380食目 一騎当千の鎧武者
次々と精霊王軍を退ける精霊戦隊。
しかし、これは精霊王軍の大精霊たちが弱い事を意味しない。
ただ単純に精霊戦隊がおかしいだけである。
それは抑圧の解放だった。
普段、エルドティーネを抑えている、或いは立てている者たちが、それから解き放たれるとこうなってしまうのだ。
一切の遠慮がいらない彼らは、ただ自由に、思うがままに力を振るう。
それは傍若無人だ。
絶対無敵だ。
故に一騎当千となり、戦場で無双することになる。
「……なんだあれは? 東方国の最終兵器、とでもいうのか?」
空にあって地上の超巨大な武者戦機を確認した風の大精霊オ・サーヴァは油断なく操縦桿を握りこむ。
配下たる、黒の獣たちは50メートル級の鎧武者に果敢に挑むも、子供と大人の戦い以下であった。
その鋭い刃は斬り付けると逆に刃こぼれを起こし、下手をすれば折れる。
ライフル銃で狙い撃っても、その弾丸はことごとく弾き飛ばされる。勿論、鎧武者の装甲には傷ひとつ付かないという理不尽ぶりだ。
だが、物理攻撃に異常に耐性がある、というだけならまだ納得する。
しかし、この鎧武者は、馬鹿げている事に光素兵器や、ビーム兵器ですら弾き返すのだ。
「硬いな。有象無象ではダメか」
オ・サーヴァはコンソールのタッチパネルを操作し、配下の精霊たちに巨大鎧武者を相手にせず、東方国の首都陥落を優先するように命じる。
「さて、どうする? 鎧武者。おまえ以外は有象無象だ、王を護れる駒は無いぞ」
オ・サーヴァはネオサーチスラキーラを巨大鎧武者ブシンオーへと向かわせた。
配下の精霊たちが東方国を陥落させるまで時間を稼ごう、というのだ。
彼女は極めて冷静で、己の成すべきことをわきまえていた。
他の大精霊とは違い、死を恐れない。
それは、自分には数多くの代用品があるからだ。
今の自分も、果たして何人目の自分かは覚えていないほど。
彼女ほど自分を顧みず、そして精霊王以外の命を軽んじている者はいないだろう。
「むむっ、ほんまりゅを、ねらっていりゅでごじゃりゅ!」
『うむ、戦術としては正しい。しからば、それを崩すも我らが務めぞ』
「おうっ! ぶしんそーこー、ぶしんおーのちかりゃを、そにょめに、やきちゅけりゅがいいっ!」
ふんふん、と鼻息荒いザインは、全てを喰らう者・雷の枝の能力を遠慮なく使用する。
彼女の能力は即ち、電気を喰らう、である。
これにより、戦機、機獣のコピー機、そして、半生物機体ですら、機能不全に陥る。
ただし、それは友軍にも有効となるため、使いどころが完全に絞られ使い難い。
だが、友軍が弱く頼れぬこの状況下で使わない手は無い。
操縦できなくなった乗機に、東方国軍は混乱をきたすも、同様に動けなくなった敵機を見て、突如援軍として現れた巨大な鎧武者が何かをしたと理解する。
かの武者から鎌首をもたげるは無数の雷の龍。
それが、紫電を放ちながらネオサーチスラキーラを睨み付ける。
ブシンオー自体は鈍重だ。その巨大さが災いしている。
だからこそ、装甲に絶対の強度を持たせた。
肉を切らせて骨を断つ、がこの機体のコンセプトである。
がしかし、これにザインが乗った場合、それは覆される。
雷の龍たちがブシンオーの中へと潜り込む。
オ・サーヴァはそれを攻撃に使用しないのか、と訝しげに鈍重そうな機体を観察していたが直感が彼女を動かす。
緊急回避スラスターを点火し、猛スピードで真横に吹っ飛ぶ。
元居た場所を何かが通り抜けた。
『うにゅっ! こりぇを、かわしゅでごじゃりゅかっ!』
「子供……!?」
喋ることが不慣れな幼児が操縦者であることも十分、驚きに値する。
しかし、オ・サーヴァが驚愕した出来事はそれではない。
鈍重極まりない巨大な鎧武者が、電光石火の一撃を見舞ってきた事にだ。
「いったい、どういうトリックを使っている……?」
暫し、遠目からブシンオーを観察していたオ・サーヴァは、ブシンオーを典型的なパワーファイターであると評価していた。
胸から放たれる広範囲の超高熱波。
超巨大な斬馬刀。
そして、機体の頑強さから繰り出される格闘攻撃。
多対一を可能にする特殊兵器。
だが、遅い。
ネオサーチスラキーラなら、簡単に仕留められる。
その程度にしか思っていなかったのだ。
しかし、その評価はいとも簡単に覆される。
『ちかしっ! こりぇを、かわしぇりゅでごじゃりゅかっ!』
「っ!」
一瞬、巨大な鎧武者が紫電に包まれる。
オ・サーヴァは強烈な突きが飛んでくる、と理解した。
機体を僅かに右に移動、弾丸のごとく飛んでくる巨大な刀をギリギリでかわす。
「カラクリさえわかってしまえば、なんてことはない」
オ・サーヴァは音速で迫って来た斬馬刀が【見えていた】。
伊達に風の大精霊を務めているわけではないのだ。
「レールガン、その応用。まさか機体全体に、それを施すとは思わなかったがな」
オ・サーヴァの言う通り、ザインはブシンオー内部に雷の龍を住まわせることにより、驚異的な反射速度を獲得させていた。
ただし、これは機体の速度を上げるためのものではなく、踏み込み、即ち一瞬の速度を極限にまで高めるというものだ。
つまり、早さの持続力は無いに等しい。
「ゾオンエンジン、フルドライブ。ゾオン砲……セット。ターゲット、排除開始」
勝利を確信したオ・サーヴァはネオサーチスラキーラのオーバーブーストを解き放ち、弾丸のごとく天を駆けさせる。
投薬のデータから生まれた最新の肉体は最早、薬に頼る必要はない。
その代償が、平たい肉体なのだが、彼女は姿にこだわりはない。
元々が、姿なき精霊だったのだ。
自由奔放にして、形無き者、それが風。
しかし、彼女は精霊王によって、【縛られる】という蜜を知ってしまった。
それは、麻薬のように快感で快楽的で蠱惑的だった。
従うという楽な選択は、風から自由を奪い、姿を持たせるに至る。
肉体という牢獄は、精霊王によって肉の快感を刻まれた。
だから、オ・サーヴァは精霊王好みの大精霊へと自分を日々作り変えている。
誰よりも、彼女を想い、誰よりも、彼女の役に立つ駒にならんとした。
「こんなところで、躓くわけにはいかないのでな」
機体の半分もあろうかという大砲から、奇妙な発射音と共に、黒よりも黒い破壊の光線が放たれた。
それは、ブシンオーの胸部に吸い込まれるかのように命中。
しかし、破損したのは肩鎧。
「なるほど……動けるようだな」
あのインパクトの寸前、ブシンオーは機体をずらしていたのだ。
しかし、回避しきれなく、結果としては肩装甲の半分を消失している。
「まともには、あたってやれないでちっ!」
『ザイン、見極めるのだ。勝機は必ず訪れる』
「おうっ!」
雷たるザインにも、音速に近い超破壊エネルギーが見えている。
風は音速までだが、彼女の場合、光速ですら認識することが可能だ。
そうなると、決して機体との相性はいいとは言えない。
寧ろ、軽量で高速移動できる機体の方が適している、とすらいえた。
だが、彼女には彼女の気概というものがあり、それを体現しているのが、武心装甲ブシンオーなのだ。
「しかし、あのちっこいきたいを、どうしゅりゅでち」
『すばしっこいのは認めよう。トンボ切りのごとき威力の大砲も脅威。しからば、相手の想定外の事を成すべし』
「きしゃく、でごじゃりゅな?」
「然り」
ザインは、母にして主のエルドティーネの強さは、そこにあると理解している。
ならば、娘である己にもできるはずだ、とブシンオーを前に出した。
「来るか……だがっ」
再びネオサーチスラキーラが天を駆ける。
装甲を貫けると分かった以上、時間を掛けるつもりはないようだ。
「仕留める」
旋回し、巨大な鎧武者に向かい、一直線に突撃する、ネオサーチスラキーラ。
それを向い打つのは全身に紫電走らせるブシンオー。
極限まで瞬発力を高めるつもりなのだろう、オ・サーヴァはそう確信する。
だが、どこまでも瞬発力を高めたところで、機械には限界がある。
彼女はそれを誰よりも理解していた。
限界を超えれば金属というものは脆い。
望む結果を得られるまま、朽ち果てるがいい、と心に留め、トリガーに掛ける指に力を籠めた。
放たれる破壊の閃光。
対するブシンオーは……動かず。
迫る光線。まだ動かない。
ザインは瞼を閉じ、精神を集中させている。
その破壊の光線が命中しようかという時、ようやくザインは目を開いた。
オ・サーヴァが標的にしたのはブシンオーの胸部。
大抵の戦機のコクピットはそこにある。
そして、ブシンオーのコクピットもそこにあった。
貫かれれば一巻の終わりで、ゾオン砲にはそれが可能。
しかし、命中と同時にブシンオーは忽然と姿を消す。
「っ!?」
レーダーにも反応が無い。
これはいったい、どうしたことか。
オ・サーヴァは想定外の事態に僅かではあるが動揺する。
だから、彼女は気が付かなかった。
天より自由落下してくる鎧武者に。
「桃力、特性【転】! この力は全てを転じる!」
ザインはブシンオーを自らの桃力の特性を用いて上空に転移させたのである。
当然ながら、ブシンオーには飛行能力は無い。
そして一般的にも戦機に飛行能力は無い。
だから、ブシンオーが天高い空から降って来ることはない、と決めつけてしまっていた。
コクピット内のザイン。彼女は極限まで桃力を高め、練り上げた。
それは、彼女を幼児の姿から、立派な戦乙女へと変貌させる。
つまり、子供服は無残な姿に。
『ザインよ! 今こそ勝機!』
「応! この一撃に、全てを籠めて!」
大いなる雷を纏いし刀を振り上げるブシンオー。
大気が震え怯える声をオ・サーヴァが聞き逃すはずもなく。
しかし、何もかもが遅すぎた。
『一撃必殺! 武心雷光斬っ!』
それは、巨大すぎる雷。
天空神の雷霆に匹敵するであろう、一撃はオ・サーヴァに悲鳴の猶予すら与えず、彼女を機体ごと灰へと変えた。
そして、地上へと着地。
かなりの高さからの落下であったが、それに耐える関節の強さは異常を通り越した頑強さだ。
「見たかっ! これが、武心装甲ブシンオーの力だっ!」
『あっぱれ見事っ!』
雷の剣を天高く掲げる鎧武者。
その姿に恐れ戦く精霊たちは、いよいよ以って投降し始めた。
最早、抵抗の意思もなく、その恐怖から精霊王の洗脳からも解き放たれたのである。
こうした事情もあり、精霊たちは、ザインとブシンオーを【大いなる雷の武神】、と称え崇め始めたのであった。




