373食目 契約
「……話は聞いていたわよね?」
「あぁ」
「……それじゃあ、協力してくれるかしら? というか契約を交わしましょうか」
ヒュリティアさんの提案にDチームの面々は苦い顔を見せる。
「内容にもよるな」
「俺たちは、束縛が大嫌いでね」
「美女に束縛されるのなら大歓迎なんだけどもよ」
あ、それ、分かります。
「……レギガンダー」
「ほんの出来心ですっ!」
あぁ、モヴァエさんの笑顔が優しいなぁ。
「……内容は、そうね、憎怨を退治するまで精霊戦隊に所属。三食昼寝付きで専用機を支給でどうかしら?」
「給料はどうなるんだ?」
「エリシュオン軍から出るでしょ。うちは、他じゃ食べられない食事の提供よ」
これにDチーム、特にルオウは悩んでいるように見えた。
給料は出ないだろうけど、その代わり美味しい料理がたらふく食べられる。
その上で専用機が与えられて、敵相手に暴れられる、という戦士にとっては都合の良い環境。
「ルオウ、俺は良いと思うぜ」
「ズーイ……」
「俺もだぜ。何よりも、ここは美人が多い。一人くらいは、ものにできるんじゃねぇかなぁ?」
「それは無理だ、モヴァエ」
「酷いっ!?」
バリバリと頭を掻きながら、大きなため息を吐くルオウ。
それは決心がついた証だったのだろう。
「分かった、契約を結んでやるよ。どうせ少将も、それを読んでいただろうしよ」
「……理解が早くて助かるわ。暫くの間、よろしくね」
がっちり握手を交わすヒュリティアさんとDチーム。
モヴァエさんの表情が、酷くだらしなかったのは見なかったことにしよう。
こうして正式にDチームが精霊戦隊所属になったことにより、専用機の必要性が増してきた。
とはいえ、本格的に一から創り出すには時間が足りない。
そうなると、やはり何かを基にしてカスタムするしかないだろう、という結論に。
今はとにかく、精霊王の暴挙を止めなくてはならないのだ。
「は~、ここは凄いねぇ」
「まったくだ! こう魂が騒めくというか、興奮するというか!」
むっはー、と興奮が納まらないアナスタシアさんたちと、おやっさんたち。
そんな彼らは、せっせとダンプカーに大量のコウサクンを詰め込んでいた。
「にゃっ!? コウサクンをどうするにゃっ!?」
これに慌てたのはミケだ。
今は動かない彼らだけど、将来的にはノアに必要不可欠な子たちなのだから、ミケの反応はなんらおかしい事ではないだろう。
「こいつらもメカニックなんだろう? 遊ばせておくには勿体ない」
「調べたら、光素で動いていることが理解できてねぇ。それなら、アストロイの光素をこの子たちに供給して動かしてみよう、ってことになったのさ」
これに俺ならずとも、ヒュリティアさんも「あっ」という声を上げた。
「そうか、何も無理にここで動かす必要は無かったんだ」
「レギガンダーの言う通りだ。信念は固く、考え方は柔らかくな?」
おやっさんは、トントン、と頭を指で突っついて笑みを見せたのであった。
結果としては、おやっさんたちの予想は当たった。
アストロイのマザーにより、白い子蜘蛛たちは息を吹き返し、ききっ、と元気に動き回り始めたのだ。
その数は総勢、500機。
でも全てを動かすのではなく、交代制にして半分ずつ稼働させるらしい。
ロボットとはいえ、二十四時間休ませずに稼働させ続ければ壊れてしまうから、とのこと。
当然の判断だと思う。
また、半永久機関を搭載しているとはいえ、500機ものロボットに光素を提供するのはしんどい、とはマザーの言葉だ。
「250とは良い数字だ」
「専用機の開発も数日あれば行けそうだねぇ」
「きっき」
メカニックチームに強力な助っ人が加わったことにより、専用機への改修は一気に加速。
交代制にしたことによって、二十四時間作業が可能になったことは大きく。
それから三日後。
ノアはドワルイン王国に向けて航行中だ。
もちろん、海路ではなく空路である。
ハンガーデッキ兼工廠にずらりと並ぶカスタム機。
それとは別に完全新型機がヤーダン主任を筆頭に建設中だ。
資材はノアに転がっている物であれば何を使っても良い、というミケの大雑把な許可が下りたことによって近い将来、とんでもない戦機が誕生するのではなかろうか。
「取り急ぎ、ユウユウのカスタム機、というかこりゃあ新型だな」
「まぁ、フレームが【木製】だからね。加工が簡単だから直ぐに出来上がって当然さね」
鉄が苦手、という鬼力。
それならば、鉄を完全に除外しよう、という発想から生まれたのがこの木製の戦機。
その名も【イバラキドウジ】。
もうそのまんまのネーミングだが、ユウユウさんはこの機体を痛く気に入ったようで。
「いいわねぇ、ヒノキの香り」
「だろう? コクピットに使ったのはヒノキだけど、フレームは鉄並みの強度を持つ【カチカチ樹】を使わせてもらったんだよ」
「なぁに? その愉快な名前の木材は?」
「ノアのそこいら辺に生えている樹木さ。何かの冗談かと思ったら、チェーンソーの刃が欠けちまってねぇ。本当に驚いたもんさ」
それを伐採できた方がビックリなんですが。
「下手なアインリールよりも頑丈だけど、火には気を付けるようにね」
「あぁ、やっぱり燃えちゃうのね」
「一応、耐火コーティングはしてあるけど、過度な信用はご法度さ」
アナスタシアさんの説明を理解したエッチなボディスーツ姿のユウユウさんは早速、新型戦機イバラキドウジに搭乗。
木目が美しいイバラキドウジの姿は二本の角が生えた鎧武者の姿だ。
これにザインちゃんとマサガト公が反応する。
「じゅりゅいでごじゃりゅ~!」
『これはまっこと良き武者にて候』
でも、イバラキドウジの主武装は木製の棍棒でした。
たぶん、これは正解。
彼女の鬼力の特性は重力を操ること。
この棍棒の重力を操れば、確実に必殺の一撃に変わってしまうだろう。
「坊主! ぼさっとするな!」
「あっ、はい! おやっさん!」
「リンクを始めるぞ。力を抜け」
「わ、分かりました」
皆が専用機の具合を確かめる中、俺もまた新型機というか、あまり物というか。
それの調整に忙しかったのだ。
「よしよし……ヒュリティアの嬢ちゃんの読み通りだな」
「それってやっぱり?」
「あぁ、おまえの中にエルティナの波長が加わっている。こいつを使えば……よし」
鋼鉄の乙女が再起動する。
定められたパイロット以外では反応すらしない彼女が目覚めた、という事は俺の中に彼女がいる事に等しいことだ。
「いけるぞ、ファーラ! 後は、こいつにエルティナの反応を拾わせれば、確実に位置が特定できる!」
そう、ヒュリティアさんはファーラを探知機に使えないか、と考えたのだ。
それは彼女が、エルティナの創り出した小さな神桃の実を、俺が食べたことを知っているからだ。
きっと、エルティナの桃力が俺の体内に留まっている、と踏んだ彼女はおやっさんに相談を持ち掛け、それならば、とおやっさんはこの方法を考え付いたのだろう。
「よし、あとはファーラのマニュアルを頭の中に叩き込め」
「やっぱり、俺がファーラですか?」
「当たり前だろ。エルティナの飛行データを参照にして【フライトユニット】を作ってやったんだ。バッチリやってこい」
「あ痛たっ」
ばちん、と背中を叩かれファーラへと向かわされる。
彼女と目が合った。
誰? というきょとんとした表情は可愛らしい。
たぶん、同じサイズであれば恋に落ちていてもおかしくはない。
でも、彼女はデカすぎた。いろいろと。
移動式のリフトに乗り彼女のコクピットへ。
おへその部分にあるそこに入り込む、となんだか冒涜的な感じで心がそわそわし始めた。
「坊主! 落ち着けっ! ファーラがモジモジしちまってるぞっ!」
『「ひ、ひゃいっ!」』
変な声が出た。それはファーラにも伝染してしまって。
あぁ、エルティナが言っていたファーラの困った機能ってこれだったんだ。
そんなものに男の俺が乗ってしまっていいのだろうか。
「股を開くなっ! がに股もNG! あと絶対に屁をこくなよ!」
『「ひえっ、注文が過酷っ」』
果たして、俺はやってゆけるのだろうか。
早くビッシュガドルに戻りたいな、と思う俺であった。




