352食目 作戦開始 ~聖城攻略戦~
さて、町をどうやって通り抜けるのか。
至って単純。走り抜ける。
と言っても早朝でまだ暗い時間。
表に出ている住民は皆無に近い。
それでも万が一のために認識阻害魔法カムフラージュで姿を隠蔽する。
俺の雑なカムフラージュとは違ってプリエナさんの魔法は丁寧、且つ緻密。
激しく動いても大気が揺らぐことが無いという。
もちろんのことだが、俺とザインちゃんはおんぶに抱っこ。
こんなあんよで早く走れ、とか虐待そのものなので仕方がないね。
それは狸の女神さまも同様のようなのだが、彼女は流石女神様といったところで、地面から数センチほど浮かんで高速飛行しておりました。
ホバークラフトの要領なのかもしれない。
難なく町を突破、城門へと差し掛かる。
ここからが本番、かと思いきや見えないはずの俺たちに敬礼する門兵。
「ご苦労様」
「プリエナ様、ルバール隊長たちが制圧戦を開始しました。やはり、先代聖王の姿は無いもようです」
「分かりました。では」
「御武運を」
門の隅っこの方に袋に詰められた何かを認める。
絶対に見たら後悔するものだろうと予測。
そっとしておくことを選択するのは長寿タイプ安定だ。
城内に突入。
その一歩目で、もう色々と真っ赤っか。
「うふふ、私もこっちで戦おうかしら」
「……そうね、精霊戦隊も必要最小限のエルの護衛で十分かも」
「そう来なくっちゃ」
というか、寧ろその方が良いかと思う。
襲い来る兵士たちはいずれもが鬼。
ここで重要になるのが桃使いだ。
プリエナさんたちは、鬼を破壊することはできるものの退治までは至らない、という。
そこで目を付けたのが、俺以外の桃使い。
即ち、ファケル兄貴、レギガンダー君、そしてDチームだ。
それに加え、鬼力と桃力も使えるユウユウ閣下が残れば城内の鬼たちもなんとかなるだろう。
とおもってたら、クロヒメさんも鬼を退治できていた件について。
「……あれは退治じゃなくて消滅ね」
「え?」
「……輪廻にも還れていないわよ」
「いやいや、それは可哀想じゃないのか?」
「……自業自得ね。あの赤い拳、相手の罪の重さに比例して強力になってる」
「ひえっ」
断罪の拳、とでも言えばいいのか。
クロヒメさんの拳は謎の進化を遂げ、悪党絶対殺すウーマンへと至っておりました。
「むじひでごじゃりゅ」
「ま、気にすんな、ザイン。ここの連中は欲望に身を任せて鬼になった連中ばかりだ」
ザインちゃんを抱っこするライオットさんは冷徹に告げる。
因果応報である、と。
でクロヒメさんのそれに加担しているのがマサガト公であったり。
陰の力に対し、それを上回る陰の力をぶつけた場合、格下の陰の力は消滅する。
つまりは、それをやっているのである。
ばっさばっさと斬って斬って斬りまくる。
というか、斬りすぎぃ! 細切れじゃないですかやだ~。
『もっと血を捧げたつまつれぃ』
やはり怨霊である。
でも、こういった時は頼りになるので多少はね?
一応、ザインちゃんも俺の娘なので桃力を使えます。
でも、その本質はあくまで全てを喰らう者・雷の枝なので、ちょっぴり放出できる程度。
ザインちゃんが言うには、自分の桃力は別の使い道があるとのことで。
「……エル、しっかり掴まっていてちょうだい」
「ふきゅん」
現在、俺はアダルト化したヒュリティアの背中に引っ付いております。
ちょっとでも油断すると落っこちそうになって危険がデンジャラス。
加えて俺の桃力を無断使用する、という暴挙に何かがヒュンとする。
でも、無断使用は彼女だけではなく。
「ハイスラァ!」
人間大にサイズダウンしたナイトが鬼相手に、暴れる、暴れる。
もうこれでもか、というほどに生き生きしたエルティナイト姿がっ。
「ゴリゴリ桃力が削れるんですわ」
『補給してどうぞ』
「鬼がいる、退治しなきゃ」
油断したので、すっ飛びました。
誰か助けてっ!
「おっとぉ」
「ふきゅん」
ぼにゅん、と狸の女神さまの豊満なパイパイに顔面着地。
九死に一生を得ました。
「……プリエナ、暫く面倒を見ていて」
「了解だよぉ」
鬼の大半は食中毒にやられたのではなかろうか。
でも、わっせわっせ、と大量に押し寄せるクソザコ一般鬼たちの姿。
「うん? よく見たら全部、同じ顔じゃないか」
「ほぇ、本当だねぇ」
これは何かあるぞ。
というか、罠に掛けられたまであるかもしれない。
「ヒーちゃんっ!」
「……これは、やられたわね」
前進が止まる。
群れ成すコピー鬼の向こう側に一人の女の姿。
その手にはプリエナさんに似ている女の首。
でも、それはプリエナさんのものではない。
「フォエナちゃん……」
「うふっ、この娘、フォエナっていうんだ」
青み掛かった黒い長髪の女は、それを輪っかにして左右に飾った奇妙な髪型をしている。
妖艶にして残虐な雰囲気を持つ彼女は、金色の瞳を爛々と輝かしながら生首をポンポンと放り上げ弄ぶ。
「良い声で鳴いたわよぉ。それでも情報を吐き出さなかったのは凄いと思うわ」
クスクスと吐き気を催すような笑い声。
それは自信の表れであり、その自信は服装にも表れている。
粘着質な黒い液体が白すぎる肌に付着しているかのような奇妙で不快なドレスのデザインだ。
その上にべっとりとこびり付いているのは間違いようが無く鮮血。
「影武者に化けようかとも考えたけど……必要も無さそうね」
「なんですって?」
「だって、あなた方……弱いもの」
女から途方もない陰の力が放たれた。
「っ!? 桃結界陣っ!」
寒気が衝撃波よりも早く俺を通り抜けていった。
だからだろう、俺は本能的に結界を張ることに成功する。
しかし、相殺しきれない。
なんという強力な陰の力だ。
「ままうえっ! ももちかりゃっ!」
ザインちゃんが俺より小さな手を突き出し桃力を発動。
それは俺の桃結界陣と融和し、より強力な結界として転生した。
それでも無数のヒビが入る。
マジでぷじゃけんなっ!
その時、ゴン、という音がして鬼の女が飛び退いた。
鬼女のいた場所には陥没の痕。
「ちっ……プリエナ様っ!」
「ルバールさんっ」
天井から無数の黒服の男たちが降ってきた。
皆、一様に黒服に黒いサングラスという出で立ちだ。
「申し訳ありません。フォエナを護ってやれませんでした」
「彼女も覚悟の上でした。今は悲しむよりも、彼女を誇りましょう」
「はっ」
黒服の男たちが一斉に銃を抜く。
流石に鬼の女も表情を引き攣らせた。
「あらやだ、女相手に男が総掛かりって恥ずかしくないのかしら?」
「死ね」
容赦ない。まったくの容赦がございません。
哀れ、鬼女はハチの巣に。
「一時的に行動不能にしただけだ。攻撃を止めるなっ」
「お嬢、今の内に聖王の間へ」
「分かりました。ライオット君とヒーちゃんは、エルドティーネちゃんを」
「……了解」
「あぁ、こっちは任せてくれ」
禁断の地に向かうのは俺とザインちゃん、ヒュリティアにライオットさんだ。
「ガイ、あなたも」
「いいのか?」
「こっちにはユウユウちゃんたちもいてくれるし大丈夫だよぉ」
「分かった」
そして、ガイリンクードさんもこちら側に来てくれた。
聖王の間、その部屋を迂回した奥に禁断の地に繋がる通路はあった。
鬼女を残しての禁断の地に突入は気がかりではある。
しかし、この作戦は時間のずれが致命的になるので、そのような事も言っていられない。
それに百果実が言っていた結界の老朽化も気に掛かる。
薄暗い通路を駆け抜ける。
時折、強い振動と陰の力が伝わってきた。
確実に強力な鬼がいる。しかも、先ほどの鬼女とは別の個体のもの。
「……みんなを信じましょう」
「分かったんだぜ」
ヒュリティアの言葉を信じ走る。
といっても、おんぶに抱っこなんですが。
いよいよ聖王の間の真後ろに到達。
そこの重々しい扉は半開き状態であり、誰かが通っていったのは明白。
外には無数の足跡が残されていた。
「急ごう」
ガイリンクードさんが黄金の銃と銀色の銃を抜いて先頭を行く。
俺たちは彼女の後ろに突く形で深い闇を湛える森の中へと突入した。




