341食目 生物が持つ能力の一端
ターウォに戻った俺たちは早速、公民館のゲアルク大臣に事の顛末を報告。
無事に桃大結界陣を発動することができた、と彼を安心させた。
だが、全てが万々歳、というわけではない。
この戦いで失われた命が戻ることは無かったのだ。
それは土の枝の能力を帝都周辺で行使することができなかったからに他ならない。
行使すれば戦場で散っていった戦士たちを蘇生することができるだろうが、それをおこなったが故に全世界の命が失われれば本末転倒もいい所だ。
誠にもって遺憾ではあるが、この戦いで戦死してしまった者たちには、心からの冥福を捧げるより他に無いのである。
「それは仕方のない事でしょう。お気に召さらず」
「でも……」
「戦機乗りとは元々、そういう仕事なのです」
彼に言われてハッとなった。
そう、戦機乗りとは命をかけて糧を得るロクデナシどもだったのだ。
なんの覚悟もせず戦場に来る馬鹿野郎はいない。
蘇生の秘術を行使できるようになって調子に乗っていた俺は、ガツンとトンカチで頭をカチ割られたかのような衝撃を受けて目が覚めた。
「そっか、そうだったよな」
己惚れていたのだ。
彼らに生き返らせてくれ、と懇願されたわけでもなく。
ただ単に感謝されたい、という気持ちに支配されていただけの事。
やたら無暗に死者を蘇生させるなど、自然の摂理に逆らう行為だ。
俺に悟りに、俺の心の中の枝たちが脈動した。
それは俺の答えを肯定したかのような振動。
命の有難さを失いかけない行為は避けるべきであろう。
使用する際は皆と相談し、よく吟味してから行うべきであろうと結論付ける。
「それで、これからどうなさいますか?」
「うん、予定通り、ミリタリル神聖国に向かおうと思う」
「左様でございますか。では、我々はキアンカのルフベル殿とコンタクトを取ってみます」
「そうしてもらうと有難いんだぜ」
一週間後、ターウォにクロナミが到着。
それと入れ替わるようにゲアルク大臣の艦隊がキアンカに到着したとの一報が入った。
「大変だったようじゃな」
「でも、なんとかなったんだぜ」
ガンテツ爺さんたちに帝都での出来事を説明する。
新たなる敵の出現にガンテツ爺さんは顔を顰めた。
「厄介な事じゃ。これからはそやつらにも気を向けなければならんじゃろう」
「でも、暫くは動けなさそうだし」
「機体は、じゃろ」
「あっ」
「鬼は生身でも強いんじゃから油断はできんじゃろうて。おまえさんには本格的に白兵戦を覚えてもらうぞい」
「ひぎぃ」
この日から戦場仕込みの体術を仕込まれ始めました。
もちろん、レギガンダー君も生贄になりましたとも。
これにライオットさんとヒュリティアが加わってさぁ大変。
でも、にゃんこびとも生贄に捧げられたから多少はね?
場所はアストロイのトレーニングルーム。
かなり広く作られているので大勢が使用しても余裕がある。
オカーメ隊のお姉さま方も、うんしょ、うんしょ、うっふん、とセクシーな肉体美を披露。
これにファケル兄貴とDチームの面々が反応。
ガンテツ爺さんにお説教された後に追放されました。
ガンテツ爺さん強過ぎ問題。
Dチームの面々を赤子扱いですぞ。
「まだまだ、ひよっこじゃな。力に頼り過ぎじゃわい」
「確かに、軽々とぶん投げてたなぁ」
「白兵戦は体力勝負じゃ。いかに体力を使わずに敵を制することができるか、が鍵になるんじゃよ」
「実際に戦場を駆け抜けた者が言うと説得力が違うんだぜ」
竹刀を片手に俺たちを指導する熱血爺さんは、俺たちにまず【型】を仕込んだ。
といっても、これは身体が成長した暁に役立つもの、と位置付けている。
今はとにかく体力を付けさせるのが目的であるらしい。
身体に過度の負担は禁物、とも語っている。
「幼い時からの過度なトレーニングは諸刃の刃どころか害悪じゃからな」
「それにしてはハードじゃないですかねぇ?」
「おまえさんは運動しなさすぎじゃ。身体の大きさに見合った体力が無いじゃろうが」
「おぉんっ!」
的確に見破り過ぎて鳴いた。
普通は野原を駆けまわって自然に体力を付けるものだ、とガンテツ爺さんは言うが、俺が野原に出た場合、確実にテクテクと歩きながら食材を探し始めるだろう、と予期。
ぐうの音も出ないほどに、正解です、と俺は断言するだろうな。
というわけで白エルフの幼女は、ふっきゅんふっきゅん、と鳴きながら汗を流すのである。
しかし、汗を流しっぱなしというのはいただけない。
失った水分とエネルギーは速やかに補給されなくては。
「ぴきぴきぴきーんっ、てってって、てーててーっ、【どこでもレモン水】~」
「なんじゃい、その珍妙な歌は」
そして取り出したるレモン水も、なんの変哲の無い果実水でございます。
ただ単に作った物をフリースペースにぶち込んだだけであり、そして、状態を維持することを失念していてぬるいままでした。
「ぷぎゃーっ! にゅるいっ!」
「……冷蔵庫で冷やさないまま入れちゃったのね」
もう踏んだり蹴ったりでしたが、速やかに吸収するにはこの温度が良いとのこと。
でも、ぐびぐびからの、くはーっ、は俺の生きがいなので、やっぱり冷えていてくれた方が幸せでした。
「あ、そうだ。ガンテツ爺さんって遠隔操作砲台って扱ったことがある?」
「うん? 唐突じゃな。大戦末期に試作機に乗ったことがあってのう。それに【アタッカー】という小型の遠隔操作砲台が六機搭載されておったの」
「ふきゅん、それで幾つまで同時に操れた?」
「無論、全部じゃ」
「マジか」
このお爺ちゃん、ハイスペックすぎやしませんか?
といっても若い頃の話か。
「今はもう無理じゃな。戦時中の独特な感覚の鋭さが失われておるからの」
「感覚?」
「うむ、なんと言えばいいのかのう。独特なものじゃったからの」
どっこいしょ、とベンチに座ったガンテツ爺さんは、昔を思い出すかのように虚空を見上げる。
「常に緊迫して精神が休まることが無い状態を保った者が到達する領域、というものがある」
「ほうほう」
「当時の連中は、それを【絶対警戒領域】と言っておったな」
「なんだそりゃあ」
「まぁ、そうなるわなぁ」
指導に熱が入ったガンテツ爺さんも汗を掻いていたのでタオルで拭き拭きしつつ、レモン水を口にした。
「絶対警戒領域はいわば縄張りじゃ。その範囲であれば、どんなことでもやってのける、という覚悟みたいなもんじゃな」
「思い込みのようなもの?」
「ふふん、遠からず近からず、といったところかの。中には超常現象も引き起こした者もおるからのう」
「魔法とかじゃなくて?」
「今ならそれを魔法と呼ぶやもしれんが、そういった類のものではなかった気がするわい」
う~ん、と顎の髭を擦りながら、昔を思い出す老人はいい言葉が見つからないのだろう。
やがて顔を顰めてレモン水を一気飲みした。
「わからん。結局、戦争後も絶対警戒領域がなんだったのか、という答えが出ておらんからの」
「謎の力なのかぁ」
「そうじゃな。じゃが、生物が持つ能力の一端であるのは間違いないじゃろうて」
「話は戻るんだけど、俺、戦鬼どもとの戦いで自作の小型遠隔砲台……回転盾を作って戦ったんだ」
「なんじゃと? おまえさんがか?」
ガンテツ爺さんは、すぐさまこの話に喰いついた。
というわけでアイン君の力を借りて、この場に十の回転盾を作り出して見せる。
もちろん、サイズは人が持てるサイズ。
丁度、フリスビーくらいの大きさだ。
だからだろう、とんぺーが期待に満ちた眼差しを送ってきております。
後で遊んであげるから、今は勘弁な。
「ふ~む。これを高速回転させて敵にぶつけるんじゃな? そして、盾にもなる」
「そうなんだぜ。使い捨てで、その正体は魔法障壁と精霊魔法で作ったものだから、エネルギーがある限り無限に作れるんだぜ」
「ふむふむ、それでこれ全部を動かせるのか?」
「動かせるけど、実際に操れるのは三つまで」
「なるほどのう。それで相談したというわけか」
変幻自在に動き回る三つの回転盾。
それ以外は、ちょろちょろと周囲を浮遊しているに過ぎない。
これが今の俺の限界だ。
「そうじゃな、エルティナにも絶対警戒領域の真似事をやってもらうか。丁度、レギガンダーにも教えておったところだしの」
「レギガンター君にも?」
「そうじゃよ。まずは範囲を決めての、この範囲ならどんなことがあっても譲らない、というものを定めるんじゃ。そこからは反復練習の繰り返しじゃな」
「ふきゅん、それってハード?」
「ハードかどうかは、本人次第じゃな。わしは助言しかせん。レギガンダーがぶっ倒れておるのは、それだけ自分自身に高い目標を定めたからじゃ」
床に顔面から突っ伏しているレギガンター君に優しい眼差しを向けるガンテツ爺さんは、彼の努力を認めているのだろう。
「おまえさんもうかうかしておったら、レギガンダーに追い越されるやもしれんぞ?」
「ふきゅんっ、先輩桃使いとして負けられないんだぜ。今から絶対警戒領域の訓練だっ」
とは言ったものの、俺の絶対譲らない適性距離が今一つピンとこない。
試しにレギガンター君の適性距離は、と聞いてみたもののガンテツ爺さんは答えてくれなかった。
「それは答えられんのう。プライベートな事だしの」
「そこをなんとかっ」
「そうじゃのう……何度も見ていれば分かるやもしれんが。例えるなら男が女性のスリーサイズを聞くのと同じくらいには失礼に当たることじゃ」
「おぉう、結構に失礼だけど、俺なら躊躇なく聞いちゃうだろうな」
例えばニューパさんのおっぱいの大きさとか。
三桁ですぞ、三桁っ。
それでいて、上にツンとしている美しいぱいぱいは神秘の塊っ。
尚、ぽっちゃり姉貴のおっぱいは大きいけど……おっと誰かが来たようだ。
その後、珍獣の悲鳴が聞こえたとかなんとか。
いや~、乙女の直観力は恐ろしいですね……がくっ。




