375食目 囚われの身はもう飽きた
◆◆◆ エルドティーネ・ラ・ラングステン ◆◆◆
えらいこっちゃ、えらいこっちゃ。
いよいよ精霊王が暴走をおっぱじめちまった。
各属性の大精霊が部隊を率いて各国を襲い始めている。
ちら~り、とその部隊編成を目撃したが、もうなんでもありの混成だ。
機獣はもちろん、戦鬼のコピー品と思われる機体までも組み入れる、という節操の無さは乾いた笑いを誘発して、へそで湯が沸かせちゃいますよ。
もちろん、俺もいつまでも囚われの身でいるわけには行かない。
この囚われの身の期間、何もしていなかったわけではないのだ。
身体だけは動かせるようにしてもらったが、桃力を始めとする特殊な能力は封じ込められたまま。
なので、俺はそれらに頼らない方法で大脱出を果たさなくてはならない。
だが、俺は逆に考えた。
何がなんでも特殊な力を使って逃げてやる、と。
つまり、精霊王が知らない特殊能力に目覚めて、それをなんやかんやして、とんずらぶっこく。
これしかない。
「ふっきゅん! ふっきゅん!」
「あ~、う~」
だが、精霊王も馬鹿ではないようで、エリンちゃんの精神を仮初の肉体へと移し替える事により、俺の脱走を抑制しようとしていたのだ。
加えて、バグか何かが生じたのであろうか、土の大精霊と化したエリンちゃんは幼児退行を起こし、会話もままならないという。
でも、そんなの関係ねぇ! はいっ、特殊能力っ!
という感じで無駄に身体を動かしつつ、特殊能力がひり出ないかなぁ、と頑張る俺は無駄に豪華に飾られたお部屋にて監禁中。
部屋の中はうろうろしてもいいけど、お外には出しませんよ状態。
しかも、走り難いお子様用ドレスに着替えさせられ、囚われの姫君を演出するとか頭に来ますよ。
俺はこうだっていうのに、何故かエリンちゃんはエロい姿。
超ハイレグに、無駄にゴツイ肩アーマーを装着させられているだけ、って防御面を軽視し過ぎているんじゃないですかねぇ。
無防備にハイハイしたら色々見えているんですが。
「いもっ」
「ふきゅん、いもいも坊や。どうだった?」
「いももっ」
部屋の隅から小さな芋虫が姿を現す。
俺が攫われた当時、偶然にも外に出ていた、いもいも坊やの協力によって、精霊戦隊に僅かな情報を渡すことができた。
これさえ見つけてくれれば、ビックリするほどに賢いヒュリティアが、なんとかしてくれるだろう。
そうであれば、俺も脱走に備え、この秘密基地の構造を把握しておく必要がある。
「むむむ、思ったよりも複雑な構造だな」
「いもぉ」
こう見えても、いもいも坊やは全てを喰らう者の枝。
鋼鉄の壁だって、むしゃむしゃして内部に入ることが可能だ。
しかも外見はクソザコ芋虫なので、精霊たちですら気に留めない。
完璧な諜報活動が可能というハイスペックな存在だ。
でも欠点が無いわけではない。
芋虫だから、移動がくっそ遅い。
芋虫だからね、仕方がないね。
特殊能力の封印は各種枝の呼び出しも封じているため、今いもいも坊やを想いの中に戻すわけにはいかない。
もう少し、外の世界でがんばってもらわねば。
「ふっきゅん! ふっきゅん!」
いやしかし、どうやって俺の能力を封じているんだ。
全てを喰らう者まで封じ込めるだなんて相当な封印術だぞ。
このカラクリさえわかれば、封印を破る切っ掛けになるんだろうけど。
考えても分かりません状態が長く続いたので、思考がバグりました。
だから俺はベッドにダイブするだろうな。
「う~っ」
するとエリンちゃんも、もぞもぞとベッドにパタン。
俺が、ぶにゅん、と柔らかお肉に押し潰されます。
俺を玩具か何かと勘違いしている説。
そして、そのまま俺を抱きかかえて夢の世界へとレッツラGO。
基本、無害なのが救いだが、彼女をいつまでもこのままにしておくわけにはいかない。
なんとかしたいところだが、今の俺のままでは厳しいか。
新しい能力の発現のために、取り敢えず身体を動かしてみたが、あんまり効果は無かったようで無駄に疲れただけだった。
なので、ダメ元で各種能力の発動を試みる。
が、やはりダメっ! 殆どの能力が腹の中でぐるぐるしているっ!
試しに踏ん張ってみたが、出たのは空気だけでした。
オナラじゃないからねっ、だからセーフっ。
ただ、分かったことが一つ。
桃力を練り上げる事ができるという事。
そして、それを排出できない事。
尚、他も似たような現象になる。
「つまり、内に生じさせることはできる、という事なんだな」
だからどうした、という結論に至るまでに、そう時間はいりませんでした。
桃力も、魔力も、放出されてからが本番の子たちだもん。
「うごごごごっ、俺はここまでなのかっ」
「いももぉ」
いもいも坊やが励ましてくれているが、俺はもう殆どやり切った感が絶望をクライマックスフォームへとライドしちまっていた。
このままでは希望軍が絶望軍に蹂躙され、アヘ顔を晒す羽目になっちまう。
「ん? アヘ?」
「いも?」
「内にしか発生できない桃力?」
「いももっ?」
何かが、カチカチとハマってゆく感じ。
それは、まったく次のパーツがハマらなかったパズルが、次々に完成に近づいて行くかのような感覚。
「まてまて、落ち着け、俺」
OK、理解した。俺の新たな特殊な能力のビジョン。
しかし、そうなるとあとはタイミングだ。
あとは始まりの大樹の安否。
彼女がここに連れてこられた、という情報はいまだ耳にしていない。
もしかすると精霊王が黙っているだけかもしれないが、ヤツの場合、拉致に成功すればドヤ顔で俺に自慢してくるだろう。
それが無いという事は、恐らくなんやかんやして百果実から逃れることができたか。
もしかしたら、お色気戦法で百果実を篭絡した可能性も捨てきれない。
であれば、まだまだ猶予はある。
「いや、のんびりもしてられないか」
そうだ、現在、精霊王軍が絶賛、全世界を攻撃中なのである。
しかもその目的が、全人類の抹殺とついでに光素集め、というエグさ。
精霊王は完全に頭がバーストしているに違いない。
そして大問題なのが、タイミングを計るにしても、そのタイミングがイマイチぴんと来ないという。
これじゃあ、脱出したくても脱出できないじゃないですかやだ~。
でも、タイミングってヤツは何の脈絡も無しに「おいっす」とやって来るもので。
「……うん? これって、レギガンダー君の想いか?」
僅かに感じる彼の俺に対する想い。
それは温かくて優しくて、何故か酸っぱい。
なんで、酸味が混ざっているんだ。
直前にレモンでも食べさせられたのだろうか。
ということは、皆がここに向かって来ているという事か。
ならば、一か八か大脱走をおっぱじめてみっか!
「ふっきゅん、ふきゅきゅ~ん」
もぞもぞ、と身体をくねらせてエリンちゃんの拘束から脱出。
その際に彼女のおっぱいが、ぽろんと零れたけど気にしない。
「え~っと……おう、あるな」
ごそごそと箪笥の中を漁る。
そこには、色々な衣類や小物がたんまりと保管されていた。
「これなら、最小限のお叱りで済むに違いない」
そう、俺はこれから【禁断の能力】を使用する。
割と未知数だけど、俺の両親がアレなら、俺も割とアレになるに違いない。
「んん~! はぁぁぁぁぁぁぁっ!」
桃力を丁寧に、そして極限まで練り込む。
それを腹の下の辺りで内部爆発させた。
「チェェェェェェェェンジっ! エルティナ! スイッチ、オォンっ!」
俺の肉体が桃色に輝き、ムクムクと大きくなってゆく。
可憐なドレスは俺の暴虐の肉に引き裂かれ無残に爆散。
どんどん視界が高くなってゆく。
「よしっ、成功だ!」
「いももっ!」
俺が試みたのは桃力によるアダルト化だ。
今までヒュリティアによって使用禁止令を出されていたが、別に封印されていたわけではない。
加えて全く使用していなかったので精霊王もノーマークだったのだろう。
「うおぉ……どんどん、奥底から力が湧き上がってくる! これが、俺の本来の能力だというのか?」
「いもっ!」
そうだよ、と肯定する芋虫の坊やが口から糸を吐き出す。
それはスヤスヤと寝ているエリンちゃんを包み込み、ギュッと圧縮してしまったではないか。
「ふきゅんっ!? エリンちゃんがっ!」
「いもぉ」
いもいも坊やは大丈夫、と教えてくれました。
でも、その際の何気ない一言は、極めて重要な情報だった。
「中がスカスカ?」
「いも」
つまり、精霊王はエリンちゃんの精神を完全に切り離していない、という事になるのか?
だとしても、このエリンちゃんを消失させれば、本来のエリンちゃんの人格が破損して、俺たちが知る彼女でなくなる可能性が高い。
「どっちにせよ、俺たちは精霊王と対峙しなくちゃならない、ということか」
「いもぉっ!」
結論は出た。
いつまでも、囚われの姫だと思ってもらっては困る。
俺は箪笥から際どいハイレグとブーツを取り出し装着。
肩アーマーはいらへんわ。
うん、見た目は痴女。良くいえば女スパイ。
「いもいも坊やっ!」
「いもっ!」
エリンちゃんの欠片が入った小さな繭を背負った芋虫を、俺の左肩に乗せて脱出の準備は完了。
「ユクゾっ! ハァァァァァァァァンっ!」
開かずの扉を掌底突き。
それは、バリバリというあり得ない音を立てて向かいの壁にめり込んだ。
「……えぇ? これって別の意味で封印しないといけない系じゃね?」
「い、いもぉ」
たぶん、おとんの能力がアダルト化して表面に出ているんだろうけど、これはやり過ぎ感があって使い難い事請け合いですぞっ。
それでも、荒事の際には頼もしい限りだ。
でも、防御面は魔法障壁が使えないから紙装甲に違いない。
こんな、ぷにぷに、もちもち、どたぷ~ん、じゃ剣も銃弾も跳ね返せないだろう。
「戦法は先手必勝になるな」
「いっもぉ」
目指すは地上。
現在は地下六階とのこと。
ここまで来たら、サーチ・アンド・デストロイの精神で爆走じゃい。
薄暗い鋼鉄の通路を、アダルト化した俺は疾走するのであった。




