339食目 輝く鋼の獣
身動きが取れなくなった俺たち。
勝利を確信した暴風戦鬼と氷戦鬼は更に術を強める。
そんな二体の戦鬼に猛然と突っ込む輝く獣の姿。
それは、驚く事にクソザコナメクジとして割と知られている鋼鉄の獣、レ・ダガーであった。
「うおおっ!?」
「何やつっ!?」
明らかにパワー不足と思われた獣はしかし、驚く事に自身の数倍はあるかという体躯の戦鬼どもを体当りでふっ飛ばすことに成功したではないか。
「術が解けたっ! 動けるかっ!? ルオウのおっさん!」
『おっさんじゃねぇ! 動けるに決まってんだろ!』
ギシギシとぎこちない音を上げながらでも、片膝を突いていたDチームのアインリールは立ち上がる。
だが、モヴァエ機は片足をやられているので立ち上がることは叶わなかった。
『ちっ……射撃はあまり得意じゃねぇんだよなぁ』
『好みじゃねぇってだけだろ。文句を言わずにぶっ放してろ』
モヴァエはそのまま動かずに固定砲台として戦闘に加わるもよう。
正直、撃破してください、と言っているようなものなのでどうかと思うが、そんなことを言って引き下がるような連中ではなく。
そんなことを言うくらいなら、戦鬼を叩き潰すことを優先した方が生き残る確率が遥かに高いのも事実でして。
「このチャンスを逃すなっ」
『ナイトはチャンスに滅法強い!』
「あい~ん!」
エルティナイトは最後の力を振り絞り、倒れ込んでいる戦鬼に向かって猛ダッシュ。
しかし、戦鬼どもの方が早い。
飛び上がるように立ち上がった二体は、そのままエルティナイトの迎撃に移った。
「おのれっ」
「そのまま朽ちていた方が楽に死ねたものを!」
再び竜巻と氷つぶてを撒き散らす戦鬼は、犬の卒倒。わん、パターン。
「それはもう間に合っているぅ!」
これをサイドステップを交えながら前進。
更にアイン君が二つの回転盾を作り上げる。
残った魔力と精霊力ではこれが限界。
でも十分だ。
「いけっ! スピンシールドっ!」
変幻自在の回転盾を先行させる。
狙いは暴風戦鬼。
「猪口才なぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
暴風戦鬼は自身の足元から竜巻を発生させて防御フィールドを形成。
回転盾の接近を阻む。
しかし、その竜巻を再度、突撃してきたレ・ダガーが輝く爪で引き裂いてしまったではないか。
「なん……だと……!?」
驚愕する暴風戦鬼の顔面に突き刺さる回転盾。
飛び退く輝くレ・ダガー。
一瞬であるが完全に暴風戦鬼は無防備状態だ。
「暴風っ!?」
すぐさまカバーに入らんとする氷戦鬼。
『やらせるかよ!』
『行け! ルオウ!』
『おぉりゃぁぁぁぁぁぁぁっ!』
ズーイ機とモヴァエ機が援護射撃でルオウを支援。
氷戦鬼は鬱陶しそうに弾丸をガードする。
っそうか! あの弾丸は鉄製だ!
鬼は鉄を苦手とするってユウユウ閣下が言ってたじゃないか!
だったら、鬼に対するアインリールは不正解なんかじゃなく、最適解っ!
だからこそ、ルオウ達の桃力と合わさってここまで耐えることができているんだ!
だとしたらエルティナイトだって元々はアインリール!
ならばっ!
「うぇあっ!」
エリン剣を投擲、狙うのは胸部ではなく足の甲。
それは見事に暴風戦鬼の足の甲を貫き、その場に釘付けにすることに成功した。
「エルティナイト! 黄金之鉄之塊、行けるかっ!?」
『もう発動しているぅ!』
「『ならっ!』」
間合いに入った。
エルティナイトの踏み込みに力が入り、大地を砕きながら前進する。
一歩、また一歩、踏み込む度に拳に発生した小さな小さな盾が拳を覆ってゆく。
それは加速的に密度を増し、色濃くなってゆくではないか。
「決して砕けぬ意志は必殺となりて!」
『今必殺の!』
「『滅我遁拳っ!』」
それは桃力が一切加わらない攻撃。
しかし、途方もないほどに【滅ぼす】という意思が籠った必殺技。
それが暴風戦鬼の胸に突き刺さった。
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
内部から黄金の輝きが装甲を突き破り飛び出した。
やがて、それは暴風戦鬼をバラバラに引き裂くに至る。
そして爆発。
暴風戦鬼は見る影も無くなり、この場から消滅。
恐るべきはモンク顔負けの拳か。
「おのれっ! よくも暴風をっ!」
「あと一体!」
しかし、エルティナイトは力を使い過ぎて一時的に動けない状態に。
一瞬の隙をついてルオウを押し退けた氷戦鬼が俺たちに迫る。
絶体絶命のピンチ。
でも、その足音は後ろから猛然と近付いてきたのだ。
輝く獣、その上には片足がないアインリールの姿。
『やらせっかよぉ!』
その手には半ばで折れた鉄の剣。
戦鬼たちとやり合う前に折れた物を、後生大事に抱えていたのであろう。
『モヴァエっ! やれっ!』
『美味しい所を譲ってやるんだ! しくじるなよっ!』
『任せろってんだ!』
ルオウとズーイが桃力を籠めた弾丸にて氷戦鬼の前進を阻害する。
確実にダメージはある。
機獣にはあまり効果がない一般的な攻撃は、鬼にとっては有効打足り得るのだ。
「鬱陶しいわぁっ!」
お返しに氷つぶてを放たんとする氷戦鬼は注意が慢心になっていた。
おまえの敵はルオウ達だけではない、という事を失念してないか?
「がっ!?」
ただ一つ残っていた回転盾を氷戦鬼の腰に叩き込む。
くの字に折れ曲がる氷戦鬼。
『どぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』
そこをモヴァエ機を乗せた輝くレ・ダガーが駆け抜けた。
一閃。
朽ち果てんとしていた鉄の剣は己の使命を成し遂げ、ボキリと根元から折れる。
それが、地面へ横たわった時、氷戦鬼の身体もまた、上半身と下半身を真っ二つに切り裂かれ地面へと落下。
驚愕の表情を晒したままに爆発して果てたのであった。
「か、勝った……!」
『完☆全☆勝☆利っ』
割とナイトの勝利宣言がウザかった件について。
疲労が一気に押し寄せてくるので、やめて差し上げろ。
「あいあい」
「アイン君も、お疲れ様なんだぜ。ひとまずは休んでいてくれ」
俺はもう一仕事あるので、休むならその後になる。
『ぶはぁぁぁぁっ! つっかれた~!』
『おう、ご苦労さん』
『厄介なヤツらだったな』
輝くレ・ダガーに跨ったモヴァエ機がルオウ達に合流する。
だが、あの輝く獣はいったい。
『おわわっ、分かった、分かった! すぐに降りるからよっ!』
いやいや、するレ・ダガーちょっぴり可愛い。
モヴァエ機を降ろした輝ける獣は、ぷるぷると身体を振り緊張を解く。
まるで本当の獣のようなしぐさに驚かされる。
通常のレ・ダガーは機械人が操る兵器なので、獣のようなしぐさを見せることは無いのだ。
ではいったい、このレ・ダガーはなんなのであろうか?
ようやく戒めを解かれたレ・ダガーは天を仰ぎ勝利の咆哮を上げた。
『にゃ~ん』
「『『『『猫だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?』』』』」
なんという事でしょう。
厳つい外見から放たれる、くっそ可愛らしい鳴き声は不意打ち過ぎる。
ぐしぐし、と前足で顔を洗う仕草はなんの冗談か。
だが、一応は戦闘ロボット。
コクピットは額にあるようで、そこがパカッと開いて搭乗者が顔を覗かせた。
「よぉ、おまえら。生きてっか?」
「ライオットさんっ」
大方の予想通り、妙ちくりんな機獣を操っていたのは獅子の獣人ライオットさんであった。
であればレ・ダガーがおかしくなってしまうのも無理はないというものか。
「おまえがレ・ダガーをこんなにしちまった張本人か?」
同じくコクピットハッチを開けて顔を見せるDチームたち。
彼らの機体は既に限界を超えているので、ここに置いてゆくしかなさそうだ。
「ん? 機獣って最初っからこうじゃないのか?」
「んな事あってたまるか。機獣はあくまで戦闘兵器だ」
「余計な挙動はしないようにプログラミングされているはずなんだがな」
ライオットさんの釈明に、ルオウとズーイは否定的な意見を述べる。
「まぁ、いいんじゃねぇのか? 数万も作ってりゃあ、一機くらいこういうのが出てくんだろ。お~よちよち」
「モヴァエ、おまえなぁ……」
肯定的だったのがモヴァエだ。
どうやら細かい事を気にしないタイプらしく、何よりも彼は猫が好きだという。
その厳つい外見で、猫に向かって赤ちゃん言葉を使うのは、いや~きついっしゅっ!
「こいつ、荒野を一匹でうろうろいてたから捕まえたんだ」
「何? パイロットはどうしたんだ?」
「パイロットも何も、コクピットハッチを開けたまま小鳥を追いかけ回して遊んでたぞ」
「「「はぁ?」」」
なんだか話が妙な方向に行きつつあった。
どうやらこのレ・ダガーは、あろうことか野生化していたもよう。
きっと放棄された個体がなんらかの要因で再稼働し、そのまま長い時間が経過して意志を持つに至ったのではないか、というのがライオットさんの見解だ。
もちろん、それを納得させる要素はまったく無いが、現実問題としてレ・ダガーはライオットさんが降りた後も勝手に動いている。
今は丸くなって鼻提灯を出している、とか明らかに戦闘兵器のそれではない。
完全に生物のそれだ。
『おいぃ、こいつ。よくよく見たら、金属筋肉だぞ』
「なんだって?」
なんということでしょう。
特殊な金属がバーゲンセール。
エルティナイトの希少さが息を引き取りました。
「何なんだ、こいつは?」
「レ・ダガーであることは間違いなさそうだが……」
「そんなことよりも、うちで飼おうぜ」
モヴァエは自重しようね?
こんなくそデカにゃんこ、飼えるわけないじゃないですかやだー。
と考えたところでエルティナイトも大差ないことが判明して、俺は白目痙攣状態へと移行しましたとさ。
強敵を下したので、さっさと桃大結界陣を発動する。
このために桃力を一切使わなかったのだ。
「よし、いいか?」
「あぁ、さっさと終わらせんぞ」
Dチームの面々にも協力してもらい桃仙術発動準備をおこなう。
エルティナイトの手の上に乗る三人から力強い桃力を受け取り、遂に桃大結界陣を発動する。
暖かな桃色の輝きが帝都を瞬く間に覆い尽くし、邪悪なる波動は徐々に穏やかになってゆく。
だが、完全に阻止することはできない。
これは元々分かっていたことなので、そこまでショックを受けることは無かった。
「これでひとまずは良し」
「それで、これからどうすんだ?」
Dチームの面々はルオウを筆頭に暗黒の繭を睨み付ける。
本能的に、存在させてはいけない、と確信しているかのような顔だ。
「力を集める。もう敵味方とか言っている場合じゃない」
「この星がどうかなるってことだもんな」
「そんなレベルじゃないよ、モヴァエさん。この次元に生きる全ての命の問題だ。敵味方が大結束しても勝てるかどうか……」
俺の断言に流石のDチームも絶句するしかなかった。
だが、これは事実。
誰が否定しようとも、最悪の結末を迎えれば自分の発言を死ぬほど後悔するだろう。
まぁ、その時には全てが遅いのだが。
「それはエリシュオン軍を総動員してもか?」
「ルオウさんが一番、理解してるんじゃないのか?」
「……ちっ、可愛くねぇガキだぜ」
それは、納得のゆかぬ返事だっただろう。
でも、そうさせるほどに暗黒の繭の強大さは俺たちの理解を超えている。
今こうして、この場にいることすら躊躇われるほどに禍々しい。
「これ以上は精神に異常をきたしかねないんだぜ。さっさと離れよう」
「それには同意見だ」
こうして、俺たちはひとまずの勝利を手にして帝都を後にする。
アストロイの元へと戻った俺たちを精霊戦隊の皆と、ターウォの部隊の生き残りたちが出迎えてくれた。
だが、この勝利は一時の猶予に過ぎない。
ここからが本番。
来たるべき時に備え、俺たちは一大結束を達成しなくてはならないのだから。




