367食目 落ちてきた大地
慌ててブリーフィングルームを飛び出してゆく面々。
俺も当然、飛び出し向かうのはカタパルトデッキ。
大人たちは走るのが早いので置いて行かれるけど、そんなことは分かり切っているのでいちいち気にしていられない。
カタパルトデッキに到着。
急ぎビッシュガドルに搭乗する。
見慣れたコクピットが俺を出迎え、低い唸り声を上げて起動を開始した。
全システム起動まであと20秒。
いつもは気にならないその数字は、緊急時には気になる数字で。
カタパルトを使用しないで飛び出してゆく戦機たち。
その中で主が不在なはずの鋼鉄の騎士の姿を認める。
また勝手に動いているのか。
でも、その動きにはいつもの精彩さが欠けていて。
『うおぉぉぉぉっ! 身体がくっそ重いっ!』
「おまえは大人しくしておけっ!」
おやっさんの言葉を無視し、外に飛び出した鋼鉄の騎士は着地に失敗。
大地に人型の痕跡を残した。
何やってるんだよ、まったく。
『……レギガンダー! 掘り起こしてやって!』
「あっはい」
ルナティックで出撃したヒュリティアさんに、エルティナイトの掘り起こしを命じられる。
普段は頼りになる騎士様も、主が傍にいないとこんなになってしまうのか。
光素剣でちまちまと採掘作業を行う。
こんな事をしている間にも、超巨大隕石は迫っているというのに。
「あんなの、俺たちでどうにかできるわけ……」
『おいぃ、諦めたらそこで終了なんですわ』
「そのセリフ、地面にめり込んでなかったら最高に格好良かった」
『デスヨネー』
最高に格好いいセリフは、最高に格好悪い姿で帳消しに。
でも、あんなものをどうしろと。
精霊戦隊の面々も、どうしたものかと待機状態。
そんな中、一機の戦闘機が単身、落ちてくる隕石へ向かって飛んで行く。
あれはガラクタ号だ。
ということは、モフモフが一匹で隕石をなんとかしようとしている事になる。
たかが戦闘機の一機でどうにかなるような代物じゃない。
無理だ、と説得したいところだけど、相手は獣。
人語を理解しているように思えるけど、本当に理解しているかどうかは分からない。
「ヒュリティアさんっ、モフモフがっ」
それでも、一応は連絡を入れておく。仲間だもんな。
『……こっちでも確認済みよ。放っておきましょう』
あんまり変わらなかった。
『ええい、あんな物をどうしろというんじゃ』
『ほんまになぁ、うちはぺしゃんこになっても大丈夫やけど、皆はそうはいかへんやろ。逃げた方がいいんちゃうか?』
グリオネさんの言っている事は正論だけど、もう逃げたところで遅い気がする。
空を飛べるのであれば可能性はあるけど、陸戦型の戦機や戦艦では到底、落下地点からの離脱は無理だ。
皆が半ば諦め掛けている時、にゃんこびとの彼らもまた。
でも、なんだか様子がおかしい。
落ちてくる大地を棒立ちで、ジッと見つめているのだ。
やがて彼ら、というか、戦機に乗っているのはミオだけだけど、彼は突然、アインリールを踊らせ始めたではないか。
彼らが言うところの、にゃんこダンス。
それを鋼鉄の戦士におこなわせているのだ。
能天気の塊であるにゃんこびとも、流石に諦めの境地に達したのだろうか。
でも、超巨大な大地は、あろうことかピタリと空中で停止した。
そんな馬鹿な、との呟きが飛び交う中、俺たちは確かに猫の鳴き声を聞いた。
『にゃ~ん』
『にゃっ!』
『にゃお~ん』
『にゃにゃっ!』
ミオのにゃんこダンスは激しさを増し、唯一出撃できていなかったクロエはクロナミの甲板の上でにゃんこダンスを踊り狂っている。
いったいなんだというのだろうか。
『ミケっ!』
『にーちゃんっ!』
えっ? という言葉が溢れ出たのは言うまでもなく。
その直後の「もきゅ」という鳴き声が俺たちに止めを刺したのだった。
空中でピタリと停止する大地。それはなんと宇宙戦艦だという。
にわかには信じ難いが、一瞬でその大地へと転送され、無数の人型兵器に出迎えられれば信じるより他にない。
そして何よりも、三匹目のにゃんこびとが、そこにいたのだ。
「にゃ~ん!」
「にゃ~ん!」
「にゃ~ん!」
その子はミオに瓜二つな女の子だった。
名をミケというらしい。
話を聞くとミオの双子の妹、とのことだけど。
それは前世の話であり、今は時の巫女として悠久の時を過ごす存在となっているらしい。
ミオにそっくりな顔に紅白の巫女服という物を着込んでいる。
初めて目撃した際は小人の姿だったが、大きさは自在に変えれるらしく、今はミオに合わせた大きさに変じていた。
同じくにゃんこびとであるクロエとも縁深く、共に再会を喜び合っている。
驚くのはこれだけではない。
話によるとモフモフは元々、この船の船員だったというのだ。
「……つまり、モフモフはあなた方とはぐれた、と」
「えぇ、そういう事です。小十太君を保護してくださり感謝が絶えません」
黒髪の眼鏡青年はモフモフを肩に乗せ、ヒュリティアさんに礼を述べている。
彼も耳が長い事からエルフ族なのだろう。
他にも多種多様の種族が一堂に会している。
ほんと、クジラとかもいるのだから正気を疑うレベルだ。
「もきゅっ!」
「ふむ……なるほど。それは見過ごしていい話ではありませんね」
眼鏡の青年の肩でモフモフが何かを訴えた。
それを理解できているのか、眼鏡の青年【大井友蔵】と名乗った彼は、逐一頷きながら返事を返す。
「ヒュリティアさん、僕たちも協力しましょう」
「……いいのかしら?」
「はい、小十太君を保護してくれた礼、とでも思っていただければ」
「……軽いノリで協力を申し出たら痛い目に遭うわよ?」
「大丈夫、こう見えても結構な修羅場を潜り抜けてきています」
総勢四十名の男女たちは友蔵さんの言葉に頷き、同意する。
どうやら、彼がこの一団のリーダーであるもよう。
「いいですよね? 御崎君」
「いいよ。いつも事後承諾なんだから、今更だよ」
どうやら違ったもよう。
この一団のリーダーは黒髪黒目のハンサムなお兄さんだったもよう。
個性が強い一団にあって唯一の平凡に見える彼だけど、身に纏うオーラのような物は他者を遥かに凌駕し存在感を強調している。
それとは正反対で目立たない人もいるのが面白い。
「ということです」
「……そう、ならお願いするわ」
「えぇ、喜んで」
これに沸き立つのは精霊戦隊だけではなく、謎の大陸の乗組員たちもであった。
彼らに案内を受けて船内へと向かう。
あまりにも広いため移動は戦機を使用する。
「あれが船?」
それは奇妙な獣のような外見をしていた。
四つ足の白い獣に無数の植物が絡みつき封じている、という感想が真っ先に浮かぶ。
『ホワイトキメラにゃっ』
『懐かしいなぁ』
ミオとクロエは、ここにいると前世の記憶が鮮明に蘇ってくるという。
彼らはかつて、この船で強大な敵に立ち向かった、というのだ。
にわかには信じ難い話だけど、精霊戦隊に所属したからには常識の方を疑わねばならない事は多々ある。
だから、彼らのいう事は真実なのだろう。
そもそもが、にゃんこびとは嘘を吐かない。
そこまでの賢さが無い、とかなんとかはヒュリティアさんだ。
『これ、一つで大陸を浮かせているのか?』
『いえ、これはコントロールユニットです。この大地……船の名は【ノア】。そして、僕たちが普段、生活の場にしているのが【ホワイトキメラ】です』
ライオットさんの疑問は友蔵さんによって瞬く間に解消される。
彼らの乗っている人型起動兵器は【ソルディン】というらしい。
外見はヘルメットを被った兵士、のような姿で戦機とは内部構造からして異なる存在のもよう。
多分、おやっさんやアナスタシアさんが見たら狂喜乱舞するだろう。
既にヤーダンさんが危険な状態になっているのは、スピーカーから流れてくる熱いパトスで理解が及ぶ。
エッチ過ぎです、ヤーダンさん。
ホワイトキメラの前足部分がカタパルトデッキへの入り口となっているようだ。
ぎこちない音を立てながらゆっくりと開いて、先導者たちはそこに入ってゆく。
長い間、ろくに整備されていないのだろうか。
妙に時間が取り残されているような印象を受けた。
『あぁ、足元に気を付けてください。工作ロボットが転がっていますので』
友蔵さんの言葉によって、床に何かが蹲っているのを確認する。
なにやら丸い物体だが、いったいなんであろうか。
やがて、指定された位置にて戦機を固定。
俺たちは戦機から降り、その異様性を改めて知ることになった。




