337食目 どんな時でも
淀んだ空から降りてくる三体の戦鬼。
それらから放たれるおぞましい力は、阿修羅戦鬼のそれを大きく上回った。
まさか阿修羅戦鬼は隠し玉ではなく、様子見の尖兵だった、とでもいうのか。
「まさか阿修羅戦鬼を下すとはな」
「あっぱれ見事」
「しかして、ヤツは四天王の中でも若輩中の若輩」
で、出たーっ! 超お決まりのセリフっ!
思いっきり弄りたいが状況が状況だ、行動いかんではGameOver直行ですぞっ。
「関係ないな。なんであろうと、俺たちの邪魔をするならぶっ飛ばす!」
「威勢がいいな、桃使い」
「だが、そなたの程度は阿修羅戦鬼で見極めた」
「我らに勝てる道理は無きものと思え」
正直、うるとらでらっくすだいぴんちっ!
もうどうにかできる、とかそんな状況ではない事は確かで、しかもまったく油断していないという三体にどうしろっていうんですかねぇ。
それでも易々とやられてしまうわけにはいかない。
そして、ナイトに後退の二文字は存在しないのだ。
『おんどるるぇ! このナイトが相手になってやる!』
「西洋の騎士風情が、戦神たる我らに戦いを挑むとは笑止」
「身の程というものを弁えよ」
東洋の甲冑を着込んだかのような戦鬼が、付きだした右手より荒れ狂う風を巻き起こした。
それは超重量のエルティナイトを容易に吹き飛ばし、倒壊したビルに叩き付ける結果となる。
「ぐはっ!?」
衝撃で肺に溜まっていた空気が全て排出される。
しかも、一時的なショックで肺が機能停止しやがったのか呼吸がままならない。
『エルドティーネっ!』
「いあ~んっ!」
辛うじて「かひゅっ」と返事をするも息ができなくて思考に靄が掛かる。
気を抜けばこのまま意識を手放しそうだ。
だが、相手は俺が立ち直るまでは待ってくれないらしく、ジャンジャンバリバリと炎の矢と氷の矢を撒き散らしてきたではないか。
だが何故、相殺し合う属性を放ってきているんだ。
と考えたところで、一番嫌な予想がポンッと飛び出てきました。
対消滅っ!?
『バックステッポゥ!』
エルティナイトの判断で、ビルを空間跳躍バックステップですり抜ける。
瞬間、目の前のビルが消滅した。
あと数秒、判断が遅れれば俺たちもこうなっていたのだ。
「ほぅ、まだ動けるか」
「好きかな、好きかな」
「今暫し、楽しめるというものよ」
こいつら、余裕ぶりやがって。
だが実際に余裕なのだろう。
どうする? どう足掻いても勝ち目は無い。
でも、逆転の要素がまったく無いこの状況っ。
『何、ちんたらやってやがるっ!』
この緊迫した場面でガサツな男の声が響いた。
野獣を人間の形にしたらこのようになる、という声に反応するのは俺だけではないようで
「何やつ?」
『誰だっていいだろう! ここでくたばる奴には特になぁ!』
それは駆け付けてきたDチームの面々だった。
乗っているアインリールは既に半壊状態で、まともには戦えるとは思えない、というのに彼らは駆け付けてくれたのだ。
「これは滑稽だ。そのようなボロのからくり人形で我らに挑むつもりか」
『るせぇ! てめぇらなんざ、これで十分なんだよ!』
「ふふん、ならばここで命尽きるがいい」
拙い、彼らを護らねば。
『うおぉぉぉぉぉぉっ!』
だが、一歩が出ない。
呼吸ができないという事は、これほどに拙い状況だという事か。
戦鬼の一体が右手を突き出す。
先ほどエルティナイトを吹き飛ばした暴風を発生させたヤツだ。
それに真っ向から突撃するDチームはしかし、俺の予想を裏切る。
「バラバラに砕け散れ!【暴風蹂躙撃】!」
『そんな風くれぇで!』
『俺たちが!』
『砕けるかってんだぁ!』
ルオウのアインリールが拳を繰り出す。
なんの変哲もないただの拳はしかし、激しい輝きに包まれた。
「っはぁ! 息が……! でもあの光はっ!」
それは紛う事なき桃色の輝きだった。
荒々しくも目が眩まんばかりの温かな輝きに目を疑う。
彼らは紛う事なき侵略者の尖兵。
きっと、数えきれないほどの命を奪ってきたはずなのに、どうして極陽の力を扱えるというのだ。
螺旋渦巻く桃色の拳と、暗黒の暴風とが激突する。
力そのものは互角。惜しむらくは機体の頑強さの差が出た。
砕け散るルオウ機の拳。
瞬間、前に出るズーイ機の拳にも桃色の輝き。
「何っ!?」
『そぅらっ!』
それが、暴風野郎の腹に突き刺さり、奴をくの字へ変える。
『おりゃあっ!』
続けてモヴァエ機が顔面に蹴りを入れて暴風野郎をふっ飛ばした。
当然のようにその脚部は桃色の輝きで覆われているではないか。
大地を転がされ、もんどりうつ暴風野郎は転がされている途中で飛び上がり、空中で逆回転し威力を相殺。
何事も無かったかのように地上に降り立った。
「やるではないか。今のは痛かったぞ……少しな」
ゴキゴキ、と首を鳴らした暴風野郎の顔面は陥没していたが、瞬く間に快癒してゆく。
どうやら爆発的な治癒能力を保持しているようだ。
『けぇっ、大人しく寝てりゃあ、それ以上、痛い思いをせずに済むものを』
そんなルオウの言葉とは裏腹に、彼は油断をしない。
寧ろ警戒を強めている。
彼らが桃力を行使できるという事に驚愕したが、しかし、その力は見習いの域を出ない。
だがファケル兄貴と同等か少し劣る、という出力は驚異的であり味方である分には心強い。
でも、それでも、この三体の戦鬼に勝てるか、と問われれば返答に困ってしまう。
せめて彼らの機体が、彼らの戦い方に適応できていれば結果は違ったのかもしれない。
『行くぞ! てめぇら! 腹ぁ括れっ!』
『『おうっ!』』
ルオウの気合に応えるズーイとモヴァエは、あぁ、やはり戦士なのだ。
向かう先が死地であっても闘争を止めることが無い。
そんな彼らを死なせるのは惜しい、と思うのは当然で。
「エルティナイト、まだやれるかっ」
『もちのロンだ。ナイトがここで諦めたら、誰がやる』
「あいあ~ん!」
「なら、最後まで抗ってやろう!」
『応!』
エルティナイトも俺の期待に応えるべく一歩を踏み出す。
しかし、疲労が重なってか足取りが重かった。
やはり、阿修羅戦鬼で相当な力を持ってゆかれたのだ。
『こっちに来るな!』
「なんだって?」
『てめぇは力を回復させやがれっ、て言ってんだ!』
だがルオウは俺の助力を否定した。
『役割を違えるなってことさ、お嬢ちゃん』
『そうそう、こんなやつらなんざぁ、俺たちで十分よ』
それにズーイとモヴァエが言葉を付け足す。
なんという頼れる連中なのだ。
だが、彼らは将来的には敵に戻るわけで。
しかし、俺は彼らを信じるだろうな。
「分かった! 時間を稼いでくれっ!」
『ば~か、そん時ぁもう終わってる……ぜっ!』
諦めを知らない飢えた獣たちは自分を誇示すべく闘争に明け暮れる。
それを迎え撃つ戦鬼たちは、いよいよ以ってルオウ達が戦士として十分と認めたのだろう。彼らを倒すべく戦闘の構えを見せた。
「天晴、見事」
「我らに遥かに力及ばぬとはいえ、軽んじるのは無礼というもの」
「故に、全力で相手を致そうではないか」
奇妙な動作の後、俺に向けられた攻撃とは比較にならないほどの暴風と火炎、氷つぶてがルオウ達に殺到する。
それでも突撃を止めない彼らは、その拳に桃色の闘志を籠め振るう。
「今の内に回復をっ!」
フリースペースより作り立てのカレー南蛮を取り出す。
これは今ある特殊食材を全てぶち込んだ、現時点で最高の回復食だ。
雷蕎麦をメインに、水豚、グツグツ大根、ミラージュ、あと普通のネギを炙って具とし、それらとスパイスを融和させるためにアースラの小麦粉で溶く。
そうして完成させたのが、このカレー南蛮だ。
「全ての食材に感謝を込め、いただきますっ!」
熱々の麺を箸で持ち上げ、ふぅふぅと息を吹きかけて一気に啜る。
バチバチと心地良い電流が、疲労した筋肉を伝い解してゆくではないか。
それを咀嚼し喉に流し込む。
胃の中で更に踊り狂うそれは血流を加速。
全身が発熱機のように火照り始めた。
続けて水豚を口にする。
全ての潤いはここにある、と言わんばかりのねっとりとした脂はアースラの小麦粉で溶いたカレースパイスによってさらに格を上げる。
刺激的なスパイスは水豚の脂の甘みを引き締め、俺の箸に休むな、と鼓舞し始めた。
ミラージュのさっぱりとした身は箸休めに丁度いい。
口内の油気と僅かなくどさを纏めて胃袋へと持ち去ってくれるのだ。
グツグツ大根は口に残るねっとり感を洗い流してくれた。
じゅわっと溢れ出るエキスは幸福感を与えてくれるだけではない、たちまちの内に身体に吸収され活力を与えてくれるではないか。
そしてごくごく普通のネギ。
特殊食材オンリーにあって超平凡な彼女はしかし、平凡であるがゆえの安心感を与えてくれる。
そして、その素朴な甘みはまるで超美形男子に囲まれる平凡なヒロインではないか。
そう、特殊なものたちに囲われる平凡は特殊足り得るのだ。
「美味いっ! 美味過ぎるっ! んじゅぼるびっち、じょぼぼぼぼぼぼっ!」
麺を啜る音が音が汚い? 気にするなっ! どうにもならんっ!
特殊食材たちが、カレー南蛮という料理に姿を変え俺の栄養となってくれる。
感謝以外の感情が浮かんでこない。なんという尊さであろうか。
完食。
然る後に、目を閉じ合掌。そして感謝の言葉を捧げる。
「ごちそうさまでしたっ!」
ゆっくりと目を開ける。
視界に飛び込んでくるもの全てが新鮮に見える。
それは俺が生まれ変わったかのように力が漲っているからだろう。
『エルドティーネ、その感謝の気持ちを忘れるんじゃにぃぞ』
「分かってるさ。いや、今本当に理解した」
独りじゃない、と理解するのはそういう事なのだ。
日々の糧になってくれる食材たちとて、俺を支えてくれていたことに気付いたのだ。
感謝せずにはいられない。未来永劫に俺は感謝し続けるだろう。
「っ? こ、これは……!?」
俺の身体から静かに、でも力強く黄金の輝きが放たれ始めた。
光素の力であるが、意識して放つそれとはまるで勝手が違う。
『おまえの感謝に食材たちが応えてくれているんだ』
「食材たちが……!」
くたくただったはずの身体が、いまや爆発しそうなほどに力が漲っている。
これが感謝して食事をするという事なのか。
ということは、今までの感謝は上っ面だけのものだった、という事になる。
『漲る力は俺の許容量を大きく上回っている。だから俺は言うだろうな』
エルティナイトはエリン剣を掲げ宣言する。
『ナイト復活! 皮鎧の戦鬼ごときに負けるわけがにぃ!』
「エルティナイトっ、行くぞっ!」
『ナイトダッシュっ!』
完全復活どころか色々と突破しちゃった俺たちは三体の戦鬼へと突撃する。
さぁ、こいつらをボコって桃大結界陣を発動じゃいっ。




