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377食目 孤独の精霊王

「しかし、驚きましたよ。まさか、その形態に、そのような底知れぬ力が秘められていたとは」

「俺もビックリだ。これで、全力じゃないんだぜ?」

「ほぅ……まだ余力があると」

「そうだ、といったらどうする?」


 俺の返しに、精霊王はくつくつと嫌らしい笑い声を上げる。


「ハッタリですね。それ以上は生物の限界を超える。肉体が追いつかない。振るったとしても強力な再生能力が無ければ自分で自分を傷つけるでしょう」

「マジか」

「マジです」


「「……」」


 ちょっぴりの沈黙が発生しました。


「あれ? これって言わない方が良かったパターン?」

「ありがとう、事前に危険がデンジャラスだという事が分かった。エリンちゃんのドジっ子因子凄いですね」

「それほどもあります……はっ!?」

「掛かったな、アホぅがっ! やっぱり、完全に分離していなかったか!」


 俺の誘導尋問で、やはりエリンちゃんを完全に分離していない事が分かった。

 恐らくだが、分離したくとも分離できないのだろう。

 だからこそ、表で活動できないように一部を分離した可能性が高い。


 つまり、いもいも坊やの繭の中のエリンちゃんを精霊王にぶち込んでやれば、エリンちゃんは元に戻る。


 しかし、それだけでは今まで通りになるだけで、根本的な解決にはならない。

 エリンちゃんがメインで活動中にもかかわらず、これだけの組織の発足と計画を実行に移せるのだ。

 完全に分離させた上での封印処理が望ましい。


 そのためには、その封印手段を入手しなくてはならない。

 ただ、こんな状況じゃ、ゆっくりと探してもいられないし、そもそもが特殊能力を封じ込まれたままなので、状況としては極めてよろしくないままだ。


 最悪の状態で精霊王と対峙した俺は、やはり逃げの一手を打つより他にない。

 幸いにして、レギガンダー君の気配が感じられようになった。

 つまり、精霊戦隊が来てくれている事になる。


「ふふ、この私から逃げれるとでも?」

「逃げれないとか思っているのか?」

「ここがどこだか、ご存じでなさそうなので一応教えておきますよ」


 彼女は言った、ここ、こそが戦機協会の本部であると。


「なんだって? それじゃあ、ナイトランカーの巣窟じゃないかっ!」

「その通りです。そして彼らは私の意のままに……一部は動かせませんけど」

「めっちゃ素直」

「だって、エリンちゃんだもん」


 その一部ってキングのことだろうな。

 あのおっさん、絶対に人の話を聞かなさそうだったし。


 でも、その隣の女性は堅物そうだった。

 命令は絶対という感じだったし、精霊王の命令に従う可能性は高い。

 そもそもが、ナイトランカーが全員、人間だ、という保証もないのだから。


「その表情……気付きましたか? えぇ、そうです。十位内のランカーは強化していますよ」

「ドープも?」

「あっ、いえあれは、ぶよぶよの問題で」

「物理的な強化なのかー」

「近付きたくないんですよ。しかも、目が嫌らしくて」

「そっちかー」


 どうやら、ドープはまともじゃないけど、まともだったもよう。


 二の腕を擦る精霊王は、なまじエリンちゃんの肉体だったからだろう、おっぱい星人の辱めに遭ったもよう。

 エリンちゃん、身体が細いわりにおっぱいが大きいから、余計に大きく見えたのであろう。


「さぁ、どうします? 精霊戦隊とは言え、ナイトランカー相手には苦戦を免れません。寧ろ、次々と撃墜され、永遠にあなたと再会できなくなるでしょう」

「むむむ」

「でも、私に従う、というのであれば、配下として迎える準備もできていますよ?」

「めめめ」

「良い条件だと思いますが、どうでしょう?」

「ももも」

「……実は最初から何も考えていないでしょう?」

「いや、単に時間稼ぎだ」

「素直なのは美徳とは言い難いですよ」


 答えなんて分かり切っているだろうに勧誘してくるからだ。

 しかも譲歩とかじゃなくて、これは脅迫のそれ。

 この程度で、俺と精霊戦隊が心を折るとでも思っているのか。


 俺たちの根性はダイヤモンドレベルの硬度を持っているから、折れない、砕けない、曲がらない。

 だから俺は、こう反撃するだろうな。


「精霊王、おまえ、独りぼっちだろ」

「……」

「だから、こんな事をする。自分に都合が良い者以外は排除して、自分を傷付かないようにする。いや、すごいなー、あこがれちゃうなー」

「黙りなさい」

「そんなんじゃ、誰も付いて来ないぞ。誰もおまえの事を想っちゃくれないぞ」

「黙れっ」


 感情の仮面が剥がれ始めた。


 まぁ、人類の抹殺とか、弱い精霊に強制労働をさせる背景にあるのは、大抵こういった昏い感情と過去にあるものだ。

 鬼とやり合っている桃使いを舐めたらあかんぜよ。


「契約で縛った相手は、何かの拍子で離れるもんさ。大精霊たちだって、そうだ」

「あの子たちは、私の子です。私の命令は絶対なのです!」

「じゃあ、百果実もか?」

「……あの子はね、失敗作なんですよ。私の意思に逆らい続ける。だから痛い目を見るんです。躾はね、親の義務です。分かるでしょう? 分ると言えっ!」


 ヘドロを吐き出すかのように感情を表に露出する精霊王。

 仮面の下のエリンちゃんの顔は、きっと物凄い形相になっているに違いない。


「ぶっちゃけ分らん。おまえも知ってるだろう? 俺は親無し、ザインちゃんも娘だが、それ以前に俺の眷属、そして主従の関係。だから、親子のなんちゃらはどうでもいい、とすら思っている」

「……っ」

「だからこそ、俺は絆というものを純粋に見ることができるんだ。血の繋がりなんて関係ない、歳の差とか、年上、年下、身分の差、それがどうした。種族の違いなんてもっての外」


 精霊王の陰の気配が揺らぎ始めた。

 賢いが故に理解してしまったのだろう。


 独りよがりの理想の果てに、多くの命を奪ってしまったという大罪を。


「傷付かずに得られる結果なんて、もなかの皮みたいにボロボロと崩れちまう。精霊王、今お前が手にしているのは、もなかの皮だ。少しの衝撃で全部、何もかもが形を失う」

「黙れっ」

「勇気を出すべきは、こんな事じゃない」

「止めろっ」

「ちゃんと、前を見ろっ。まだ、本当におまえを想ってくれているヤツはいる」

「嘘だっ!」


 これは呆れるほどに効いている。

 読んでてよかった、【君にも解る桃使いの説得方法】第一巻。

 ヒュリティアに渡された時には何かの冗談かと思ったが、意外なところで役に立った感。


 でも、これはあくまで手順しか書かれていない。

 精霊王に向けた言葉は、俺がちゃんと考え、彼女に訴えかけている想いだ。


 こうして、彼女が悩んでいる、ということは俺の想いが僅かでも届いているという証。


 そして、恐らくだが、彼女を想っている者は間違いなく彼だろう。


「人間は、人間は直ぐに裏切るのですよ。自分よりも弱い者を支配下に置きたがるっ。精霊を道具程度にしか思っていないっ。私の子たちも、みんな都合の良い道具として扱って、使えなくなったら捨てたっ! そんな連中に絆を見出せと!?」

「エリンちゃんを通してみてきたはずだ。全てが全て、そうじゃないと」

「なら、今すぐに、全ての人間を善なる者にして見せろっ!」

「時間は掛かるが、そういう人間が多くなるようにして見せる」

「私は、今すぐと言った! 今でなければならないのだ! この星が、持たない時が来ているのだ!」


 それは、エゴだよ! と言えないところが辛いところ。


 じっさい、第六精霊界は限界が来ている。

 その証が俺と始まりの大樹との契約。


 生命の大輪廻にて、この星を生かしたまま転生させる計画。

 本来は精霊王が担うはずだった役目を俺が引き受けた形。


 あぁ、そうか、これは嫉妬も含まれているな。

 だとしたら、この説得は成就しない可能性が高い。


 え~っと、レギガンダー君はっと。


 この感じだと戦闘が始まったっぽい。

 いつまでも、ここにはいられないな。


「それは理解している。でも、人間だってこの星が生み出した生命だ。理由なく存在しているわけじゃない」

「人間は害悪だよ。環境を汚染する悪魔の猿だ。自己中心的で、他者を顧みない。あぁ、そうだ、私は何を迷っていたのだ」


 精霊王が手を差し伸べてくる。

 すると、精神が何かに引っ張られる感じがした。


「人間はいらない。エリンちゃんで最後にする。いや、この子もやがて精霊に回帰するだろう。ふふ、この子は生まれてくる種族を間違えただけ、その証拠に、黒の巨人を従えた」

「なんだって?」

「この子は私の子。そうさ、だからこそ、私が宿れた。私の過ちによって生まれた可哀想な子。だから、私がどうにかしてあげないといけない」

「何を言って……いや、そうか」


 恐らくだけど、百果実が言っていた無数に分かれた精霊王って、この事かっ。


「理解しましたか。百果実辺りが口を滑らせたのでしょうね。そうです、私は人間の男とかつて恋に落ちました。その結果が精霊と人間とのハーフ。その末裔がこの子」

「エリンちゃんは先祖返りを起こしていると?」

「他にもいますが、この子が一番、強い精霊力を持っています。だからこそ、私が表に出る事ができた」

「エリンちゃんは、おまえの事を知っているのかっ」


 拙い、引き寄せられる力が強くなっているっ。

 これは、アダルトモードの能力の封印に掛かっていやがるなっ。


「いえ、この子には、何も。教えられるわけがない」


 悲しそうに首を横に振る精霊王。


「この子は眩し過ぎる。まるで太陽のようにね。だから、この子は全てが終わるまでは眠っていてもらいます」

「それが、本当のエゴってものだ! 解れっ!」

「ならば私も君に言おう、悪を恐れて大事を成し遂げれるものかと!」


 くそっ、予想通り、説得は無理だったか!


 説得はもう無理だろう。

 そして、精霊王は俺のアダルトモードの封印に掛かっている。


 これまで封じられたら、俺に打つ手は無くなる。


「南無三っ!」


 一か八か、窓に向かって飛び込む。

 ガラスを突き破り、地面に叩き付けられながらも、なんとか精霊王の封印から逃れることに成功。


「くそっ、身体が重いっ!」


 しかし、アダルトモードの身体能力の大部分は封印されてしまったもよう。

 これでは、ただのエロい白エルフでしかない。


 上空、地上、共々激しい戦闘の音が響く。


「行くしかねぇっ! いもいも坊やっ、腹を括れよっ!」

「いももっ!」


 俺は精霊王から逃れるべく、不安定な身体を走らせた。


 うおぉ……パイパイがブルンブルンで走り難いんじゃあっ。


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― 新着の感想 ―
[一言] 対決! エリンちゃん因子の濃い精霊王 VS エロボディしかない珍獣 NG「どっちもどっちですな」 珍獣「まずはコイツをやっちゃおうぜ精霊王」 精霊王「異論は無い」 NG「何をする!あー!」
[一言] レギガンダー君ハヤクキテーハヤクキテー まあ間に合ってもメンタルお子ちゃまな珍獣相手には色っぽいムードにはならないんでしょうが…。
[一言] おおう! 精霊王、てごわい!
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