371食目 過去の遺産たち
ミオたちが走っていった先にあった物、それは大型のロケットのような物だった。
でも、それには何故かバイクのハンドルのような物が付けられている。
どう見てもバイクではないそれに群がるにゃんこびとたち。
「懐かしいにゃっ!」
「メルプゥねーちゃんのアローシープにゃ~お!」
「まだ動きそうだねぇ」
オレンジ色のロケットは【アローシープ】というらしい。
説明によれば、空を飛ぶバイク、とのこと。
生身で空飛ぶバイクに乗るとか常識を逸しているし、これで戦闘を行うとかも狂気の沙汰だ。
でも、それを実際にやっていた人がいるらしく。
本人もノリノリだったとか。
きっと、頭のネジが百本くらい外れていたんだろうなぁ、と想像。
筋肉モリモリの変態マッチョさんで間違いないだろう。
「ききっ」
「にゃ、コウサクン。整備してくれてたにゃおね」
「き~」
ここより奥には結構な数のコウサクンが今尚、活動していた。
どうやら、ここら一帯はノアにとっても、コウサクンにとっても重要な場所であるようで。
わちゃわちゃと活動する蜘蛛型の工作ロボット。
システムの調整や修理、掃除洗濯にと大忙しだ。
これが、本来あるべきノアの姿なのだろう一面を垣間見た気がする。
「……働き者ね。うちにも欲しいわ」
「エルティナが、俺の仕事をとるな~、って怒るかも」
「……無い話しじゃないわね」
特に料理関連は規制するかもだ。
彼女は食に関しては人一倍にうるさいから。
でも、そんな光景を見るには、兎にも角にもエルティナを取り戻すより他にない。
「ナイトスにゃ」
「マーカー隊の機体だね」
騎士風のデザインの機体の前で立ち止まるミオとクロエ。
それらの最奥に黄金の機体の姿があるが、それは大破した状態で、二度と動かないであろうことが理解できた。
「マーカーさん……」
「にゃ~ん……」
きっと何かがあったのであろう機体を前に、悲しい表情を見せるにゃんこびとたち。
彼らの楽しい思い出、哀しい思い出を蘇らせつつ、俺たちは遂に最奥へと辿り着いた。
そこへ真っ先に駆けだすのは、やはりにゃんこびとたち。
それなる起動兵器は他の機体群と比べ、かなり異質な雰囲気を漂わせている。
一言でいうのであれば、それは猫獣人。
猫を人型にしたかのような、そんな機体だった。
マッシブなのにスリムな印象を受ける機体は、長い尻尾を備えていて。
でも、注目すべきは各関節部分。
これでもか、と頑丈さだけを追求したかのような作りになっていた。
「ラストニャンガーにゃっ!」
「じーちゃんの機体にゃおっ!」
「わぁ、残ってたんだぁ」
わっしょい、わっしょい、にゃんにゃんにゃん、と踊り狂うにゃんこびと。
ミケは全てを知って、ここに案内をしたわけではなかったようで。
ラストニャンガーなる人型兵器に喜びを示した。
「……あら、良い機体じゃない。ミオが使えばいいんじゃないかしら」
「にゃっ、使っていいなら、ミオが使うにゃ~ん!」
「にーちゃん、どうやって乗るにゃおか?」
「……にゃ~ん」
実は俺も思った。
このラストニャンガーという機体、実は3メートル程度しかなく。
俺でなんとか納まるのではという大きさだ。
「にーちゃんも、元のサイズに戻れればにゃあ」
「あぁ、そうか。これって小人の戦機って例えれるのか」
「そうにゃ、にーちゃんも、元々はミケと同じ大きさだったにゃ~お」
そういったミケは小人の姿に。
でも、その姿であっても並の人間では及ばない身体能力を持っているようで、俺の肩へと跳躍。
一回のアプローチで到達してしまった。
「この星じゃ、ミオたちは人間と同じサイズにゃ」
「にゃ~ん、転生しちゃってるもんね」
ミオはお目当ての物に乗れなくてしょんぼりと項垂れた。
でも、なんだかラストニャンガーは彼に乗ってほしいという想いを放っている。
実際にそうなのかはよく分からないけど、俺はそう感じた。
「乗れるかどうか試さない内に諦めるもんじゃないよ」
「レギガンダー、でも……」
ミオはラストニャンガーのコクピットハッチを開く、とそこには小人サイズのコクピットの姿。
流石にこれでは無理があるか。
「せめてドクター・マグスが生きてたらにゃあ」
「マグスじーちゃんは……」
「分かってるにゃ、にーちゃん」
ドクター・マグスという人物は、これらの起動兵器の生みの親らしい。
既に故人らしく、もう二度とこれら起動兵器の系譜は誕生しないとのことだ。
ただ、コウサクンの数機が設計図を保有しているらしく、それさえあれば再生産やアレンジくらいはできるとのこと。
問題は、その個体がそれを所持しているかだ。
「たぶん、休止している子だって言ってるにゃ」
「きっきー」
ということは、今ここにある物でミオは自分に合った機体を選ぶ必要がある、という事になる。
でも、そのような機体があるだろうか。
無い場合は中古の戦機を購入するか、ぷち鉄の精霊のアインリールを使用するより他にない。
悩みつつ、ロボットを品定めするミオ。
クロエも自身の機体を求めて見て回るも今一、ピンと来るものが無いようで。
こういう時、エルティナだったら、うっかりで解決しちゃうんだろうなぁ。
そのように考えていた時の事だった。
俺は無意識の内に桃力を練っていたのだろう。
腹の下の辺りが桃力の輝きで溢れていたではないか。
「……レギガンダー?」
「あっ、つい、いつもの癖で」
無意識に桃力を生産できるようにする、という修業はそのまま癖に。
でも、意識するとこれがなかなか作れないのはもどかしい。
「……そういえば、あなたの桃力の特性、まだ調べてなかったわね」
「特性?」
「……そう、桃力には一種類だけ、その所有者だけの特殊な能力が秘められているの。これは鬼力にも言える事で、エルティナなら【食】。他のエネルギーを貪り喰らう能力。ユウユウなら【重】。重力を操る力、となるわ」
とここでヒュリティアさん、こほん、と咳払い。
「……エルドティーネの桃力は【想】だったわね。【食】はあの子の母親の方だったわ」
「そうなんですか」
「……えぇ、ほんと、親子ともども不憫だわ」
遠い記憶を思い出したかのような眼差しは俺にも向けられて。
「……あなたの桃力、調べましょうか。このタイミングで飛び出てきた事は偶然じゃない気がするもの」
「はぁ、でも、俺は調べ方が分からないですよ?」
「……私が知っているわ」
そういうと彼女は俺の腹に手を当て目を閉じる。
自身は桃力を作り出すことはできないけど、桃力の知識は桃使いよりもある、と豪語するのだ。
それは、決して妄言や誇張ではなく本当の事で。
「……レギガンダー、あなた、本当に持っている子ね」
「えっ?」
「……あなたの桃力の特性は【大】。ありとあらゆるものを大きくすることができるわ」
「お、俺の桃力にそんな力が?」
「……案外、そのお陰で戦場にあってもしっかり戦えたのかもね?」
「そ、そうなんですか?」
「……たぶんね。あなた自身の勇気を大きくすれば可能でしょ?」
あ、ありとあらゆるって、気持ちすらも大きくするのか。
本当に桃力は凄い。それと同時に怖さも覚える。
もし、悪意を大きくしてしまったら、と思うとサイコ・ジャイアントの悲劇が再び起こるのではと委縮してしまうのだ。
「……大丈夫よ。あなたは私たち大人がしっかりと見ているから。安心して前に進みなさい」
「はいっ、よろしくお願いします」
「……よろしい。正しき勇気を持ち続けなさい。それが、あなたを真っすぐ歩かせる」
俺の迷いを的確に見抜く褐色の彼女は、俺にとって桃使いの師匠なのだろう。
技術ではなく、心の、一番鍛え難いであろう個所の。
「……ミオ、こっちにいらっしゃい」
「にゃ? どうしたにゃ~ん」
ヒュリティアさんに呼ばれ、急ぎ駆けつけてくる猫の少年。
その頭の上には妹のミケを載せていて、クロエはそれが羨ましそうだった。
「……ちょっとした実験をするわ。もしかしたら、その猫型兵器を使えるようになるかも」
「にゃにゃっ!? 本当にゃおかっ!」
この朗報にすかさず踊りを組み込む当たりにゃんこびとらしい。
彼の期待を裏切らないべく、俺は桃力を練り始める。
「……いいわよ、イメージとかは難しいでしょうから、先ずは口に出して桃力を塊にする」
「どう言えばいいですか?」
「……桃力、特性、大、発動」
「はいっ!」
練り上げた桃力を生み出し両の手を円状に動かす。
空気を球状にしているかのような動きは、実のところ初心者の証。
熟練者は桃力を体外に放出した時点で、己のイメージ通りに生成できているらしいのだ。
「……よし、いいわよ」
「っ! 桃力、特性【大】! 発動っ!」
俺の言葉を受けて飛び立つ桃力。
それは、勝手に鳥の形となって鋼鉄の巨人へと羽ばたく。
それを目の当たりにしたヒュリティアさんは一瞬だけど、驚いた表情を見せていた。
でも、球状にした桃力が突然、鳥になるとは俺もビックリだ。
本当に桃力は不思議な力だな。
その鳥が鋼鉄の巨人ラストニャンガーの頭の上に停まると、桃色に輝く鳥は中に入り込むかのようにスッと消えてしまった。
直後にラストニャンガーが輝き、劇的な変化が生じ始めたではないか。
ムクムクと……質量保存の法則だったかな? を無視して大きくなってゆく機体。
それはやがて、彼を固定していたハンガーを粉砕し尚も大きくなってゆく。
「ひえっ」
「……これは、想像以上ね」
何事かと願野多学園の面々が集まってきた。
そして、巨大化し続けるラストニャンガーを見て驚愕する。
「これはいったい何か起こっているんだい?」
「……ちょっとした実験よ、ミサキ。安心してちょうだい」
腰に手を当ててリラックスした態度のヒュリティアさんに、御崎さんは「ふむ」と少し考えて成り行きを見守ることにしたようだ。
というかそれ以外の手段が無いように思える。
「にゃ~ん! 大きくなってゆくにゃ!」
「凄いにゃ~!」
「どうやったの!? これなら、他のニャンガーも大きくできそうっ!」
わっしょい、わっしょい、とミオたちが踊り狂う中、ラストニャンガーは見上げるほどに大きくなって成長を停止させたのであった。




