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37食目 招集

 朝食後、直ぐにサビカンを出立して十時前にキアンカへと到着。

 すぐさまマーカス工場に戦機たちを預ける。


「おいおい、こりゃあ、どういうことだよ」

「かくかくしかじか」

「んな説明でわかるかっ!?」

「頭で考えるな……感じろっ!」


 ごちんっ☆


 マーカスさんに拳骨を頂戴いたしました。いたいっしゅっ!


「昨日、トッペルボトの空港が機獣に襲撃されたんです」

「なんだって? それで、ここまでやられたのか?」

「はい、襲ってきたのは航空戦力五十、と深緑の悪魔」

「あぁっ? 深緑だとっ!?」


 マーカスさんは深緑の悪魔の名を耳にした途端に激高した。

 それは表情にも表れており、【絶対に機獣許さないマン】と化していたのだ。


「お父さん、落ち着いてっ!」

「エリン、これが落ち着いていられるかっ! エリザの……おまえの母親の仇なんだぞっ!」


 肩で息をするマーカスさんは、普段俺らが目にする頑固おやじのそれではなく、完全に復讐者のそれであった。

 話を聞く限りでは、彼の奥さんは深緑の悪魔に殺されたようだ。


 一方のエリンちゃんは、それほど深緑の悪魔に感情を抱いていないところを見ると、彼女が物心つく前の出来事であったことが容易に想像できる。


「マーカスさん、深緑の悪魔はヒュリティアちゃんと、エルティナちゃんが撃退しました」

「……なんだと? アレをかっ!?」


 ヤーダン主任の説明を聞きながら、マーカスさんは俺たちの顔と、ボロボロになった戦機を交互に確認する。

 そして、大きなため息を漏らして、大きな右手で顔を覆い天を仰いだ。


「そうか、そうか……お前らがヤツに一泡吹かしてくれたのか」


 きっと泣いているのであろうことは理解できた。

 それほどまでに奥さんを奪われた憎しみが大きく、今日にいたるまで途切れさせることが無かったのだろう。


 それは、途方もない執念であり、とても悲しい事であった。


「よくやってくれたな。礼を言う」

「……礼を言われる筋合いはないわ。私たちはただ、やるべきことをやっただけ」

「そうなんだぜ。そして、奴との決着はまだついていない。絶対に復讐しにやってくるはずだぁ」

「……その時こそ、必ず仕留めて見せる」


 ヒュリティアのエメラルドの瞳が黄昏に染まった気がした。


 こりゃあ、相当におこですぞっ! くわがた、くわがた。


「くわばら、だね。エルティナちゃん」

「人の心の中にツッコミを入れるのはNGなんだぜ、エリンちゃん」


 どうやら彼女は自身の才能を開花し始めているようだ。

 まさか、心の中のボケにまでツッコミを入れれるようになっていたとは。


 この白エルフの目をもってしても見抜けなかったんだぜ。


「さぁ、そうと決まれば、こいつらを修理せんとな」


 マーカスさんの言葉にアイン君とブロン君も大喜びだ。

 エルティナイトはともかくルナティックは自走できない状態になってしまっている。

 早急な修理を必要としていた。


「ん? おいまて、これは本当にエルティナイトか?」

「困ったことに、エルティナイトなんですよ」


 ほぼ内部構造のみ、というか鋼鉄の筋肉を曝け出している巨人と化したエルティナイトに、マーカスさんが唖然とする理由もよく分かる。


 説明するならば、リアルロボットの世界に突如として現れたスーパーロボット。

 それがエルティナイトの置かれている境遇なのだ。


「呆れを通り越して笑いすら込み上げてくるな。どこまで行こうとしてやがんだ、こいつは?」

「多分、どこまでも、なんだぜ」

「はっ、おまえさんなら、やり遂げそうだな!」


 マーカスさんの大きな手がわしわしと俺の頭を撫でる。


「んじゃ、一丁、おっぱじめるか!」


 マーカスさんはゴキゴキと肩を回しながらルナティックの修理を開始した。


「エルティナイトは外装を新調するだけで良さそうだね」

「というか、それ以外、現状無理だろこれ」

「そうなんだよね。あぁ、本社に行けてたならなぁ……とほほ」


 ヤーダン主任は手持ちの道具を用いてエルティナイトの現状を調査し始める。

 彼のタブレットからはブー、ブー、とエラー音ばかりが鳴り響いて、周囲を大いに笑わせた。

 どうやら、エルティナイトは完全に規格外の存在になり果ててしまったもよう。


 ま、精霊戦機だから仕方がない、ということでセーフとなった。






 やることが急に無くなった俺とヒュリティアは一旦、わが家へと帰宅する。

 すると、ベッドの上には三匹程度の子猫が丸くなっていた。


「ふきゅん?」

「にゃあ」


 どうやら、トタンに開いた穴から不法侵入してきたらしい。

 その内、親猫も入り込んできて、堂々とベッドの上で丸くなる。


「半端ねぇな、野良にゃんこ」

「……母は強し」


 別に追い出すほどの事でもないので好きなようにさせておく。


 これからの日程であるが、空港から連絡が来るまですることが無い状態だ。

 にもかかわらず、ヒュリティアの戦機は使えず仕事ができない。


 となればバイトするなり、戦機乗りとしての腕前を向上させるために、戦機協会に設置されている戦機シミュレーターで疑似戦闘を繰り返すかのどちらかだ。


「……私はシミュレーターね。エルは?」

「う~ん、俺は定食屋でバイトかなぁ? エルティナイトは外装だけだから、二日もあれば動かせるらしいけど」


 そんな話をしていた時の事だ、戦機協会から支給された携帯端末から呼び出し音が鳴った。

 ツナギの胸ポケットから携帯端末を取り出す。


「しもしも」

『エルティナさんですか? キアンカ戦機協会です。今、お時間宜しいでしょうか?』

「大丈夫なんだぜ」

『ありがとうございます。では、至急、戦機協会にまでお越しください』

「うん? 別にいいけど……今俺たちの戦機、修理中だぞ?」

『構いません。お話をお聞きするだけですから。それでは、よろしくお願いいたします』


 そう言って、受付のお姉さんは連絡を切った。


「ヒーちゃん、戦機協会から呼び出しを受けた」

「……そう、なら私も一緒に付いて来いってことね」

「なんで?」

「……私だけ来てほしいなら、私に掛けてくる」

「そーなのかー」


 つまり、現状の俺はヒュリティアのおまけに過ぎないと。


 おんどるるぁっ! いつか、おまけを卒業してやんよっ!






 というわけで、偶然マーカス工場に立ち寄ったワイルド姉貴に頼んで、戦機協会まで送ってもらう。

 脚部が三輪車になっているガントライは整地での移動が穏やかで大変に宜しい。

 二脚だと振動が結構身体に来るからな。


「あんたら、深緑とやりあったんだって?」


 ガントライのコクピットは驚くほどに広く、メイン座席の他にも左右に人が乗れるスペースがあった。

 これは元々、ガントライが複数人での運用を想定していたからだそうだ。


 しかし、制御システムが高性能化していった結果、人員も一人でよくなり、広いコクピットだけが残った形だ。

 しかし、ガントライを愛機とする者たちは、そのスペースを利用して戦機活動を有意義なものへとしていた。


 左右の座席は後ろに倒すとベッドになる仕組みであり、戦機内での睡眠が可能。

 奥に長いコクピットは小型の冷蔵庫も搭載可能。

 中には浴槽も設置する剛の者もいるらしい。


「うん、逃がしちゃったけどな」

「……機体そのものは、エルが破壊したわ」

「それね、キアンカでもちきりよ、さっきのニュースで【深緑の悪魔、撃破っ!】ってね」


 さっき、ということはマーカスさんが知らなくて当然か。

 しかし、なんで今頃になって報道されたのだろうか。

 ヤツの撃破は昨日だというのに。


「……情報規制ね。都合が悪い事でもあったのかしら」

「あぁ、それか。トッペルボトの戦機協会にしてみりゃあ、他所のしまの戦機乗りに手柄を攫われた形だからね。ただの嫌がらせだよ」

「酷い話もあったもんなんだぜ」


 なんてことを話していると戦機協会に辿り着きましたとさ。


「それじゃあ、あたしは依頼の終了手続きをしてくるからね」

「うん、分かったんだぜ」

「……帰りもよろしく」


 俺たちはワイルド姉貴にぶんぶんと手を振って見送り、受付のお姉さんの下へと向かった。


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― 新着の感想 ―
[一言] おおう! 珍獣様、こっちでも野良猫のみなさんに縁があるようで・・・
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