370食目 戦機同盟
『やぁ、連絡が来ると思っていたよ』
「……久しぶり、ルフベル代表」
『なんだか慣れないな』
「……慣れてちょうだい。それよりも、面倒な事になったわ」
ヒュリティアさんの説明を聞き進めるにつれて、ルフベル代表の表情が険しくなってゆく。
彼もまたエルティナの重要性を知る者の一人のようで。
『つまり、現在の混乱はエルティナ君を攫った者たちの手によるものだと?』
「……早い話がそう。単刀直入に言うわ、手を貸して」
『無論だとも。その、キアンカが襲われない理由は、やはりそうなのかね?』
「……えぇ、マーカスさんには黙っていてちょうだい」
『了解した。こちらも直ちに部隊を編成し世界各国に派遣する』
「……輸送手段はあるの?」
『もちろん。この日のために飛行母艦を三機建造させておいた』
ルフベル代表のしたり顔に、ヒュリティアさんは呆れているようだ。
無表情だけど。
「……良く資金を調達できたわね」
『こう見えても顔が広くってね。ただ、部隊を派遣できても制圧できるかどうかは未知数だ』
「……分かってる。時間を稼いでもらえればそれでいいわ。精霊戦隊からも戦力を送ろうかと思っているから」
『了解した。では編成の後に現地に派遣しよう』
戦機同盟の代表とのやり取りを終えたヒュリティアさんは、直ちに精霊戦隊を各国へと派遣する意思を示した。
その内訳となるのだが……これがまた大胆というか、大雑把というか。
ビックリすることに、精霊戦隊からエルティナ救出に選んだのは俺とヒュリティアさんだけだったのだ。
「ヒュリティアや、本当にそれでいいんじゃな?」
「……えぇ、これには幾つか理由があるの」
「聞いても?」
「……えぇ。まず、精霊王は恐らく精霊を操る能力を持っている。うちは精霊と融合、或いは縁が深い者が多いわ」
「つまり、操られる可能性が高いわけじゃな?」
「……そういうこと。もう一つは、エリンちゃんが敵に回った際、引き金を引ける者がどれくらいいるか」
その情け容赦のない現実に、精霊戦隊は息を飲んだ。
「……だから、エルティナの救出には私とレギガンダーで行くわ。それと願野多学園の協力を仰ぐ」
「僕らは構いませんが……いいので?」
「……一人を選ぶか、億万人を選ぶか、よ。エリンちゃんを知らないあなた方なら、引き金を引き易いでしょ」
冷徹なまでの決定に、俺は背筋が凍る。
これがヒュリティアという人間なのだ。
あ、黒エルフか。
真に優先するものを見定めることができてるからこそ見せる冷徹さは、未熟な俺にとっては、ただただ恐ろしいものにしか見えなかった。
そして、そうせざるを得ない彼女にした精霊王に怒りが込み上げてくる。
それを理解しているからだろう、彼女は俺の口を人差し指で塞いだ。
「……その正しき怒りは取って置きなさい」
どこまでも透き通ったエメラルドの瞳には曇りが一点もなく。
己の成すべきことを理解している、そのように思わせる。
俺は彼女を信じるべきなのか。
このまま流されるべきなのだろうか。
分らない、分からない。
「話は分かった。それで、うちらの組み分けはどうするんや?」
「……主要国家に、それぞれ向かってもらうんだけど、国の規模に合わせて分かれてもらおうと思っているわ」
そうなるとドワルイン王国には多くのメンバーが派遣されることになるか。
俺の予想通り、ドワルイン王国には多くのメンバーが充てられる。
でも、そんな中で、にゃんこびとだけがエルティナ救出に名乗りを挙げたのだ。
「ミオたちも、エルティナを助けに行くにゃ」
「……気持ちは嬉しいわ。でもね」
「行くにゃ」
「……」
今回に限っては妙に頑固なミオは、断固として退かない姿勢を見せる。
「直感じゃな。ヒュリティアや、何かあるんじゃろう」
「……気は進まないわ。そこまで言うなら、降りかかる困難は全て自分たちの力でなんとかする。これが条件よ」
「分かったにゃ」
ガンテツ爺さんの口添えに折れた形でヒュリティアさんは、ミオの申し出を承諾した。
ミオは直感で生きている部分がある。
そして大抵、彼の行動は正しい方に転がっていた。
今回もまた、何かを感じ取ったのだろう。
ある意味でヒュリティアさん同様に、先に何かが見えているかのようで。
「じゃあ、ガンテツ爺さん。配置の方はよろしく」
「うむ、おまえさん方は先行するんじゃな?」
「……奇襲には奇襲よ。いいようにやられてばかりじゃ癪でしょ?」
そう告げたヒュリティアさんは友蔵さんに何やら告げ、彼の先導で俺たちをとある場所へと誘導した。
そこは、ホワイトキメラのハンガー。
その奥には大型の昇降機が備わっており、そこに乗るように指示される。
「実はホワイトキメラの真下に、ノアのハンガーデッキがあるんです」
「ただあるだけにゃお。ミケたちが使う分にはホワイトキメラのロボットで十分にゃお」
友蔵さんの説明に、ミケが情報を付け加える。
でも、何故かモフモフがドヤ顔をしているのが気になるところ。
仲間のところに戻っても、モフモフはモフモフだったようで。
ガコン、と音を立ててゆっくりと下りてゆく簡素な作りの昇降機。
戦機を載せれるくらいに広く頑丈そうなそれは、人を五十人くらい乗せても問題無いのだろう、なんの異常も発生させることなく目的地へと俺たちを運んだ。
時間にして五分くらいだろうか。
昇降機は停止。一面に広がるのは闇の世界。
「何も見えない」
「今、灯りを付けるにゃ~お」
ふわりと空気が動いた。
すると、天井の照明灯が一気に闇の世界を照らし、その全貌を明らかにする。
そこには、膨大な数の人型起動兵器の姿。
ハンガーデッキに据え付けられたそれらは、しかし、殆ど使用された形跡が無く。
加えて錆び付いて朽ちかけの機体まで存在していた。
「やっぱり、動かさないと壊れちゃうにゃ~ん」
「こいつらは働かない事が一番いい事にゃお」
ミオとミケはスンスンとにおいを嗅ぎ、ぷひっ、と同じ顔でしかめっ面を見せた。
その様子は双子の兄妹を思わせる。
明かりが点いたことによって、ここにも蜘蛛型のロボットが大量に活動停止している事が判明。
彼らの停止は、イコール、ノアの機能の大部分が失われるという事なのだろう。
そんな彼らの中を進む、と数体のコウサクンが活動を行ている様子が窺えた。
でも、彼らは起動兵器ではなく、ノアの整備を優先しているようだ。
「にゃ~ん、また数が少なくなってるにゃ」
「丸まってるにゃおね。このままじゃ、ノア自体が飛べなくなるんじゃないにゃおか?」
「なるにゃ~ん。早く、光素エンジンに燃料を入れたいにゃ~お」
結構、危機的状況な超巨大戦艦。
でも、俺たちはそんなノアを頼らなくてはならない。
「少しでも補充とかはできないの?」
「にゃ、自力生産の機能もあったんだけどにゃ~。故障した上にコウサクンが活動できにゃいから減る一方にゃ。地上部分の植物が吐き出す光素を吸収しても賄えないし、困っているにゃ~ん」
俺の質問にミオは素直に答えてくれた。
どうやら、願野多学園の面々も日替わりでノアに光素を注いでいるようだが、やはりそれもしないよりかはマシ、といった程度のようで。
「……やっぱり、エルの光素が必須ね。でも、修理も優先するべきだわ」
「それができる人がいないにゃ~ん」
それを耳にしたクロエが猫耳をピンと立てた。
いやな予感がする。物凄く。
「それじゃあ、アナスタシアさんたちと、おやっさんたちに直してもらえば?」
「にゃ? 修理できる人たちがいるにゃおか?」
「凄い人たちだよ~。そこまでやらなくてもいいのにってレベルで直してくれるの」
いや、それは単に暴走しているだけで。
「にゃ~ん! ミサキ、なんとかなるかもにゃ!」
「朗報だね。もしかしたら、ここで何千年かは、と覚悟してたし」
にっこりと微笑むハンサムお兄さんは、サラッととんでもない事を口にしていた。
人間が何千年も生きられるわけがない。
それこそ、不老不死でなければ。
「しっかし、ここまで奥には来たことがねぇなぁ。大井よぉ」
背丈の小さい筋肉質の男性が巨大な手で顎を撫でる。
オールバックの赤髪が印象的だ。
「そうですね、【赤坂】君。僕らも必要のない場所には立ち入らないようにしてましたし」
「ミケも大雑把に覚えているだけにゃお。ノアにアクセスすればだいたい教えてくれるにゃおし」
当人たちも殆ど訪れないという地下ハンガー。
その最奥は、果たしてどれ程に歩けば辿り着けるのか。
やがて、にゃんこびとたちは、とある物を目の当たりにして駆け出す。




