368食目 願野多学園二年C組
「これは……蜘蛛?」
「はい、蜘蛛型の工作ロボット【コウサクン】です。ですが……」
友蔵さん曰く、エネルギーが供給されなくて九割が活動停止中とのこと。
どうやら、ノアは動力炉に異常が発生しており、本来の二割程度の性能しか発揮できていないらしい。
それでも、飛行や大気圏突破は可能だというのだから、本来の性能を取り持出したらどのような事になるか想像もつかない。
「にゃ~ん、懐かしいにゃ」
「あっ、見て、ミオっ」
「にゃうん、ミオとミケが書いた落書きにゃ」
低い位置にあった落書きをしゃがみ見るミケとクロエ。
ミオの肩には彼の前世の妹だというミケが小人の姿になって載っている。
「ここは殆ど当時のままにゃ~お」
「変わっちゃったのはミオたちにゃおな」
「格好良くなったにゃ~お」
本当に兄妹なんだな、と思わせるような二人は新たなる懐かしい思い出を求めて暴走。
それを追いかけるクロエは、当然ながら木乃伊取りが木乃伊になる状態だ。
「彼らは放っておいていいでしょう」
「……にゃんこびとの扱いを心得ているのね」
「そりゃあ、三人もいれば、ね」
友蔵さんの仲間には、ミケの他にもにゃんこびとがいた。
彼らもまた、にゃんこびとであるためフリーダムらしい。
目を離すと何かやらかしているか、踊っているか、戦っているかだというので、ミオたちと生態は変わらないのだろう。
「ここがブリーフィングルームです」
カシュン、と自動扉が開き中の様子が窺える。
そこはとても広いスペースで、きれいに掃除されている様子だった。
きっと、頻繁に利用しているのだろう。
そこに真っ先に突入するのは、先ほどどこかへと暴走していったはずのにゃんこびとたちだ。
「にゃ~ん!」
「にゃ~ん!」
「にゃにゃ~ん!」
「落ち着いてください」
そんな彼らに友蔵さんが取り出したのはマタタビだった。
それを見たミオたちは残像を残す勢いでマタタビをひったくり、にゃんにゃんゴロゴロと酔っぱらい始めたじゃないか。
「これで暫く大人しいでしょう」
「……慣れているのね」
「えぇ、そりゃあもう」
にゃんこびとが落ち着いたというか酔っぱらって寝たところで、お互いの自己紹介に入った。
彼らは【願野多学園・二年C組】というチームとのことだ。
男女四十人+ミケという構成で広大な宇宙を旅してきたらしい。
本来の目的地はここではなく、惑星ティエリという星であるようだ。
この星には、たまたま補給で立ち寄ったとのことだが。
「……補給という割には自然に実っている野菜や果物があったようだけど?」
「食べ物じゃないですね。僕らが欲しいのはエンジニア、或いはエネルギー。特に【光素】が目当てなんです」
ノアは光素エンジンを搭載しており、元々はミケの光素を使用して稼働していたとのこと。
でも、ある日。願野多学園二年C組がミケと出会った際にそれは崩れ、今は残存エネルギーを食い潰しながら航行しているとのこと。
それも限りが見えてきたので、こうして俺たちの住む星に降りてきたらしい。
では、またミケをエネルギー源にすればいいのでは、というわけにもいかないらしく、ノアとミケを繋ぐには惑星ティエリにて儀式を行う必要があるのだとか。
それならば、彼らが惑星ティエリを目指す理由が分かるというものである。
願野多学園の二年C組の面々は本当に多種多様。
人間もいれば人間に獣が混じった者、逆に獣に人間が混じった者までいる。
中には目のやりように困る人もいるけど、それは精霊戦隊も同じであって。
というか、うちは本気で困る人の方が多い気がする。
量より質、というかなんというか。
「ふむ……仲間を攫われた、と」
「……えぇ、エルティナという白エルフの女の子よ」
ヒュリティアさんは口で説明するよりも写真の方が早いだろう、と彼らにエルティナの写真を見せた。
でも、よりにもよって、おねしょをして半べその写真を見せなくてもいいんじゃなかろうか。
「こんな小さな子が……許し難いですね」
「……困ったことに、その子がこの星の命運を握っているのよね」
実際はそんなレベルではないらしいが、敢えてヒュリティアさんはボカしたもよう。
手伝ってもらう前から戦意喪失するのを嫌ったのだろう。
「僕らはいつでもやれますけど、そちらの方はどうでしょうか?」
「……割と厳しいわね。直前の戦闘で結構、疲弊してるし」
「ふむ、急いでいるが準備期間も必要、というわけですね」
「……そういうこと」
トントン拍子に事が進んでいる。
下手に口を出さない方が話が纏まる、と思っているのは俺だけではなさそうで。
ガンテツ爺さんも逐一頷いて話を見守っていた。
彼の場合は拙い事があれば口を出すので、今のところは納得できているのだろう。
「分かりました。よろしければ、ノアの起動兵器を使ってみますか?」
「……あら、いいの? 情報漏洩になるんじゃなくて?」
「うちは、あってないようなものです。殆どが拾い物ですし、それに整備はそちらに丸投げです。コウサクンがまともに機能してくれていれば、こんな事にはならなかったんですが」
どうやら、あの蜘蛛型のロボットはノアの生命線の一つだったらしく、彼らがエネルギー不足で休眠した後は、かなり苦労したとのこと。
「きぃ」
「……全てが稼働停止中じゃないのね」
よちよち、と三体の蜘蛛型ロボットがトレーに紅茶を載せてブリーフィングルームに入ってきた。
どうやら、家事全般もこなしているらしい。
「それで確認できているコウサクンは全機なんです。とても全てを賄う事はできません」
「……でしょうね」
ヒュリティアさんは紅茶を配り終えたコウサクンを持ち上げ、彼を観察し始めた。
コウサクンは恥ずかし気に足を畳み、されるがままになっている。
どうやら、とても大人しい性格をしているもよう。
「……光素ね」
「はい、彼らの主要エネルギーは光素になります」
「……なら、エネルギー問題はエルを助け出せば解決するかも」
「それは本当ですか?」
「……えぇ、もちろん。あの子は光素の塊のような子だから」
この話で完全に利害が一致したのだろう、願野多学園二年C組は俄然、やる気を見せ始めた。
そんな中で、ユウユウさんだけが、とある女性を見つめている。
その視線の先には、ユウユウさんによく似た……というか瓜二つの女性が。
「……あなた、鬼ね」
「あら、あなたもそうじゃなくて?」
クスクス、と微笑む二人は双子なのでは、と周囲に思わせるだろう。
でも、放たれる闘気は同族嫌悪のそれに近いものがあって。
「まった、まった、【悠河】さん。喧嘩は無しだ」
「……ユウユウも大人げない」
これを諫めるのは友蔵さんとヒュリティアさんだ。
「「だって! こいつが私の真似をするんだもんっ!」」
完全に一致する美女二人。
その言動は子供っぽくて、でも外見は我儘ボディのお姉様で。
「むきーっ! 真似しないでよっ!」
「そっちこそっ!」
遂には子供っぽい喧嘩に発展。
ぽこぽこ、と愉快な音を立てながら謎の煙を発生させての乱闘に。
でも、ガンテツ爺さんによって、一瞬で制圧されました。
今はまとめて正座をされられてお説教中です。
巻き込まれないように離れておこう。
「強い」
「……何かあったらガンテツ爺さんに任せればいいわ。不死身だし」
「化け物ですか?」
「……ある意味で」
こうして、ノアの協力を得た精霊戦隊。
地上のクロナミとアストロイも回収して空の移動が可能となった。
あとは戦力を整え、エルティナ救出となるのだが、そう全てがとんとん拍子に進むはずもなく。
その知らせは終焉に向かう前触れであっただろうか。




