381食目 不思議な少年少女たち
戦機協会本部、そこに押し寄せる謎の飛行物体。
そして、協会本部に突如として現れた謎の痴女。もとい怪人。
世界の平和を守ると謳う、その中枢は混乱。麻痺状態に陥っていた。
これに対して戦機協会会長ムナークは無力であった。
今の今まで権力という座布団に胡坐を掻いていたのだから当然であり、この有事に際してなんら対応策を講じることができなかった。
しょせんは金で地位を購入した男だ。そこまで戦機協会は腐敗しきっていたのである。
「ひぃっ、パラディンたちに賊を撃退させろっ!」
「もう出てます! それ以外にやることがあるでしょうっ!?」
「わ、私は会長だぞっ!?」
戦機協会の指令室の隅で蹲り、怯える肥満の男に普段の高慢さは無い。
その姿は職員たちを呆れさせるには十分であり、この戦いが終わったなら離職しようとの意向を示す者が大部分であった。
何故なら、戦機協会に代わる組織の存在を彼らはもう知っていたからだ。
たとえその芽がまだ小さくとも、彼ならきっと大輪の花を咲かせ、その花の下で力無き者たちを守り通すだろう、と確信している。
しかし、組織に所属している以上は務めを果たす。
彼らは戦機に乗れなくとも護り手。プロのオペレーターなのである。
「ナイトランカー12位、16位、撃墜。パラディン8位撤退します」
「じょ、冗談じゃないっ! まるで役に立たないではないかっ!」
「どこへ行くつもりで?」
「ここよりも安全な場所だっ!」
「ご自由に」
オペレーターはムナークに対し、既に敬意を持ち合わせてはいない。
今は必至に戦っているであろう戦機乗りのために務めを果たそう、と意地を見せた。
「……ナイトランカー、総出ね」
『冗談じゃないけど、冗談じゃないんですよねぇ』
「……大丈夫よ、私たちならなんとかできる。抑える必要は一切無いわ。殺すつもりでやっちゃいなさい」
『ひえっ』
ヒュリティアは冷酷にレギガンダーに告げる。
だが、これは仕方がない部分もあった。
エルドティーネがいる場合、どうしても彼女の意向で、なるべく殺傷を控えなくてはならない。
手加減というのは神経をすり減らし、無駄に体力を消耗し、そしてストレスを蓄積する。
今回に限っては、それが一切無いのだ。
つまり実のところ、この規格外の戦士たちを真に抑えていたのはエルドティーネという白エルフだった、という事になる。
「……戦闘狂というわけじゃないけど、ガス抜きさせてもらうわ。精々、頑張ってね」
ヒュリティアは既に戦機乗りたての頃とはわけが違う。
度重なる強敵たちとの戦闘は、かつての勘を取り戻すには十分だった。
何より、時間経過による新しい肉体との同調が進み、その反射速度は常人とは比べ物にならない。
そして、青銅の精霊ブロンの成長も、彼女の戦機乗りとしての腕前を助けた。
「ぶろろ~ん」
非常に地味で奥手で恥ずかしがり屋の彼は、ただ一人の主のために尽くす、という隷属的な性格だが、それは契約という関係においては遺憾なく能力を発揮する。
加えてヒュリティアは、割と女王様気質なので相性が悪いはずがない。
「……そうね、やっちゃいましょうか」
強化されたルナティック。
それは、おやっさんのフライトシステムを搭載し、それをコウサクンがチューンアップした、という反則級の戦機に仕上がっている。
基本は陸戦兵器の戦機が空を克服した場合、しかもそれが狙撃を得意とするパイロットが搭乗していた場合、どうなるか。
「うわぁ、一方的じゃないか」
『いやぁ、これは楽ちんですね、御崎君』
異世界製のボングに搭乗する願野多学園二年C組の面々は、空を高速飛行しながら狙撃にて敵機を仕留めてゆく銀の輝きに見とれた。
いや、これは見とれるというよりかは呆れのそれに近い。
あの高速度で一度のミスも無いのだ。いったいどういう動体視力をしているのか。
それとも、機体のロックオンシステムが規格外の性能を持っているのか。
色々な憶測が飛び交うも、彼らは地上にて地道にBからAランクの戦機乗りの相手をする。
ただ、有象無象では願野多学園二年C組の少年少女には少々、荷が重かった。
何故なら、彼らもまた特殊な能力を行使することができるからだ。
「小西さん、よろしく」
「もきゅ」
「おう、任せてくれ。スキル【ロり】発動っ、ってな」
異世界のボングは二人乗りだ。
メインパイロットとサブパイロットで一機を運用する。
これは実のところ、操縦が不慣れなパイロット用に作られた、いわば練習機であるが、願野多学園の面々にとっては、非戦闘員も戦力として数えられる有効的な機体であったのだ。
青と緑とが交互に顔を覗かせる不思議な色合いの長髪を持つ少女が、一瞬、その身を輝かせる。これは、彼女の秘められし特殊能力を発動した証。
対象は100メートル範囲内の敵対勢力。友軍は含まれない。
小西の能力発動後、その範囲内にいた戦機が活動を停止する。
その機体の中では、幼女たちがきょとんとした表情で我が身を見つめていた。
「どうやら、成功したようですね」
「もっきゅっきゅっきゅっ」
「第二の人生をプレゼントだ。わっはっはっはっ」
小西の特殊能力、それは敵対者を永遠に【幼女】に変えてしまう、という恐ろしいものであった。
絶対に殺害できないが、相手を無力化するという意味では強力無比。
何よりも世界が割と華やかになる、といった点で評価に値するだろう。
これならば、凶悪な犯罪者でも更生できる可能性は高い。
「スキル、【不動】!」
赤髪のずんむりむっくりとした筋肉男が特殊能力を使用した。
彼の名は赤坂。対象を一切、変化させなくさせる特殊な能力を持つ。
それを、敵機体に施した。
時が止まったかのように、一切の行動を取らなくなる敵戦機。
内部のパイロットは必死に機体を動かそうとする。だが動かない。
すると、友軍の流れ弾がコクピットへと命中。一巻のお終いか。
「……へ?」
だが、一切のダメージは無かった。
そう、一切の変化が無い、ということは全ての攻撃も無効化される、という事なのだ。
「へへっ、戦いが終わるまで、そこでのんびりしてなぁ」
「ふははっ! 赤坂、やるじゃないか! このシャドウアロー矢影も負けてはいられないなっ!」
赤毛のドワーフに負けられぬ、とダークエルフの残念な感じの少年が特殊能力を発動する。
彼の能力は影を操るというもの。影が無くなる暗闇では無力になるものの、影さえあれば彼の独壇場だ。
自らの影でエレメコアを貫かれ行動不能になる戦機協会の戦機たち。
無論、爆発は起こさず機能停止。内部の戦機乗りたちは何が起こったか把握できず、本部のオペレーターたちに状況を問いただす。
無論、彼らに分かるはずもなく、単にエレメコアの停止を伝えるのみであった。
「やるね、矢影君」
「私たちも頑張らなきゃ」
金髪碧眼の少年の佐原と、長い黒髪が美しい少女、遠山は部隊の一番後ろにあって気合を入れる。
実のところ、彼と彼女は戦闘に一切参加していない。
しかし、それでよかった。
彼らの役割とは、直接戦闘ではなくサポートなのだ。
佐原少年の特殊能力は【幻】、すなわち幻を発生させることができる。
また、対象を幻にすることもできた。
これは、対象に干渉できなくさせる、或いはできなくなるというものだ。
現在はボングの幻を多量に発生させ、あたかも大群で押し寄せているかのように見せている。
それ故に戦機協会の戦機乗りたちは積極的に攻め込んでいない。
そして、遠山姫と呼ぶにふさわしい日本美人の特殊能力は【女神の祝福】。
彼女自身は決して女神ではない。しかし、誰よりも深い慈愛を携えていた。
特に想い人である御崎に対しては、より一層の愛を注いでいる。
この特殊能力とはすばり、味方の能力を二倍にするというものだ。
そう、なんでもかんでも二倍である。
能力が低い者ではあまり恩恵を得られない特殊能力であるが、ヒュリティアのような突出した者の能力が二倍になった場合どうなるか。
それは、現在進行形で示されている。
ナイトランカーたちでは相手にならぬ、とパラディンを探すエメラルドの瞳。
早速、パラディン4位を発見、猛然と襲い掛かる。
「凄いな、願野多学園。俺も負けてられないや」
ファーラを駆るレギガンダーも、決して彼らに劣っていない。
桃力の特性を引き出せるようになった彼は、ライフルの鉄の弾丸に桃力を乗せ、敵機に打ち込む。すると命中した個所が巨大化。
脚部ならバランスが悪くなって歩行不可能に。腕部なら切り離すまで移動不可になるし、切り離した場合は、その部位が使用不可になるため実質的に戦闘能力の低下を招く。
自分の桃力はサポート寄りと判断したレギガンダーは、地道な作業が得意な少年であった。
コツコツと物事を積み重ねてゆくことに抵抗が無いのだ。
それは彼の確実な成長を招く。今はまだ小さな芽は、大輪の花を咲かせる可能性を大いに秘めていた。
しかし、その芽を摘まんとする者もいることは確かで。
「肌がひりつくっ!? この気配は……!」
エースが出てきた、そう素直に感じたレギガンダーが見たものとは、煙を上げて墜落するルナティックの姿であった。




