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348食目 聖都ルーインタム

 聖都ルーインタム、そこは森と水の都。


 まるで太古の人々の暮らしを色濃く残すそこには精霊たちも溢れ返っている。

 しかし道行く人々には、その姿が見えてはいないようだ。


「精霊がいっぱいなんだぜ」

「そうだな。でも、ここの連中はその姿が見えていないのさ」


 ライオットさんは言う。

 何故ならば、彼らは精霊を下等な存在としか認めていないから、だそうだ。


 精霊が見えている俺にとって、それは酷く滑稽で歪に思えた。

 実際にこの世界を動かしているのは妄想の神ではなく、数多の精霊たちなのだ。


 それを理解しないのは果たして不幸なのか、それとも幸福なのであろうか。

【知らぬは仏見ぬが神】とはいうが、この世界にはその両方が無いわけで。


「でも、なんでこんなに精霊が? 森と水が豊かなだけでは説明がつかない」


 精霊は割とぽつり、ぽつり、と点在している事が多い。

 中には群れで行動する精霊もいるが、ここまで多量の精霊たちが群れているのを見るのは初めての事だ。


「よく観察して見な。こいつらは全部【幼体】だ」

「あっ」


 妙に小さいとは思った。

 だが確かに言われてみれば、ここの精霊たちは幼い。

 普段から見るアイン君がちっこいせいで違和感が湧かなかったのである。


「ここには、精霊を生み出す古の樹木があってな。聖域と呼ばれる禁断の地に、それは根付いている……らしい」

「……実際に見たわけじゃないのね」

「侵入を試みたけど、見えない力によって入り口に戻されちまうのさ。そこに辿り着くには、色々と儀式をしないとダメらしい」

「……でも、精霊たちは自由に行き来できる、と?」

「まぁな」


 とここで何故か俺の顔を見る獅子の獣人。

 だが、それは一瞬の事で、すぐさまヒュリティアに向き直った。


「実はな、その禁断の地に入ることができる儀式方法が既に失われているらしい」

「……そう」

「興味ありません、って顔だな」

「……実際に興味ないもの。それに……」


 とヒュリティアはそこら辺をふよふよと漂っていた綿毛のような精霊をむんず、と捕獲した。

 精霊は突然の事に「ぴゅいっ」と悲鳴を上げる。


「ヒーちゃん、乱暴なんだぜ」

「……これでも優しくした方よ」

「マジで震えてきやがった」

「いあ~ん」


 鉄の精霊であるアイン君ほど頑丈じゃないんだから、優しくしたげてよぉ。


 綿毛の幼精霊はどうやら【命の精霊】であるらしい。

 その使命とは、命たる種を運ぶこと。


 単体では使命を成し遂げることは難しく、同時に生まれた風の精霊と共にお仕事をするもよう。

 とはいえ、ここで十分に育った後に花の下へと向かうのだそうだ。


 って、俺からにょきっと生えてきた花の精霊フロウさんが説明してくれました。


「ここに来るのは何百年ぶりかしら」

「ここにいたことがあるのかぁ?」


 フロウは意外にも、ここにいたらしい。


「ここで生まれ、世界に旅立つ精霊も少なくないの。でも……」


 何か様子がおかしい、と彼女は言う。


 確証は一切ない。

 しかし、雰囲気がかつて知るものではない、と断言した。


「よし、尋問だ。なんだっていい、とにかく尋問だ」

「ぴぎぃ」


 精霊の見える俺たちに捕まったのが運の尽きよ。

 綿毛の命のぷち精霊をねっとりと尋問する。


 ほらほら、ここがええんか?

 素直に情報を寄こせば、もっと気持ち良くしてやるぞぉ?


「ぴ……ぴぃ……」

「堕ちたな」


 こいつらの弱点は猫よろしく喉である。

 そこをソフトタッチしてやる、と彼らはうっとりと目を細めるのだ。


「……妙な人影を見たですって?」

「ぴゅい」


 真っ白綿毛はゴマ粒のようなお目めをパチクリさせながら肯定。

 露骨に撫でて、とアッピルした。


「入れない場所に人影? 精霊ではないのか?」

「ぴきゅ~」

「精霊の気配はしていない、ってさ」


 何か起こっている、率直にそう思った。

 だからだろう、ライオットさんは仲間の潜伏場所へと急ごう、と告げる。





 急ぎ向かった街はずれ。

 そこは、スラムであり身を隠すに絶好の場所であった。


 しかし……。


「こりゃあミンチよりも酷ぇや」


 徹底的に破壊し尽くされた後であった。

 このやり口は戦機の投入だけではなく、多量の兵士も投入されているやり口だ。


 瓦礫に飛び散る血痕、放置された遺体からは既に腐敗臭が。

 この惨劇は俺たちが着く前には既に終わっていたのだろう。

 忌まわしき黒鳥たちが、生命の輪廻を教えるべく亡骸を掃除している。


「死んでいるのはスラムの貧民たちだけのようだ」

「よくもまぁ、実行に移ったものだな。彼らだってミリタリル神聖国の民だろうに」

「ここは、そういう国なのさ」


 眉一つ動かさない獅子の獣人はしかし、その拳をきつく握り締める。

 相当に堪えているようだが、小さな亡骸を認めると、頑張って残っていた柱にそれを叩き込んで咆えた。


「くそったれがっ!」

「……知り合い?」

「俺に懐いていた、ちびっ子だ……!」


 大人も子供も関係なし。それほどまでの大虐殺。

 スラムは決して町から離れているわけではない。

 これほどの殺戮があったなら、直ぐにでも情報は伝わるだろう。

 何よりも、この国は情報の漏洩を防ぐつもりはないらしく、兵士の一人も配置していなかった。


 これはつまり、この暴挙が日常的なものであり、暗に逆らえばおまえらもこうなる、という警告でもあるのだろう。


 ここいら一帯に漂う無念の想いが俺の中に入り込んでくる。

 酷い悲しみと憤りは俺の精神に異常をきたすだろう。


 しかし、同時にこの無念を俺は受け止めるべきであるとも感じていた。


 少しでも国が良くなることを願い、レジスタンス受け入れ、そして理不尽にも殺されてしまった。

 反対した者もいるが、レジスタンスが潜伏していることは口にはしていないようだ。

 中にはレジスタンスのこと自体を知らなかった者たちも。


 だがしかし、それらも関係なく皆殺しである。

 だからだろう、その恨みは憎悪に昇華されんとしていた。


 俺たちが来るのは遅かった。

 でも、恨みが憎悪になる前で良かった。


「桃力よ、悲しき想いに終止符を」


 俺は桃力を解き放ち、無残にも屍を晒す住民たちを残らず包み込む。

 全部で……183もの遺体は少ない、となんて言わせない。


「カアッ」


 黒い掃除屋たちは己の使命が終わったことを認めたのであろう、次なる仕事場を求めて飛び立ってゆく。


「さぁ、安らぎの地へと旅立つがいい」


 屍たちが桃力によって輝く粒子へと解きほぐされ天へと昇ってゆく。

 その光景をライオットさんはジッと見つめ続けていたのだった。






 その日、結局ライオットさんの仲間たちは発見できなかった。

 失意の内にアストロイへと戻る。


『お帰りなさい。お客様が参られております』

「なんだって?」


 クロナミとアストロイは一応、森の中に隠してある。

 にもかかわらず訪問できる、という事は俺たちを監視している者で相違なかろう。


 マザーの誘導に従い客間へと移動する。

 向かうのは俺とヒュリティア、ザインちゃん。

 そして、ライオットさんだ。


 予想が正しければ、この面子で向かうのが正解だろう。


 鋼鉄の自動ドアが開く、とガラステーブルの向かいの乳白色のソファーに腰を下ろす二人の女性。

 片方は俺も知っている女性。

 漆黒で全身を覆う、割と中二病患者っぽいガイリンクードさんだ。


 そして、もう一人は全くわからない。

 茶色の癖っ毛はエリンちゃんを彷彿とさせるが、彼女には人間の耳が無く、代わりに獣の耳が生えていた。

 一瞬、どの動物が祖なのか分からなかったが、そのもったりとした尻尾を見てどの動物が祖なのかを理解する。


「狸だっ」

「ぽんぽこぽ~んっ」


 以外にノリが良いのか、スレンダーなのに出る部分はやたらに出ている彼女は、にこやかな微笑みを見せた。


「……久しぶりね、たぬ子」

「ヒュリティアちゃんも、元気そうで何よりだよ」


 落ち着いた女性に見えるが、その声はやたらと幼いものに感じる。

 それがギャップとなって妙な魅力を生み出している事を感じ取った。


「やっぱ、ガイとプリエナだったか」

「ライオット、スラムは見たのか?」

「あぁ……酷ぇことをしやがる」

「あれが、この国の現実だ。俺たちがアジトを離れた隙を狙われた」


 足を組み乳房を抱えるように腕を組んでいるガイリンクードさんは深いため息を吐いた。


「たぬ子、他の連中は?」

「スラムの生き残りを保護してたから、その面倒を見てもらっているよぉ」

「そっか。じゃあ、みんな無事なんだな?」

「そう簡単にはやられないよぉ。終末を生き残った者ばかりなんだから」

「それもそうだな」


 なんだか、凄いんだか凄くないんだか分らない会話だが、取り敢えずはレジスタンスのメンバーは全員、無事らしいことは発覚。

 これにライオットさんは安堵の吐息を漏らした。


 ここで狸の獣人ことプリエナさんが席を立ち、にゅっと俺に顔を近づけてきた。


「ふ~ん、やっぱりエルちゃんに似てるねぇ」


 そう言うや否や、俺をひょいと持ち上げる、とその豊満なぱいぱいで抱きしめたではないか。


 くっ、なんという滑らかな柔らかさっ。

 清純派のようで、乳房の半分以上が丸見え、という過激なデザインはしかし、彼女の魅力を嫌味なく引き立てるっ。


 だが、俺はこんな誘惑には負けないっ。

 見てろ、こんなおっぱいなんてこうだっ。


 ぷにぷにっ。


「……猫?」

「うおぉぉぉっ」


 でも、俺の怒涛の攻撃は子猫のそれだったようで。

 お乳が良く出ますように、という行動と同じだったもよう。


「ごめんねぇ、お乳は出ないんだよぉ」

「ふきゅん」


 そういうわけではないのだが。

 俺は鳴くより他になかった。


「でも、所々エドワード陛下に似てるね。目なんて彼にそっくり」

「……エルティナは常に眠たそうな目だものね」

「とろんとしていたよねぇ。この子は凛々しい目の形」


 なんだか親戚の叔母さんっぽい会話が続くが、そんなことをしに来たわけではないだろう。

 それはガイリンクードさんの咳払いが証明してくれた。


「っと、ゆっくりもしていられないんだったよぉ」

「……そうね。本題に移りましょう」


 そして、さり気なくザインちゃんがプリエナさんに拉致された件について。


「ふきゅ~ん、ふきゅ~ん、ふきゅ~ん」

「ザインちゃんは犠牲になったのだ」

「今回は白エルフとして生を受けたんだ。うん、うん、可愛い」


 ご満悦のプリエナさんは、ザインちゃんを抱っこしたままソファーに。

 俺たちも対面にあるソファーに腰を下ろす。


 腰を落ち着かせたところで、彼女からこの国の現状を聞かされることになったのであった。


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― 新着の感想 ―
[一言] ライオット静かに… ライオット「コイツはよく懐いてた…」 ヒュリティア(まさかシリアスに覚醒!?) ライオット「にーちゃんについてくと 飯に食いっぱぐれなくて良いと…」 珍獣「いつもどおりで…
[一言] 一体、どうなったんだろう・・・
[一言] 珍獣二世はまだしらない。 このプリエナこそ直卒のfun(信者)が50人ほどいる女神であることを…。 お前幼女じゃなかったらプリエナボインタッチ罪で死罪だったゾ。
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