345食目 生命を潤す果実の伝説
長旅に置いて、補給無しに目的地へと向かうのは無謀というものである。
我らが精霊戦隊も途中で、とある町に立ち寄り補給をおこなう。
やはり、ミリタリル神聖国は人であって人間ではない者たちの国であり、それぞれに祖なる獣の特徴を備えている者で溢れていた。
買い出しは怪しまれぬよう人間ではない者、即ち俺とヒュリティア、ザインちゃん。
ミオとクロエ、ライオットさんとモフモフでおこなった。
あれ? これって大人がいないから舐められないか?
まま、ええわ。そん時はそん時という事で。
「中世の世界に迷い込んだみたいなんだぜ」
「……懐かしい感じはするわね」
恐ろしいまでにファンタジーにド定番の中世ヨーロッパの町並みに、馴染まない超巨大ナイト凄いですね。
一応は警戒をしてクロナミとアストロイは、町から離れた森の中に潜ませてある。
したがって、荷物運びは自己防衛可能なエルティナイトに任せることになったのだが、これが割と心配の種。
とは言え、荒事にめっぽう強い、ともいえるので適任と言えば適任である。
『ぢゅわっ』
そして、こいつはあろうことか、しょんぼり事件の後に小型化の術を覚えており、現在は二メートルサイズに縮んでおり、落ち着きなく視線をあっちやこっちに向けていた。
その落ち着きの無さは、元々落ち着きのないにゃんこびとたちに伝染。
しかも、同じネコ科であるライオットさんも漏れなく感染。
まったく以って落ち着かない買い物になるのは必然でございました。
『ほぅ、見事なケバブーだと感心するがどこもおかしいところはない。おまえ、奢ってくれてもいいぞ』
「これを食って作ってくれってことか。流石ナイト、露骨ですね」
『それほどでもない』
でも、美味しそうだからついつい食べちゃう、ビクンビクン。
尚、ケバブーではなくケバブ。
この調理方法はドネルケバブというものになる。
ドネルケバブの説明がいる人はおりゅ?
この料理の作り方は実にダイナミック。
くそデカい羊のお肉の塊に下味を付けてぐるぐる回しながら焼き、焼き上がった表面を薄くスライス。
それを野菜と共にパンなどに挟めたりして食す、お手軽食で庶民に人気がある。
通常の仕上げは塩コショウ程度だが、店によってはチリソースなどを加える、など個性を出す店も少なくない。
あ、お肉は羊だけじゃなくて鶏などもあるもよう。
「ケバブください」
「あいよ、幾ついるのかな?」
ケバブを焼いていたおっちゃんは羊の特徴を備えていました。
共食いかな?
「それ全部」
「ぶふぅっ!?」
俺たちにとってはいつもの受け答えだが、やっぱり店主にとっては非日常的な受け答えだったようで。
流石に「む~り~」と言われてしまい、仕方がなく人数分を購入。
もちろん、ナイトには食後に光素でこれを再現して手渡す。
「甘辛いソースが良い塩梅なんだぜ」
どうやらチリソースを加えているようで、ねっとりとした甘みの後に刺激的な辛さがじんわりと追撃してきた。
肉との相性は抜群。何よりもボリュームが凄い。
大の大人でも食べきれるかどうか、といったところであるが、ここにいるお子様たちは大人の胃袋を遥かに置き去りにするレベルの超人変人たちである。
当然ながら、こんな量では満足できず。
まぁ、取り敢えずはエルティナイトの分を作っておくか。
『んまっ、んまっ』
もっ、もっ、と小動物チックに食べるナイト。
妙なこだわりがあるのか、パンに挟める系はこんな食べ方をする。
他の料理は撒き散らすほどに豪快なのに妙なヤツだ。
「……ちゃんと食べれているわね」
「調教済みだった!?」
なんという事でしょう、彼はヒュリティアによって教育的指導を受けていたのです。
マジで震えてきやがった。
たぶん、いつぞやに作ってやったホットドッグを小汚く食べたのであろう。
俺は忙しかったので直ぐにその場を後にしたが、確かにその後に悲鳴のような何かを聞いた気がする。
でも、戦機と幼女だよな? いったい何があったんだぁ……?
親友の底知れぬ力に恐れを抱きつつも、次なる獲物を物色し始めます。
仕方がないよね。露店がこんなにもあるんだもの。
とはいえ、のんびりと買い食いをしているわけにもいかない。
俺たちの帰りを待って、ぴぃぴぃ鳴いている雛鳥っぽい大人たちがいるから。
「もきゅっ」
「ふきゅん、どうしたモフモフ……な、なにぃ……!?」
なんという事でしょう、そこには屋台で鉄板の焼きそばを出す店がっ!
そして、そこに並んでいたお客さんを制圧した、躾のなっていないにゃんこびとの姿っ!
「焼きそばのためなら、神様だってぶっ飛ばすにゃ」
「神様は死んだよ。もういないって、あの日に確信してるから」
割とクロエの言葉は重かったり。
というか、そうじゃない。
なんで並んでいるお客さんを抹殺したんだ。
「お客さん、困るよ~」
「焼きそば百人前にゃ」
「お客さん、許すよ~」
なんという現金なわんこ店主であろうか。
しかし、その腕前は見事の一言。
大きな鉄板の上で十人前の焼きそばが踊る。
余程に熟練の腕前がなければお粗末な焼きそばが出来上がる、というのにそれが一切ないという神業の持ち主であったのだ。
「美味しいにゃっ!」
「この世のものとは思えないにゃっ!」
「まいどあり~」
正気を失ったがごとく焼きそばを貪り喰らうにゃんこびと。
果たして、彼らは焼きそばのどこに執着しているのであろうか。
いや、確かに美味しいんだけれども、俺にはにゃんこびとの感覚を理解することは難しく。
焼きそば百人前の代金を現金で支払う。
最近は感覚がおかしく、一回の食事に五万ゴドルは安いなぁ、とか感じちゃってて、さぁ大変。
その後も色々と買い漁ってはフリースペースにぽいぽい。
とっても便利だけど、しっかり入れた物を記憶していないと永遠に異空間に置き去りなので、意外と怖い一面もある。
本当に大切な物は金庫安定だったり。
そんな中で立ち寄った果物店。
そこの店主は年老いたお婆ちゃんであった。
彼女は背中に甲羅を背負っていることから亀の獣人なのだろう。
決して、なんちゃら仙人ではない、と思われ。
「ここの果物、全部ください」
「おやおや、そんなに食べれるのかい?」
「俺一人分じゃないんだぜ。まぁ、一人で食べれるけど」
「ほっほっほっ、面白いお嬢ちゃんだこと」
店主に札束を渡し、片っ端からフリースペースへと……おいこら、片っ端から食うなにゃんこどもっ。
幾ら代金を支払ったとはいえ、これは精霊戦隊の皆の分なんだぞっ。
「気持ちいいほどの食べっぷりだねぇ」
「ハングリーキャットは自重を知らないんだぜ」
「うふふ、そんなに果物が好きなら、こんな伝説は知っているかい?」
あっ、これはお婆ちゃん特有の話が長くなるパターンっ。
しかし、その伝説は俺が待ち望んでいたもので。
「生命の果実?」
「えぇ、そうよ。その昔、ミリタリス神聖国にあったとされる伝説の果実なの」
あれ? なんだか違和感。
ヒュリティアもピコンと耳を動かした。
はっ!? これは【イアーサイン】っ。
黙って聞け、との合図っ。
「その果実はね、ありとあらゆる物に命を与えるという幻の果実。その果実の果汁一滴で枯れた大地に命が宿った、とされているわ」
「ふきゅん、それがミリタリル神聖国にあるのかっ」
「さぁて、随分と大昔の事だし、あるかもしれないし、ないかもしれないねぇ」
うふふ、と上品な微笑を見せる亀獣人のお婆ちゃん。
果たして彼女の年齢は幾つなのか。
まるで昔を思い出すかのような語り方は、まるで実際に生命の果実を見たことがあるかのようだった。
買い出しを終えた俺たちは、ハタと気づく。
エルティナイト、要ら無くね? と。
まぁ、帰り道は元の姿に戻ったエルティナイトの手の上で楽をしましたが。
だが……あの亀のお婆ちゃん。
彼女は確かにミリタリ【ス】神聖国と言った。
果たしてそれは勘違いだったのか、それとも言い間違いだったのか。
幾ら考えたところで結論は出てこない。
それはヒュリティアも同様だったのか、ずっと不機嫌な表情のままだ。
とはいえ、相変わらずのポーカーフェイスであり、彼女から放たれるオーラが【ずもももも】と唸っているだけである。
「……ライ、あなた何か隠していない?」
「うん? かなり隠しているぞ」
「……素直なのは好きだけど、嫌いでもあるわ」
「女は面倒臭いなぁ」
喋るつもりはないらしく、夕日を見ながらライオットさんはリンゴに齧りついた。
目的地に着けば全て分かる、そのような横顔を眺め、母のとある記憶が蘇ってきた。
それは、男が覚悟を決めた際に見せる顔。
この表情を見せている限り決して譲ることは無い、という記憶だ。
今は何を言っても無駄。
ライオットさんは女は面倒臭い、というが、男だって十分面倒臭いじゃないか。
そんな事を想いつつ、俺もライチの皮を剥いて口に放り込む。
独特の甘さが、ささくれ立った心を潤してくれたのであった。




