335食目 勇気ある決断
後者。
俺は桃大結界陣の発動を急ぐ。
でも、その前に強烈な一撃を餓者髑髏にお見舞いじゃい。
「エルティナイトっ! メガトンパンチだっ!」
『応! ナイトのパンチはモンクの百倍っ!』
モンクの価値が無くなるからやめて差し上げろ。
でも、その威力は言葉の通り……って、盾で殴るんか~い。
『盾で殴っとるやないかっ!』
『盾はナイトの身体の一部。従ってパンチ力になるから』
ぽっちゃり姉貴のツッコミを華麗にパリィする屁理屈ナイトは餓者髑髏の顔面を殴り、その髑髏の左半分を砕いた。
その中から覗く赤黒い球体の存在を確認。
もしかしなくても、餓者髑髏の核に違いなかった。
「ヤーダン主任っ! あれが奴の弱点だっ!」
『了解しましたっ! あとは私たちに任せてっ!』
『頑張ってね、エルちゃんっ! エルティナイトっ!』
「『任せろっ!』」
ヤーダン主任とリューテ皇女の声援を受けて、先行するぷち鉄の精霊部隊との合流を図る。
ぷち鉄の精霊部隊を先導するのは、ぽっちゃり姉貴。
だが、たった一機で全てのアインリールを護るのは難しい。
合流した時には既に十数機のアインリール達が骸へと変わっていた。
また一機、大桃先生の身代わりとなって爆散する。
「すまないっ、遅くなった!」
『ようやく、メインが復活かいな。ようやく一安心やで』
「安心するのは桃大結界陣を張ってからなんだぜ。あともう一息、頑張ろう」
『せやな。それに早うせんとそろそろ産まれそうやし』
「このタイミングでかぁ」
『まぁ、もう慣れたもんや。戦いながらぽーんと、なぁ?』
「コメントに困るんだぜ」
というわけでもりもりと進軍する。
エルティナイトが合流したことにより盾が二枚になったことで、レオンさんとザインちゃんの活躍が輝くようになる。
やはり盾が厚いとアタッカーが活躍しやすいのだ。
尚、H・モンゴー君は地味に大活躍。
猛烈な数の一つ目小僧たちの注視を一手に引きつけながら、天空を蠅のごとくぶんぶんと飛び回っております。
言葉にはしないけど、間違いなくこの戦いに置けるMVP。
「H・モンゴー君が墜ちる前になんとかしたいな」
『ままうえっ、まえに、てきがっ!』
ザインちゃんの声に意識が前方へと。
そこには二体目の餓者髑髏の姿が。
やはり、こいつも量産型だったのだ。
放っておけば、どんどん数を増やしてゆくだろう。
周りを見てみればサイクロプスや翅付きの数もかなりの数に。
対してこちらの戦力は減る一方だ。
ターウォの部隊の艦も半分以下だろうか。
時間との戦いであることは見るまでもなく。
「ファイアボルト、起動っ!」
『倍率ドン☆更に倍っ!』
「融合魔法【ファイアジャベリン】!」
『ナイトの投擲はレーザービームっ!』
『炎やないかーいっ! あっ、出たぁ』
もう色々と滅茶苦茶だけど俺は元気です。
エルティナイトが投げつけた炎の槍は、餓者髑髏の顔面に突き刺さり大爆発。
迫る爆風はエルティナイトが魔法障壁を付与した盾で受け止め味方を護る。
これだ。このごり押しこそ、俺に最もしっくりくる戦い方なのだ。
何も考えずに全力でぶつかることこそ、俺の真価を発揮できるに違いない。
それを可能にする半身こそが、このエルティナイトなのだ。
「突っ込め~」
『『『わぁい!』』』
ノリがいいザインちゃんとぽっちゃり姉貴。
レオンさんはちょっぴり控えめで、油断なく狙撃銃を構えながら追従してきた。
そして、いよいよ第四ポイントに到着。
よっこらしょっ、とアインリール達が大桃先生を設置した。
「ぽっちゃり姉貴、任せるっ!」
『あいよっ、任せんかい』
『ばぶー』
やっぱ生まれてたのかぁ。
ベビーの声を確かに聞いた俺はしかし、ツッコミは控えて最後のポイントへと向かう。
その途中で、アストロイを航行不能にした餓者髑髏が倒れるのを確認した。
ヤーダン主任とリューテ皇女がやったのだろう。
彼女たちは俺が知らない内に相当に強くなっていたのだ。
心強い仲間達に支えられながら、俺は第五ポイントへと到達。
しかしながら、ここに来るまでにぷち鉄の精霊部隊は遂に半分を切ってしまっている。
だが、彼らは言うのだ。本望だと。
戦うために生まれた相棒の最期を看取り、一体、また一体、と次の宿り場所へと向かうぷち鉄の精霊たち。
その姿に決して絶望や後悔などは無く。
「ありがとな。いつかまた、出会うその日まで……いってらっしゃい」
さよならは言わない。きっと、またいつか会えると信じているから。
だから、俺が言うのは送り出す言葉だ。
「最後のポイントはザインちゃんとレオンさんだっ! できるよなっ?」
『もちゅろんでごじゃりゅっ!』
『某が付いておる故、心配無用』
『エルティナちゃんは仕上げに行ってくれ』
ここでザインちゃんは温存していた力を一気に放出するつもりなのだろう。
彼女のアインリールから雷の龍が飛び出し咢を覗かせる。
『ましゃがとこーは、きたいをっ! せっちゃはいかじゅちを、あやちゅるでごじゃりゅ!』
『委細承知』
いつの間にかいいコンビになっているなぁ、と感心しました。
ザインちゃんは雷の龍を操ることに専念し、機体はマサガト公が一任する。
これは俺たちも見習う部分ではあるな。
俺が魔法に専念し、エルティナイトが暴れる係。
そして、アイン君がツッコミを入れる係だ。
なんだ、完璧じゃないか。
「いあ~ん!」
心労で倒れるから勘弁して、との苦情が入りました。
中々、役割分担は難しいんやなって。
ぷち鉄の精霊部隊も最終ポイントにて防衛に当たる。
俺は単身、桃大結界陣を展開するのに都合がいい場所へと移動。
それがまた帝都の中心なんですわ。
当然ながら、そこには暗黒の繭があるわけでして。
「こっからはふざけるのは禁止だぞ」
『分かってるぅ! ナイトは物事の分別が割とつくっ!』
「あい~ん」
『普段からそうして、とか鉄饅頭、おまえ忍者だろ?』
「あいあい」
「『分身したぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?』」
気を引き締める、という行為はアイン君の分身劇によって爆発四散したのだ。
ちなみに、これは身体の一部を薄く削って作り出したハリボテだそうで。
中はスカスカなので動かすことはできないもよう。
「意外な隠し芸とかアイン君やるなぁ」
『鉄饅頭、驚異のメカニズム』
緊張が適度に解れたところでお出迎えがやってきた。
ただ、帝都の周辺に出現した連中とは格が違う。
吐き気を催すほどの濃厚な憎悪は、殺意を物質化したかのように武器を携えていた。
その姿は三つの顔と六本の腕を備えた赤い怪物。
人はそれを【阿修羅】と言う。
そいつと視線を合わせた瞬間、運命的なものを感じた。
無論、嫌な方のだ。
それはヤツも同じだったのだろう。
露骨に顔を顰める。
「希望に死を」
「希望は砕けないっ! 未来永劫にだっ!」
エルティナイトとほぼ同程度の大きさの怪物は、それぞれの手に異なる武器を携えている。
剣、棍棒、槍、弓、矢、そして金剛杵だ。
これは全ての距離に対応している上に、きっとファンタジーの理不尽をぶっ放してくるに違いない。
明らかに格が違う上に寒気までをも覚える。
それでもナイトに後退の文字は無いのだ。
「いくぞっ! このエルティナイトが相手だっ!」
「受けて立つ。女神を守護せし一柱【阿修羅戦鬼】がお相手仕る」
エリン剣を構え突撃。
上段に振り上げて重い一撃を阿修羅戦鬼に見舞った。
しかし、ヤツはエルティナイトの馬鹿力を、たった一本の剣で受け止めてしまったではないか。
「こ、こいつっ!」
『エルドティーネっ!』
咄嗟にバックステップ。言うまでも無く直感。
棍棒が鼻先を通り過ぎて行く。
この腕力で、こんなものを喰らったどうなるかなど考えたくもない。
「ふぅむ……女神さまが我を呼び寄せるだけの事はある」
「こいつっ、余裕をかましてくれちゃって!」
『エルドティーネっ、これは挑発だっ』
「分かってる!」
分っちゃいるけどやめられない。
だから俺は「うおぉぉぉぉぉぉっ」と叫びながら突撃するだろうな。
ここで臆していたら、出来ることもできなくなっちまうってもんだ。
『まったくもって難儀な性格だ』
「おまえに言われるとは心外なんだぜ」
ただし、今度は少し攻撃に手を加える。
エリン剣にチェインライトニングを付与して、そこから電流を流し込んでやろうというのだ。
「ふん、電撃付与か。ならば、【金剛武装】発動っ!」
阿修羅戦鬼が金剛杵を掲げる、と地面から岩石が浮き上がり、それらが阿修羅戦鬼の剣へと接合。
そして、瞬く間に研ぎ澄まされた岩石の剣へと変化したではないか。
何かあるとは思うが今更、振り上げた剣は収められないのでそのまま振り下ろす。
強烈な電流は岩石の剣を伝い……伝わらないっ!?
『エルドティーネ、アースだっ』
「ふきゅんっ、マジかっ!?」
よくよく見ると、剣の柄に紐のようなものが繋がっていて、それが大地と繋がっていた。
「大地の縄かっ!」
「ご名答。褒美を取らせよう」
「のーせんきゅーっ!」
返す刀を盾で受け止める。
多重魔法障壁を施してあったが、それが簡単にパリンパリンと割れていって腹が立ちますよ。
「拙い、このままじゃ桃大結界陣を展開できないっ」
『全てを喰らっちまうか?』
「ダメだ、その反動で暗黒の繭が孵っちまったら手の施しようが無くなる」
正確に言えば、孵った瞬間に俺たちは消し飛ぶ。
恐らくは闇の枝でも食い切れないエネルギーが発生するだろう。
瞬間的な爆発力は枝であっても全てを喰らうのは無理だ。
必ず食い残しが発生する。
その食い残しでも、エルティナイトを十分に消滅させることが可能だと推測した。
それほどまでにバカでかい力なのだ。
あの暗黒の繭は。
せっかくここまで漕ぎ着けたというのに、まさかこんな隠し玉を用意しているとは。
まさかの強敵の出現に俺たちは足止めを喰らってしまう。
果たして、俺は阿修羅戦鬼を下し桃大結界陣を展開することができるのか。




