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355食目 生命の果実

 ……エッチな事なんて一切無かったですよ?


 そんな妄想をした連中は桃チェック。

 エロすぎる妄想をした者は全員、地獄送りとなるっ。


「ふきゅん、出たぁ」

「ぷはぁ、初めてにしては上手にできましたね」


 俺たちがやっていたのは、互いの光素を混ぜ合わせる、という行為だ。


 両の手に光素の玉を発生させ、ゆっくりと混ぜ合わせてゆくのだが、これがなかなかに面倒臭い。

 そうこうしている間にザインちゃんはお子様精霊たちと遊び疲れて寝てしまうし、エルティナイトは瞑想する、とか言って二秒で夢の世界へと旅立っていた。


 なんやかんやあって出来上がったのが、この【生命の果実】だ。


「さぁ、早く口に」

「分かったんだぜ」


 俺たちが急ぐ理由など、ただ一つ。

 敵が迫ってきているからに他ならない。


 生命の果実は虹がマーブル状になった奇妙な球体だ。

 その柄は一定ではなく、常に胎動し変化し続けている。


 おおきさは野球ボール程度で、重さはほぼ感じられないが、ホカホカしている上にトクン、トクン、と脈打っている。

 結構、食べるのに勇気が必要だが、そんなことよりも味の方が気になって仕方がない。


「いただきますっ」


 限りない感謝を込めて、むしゃあっ。


 あれ? 味がしない?


「むぐむぐ……味がしないんだぜ」

「今、味覚が開発されているでしょうから、直ぐに感じるようになりますよ」


 始まりの大樹が言うように、徐々にだが味を感じるようになっていた。

 でも、他の食材とは違い、濃厚でビックリするほどの旨味を感じることは無かった。


 だが、この味は心底、俺の心を落ち着かせる。

 まるで桃先生を食べているかのような感覚に、これもまた神の果実であることを疑わせなかった。


「これが生命の果実……ほんのり甘くて瑞々しい」


 その果実は飽きが来ない。そして、腹が膨れなかった。

 満たされるのは光素。そして気力。

 生きるために必要な全てがそれに凝縮されていた。


「満腹は生きるためには必要無いっていうのかぁ?」

「必要ですが、そうですね……あなたが満腹になるためには別の方法が必要でしょうか」

「ほぅ、興味あるますっ!」

「ですがその前に、招かれざる者をどうにかしましょう」


 バリバリ、と音を立てて崩れ去る霧の結界。


 そこから牡鹿の頭を持つ男が血塗れの姿を現した。

 返り血ではなく自身の負傷によるものだろう。

 足を引きずるようにして、ゆっくりと俺たちに向かってきた。


「始まりの大樹……ごほっ。おまえにさえ、触れられれば……!」

「無駄です」

「!?」


 始まりの大樹はその豊かな乳房にクラゲの触手を這わせた。エロい。


「もう私はこの子の所有物。そして、この子も私の所有物。言っている意味が分かりますか? 私の隣の席はもう埋まってしまっている事を」

「そうなのかー」


 どうやら、生命の果実を生み出すことこそが、星の力を引き出すために必要な行為だったらしい。

 そして、その条件とは始まりの大樹となんらかの方法で交わること。


 それは単に接触だったり、光素を混ぜ合わせることだったり。

 そして、エッチな事をしても条件が揃うとかなんとか。


 でも、クラゲとエッチとか相当だと思うんですが。


 まぁ、今の始まりの大樹なら、野郎どもも「ヒャッハー」するだろうけど。


「お、おのれ……悪魔に魂を売ってまでも得た力だというのに」


 鹿頭の男はそう言い残し、血反吐を吐いて倒れた。

 ピクリとも動かないところを見ると致命傷を負っていたのだろう。


 その背中には銀の矢が突き刺さっており、それが絶命に結びついたのだと推測される。


 こんな事をやってのけるのは一人しかいないんだよなぁ。


「……終わったようね」

「ヒーちゃん」


 黄金の弓を携えた黒エルフの美女が闇の中から顔を覗かせた。

 その後ろには血塗れのライオットさんと、何故か全裸のガイリンクードさんの姿。


「ふきゅんっ!」


 俺は急ぎ、葉っぱを彼女の股間へと装着する。


「危ない所だった」

「情けない姿になるから遠慮願いたいな」


 だが断る。


 俺と同じくツルツルな場所は、大いなる葉っぱによって守られたのであった。


「こいつが元聖王のルーラインなのかぁ?」

「そうだ、と言いたいところなんだが……」

「なんだが?」


 思ったよりも手ごたえが無かった、とライオットさんは言う。


「……そうね、弱過ぎだわ。何かが足りないというか」


 パチン、と指を鳴らす黒エルフの美女。

 鹿男の背中に刺さっていた銀の矢が粒子の輝きとなって霧散する。


 すると、たちまちの内に鹿男の遺体がぐずぐずと腐っていった。


「ゾンビ? いや、これってまさか……」

「……たぶんそうだわ。これはルーラインで間違いない。本人であって、違和感を感じた正体がこれね」


 どういうことだってばよ?


「どういう事なんですかねぇ?」

「……本人自体はなんらかの方法で既に殺されていて、ゾンビとして動かされていたってこと」

「きっと毒殺か何かだろうな」


 そうなると、腐敗は鬼力か何かで止めていたということであろうか。

 止まっていた時間が動き出した死体は、既に肉の半分が消え失せ白骨が見え始めている。

 きっと、かなり前からゾンビとして活動させられていたのだろう。


 そうなると聖城にいた鬼女が怪しいという事になるのだが、本命の奪取にこんな捨て駒を向かわせるのはどういった意図があるのか。


 いや、寧ろこっちは本命じゃない?

 じゃあ、本命はいったいなんなんだ?


 この星の力よりも優先すべき力とはいったい?


「あの鬼女の目的ってなんなんだろうな?」

「……そうね、鬼の目的は大部分が殺戮本能か、快楽を埋めるためのものだけど」


 とここで何かに気付いてしまったのだろう、ピコン、と長い耳をおっ立てる。


「……しまった、肝心なことを見落としていたわっ」

「ふきゅん、なんだって?」

「……もう一つ、鬼には執着するものがある。それは力の収集。特に不足しているであろう力に連中は反応するわ」


 星の力よりも関心を示すものなど、果たしてあるのだろうか。

 確かに精霊戦隊のメンバーは強力ではある。

 しかし、星の力を無限に利用できる能力と比べると……。


 あっ。一人いるじゃないか。

 力技ではどうにもできない女性がっ。


「まさかっ!?」

「あぁ、やられた! 目的はエルドティーネを遠ざけることっ! 連中は最初から、プリエナを狙っていたんだ!」


 なんという事でしょう。

 星の力の奪取はあくまでついでであり、本命は幸運の能力を手に入れることだったのだ。


 もし、強力な鬼が幸運まで手にしてしまった場合、もう手の施しようが無くなってしまうのではなかろうか。


 攻撃の全てが【ラッキー】で完全回避されたら、もうね。


「……エル、急いで戻るわよ」

「了解なんだぜっ。でも始まりの大樹はどうしよ……う?」


 と心配したところで俺に異変がっ。


 お胸の辺りがムズムズし、とってもくすぐったい。

 いったい俺に何が起こっているのだろうか。


 やがて、平たい胸からピカーっと虹色の輝きが放たれる。


「なんの光っ!?」


 いや本当になんなんだ?


 すると、その輝きの中から何かが飛び出して来たではないかっ。


「いもっ」

「いも?」


 飛び出して来た何かを慌てて受け止める。

 それは芋虫であった。


 芋虫と言ってもリアル芋虫ではなく、妙に可愛らしいデザインの芋虫だ。

 漫画チックな芋虫とでも言えばいいのか、昆虫なのに瞬きをする。

 複眼を持っていなく眼球が備わった芋虫であったのだ。


「……いもいも坊や?」

「いもっ」


 Yes、と上半身を持ち上げて、沢山の短いあんよをウニウニと動かし肯定する賢い芋虫は、どうやらヒュリティアと知り合いのようでして。


 ……いや、ちがう。

 この子は、母に深い縁がある存在。

 その証拠に、彼と母の思い出が俺に流れ込んできた。


「全てを喰らう者・光の枝が解放されたというのか」

「いももっ」


 そうだよ、と俺の手から左肩へと移動する芋虫の坊やは、そこが定位置だと言わんばかりだ。

 やがて、俺の左肩に落ち着いた黄緑色の芋虫は俺に秘められていた能力を解放する。


 突然、身体がふわりと浮き上がった。

 何事かと身体を見渡す、と背中に異変が。


「おいぃ、輝く蝶の翅がっ!?」

「……月光蝶ね。エルティナもそれで飛んでいたわ」


 これで背負って走らなくても済むわ、とヒュリティアは肩を回しながら「ぷひっ」と溜息を漏らした。


 いや、これって初めての体験なんですわ。

 自由自在に飛べるとかないでしょ。


 そう考えていた時期が俺にもありました。


「ふきゅ~ん! ふきゅ~ん!」


 何これ楽しい。


 パタパタと宙を舞うてふてふ幼女。

 自由自在に飛び回れるって超素敵。


 意外と馬力もあるようで、お眠中のザインちゃんを持ち上げての飛行も難なくこなせる。

 でも、エルティナイトは勘弁な。


 羨ましそうに見つめてきても無理だから。

 早く縮んでどうぞ。


「……ここで何かを口にしたのかしら?」

「うん、生命の果実を口にしたんだぜ」


 とここでヒュリティアがイアーサインを掲示。

 どうやら、彼女は百果実を露骨に警戒しているもよう。


 そこまでする必要があるのだろうか。

 一応は彼も精霊戦隊の仲間なんだけどなぁ。


「その話は後にして、プリエナさんの下へ急がなきゃ」


 その前に、始まりの大樹の安全を確保しなければならない。

 星の力が引き出せるようになる云々の前に、彼女がこれ以上穢れると人間同士の共食いが始まってしまう。

 そうなると想像もしたくなくなるくらいの陰の力で星が満たされてしまうだろう。

 こうなっては完全に詰んでしまうので、なんとしても彼女の安全を確保したい。


 とはいえ、始まりの大樹はここから移動できないもよう。

 なので強力な結界の構築が必要不可欠。


「……私がここに残るわ。ライ、エルをよろしく」

「それは構わないけどよ」

「……百果実、そろそろ出来てきなさいな」


 ヒュリティアの要請に、しかし精霊の賢者は。


「こ、心の準備というものですがねっ」

「……乙女か。さっさと出てきて」


 どうやら、始まりの大樹を前にして緊張しているもようで。

 それでもヒュリティアにせっつかされて、無理矢理出されてしまいましたとさ。


「ご、ご無沙汰しておりますっ。始まりの大樹様」

「まぁ、まぁ、精霊王の。久しぶりですね百果実」


 極度の緊張下にある精霊の賢者とは違い、始まりの大樹は久しぶりに会った親戚の叔母ちゃんといった感じだ。


「……さっさと結界を張り直すわよ。初恋相手と会話するならその後」

「ひぎぃ」


 あー、そういう事だったのか。

 だとするなら、ヒュリティアさん、マジ鬼畜。


 結局、精霊の賢者さんはメソメソしながら結界の構築を開始。

 黒エルフの彼女も結界に何か細工を加えているようで。


「うふふ、仲が良いわね。良い人が見つかってよかったわ」

「あっはい」


 そして、脈無しという現実は、あまりにも非情でございました。


「それじゃあ、俺たちはこの騒動を終わらせて来るよ。話はその後でっ」

「えぇ、お待ちしております。御武運を」


 ヒュリティアが離脱するのは痛いが、俺たちはプリエナさんを護るべく聖城へと引き返す。

 そこには鬼女以外の強力な陰の力を感じるのであった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 二人は幸せなキスをして融合だと思っただけなんです。 珍獣が触手でらめぇなんて考えてもいません、信じてください。 しかし狙いがプリエナでも始まりの大樹でもわりと致命的な事態になりかねないから珍…
[一言] 絶好調である!
[一言] やましい事はナニも無かった! NG「珍獣とクラゲデカ盛りナニを書けと…」 珍獣「それもそうだな…」
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