな』
「地上で200だぞ? 十分じゃないか」
『あいつ、浮かんでっから。ビームぶっ放してるから。光速だから』
「皆まで言うな。ブレインはファイナルアンサーしてっから」
精霊王の切り札的な戦機モドキの武装を目にできたのは僥倖だった。
その中でも厄介と思われる超多量のビーム砲。
防御手段が潤沢だった頃なら脅威足り得ないそれも、今となっては脅威という他にない。
ビーム砲で絨毯爆撃できるとか頭おかしいんですわ。
「ビームコーティングした盾を一枚持っておく」
『流石、盾派は格が違った』
「絶対使い捨てになるけどな」
たぶん、当たり所にもよるが一回くらいなら耐えれるだろう。
それほどまでに、ギリギリの戦いになると思う。
機動力、運動性能は申し分ない。
しかし、攻撃力が伴わなければ、あの空飛ぶきしょい花を墜とすことはできないだろう。
樹と鋼鉄の花を一緒にしてはいけないのだ。
「ヘヴィマシンガンは使い易いけど威力がなぁ」
『それは牽制用だ。本命はおやっさんが調整している』
「それは、おやっさんが作った物かぁ?」
『作ったのはな』
「嫌な予感がエクストラステージ。不安という名の弾幕が俺に襲い掛かる」
『グレイズしてどうぞ』
「おいバカやめろ、素人は爆発四散する」
掠った時点でアウトとか考えられないんですかねぇ? そんなんじゃ甘いよ。
TASムセルをゆっくりと停止させる。
今度は背負っていた狙撃銃で遥か向こうのターゲットを狙い撃つ。
ターゲットは三千メートル先の名前も知らない気になる樹。
「よし、ふぁいあっ」
『おいぃ、カメラアイ変えてねぇぞ』
命中しました。
『おまえなぁ……』
「当たればよかろうなのだ」
「いもぉ」
これには、いもいも坊やもニッコリであった。
カメラアイをグリンと回して狙撃モードへ変更すると、いやぁ、はっきりと見えますねぇ。
『なんでそれで外すのかなぁ』
「あるぇ?」
通常モードに変えると命中しました。
「狙撃モードが息をしていない」
『おまえが止めを刺したんだよなぁ』
なんか、しっかりと見えているとかえって当たらないっぽい。
そういえば、ヒュリティアも感覚で引き金を引いた方が当たる、といっていたから、おそらくはそれなのだろう。
「考えるな、感じろってやつかぁ」
『直感勢はこれだから困るぅ。用意されたシステムの気持ちも考えて』
でも使いこなせなかったら意味がないんですわ。
まぁ、遠くが良く見えるから望遠鏡くらいには使えそうかな。
「もう一つって?」
『熱センサー』
「精霊王の位置が分かるかもしれないな」
『使い方によってはな』
あくまで目的はエリンちゃんの身体の奪還であって、精霊王ごと覚悟ーするわけではない。
なので、巨大鋼鉄花はぶっ壊してしまってもいいが、精霊王を木っ端ミジンコにしてしまう、と俺たちの敗北という事になるのだ。
「TASムセルの近接兵器は?」
『拳でぶん殴る』
「いやいや、おまえじゃないんだからさ」
『えっ?』
「えっ?」
詳しく聴くと、マジで拳でぶん殴れ、とのこと。
つまりは近接攻撃をしている暇があったら離れろ、という事なのだろう。
装甲が紙だから、そうもなろうというものだよなぁ。
『一応、腕はアイアンクローかドリルに換装できる』
「ドリルって……ロマン過ぎるだろ」
『使い難そうだけどな』
「そんな機体があったら、おケツでヤカンの湯を沸かしてやるよ」
『迂闊な発言は死を招く。気を付けろ』
「ははっ、そんなまさか……あるの?」
これにエルティナイトは、ニッコリな暗黒微笑を投げかけてきやがりました。
ヤッヴェ、前言撤回しとかなきゃ。
『まぁ、そこそこにはやれるな』
「そこそこじゃダメなんだよなぁ」
『まだ一日目だ。そこまで求めると禿げて死ぬ』
「禿げてない。まぁ、下は禿げてるが」
『おいぃ、不毛な会話、凄いですね』
「だが、最初から生えていないのは禿げたというのだろうか」
『植毛する?』
「しない」
「いもぉ」
いもいも坊やに「くどい」とのお叱りを受けました。さーせん。
こうしてTASムセルの無茶な機体コンセプトを文字通り身体に叩き込み、何とか操縦することができた俺は、直ちに次のステップへと向かう。
時間は無いに等しい。
それはテレビ中継で堂々と姿を見せる、精霊王の態度からも分かることであった。




