361食目 悪夢の戦鬼
◆◆◆ エルドティーネ・ラ・ラングステン ◆◆◆
中庭に急ぐ。
なんだか建物全体が揺れまくって、さぁ大変。
俺は浮遊しているから良いとして、よくもまぁこの揺れでまっすぐ走れるものだ、と前を行くライオットさんとガイリンクードさんに感心する。
「きゃっ!?」
と思ったら、ガイリンクードさんが尻もちを突きました。
ひと際、激しい振動で立ち止まらずを得なかった。その際のアクシデントである。
「……今のは誠司郎の悲鳴だ」
「いやいや、それは苦しい……」
ぐわしっ。
ガイリンクードさんの細腕のどこに、そのような力がっ。
ライオットさんの首を掴んで片腕で持ち上げる全裸の変態さんは、こちらを見て告げました。
「俺は、悲鳴を、上げていない。いいな?」
「あっはい」
ぱしぱし、とライオットさんにタップされて、ようやく彼を解放するガイリンクードさんは、まっこと恐ろしか人ですたい。
でも、誠司郎って誰の事なんですかねぇ?
「おまっ、殺す気かっ」
「あの程度じゃ死なんだろ。行くぞっ」
「というか、そろそろ服を着たらどうだ」
「……む、一理ある」
全裸に強い人あるあるを見届けた俺は、ほっこりと心が温かくなりました。
でも、ガイリンクードさんが取り出したのは黒いマントだけ。
それを羽織る、と全裸よりもエッチな気がしました。
「おまえなぁ」
「どうせ、全部爆ぜる」
諦めの境地に達したのであろうか、双方ともにため息をついて再び走り始めました。
なので、俺も諦める事にしました。俺、悪くないもん。
「おにぃ」
「そういえば、こいつらも付いて来てたなぁ」
小鬼の群れはわちゃわちゃと俺たちの後を追いかけてきている。
見た目は赤ちゃんなのに、尋常ではない足腰だ。
この揺れでも、えっさほいさと、追従できている。
中には転がって移動してるやんちゃな個体もいるが誤差であろう。
「出口だっ!」
ライオットさんがそう告げた。
アーチ状の出入り口から日の光が見える。
既に夜が明けてしまったのだろう。
中庭に出る、とそこには戦鬼の姿。
エルティナイトの半分くらいの大きさであろうか。
それでも一般的な戦鬼と比べれば巨大だ。
「なんだこいつはぁ!?」
俺はぶったまげた。
それは、巨大な女の形をしていた。
でも、驚いた部分はそこじゃない。
くっそ不細工だった、という事にだ。
なんかもう、とにかく醜悪。
この世の女性の醜い部分を集結させたかのような、そんな肥満女性の戦鬼が肉をブルンブルンさせながら出鱈目に暴れているのだ。
これには思わずヴォエっとなってしまうが、それを加速させるのが機体に用いられている素材だ。
それは金属でもなんでもない、人間の死体だったのだ。
「悪趣味だな。レギオンを参考にでもしたか」
ガイリンクードさんが眉を顰める。
彼女の性格上、すぐさま発砲するであろうに、それを行わないのはあの戦機の特徴をある程度把握しているからだろうか。
レギオンは人間の死体を掻き集めて肉体とする化け物、とのこと。
核を撃破しない限りは、延々と死体を補充して再生するので攻撃は徒労に終わるとのことだが。
「燃やしちゃえば?」
「ここが森でなければ、な」
「あぁ、そうかっ」
それでガンテツ爺さんも光素ガトリングしか使ってないんだ。
火属性は強力だけど、使用制限がキッツいなぁ。
なら、後は不死者に有効なのは光属性になる。
そして、当然ながら桃力もだ。
でその桃力を使えるファケル兄貴とDチームも苦戦している。
確かに肥満鬼女の肉体を破壊できているが、それはすぐに補填されてしまうのだ。
よくみると、肥満女の足元には召喚陣が常時展開されており、そこから死体たちが常に生え出て肥満女をよじ登っている。
あまりに酷い光景に、俺たちはこの世の終わりを垣間見た気がした。
「行動自体は考えなしっぽいけど」
「パイロットが素人の可能性もあるな。いずれにしても、俺たちがやることは一つだ」
ガイリンクードさんがフリースペースより戦機を取り出す。
それは見たこともない機体だった。
「拳銃に手足が生えているんだぜ」
「厳密にいうと戦機ではない。忘れてしまったが、どこかの星で手に入れた機体を修理して使えるようにしておいたのさ」
それもかなり昔の事で、入手した経緯を忘れるほどだという。
いつから生きているんですかねぇ? 気になるます!
「俺もシシオウで戦うか。よし、出てこいっ」
『にゃ~ん』
にゅっ、と亜空穴から飛び出してくるレ・ダガー亜種。
それはすかさず戦場にてまったりと丸くなった。
「寝るなっ、これから戦闘だぞっ!?」
『うにゃ?』
これは酷い。流石は猫、実にフリーダム。
だが、精霊戦隊のにゃんこたちは、絶賛苦戦中。
物理攻撃主体のミオとクロエでは有効打を与えられないもようで。
あれ? それでも若干、肥満鬼女が嫌がっているように見えるけど?
「エルティナイトっ! 出番だぞっ!」
『待ちくたびれた感。マジで睡眠五秒前だったぞ』
うなじに張り付いていたちんまりナイトが地面へと跳躍。
着地と同時にムクムクと大きくなってゆく。
そして、いよいよ鋼鉄の騎士は戦場に降臨するのだ。
『エルドティーネ、合身だ!』
「応! 精霊合身!」
直ちに俺の肉体は光素の粒子へと変換され、エルティナイトの心臓へと取り込まれる。
そして、鋼鉄の大地にて再び再生されるのだ。
今回はヒュリティアがいないのでザインちゃんと一緒だ。
「ふおぉぉぉっ、せっちゃ、もえてきたでごじゃるよっ」
「よぉし、さっさとあの肉団子を撃破して、いろいろと、なんやかんやするぞっ」
この戦いは決して鬼を退治して終わり、というわけには行かないのだ。
ミリタリル神聖国の意識改革が成って、ようやく戦いはひと段落するのである。
「全ての命を護るためにっ!」
『精霊戦機エルティナイト、ここに見参っ!』
「この黄金の鉄の塊を砕けると思うなら!」
『「かかって来いっ!」』
お決まりの名乗りを挙げて、いざ決戦。
エリン剣を構え突撃する。
メイン盾は敵を引き付けてなんぼなのだから当然だよなぁ。
それにしても醜悪だ。
ファーラという巨大美少女を知っているが故に、余計に醜く見える。
それに近くに寄る、と死体の集合体であることが分かって醜さは加速した。
その肥満鬼女の攻撃というのがまた酷い。
肉体を構築する死体を撒き散らし、それを爆発させるという方法は阿鼻叫喚地獄。
おぉ、グロイ、グロイ。
こんなの見続けていたら頭がおかしくなって死ぬ。
じゃけん、ぱぱっと浄化しちゃいましょうね~。
「ライトボール!」
光属性の下級攻撃魔法ライトボール。
生物に与えるダメージは皆無だが、アンデッドには特攻という特殊な魔法だ。
また、光球を発生させるということから灯りにも使える。
『ナイトは光り輝いてしまうもの。俺は謙虚だからよ、おまえら崇め奉ってもいいぞ』
「光らせてんのは俺なんだよなぁ」
調子ぶっこきナイトを戒めた俺は、死体どもの消滅を確認。
ついでに血痕も消えているのは、それ自体もアンデッドの一部と認められているからだろうか。
いずれにしても、頭がおかしくなる光景が消え失せるのであれば万々歳だ。
「ガンテツ爺さん、物理攻撃は分が悪い。それしかできない機体は下がらせてっ」
『そうじゃな、と行きたいが……そうにも行かんらしいぞい』
「えっ?」
肥満女の腹を裂いて何かが顔を覗かせた。
それは死体の肉で再構築された何か。
目、鼻、耳は見当たらない。
巨大な口と、剥き出しの筋肉だけの人型の化物が肥満女の腹の中から、ずるりと地上へと落下した。
大きさは2メートル程度。
しかし、それは魔法陣から際限なく生えてくる死体を喰らうと、瞬く間に20メートルサイズの化物へと成長してしまったではないか。
「最悪だっ」
『不毛でもなんでもいいから、攻撃するより他に無さそうじゃの』
ガンテツ爺さんのいう通りだ。
今尚、生まれ続ける口だけの怪物。
それは、戦機の物理攻撃で容易に破壊できた。
ただし、生まれたてだけであるが。
成長してしまった口だけの怪物は、生物的な機敏さを持ち合わせ、手足から伸びる鋭い爪と、鋭い牙が並ぶ大きな口とで攻撃を仕掛けてきた。
たった一匹に大苦戦する精霊戦隊。
特にガンテツ爺さんは持ち味を活かせないので戦い難そうであった。
「こいつにゃらっ!」
「やっちゃうよっ、ミオっ!」
ミオとクロエが同時攻撃を決め、口だけの化物に止めを刺す。
ドス黒い血を流し、化け物はピクリとも動かなくなった後に、その肉体はぐずぐずと腐り果て消滅した。
かと思いきや、肥満女の魔法陣から生えてくるという悪夢。
「マジか」
絶句するより他にない。
生み出させた時点でアウトなのだ。
でも、魔法陣から生まれたという事は浄化の力が有効になるという事。
予想通り、それは効果があったが、他の死体どもと比べると完全浄化まで時間が掛かってしまうし、消費量も格段に向上する。
やはり、誕生する間に撃破が望ましいか。
それには攻撃あるのみ。
俺はエルティナイトにエリン剣を振るわせた。




